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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
聖なる鐘が響く夜に
76/112

◇75 戦場に残された奇跡

「よよぼう」第五章までのあらすじ


 突然の思いつきでRPG同好会を立ち上げた、中等部二年の西原詩音にしはら うたねは、様々な伝手で強烈な個性の仲間たちを集めていく。しかし、その隠されたもうひとつの目的は、憧れの担任教師佐伯十三さえき じゅうぞうとの縁を深めることにあった。


 波乱の夏が過ぎ、秋も半ばを迎えるころ、RPG雑誌編集者の道脇環みちわき たまきが、かつての佐伯先生の教え子であり、詩音同様の想いを抱いていたことが判明する。過去の環を継いで決意を新たにした詩音は、もうひとつの将来の夢を胸に抱き始める。

 同じころ、後輩の山科美雅やましな みみやは、複雑な家庭事情を巡って悩んだ末に、ついに実父と暮らすことを決意し、笹嶋ささしま美雅となる。


 秋の終わりが近づく中、それぞれの想いと願いが次第に明らかになっていく。と同時に、その入り組んだモザイク模様のパズルはより一層複雑さを増していく…。



主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。

 何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。

 店に集う年下の子供たちからは人気の高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気の高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー兼防波堤。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお向かいさん。夢莉にあからさまな挑戦を続ける残念トリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。気分屋で周囲から孤立しがちな人見知りツンデレハリネズミ娘。

 複雑な家庭環境のせいでかなり達観した言動も窺える。戸籍上は新たに笹嶋ささしま姓となったが、学校内では山科で通している。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格も、詩音たちの影響で丸くなりつつあり。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。美雅のクラスメイト。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルの救世主的な存在で、詩音にとっては微妙に気になる存在。



《その他の人物たち》


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に早熟可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、環との経緯から生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。

 相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女。本名は「大路おおじ まどか」。

 過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。


◇75 戦場に残された奇跡



 詩音と彩乃の絶望的な戦いは続いていた。


 周囲の騎馬たちが帽子を奪われ、呆然自失になって次々と戦線を離脱する中、辛うじて詩音と彩乃を含む数騎の騎馬たちが奮闘を続けている。


 いちおうルール上は、帽子を奪われて失格となった騎馬も、そこまでに確保した相手の帽子があるのなら、それは得点に認められる。逆にいえば、どんなに長く生き残っていても、相手の帽子をひとつも奪うことができなければ、それは無得点に過ぎない。


 つまり、自分が帽子を奪われて失格になるまでに、どれだけ多くの帽子を確保するかが鍵になってくる。幸い、ここまでの皆の頑張りによって、詩音は二個、彩乃は三個の帽子を確保していた。ゆえにここでもし二人が帽子を奪われて失格となっても、とりあえずは黒字経営ではある。


 だが人間とは欲深いもので、調子の良い時にはいっそうの強欲さを発揮して、更に一つでも多くの成果を求めてしまうものだ。別に当人が意識しなくても、みなぎったアドレナリンは容赦なく、勝手に暴走を始めてしまう。


 戦場に飛びこむまでの臆病風は何処へやら、詩音もまた戦場の熱に浮かされるように、勇猛果敢に敵の騎馬に挑み続けた。


 というより、むしろ詩音騎を囮にするように、背後に回りこんだ彩乃騎が相手の帽子を上手く掬い取るといった連携作戦を確立しつつあり、着実にその実績を上げていった。


 「彩乃ぉ、そっちばっかりずるいよー! こっちの馬を餌にするなんて…」


 「作戦作戦! お互いのピンチは支え合わないとね」


 「うー」


 詩音が抗議の声を上げるも、実際に成果が上がっている以上、この戦法に不満はない…こともないが、致し方なしといったところか。


 「相手にはまだ夢莉がいるしなぁ…、ありゃ正直、ボクたちが二対一で挑んでも勝てなそうだよ…」


 「まぁ、暴れん坊将軍か、世紀末覇者か、ってところだからねぇ…」


 詩音たちの視界のはるか向こう、戦場の反対側でポニーテールを揺らして奮戦する鬼神のような夢莉の姿は、ここからでも十分に窺えた。


 「やばっ! 見つかっちゃった? 来るよ、悪魔が!」


 戦場を横断するように、敵の赤軍筆頭戦力と化した夢莉の騎馬がこちらに突撃してくるのが見える。迫力満点の騎手、夢莉を支えて馬の先頭を務めるのは、予想通りの涼太だった。


 「涼ちゃん、張り切ってるなぁ…」


 「まぁ、願ったり叶ったりの役どころだからねぇ…。そりゃ、やる気にもなるでしょ、こっちとしちゃ嬉しくないけどね…」


 詩音の素直な感想に、やや呆れ気味に納得した彩乃が答える。状況は二人にとってはまさに最悪の展開といえた。


 「涼ちゃん…って、えーと確か、島本だったっけ? 詩音の幼馴染み、とかなんとか…。で、どうしてそんなに詩音に敵意むき出しなのさ?」


 詩音の乗る騎馬の右後方から、風歌の声が呼びかける。詩音は僅かに身を捻るような姿勢で、その言葉に答えた。


 「うん、私と涼ちゃんと夢莉…あ、隣のクラスの香坂夢莉ね。幼稚園の頃から三人一緒なんだけど、どうも涼ちゃん、夢莉のことになると、アレなんだよねぇ…。まぁ、今に始まったことじゃないよ…」


 「へぇー、そりゃあ詩音も油断できないね。ライバルが幼馴染みってのは、いろいろやりにくいんじゃないの?」


 核心部分をぼかした詩音の表現を曲解した風歌は、あらぬ誤解を抱いてそう呟く。


 「あぁ、全然そんなんじゃなくて…、私は、何ていうか、別に気にしてないっていうか、うん、いいんだよ、それで…たぶん。でも、もしかしたらずっと三人でこのまま、っていうのは難しいのかな…って」


 詩音は僅かに寂しげな様子で小さく溜息をつき、改めて迫りくる強敵に視線を走らせた。


 まさに砂埃、土煙をあげて突進してくるその豪快な赤軍の一騎に、実況放送のアナウンサー役の生徒も興奮を隠しきれずに歓声を上げる。


 「勝てる気がしないわー、ありゃ、無理だわー」


 抑揚のない棒読み声で自分たちの置かれた状況を語りだす彩乃を、仲間たちが叱咤激励する。詩音も自分の頬を軽く叩いて気合を入れると、彩乃騎に先駆けて迎撃の突進を開始する。


 「ごめんね皆、多分勝てない…と思う、けど、やるだけやってみる」


 「なぁに、こういうのは楽しんだもん勝ちってもんだろ? 成績に響くわけでもないし、所詮は体育祭、つまり祭りだからなぁ。祭りってやつはその場の勢いが大事、ってもんよ!」


 詩音の弱気発言に反応した吉川が答えると、他のチームメイトたちも同意の声を上げる。


 「中等部での騎馬戦は二年生だけの特権だからね! 後悔の無いようにガンガン行くよ!」


 「僕は西原さんがやりたいようにやるのを応援するだけ…。勝っても負けても皆の成果なんだから、気にしないで突撃あるのみだよ!」


 風歌の発破と越谷の励ましで、詩音の心も僅かに軽くなる。


 だが、相手はあの夢莉である。油断は禁物、いざ尋常に勝負、勇者対剣士の雌雄を決する戦いだ。


 「例によって、ボクたちは夢莉の後ろへ回り込むよ! 頑張って囮よろしくね、詩音!」


 「もぅ! 気楽に言うなぁ!」


 彩乃の声に反論しつつも、詩音は冷静に囮役に徹する覚悟を決める。大丈夫、やれば出来る、きっとたぶんなんとかなる、の精神で挑むしかない。


 「詩音ぇ、いざ尋常に…」


 「ぶちかませぇ!」


 夢莉と涼太の雄叫びが聞こえると同時に、夢莉騎の速度がさらに上がる。


 彩乃騎は何処へ行ったのか、こちらからは見えないほど遠くまで迂回しているようだ。まさか逃げたりということは…彩乃である以上、ないこともないかもしれないが、それもそれで作戦なのだろう。


 「右側から当たるよ、西原さん!」


 越谷の掛け声で詩音騎が微妙な軌道変更で夢莉騎にとりつく。


 あとは詩音と夢莉の幼馴染みの親友同士の取っ組み合いだ。昔から、それこそ幼稚園児の頃から何度も何度も、お互いにやりあった仲である。勝敗は時の運、過去のデータからすると些か数字的には分が悪いが、肝心な時に勝てればいいのだ。


 「夢莉ぃ!」


 「詩音ぇ!」


 互いの名前を叫びながら、一定の距離から相手の帽子を狙いパンチを繰り出す。少年漫画の見開きページによくありがちな、まさに決戦!といった感じの構図である。


 そもそも二人の身長差からして、微妙に詩音は不利な立場だった。それでも夢莉の動きを長年すぐ傍で見続けてきた詩音である。一定の癖というか、次の一手は容易に予想できる。


 「島本君、悪いけど今日は譲れない! 西原さんは絶対に護ってみせる!」


 「し、島本君だぁ? お前いったいナニモンだ、あぁ?」


 越谷の口から些か挑発的な台詞が、涼太に向けて投げかけられる。


 互いの騎馬の先頭同士で、小競り合いを吹っ掛けるのも手のひとつだ。とはいえ、騎馬役の三人組はそれぞれ腕を封じられた姿勢のため、攻撃ならぬ口撃と、足癖の悪い蹴り技での応酬となる。


 もちろん蹴りに夢中になるあまり、ひとたびバランスを崩せば、上に乗る双方の騎手が落馬しかねない。それは即ち失格を意味するのだ。


 「少なくとも今は君の敵だよ! いや、もしかしたら永遠に敵かもしれないけどね!」


 「何じゃそりゃ? 俺を目に敵にするってことは、お前、何かこの俺に恨みでもあるんか? あ、まさかお前…」


 「問答無用!」


 「いや、まさかだろ、さすがにありえねぇわ…」


 自分から声をかけたくせに一方的な言い種の越谷であるが、そんなやり取りの中でも、冷静に涼太は何かを察したようだ。この辺り、詩音にはない鋭い共感力である。


 「詩音、あんたはおとなしく、さっさとやられなさい!」


 夢莉がそう叫びながら、すらりとした腕を伸ばして、詩音の帽子を奪いにかかるも、詩音は反射的にそれを掻い潜って反撃に転じる。


 「そうはいかない事情があるんだよ! 今回だけは、たとえ夢莉が相手でも負けられないんだよ、絶対…」


 夢莉にとっても心中は複雑だ。いつもは護ってあげるべき保護対象と認識している詩音を、自ら手にかけようとしているのだ。


 まぁ勝負事というものは得てしてそういうものではあるのだが、複雑な想いを抱く大切な幼馴染みにして親友、あるいはそれ以上の存在を倒さねばならないというのは、さすがに冷静ではいられない。


 もちろん、夢莉自身が直接手を下す必要はないのだろうが、想い人の首を他の仲間に狩られるというのは、さらに辛く重い気分になる。ならばいっそこの手で…というのは自然な成り行きだった。


 「ええぃ! 暴れるな、こらぁ! 涼太、もう一回、吶喊とっかん!」


 「おぅけぇい!」


 夢莉の騎馬は、詩音騎とすれ違いざまに大きく向きを変えて、騎馬全体の体勢を整えると、もはや騎馬というより猛牛の如く、勢い任せに詩音の騎馬へと突撃を再開する。


 「いっけぇい! 涼太ぁ、負けたら承知しないよ!」


 「あぁ任しとけ! で、勝ったらどうなるんだ?」


 「そんなもん何もないわよ? あ、まぁ、考えなくもないか…」


 「よぅしゃあ!」


 とことん見事なまでに夢莉の掌で転がされる涼太である。もっともそれを良しとしているのだから、本人にとっても嬉しいのだろう。恋心は複雑だ。


 「また来るよ!」


 「わかってる、大丈夫」


 詩音の悲鳴に似た叫びに、越谷が返答する。ゆっくりと踵を返して、迎撃の体勢を整える。


挿絵(By みてみん)


 が、次の瞬間、夢莉騎の斜め後方の死角から飛び出した一騎の暴れ馬の如き騎馬が、夢莉騎へと襲いかかる。


 「うりゃうりゃうりゃうらぁー!」


 まさに騎馬民族の雄叫びである。彩乃は意味不明の雄叫びを上げながら、夢莉の後方から襲いかかる。


 だがそれも夢莉にはお見通しの展開だった。大きく体を捻った夢莉は、精一杯伸ばした彩乃の腕を掻い潜って、反撃の体勢に移る。カウンターの要領で繰り出された夢莉のしなやかな腕が、リーチの差を活かして彩乃の帽子に伸びる。


 「う、うそぉ! ダメダメ無理無理ぃ!」


 雄叫びから悲鳴に変わった彩乃の大きな声に隠れて、越谷が詩音に囁きかける。


 「行くよ! タイミングよく香坂さんの帽子を狙うんだ! 西原さんならできる、絶対勝てる!」


 「う、うん…」


 静々と緩やかな接近を試みる詩音騎に、彩乃騎の不意打ちに気をとられていた涼太の反応が僅かに遅れる。


 「あー神様ごめんなさい、ボク明日から良い子になるよ…」


 「何じゃそりゃ?」


 慌てふためく彩乃の帽子がふわりと踊って夢莉の掌に収まる瞬間、涼太のツッコミが炸裂する。その時、奇跡が起こった。


 「うわぁ、なんだお前、こっち来るんじゃねぇ!」


 もはや目前に忍び寄った詩音騎の先頭、越谷の姿にようやく気付くと、涼太は思わす叫び声を上げる。だが既に時遅し、であった。


 「夢莉、ゴメンね…」


 「は、はぁああああ?」


 全身前のめりの姿勢で身長差を埋め合わせて、詩音の頼りない細腕が見事に夢莉の帽子を掴み取る。振り返りながら奇声を上げた夢莉は、その拍子に自ら帽子を振り落としてしまう。もちろんしっかりと詩音の掌に収まったままで…。


 「勝ったよ、勝っちゃったよ! どどど、どうしよう越谷君!」


 「嘘だろぉ、おいっ!」


 歓喜に湧くどころか、勝利の実感すら乏しい詩音の様子を苛立たしい視線で睨みながら、茫然自失の夢莉に代わって涼太が悪態をつく。


 「今日は僕の、僕たちの勝ちだね、島本君。まぁもしかすると、永遠に僕は君に負けないかもしれないけどね…」


 達成感と誇りに満ちた表情で越谷はそう言い放つ。涼太はいろいろな意味で面白くない心境で、さらに怒りを爆発させる。


 「ああぁん? お前、喧嘩売ってんのか、こら!」


 「よしなよ、あたしたちの負けだよ。まさか逆に彩乃を囮にするとはね…」


 夢莉がようやく気を取り直して負けを認め、涼太を諫めにかかる。


 「見栄切り勇者の詩音にしては、意外な卑怯技だったって感じだねぇ…。完敗完敗」


 「それでイイのかよ、夢莉ぃ?」


 「負けは負けさ、でもこっちは既に七個も帽子を確保してあるんだし、まぁここまで、ってことさ…」


 「ごめんね、夢莉」


 未だ不満気な涼太を納得させるように語る夢莉に、勝者である詩音が申し訳なさそうに声をかける。


 「気にしないの! 第一、あんただってまだ狙われる立場なんだからね? 時間一杯までせいぜい意地を見せて粘りなさいよ?」


 「うん、頑張ってみるよ。ありがとうね、夢莉…」


 失格となった彩乃騎と夢莉騎に背を向け、詩音騎は静々と誇らしげな後ろ姿をみせながら、次の戦場へと向かっていく。


 「なぁ、おい、まさかお前、わざと…ってことは無いよな?」


 「ん、さぁ? 何のことかしら? 他の皆に迷惑な真似を、このあたしがするとでも思ってるわけ?」


 「いや、それならいいんだが…」


 涼太の鋭いツッコミに一瞬ぎくりとしながら、努めて冷静に夢莉は落ち着き払った模範解答を語る。そう、真実は夢莉のみぞ知る、ということだ。


 「ほら、彩乃、あんたもさっさと撤退しなよ?」


 「うー、何かボクの扱いが酷い…」


 「敗軍の兵なんて、そんなもんだってば」


 「うー、喜んでいいやら悲しんでいいやら、だよ…」


 未だ生き残っている詩音騎に置き去りにされた敗者の二騎は、戦場にぽつりと佇みながら互いに溜め息を交わしあって、とぼとぼと自軍エリアへの撤収に入った。


 程なくして戦闘終了の合図が鳴らされ、激戦は終わりを迎える。


 戦場の片隅で、結局最後の最後まで半ば逃げ回るような立ち回りを演じつつ、詩音騎は生き残りを果たした。


 赤軍主力の夢莉騎を含む合計四個の帽子を確保して、白軍の逆転劇に大きく貢献した詩音騎の面々は、誇らしい笑顔での凱旋を果たし、一躍話題の中心に祭り上げられた。


 だが、まだ勝負は途中である。最後まで白軍の優勢を保ち続けられるのか、詩音は気が気ではない。


 待機所に戻った詩音は早速仲間への感謝と労いを口にした。


 「はぁ…、とりあえず勝ったよ、皆ありがとうね。皆のお陰だよ、超絶感謝だよ…。ついでに彩乃の騎馬の尊い犠牲にも感謝だよ…」


 「はいはい感謝してね、ま、最終的に白軍が勝てれば良いんだけどさ」


 相変わらず立ち直りの早い彩乃である。詩音はもう一度皆に感謝を伝えると、残りの競技の様子にゆっくりと視線を向けた。


挿絵(By みてみん)



◇76 自ら拓く我の道 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


●ご注意

 この連作小説は、原則的に毎週月曜日の10:00に更新掲載しています。

 第一章は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもので、第二章以降はその続編部分となります。

 現在、第六章を2024/7/1より掲載中となります。



 真鶴あさみです。初めまして&毎度どうもです。

 完全に長期週刊連載となってしまった「よよぼう」ですが、お陰様で少数ながらも固定の読者様にご支援いただけて、大変感謝しています。

 今後ともよろしくお願いしますね。


 一見、学園ラブコメ風のこの作品ですが、いわゆる『RPGあるある』を軸にした趣味物語でもあります。懐かしのテーブルトークRPGの世界を、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。

 もちろん、本題である詩音たちの恋の行方にも忘れずに注目してくださいね。


 挿絵用のイメージ画像は、KISSの「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」にて作成しています。知識と能力の不足で、再現精度があまり高くないですが、ご容赦ください。


 それではこれからも、詩音たちRPG同好会のお馬鹿な冒険の数々を、お楽しみいただけると嬉しいです。

 ご意見ご感想、AIイラストなども、切実にお待ちしています。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)に掲載予定ですが、只今、絶賛放置中

■TINAMI(http://www.tinami.com/)に掲載予定

■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)

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