◇74 騎馬民族の戦い
「よよぼう」第五章までのあらすじ
突然の思いつきでRPG同好会を立ち上げた、中等部二年の西原詩音は、様々な伝手で強烈な個性の仲間たちを集めていく。しかし、その隠されたもうひとつの目的は、憧れの担任教師佐伯十三との縁を深めることにあった。
波乱の夏が過ぎ、秋も半ばを迎えるころ、RPG雑誌編集者の道脇環が、かつての佐伯先生の教え子であり、詩音同様の想いを抱いていたことが判明する。過去の環を継いで決意を新たにした詩音は、もうひとつの将来の夢を胸に抱き始める。
同じころ、後輩の山科美雅は、複雑な家庭事情を巡って悩んだ末に、ついに実父と暮らすことを決意し、笹嶋美雅となる。
秋の終わりが近づく中、それぞれの想いと願いが次第に明らかになっていく。と同時に、その入り組んだモザイク模様のパズルはより一層複雑さを増していく…。
主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。
何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。
店に集う年下の子供たちからは人気の高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気の高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー兼防波堤。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお向かいさん。夢莉にあからさまな挑戦を続ける残念トリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。気分屋で周囲から孤立しがちな人見知りツンデレハリネズミ娘。
複雑な家庭環境のせいでかなり達観した言動も窺える。戸籍上は新たに笹嶋姓となったが、学校内では山科で通している。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格も、詩音たちの影響で丸くなりつつあり。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。美雅のクラスメイト。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルの救世主的な存在で、詩音にとっては微妙に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に早熟可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、環との経緯から生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『Colline Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。
相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女。本名は「大路 円」。
過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。
◇74 騎馬民族の戦い
時は流れて、体育祭の当日である。ここに至るまでにもいろいろと枝葉の騒動は増えていったが、結局はそのすべてが体育祭で甲乙をつけるという展開だった。
別に単なる学校行事の一つに過ぎない体育祭である。表面上は勝とうが負けようが大きな問題ではない。進路に影響するほど成績が左右されることはないし、ましてや何か特別な褒章を得られるというわけでもない。
まぁせいぜいが、よくやったな、頑張ったな、という労いの一言で終了である。全くやる気のない涼太のような生徒を筆頭に、誰も彼もがまるで義務的労働に従事するかのような、そう、言うなればトイレ掃除の当番とさほど違いのない態度で臨んでいた。
しかし、詩音と彩乃は違う。あくまで目の前の勝利を渇望していた。もっともその動機は不純極まりないものであったが。
勝たねばならない戦というものほど面倒なものはない。如何に双方の戦力差があろうとも、サイコロを振るまで結果は確実ではない。そして勝たねばならぬということは、当然ながら負けられぬということでもある。
とはいえ、勝利の自信など詩音の心の何処にもありはしない。状況はまさに四面楚歌、彩乃以外の知人友人が全員敵軍という有り様だ。
午前中の戦況は芳しくはないものの、辛うじて詩音たち白軍は赤軍に食らいついていた。けっして有利な状況ではないが、さほど悲観的になる必要もない。むしろいっそのこと、午前中で勝負ありになっていたほうが気が楽だったかもしれないが、それでも運命は過酷に反撃の余地を与えていた。
「うーん、夢莉たちが全員あっちにいる割には、結構頑張って粘ってるほうだよねぇ…」
昼食のためにいったん戻った教室で、詩音は隣の彩乃に同意を求めた。
詩音同様にこの戦いに負けるわけにはいかない個人的な理由を持つ彩乃は、詩音にとっての唯一の戦友である。
「走りこみ系はちょっと負けてるけど、綱引きとか玉入れとか、わちゃわちゃ系で挽回してるって感じだねぇ…。午後の期待は二年の騎馬戦と一年の借り物競走くらいかなぁ…」
かわいい弁当箱のお手製ランチを頬張りながら、彩乃はそう意見を述べる。
彩乃からすれば、確かに負けたくない戦いではあるが、もし万が一のことがあっても、あくまで美雅と謙佑のデートを認めるだけのことであり、本来の立場が大きく揺らぐという問題でもない。やるだけやって駄目なら致し方なし、といったところなのだろう。
「騎馬戦かぁ、正直自信ないんだよねぇ…」
「別に走り回るわけじゃないし、持久力いらないし、多少の格闘戦さえできれば勝機はあるでしょ? 詩音は上に乗る側なんだから、一発気合入れないと!」
「あー、うん、だよねぇ…」
詩音はまだまだ戦争半ばの状況で、すでに心折れようとしていた。
戦友の彩乃と違って、負ければ即座に絶望的な状況に立たされてしまう。佐伯先生が直接樟葉と縁を持つということは、何から何まで有利な立場の御令嬢が、一般庶民代表の微妙過ぎる詩音の前に立ちはだかることを意味する。
持てる者と持たざる者、という言い方が適切かどうかはわからないが、とにかく月とスッポン、英雄貴族の聖騎士と冒険者上がりの勇者風情の戦いといった状況に他ならない。
「西原さん、白岡さん、調子はどう?」
詩音が自家製サンドウィッチにかじりついたタイミングを狙ったように、男子生徒の声がかかる。越谷だ。
いったいどういう展開なのか、何故か詩音に興味を示し、最近は妙に馴れ馴れしい態度を見せてくる。別に嫌というほどではないし、周囲から露骨に目立つこともないので害はないのだが、詩音の心中はやはり複雑である。
「越谷ぁ、白軍勝てるかねぇ…」
彩乃が半分投げやりの態度で越谷に問う。別に答えはどうでも良いのだが、ぶっちゃけた話、大丈夫、勝てるよ!といった励ましを期待してもいた。
「どうだろうね、やるだけやってみて、あとは天命を待つしかないかもね…」
越谷はごく自然にそう答えると、二人の近くの空いている椅子に腰かけ、恐らく購買で調達したであろう惣菜パンを口にした。
「お弁当じゃないんだ、越谷君」
「あぁ、うちは両親共働きで朝忙しいし、僕は料理は全くだしね…」
詩音の素朴な疑問に、越谷はあっけらかんと答える。
詩音の家も共働きではあるが、朝はどちらかといえば余裕がある感じだ。むしろ一番慌ただしく遅刻寸前の流れになるのは、決まって詩音という展開だった。
「んじゃ、越谷、なんか食べる?」
小さな弁当箱にこれでもかと詰めこまれた色とりどりの副菜を差し出しつつ、彩乃が越谷に声をかける。もちろん他愛のない、ありふれた光景だった。
「うん、じゃあ、これを一個貰うね! ありがとう、白岡さん」
爪楊枝で上手く肉団子のひとつを突き刺しつつ、越谷は彩乃に感謝の気持ちを伝える。
「あぁ、そんなに気を遣うことないよ…。別に『彩乃』でいいよ、減るもんじゃなし…。ねぇ、詩音?」
「あー、いやー、どうなのかなぁ…」
詩音にとっては微妙な問題だ。美雅ほどではないにしても、他者との、特に異性との間の距離感を計りかねている詩音にとっては、こういった問題についての明確な判断基準はなく、周囲の状況に流されるまま自然に、といった感じであった。
「うーん、まだあまり歓迎されてないみたいだから、西原さん、白岡さんって呼ぶことにするよ。あ、これ美味しいね、どうもありがとう」
「それは良かった。味は保証できないけど、自家製で良ければたまにはお裾分けするよ?」
越谷の反応に満足したのか、彩乃は調子にのってそんなことを言い出す。もちろん他意はないのだろうが、越谷の立場にしても、詩音の心境にしても、かなり微妙な発言である。
「白岡さんのお手製?」
「あぁ、うん、うちは店をやってるから、お弁当まで手が回らないんだよね。早く起きたときはボクが自分で作ってるけど、さすがに毎日じゃないよ」
越谷の疑問に彩乃はごく自然に答える。確かに彩乃のお弁当率は高くない。半々といったところだろうか。
「彩乃の場合、お弁当付きで時間通りか、お弁当なしで遅刻ギリギリか、って感じだもんね…」
「何だかんだ毎日遅刻ギリギリの詩音には言われたくないし…」
「えー、間に合ってるからセーフだよ?」
詩音の軽口にも笑顔の彩乃である。やはり所詮お馬鹿な性格なのか、体育祭の勝敗の成り行きには、あまり深刻な問題意識はないようだ。
「午後の僕たち二年生は、まず騎馬戦だよね。男女混合だから、お互い頑張って赤軍に勝たないと…。まぁ正直、なんで二人がそんなに一生懸命なのかは知らないけど、西原さんが絶対勝つ!って思ってるなら、僕は頑張ってついて行くよ!」
「あー、うん、ありがとう、ね」
詩音の立場としては、この越谷の発言は複雑な心境だ。
詩音の思いこみや気のせいかもしれないし、自意識過剰と笑われるかもしれないが、少なくとも越谷が詩音に関心を持っているのなら、白軍の勝利はその越谷の対抗馬に塩を送ることになるかもしれない。
もちろん詩音が、というよりむしろ樟葉が、佐伯先生をどう焚きつけたかにもよるのだが、生徒と教師という関係を抜きにして二人きりで会う機会があるのなら、それはデート以外の何物でもない。
もし詩音が、白軍が勝利した結果、樟葉の代わりに詩音が佐伯先生とデートをすることになった場合、その流れ次第では、越谷は貧乏籤を自ら引き寄せた形になるかもしれない。
逆に赤軍が勝ち、本来の予定通り樟葉が佐伯先生とデートした場合には、当然白軍は負けているのだから、越谷のいうところの「ご褒美」はなし、ということになる。いずれにせよ、あまり歓迎できない結果を導くことになるのは、越谷の運命といえる。
それゆえに、詩音としてはいずれ越谷の忠義に何らかの形で応えようとは思っていた。だがそれは果たして、本当に越谷の願う形なのか、という疑問も浮かんでは消える。
どちらに転んでも、詩音の乙女心は複雑極まりない状況を迎えるというわけだ。
「とりあえず、やるだけやるしかないよね…」
詩音は越谷にそう答えつつも、それは自分自身に向けた発言でもあった。
程よく晴れ渡った秋空の下、大歓声のグラウンドに幾つもの騎馬の姿が集っている。もちろん本物の騎兵などではない。中等部二年の生徒たちが自らの身体を駆使して組み上げた櫓構造の上に、同じく騎手となる生徒を乗せた人の馬である。
男女混合ということもあり、男子のみ女子のみによる騎馬の合間に、男女で組んだ騎馬も幾つか垣間見える。
詩音はそんな男女混合騎馬の騎手を、隣に並ぶ同じく男女混合騎馬の彩乃とともに務めていた。
要するに、敵対する相手騎手の帽子を奪うといった、一見単純に見える役目を担っているわけだが、逆にいえば自分の帽子は何が何でも死守しなければならないわけで、そうそう単純にことが運ぶわけもなかった。
詩音が必死なように、相手だってそれなりの必死さで挑んでくるのだ。詩音や彩乃のように、個人的な賭け事に興じている者ばかりではないだろうが、お祭りイベントには全力で楽しみ散らかす、夢莉のような厄介な相手も敵にはいるのだ。
「うー、緊張するよぅ…」
これから合戦が始まるというのに、なんとも情けない声で武者震いが止まらない勇者様である。詩音のそんな表情を笑い飛ばすように、彩乃が笑顔を浮かべる。
「いつもみたいにやればいいんだよ、詩音! 自分が主役、敵の攻撃は当たらない、おまけにこっちの攻撃は威力倍増、みたいな?」
「いやぁ、っていうか、いつもは空想の世界だし、サイコロ運だけで勝ってるだけだし…」
「大丈夫! サイコロ運が良いってことは、リアルラックがついてる証拠」
「ラックはともかく、これは実質格闘技だし…」
いざ戦場に立ってビビりまくりの詩音である。彩乃の無責任な励ましなど、さしたる心の足しにもならない。
「白岡さんの言うとおり、大丈夫、僕たちがついてるから、西原さんはきっと勝てる…。少なくとも失格には絶対させないから…」
詩音の斜め前方下の馬の頭に位置した越谷がそう囁きかける。彼にしてみたら役得というか、願ってもないポジションなのだろう。その意気込みは騎手である詩音以上に高まっていた。
「越谷の言うとおりだ、俺たちならやれる! っていうか、西原、お前ちゃんと飯食ってるか? ちょっと軽過ぎゃしねぇか? まぁクソ重いよりマシだが…」
「あ、うん、ちゃんと食べてるよ。軽いのは…体質かな? 私太らないし…」
左後方下の吉川がそんな世間話で詩音の緊張をほぐしにかかる。越谷の親友らしい頼もしい存在だ。
「おー、太らない体質ってのは羨ましいねぇ…、あたしなんか油断してるとすぐにデブっちゃうってのにさ…。それにしても、皆、やる気溢れてるじゃない…。ってことで、うちらのチームワークでガンガン攻めるよ! 頑張ってよ、詩音!」
右後方下は同じく同級生の女子、赤木風歌だ。詩音のクラスの夢莉のような存在、いわゆる半分姉御肌みたいなさっぱり系の性分で、クラスでも割と人気者だ。
「うん、頑張ってみるよ!」
さすがにここで立ち竦んでもいられない。詩音は覚悟を決めて引き締まった表情に戻ると、そっと目を閉じて、脳内でこれからの戦いをイメージする。
「あれ? 詩音本気モード来た? これはもう勝ったね、ボクたち…」
隣の騎手である彩乃が不穏なフラグを盛大に掲げるも、詩音の心は揺るがない。そう、まさに明鏡止水というやつだった。
俄かに高まる観衆の視線に応えるように、開戦を告げる大旗が振られる。
次の瞬間、各騎馬が一斉に戦場へとなだれ込む。越谷の意図したものか、僅かに遅れて詩音たちの騎馬も、彩乃騎馬に続けて戦場に踊りこんだ。
◇75 戦場に残された奇跡 に続く
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●ご注意
この連作小説は、原則的に毎週月曜日の10:00に更新掲載しています。
第一章は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもので、第二章以降はその続編部分となります。
現在、第六章を2024/7/1より掲載中となります。
真鶴あさみです。初めまして&毎度どうもです。
完全に長期週刊連載となってしまった「よよぼう」ですが、お陰様で少数ながらも固定の読者様にご支援いただけて、大変感謝しています。
今後ともよろしくお願いしますね。
一見、学園ラブコメ風のこの作品ですが、いわゆる『RPGあるある』を軸にした趣味物語でもあります。懐かしのテーブルトークRPGの世界を、少しでも楽しんでいただければ嬉しく思います。
もちろん、本題である詩音たちの恋の行方にも忘れずに注目してくださいね。
挿絵用のイメージ画像は、KISSの「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」にて作成しています。知識と能力の不足で、再現精度があまり高くないですが、ご容赦ください。
それではこれからも、詩音たちRPG同好会のお馬鹿な冒険の数々を、お楽しみいただけると嬉しいです。
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