◇68 決意の瞬間に微笑んで
「よよぼう」第四章までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
早速会長に祭り上げられた詩音の弱気で引っ込み思案な性格とは対照的な、あまりにも個性的な問題生徒すれすれの仲間たちを従えて、波乱万丈のリアル人生RPG状態の活動は続いていく。
時に中二女子には手に余る人生の難題にぶつかり、時に入り組んだお互いの人間関係に一喜一憂し、それぞれの夢と願いを叶えるために奮闘しつつ、早半年が過ぎようとした頃、次第に詩音は未来の自分の進むべき本当の道を探しはじめる。
親友の白岡彩乃、幼馴染みの香坂夢莉と島本涼太、後輩の山科美雅、転校生の外国人ジョナサン・ウェリントン、先輩にして宿敵のお嬢様神楽樟葉…彼女たちいったい何処に辿りつくのか。
本格的な秋の訪れとともに、詩音たちの運命は大きく変化をみせつつあった。
主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。
何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。
年下の子供たちからの人気が高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない達観した言動も垣間見える、人見知りツンデレハリネズミ娘。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルに関わる救世主的存在となることも多く、詩音にとっては微妙に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『Colline Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。
相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。本名は「大路 円」。
過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。
◇68 決意の瞬間に微笑んで
予想外にもあっさりと、詩音たちの中間試験は過ぎていった。
取り立てて褒められるような成績、自慢できる成果という感じでもなかったのだが、少なくとも最悪の…RPG同好会の発足当初のような危機的状況にはならずに済んだようだ。
それもこれも、研修室でのRPG同好会としての活動が「飛車と桂馬落ち」では今ひとつ活気が出ずに、半ば自習時間のような状態に陥っていたからだ。樟葉とジョナサンという頼りになる先生役がいるのも好都合だった。
無難に目の前の固定イベントを攻略した詩音たちが次に挑むのは、体操大会決勝に臨む二人、夢莉と美雅の応援である。
かくして、食欲の秋も真っ盛りの頃合いとなったとある週末、遠路遥々…というほど大袈裟ではないが、それなりの遠出となった代々木の体育館に、体操競技とは縁も所縁もなさげな詩音たちRPG同好会の面々が集っていた。
所詮は中学生の競技会ではあるのだが、さすがに全国大会ともなると、誰でも気軽にご自由にご覧ください、というわけにはいかない。高額というほど高くはないが、いちおうはそれなりの入場料が必要だし、名門校や強豪校の登場時には一気に観客が増えて、客席の取り合いになることもあるらしい。
結局、詩音たちが確保できた入場整理券は僅かに四枚だけで、残念ながら今回は樟葉が会場での応援を諦めざるを得なかった。そのぶんは、詩音と彩乃、涼太とジョナサンで熱い声援を送るしかない。
思い返せば、地元の県予選では、彩乃は恋敵である美雅の応援にあまり乗り気ではなく、皆が行くからついてきただけ感がありありと窺えたものだが、今ではすっかり体操競技の虜、宿敵に送るエールにも彩乃なりの友情?と信頼?が感じられる。
「山科ぁー、気合だぞぉー! 華麗な技を決めてやれぇー!」
「ちょっと、それじゃまるで格闘技大会だよ、彩乃ぉ…」
「まあ、勝負ってことには違いはないんだけどな…。別に相手と直接タイマン勝負でぶちのめすわけじゃないし、気合って言ってもなぁ…」
彩乃の声援に微妙な笑顔で反応する詩音と涼太である。
「ここ一番の集中力は、やっぱり気合だよ」
さらに選手以上の気合で声援を続ける彩乃の明るい声は、果たして夢莉や美雅のところまで届いているのだろうか。
観客席は相応の混雑で、出場選手と同じ年頃、つまりは詩音たちと同じ年頃の少年少女以外にも、家族や関係者のような大人たちも数多く、かなりの人数の熱い視線が競技中の選手たちに注がれている。
恐らくこの中から、将来の日本や世界の体操界を担う有望な選手たちが現れるのだろう。そう考えれば、詩音の妄想脳内イメージとしては、未来の勇者の公開オーディションのようなものに思われてならない。
「うーん、私があそこにいなくて良かったよ…。もしあんなところにいたら、絶対舞い上がって何かやらかしてると思うよ…」
詩音は正直な感想を漏らすが、彩乃は容赦なくツッコミを入れる。
「ここ一番でどでかいヘマをやらかすのと、日常的散発的にちまちまヘマをやらかすのと、どっちが幸運なんだろうねぇ…」
「うたぁねいは、えぶりぃばでぃ、とらぁぶぅめいかー、ですね。毎日がかぁーにばぅ、はらんばんじょー、ですね」
彩乃の意見にジョナサンが同調する。
「ま、トラブルのない詩音なんざ、ミルク抜きのミルクティーみたいなもんだろ…」
「皆して酷いよぅ…。私が面倒事を起こすんじゃなくて、トラブルのほうから私に寄ってくるんだよぅ…」
身も蓋もなくそのままのわかりやすすぎる例えで追い打ちをかける涼太に、詩音が虚しい抗議を見せるも、さらに涼太は鋭く切り返す。
「お前は電磁石か? 砂鉄みたいにトラブルを集めるってか? どうせならもうちっとこう…、例えばイケてる男子の一人も引き寄せられんもんかね?」
「えー、私は別に、佐伯先生だけでいいもん…。イケてる男子なんて、全然いらないよ?」
さらりと自然に詩音の口を突いて出た言葉に、当の詩音自身は何の違和感も抱いていない。
だが、聞いているほうは意外にそうでもないらしい。呆気にとられた表情でまじまじと詩音の顔を見つめている。
「あぁ、とうとうあっさりぶっちゃけたよ…」
「はぁ…そうじゃねぇよ…。曲がりなりにも会長って立場なんだから、新人の一人も引っ張ってこい、って意味だろうが…。何を浮かれてんだかなぁ…」
「あー、そういうこと…」
いつもの詩音なら、当然のように狼狽えて、支離滅裂な言い訳をしながら、意味不明に踊りだしているはずだ。しかし、今日の詩音は違う。まるで別人のような余裕さえ窺わせていた。
「うーん、詩音、なんか変なもの食べた? 頭でも打った?」
「さてはお前、ニセモンだな? いつの間に入れ替わったんだ?」
あぁ、二人ともそういう反応なのか、と詩音は心の中で小さく溜め息をつく。
「偽者じゃないし、変なものも食べてないし、頭は打ってないよ。ただ、何ていうか、うーん…。いい加減、ここら辺ではっきり言葉にしとかないと、自分でも気持ちがぼんやりしちゃう気がして…」
それは詩音にとっては大きな第一歩であると同時に、自分自身に対する新たな決意表明のようなものである。
「ボクとしては、ぼんやりのほうが『詩音らしい』と思うけどねぇ…」
「むぅ、酷いよ、彩乃ぉ! っていうか、そういう意味じゃなくて…」
「うたぁねいは、さえぃきぃ先生が好きなのですね? 私も、さえぃきぃ・ざ・さーてぃーん、大好きですよ!」
「おぉ…さ、佐伯・ザ・サーティーン…。まさに魔王佐伯だ…」
詩音を揶揄うような彩乃の言葉に重ねるように、空気を読まないジョナサンが更に混沌の状況に拍車をかける。そして、その如何にもな通り名に反応した彩乃が、再び感動の呟きを漏らす。
「そうじゃねぇぞ、兄弟…。つーか、何で佐伯が『サーティーン』なんだ?」
「佐伯センセの名前が、十三って書いて『じゅうぞう』なんだよ。だからサーティーン…」
「そのまんまじゃねぇか!」
涼太の疑問に彩乃が答えるも、あまりにも単純なその理由に呆れかえる。
「で、その佐伯相手に、何か手応えでもあったってわけか?」
「あー、いやー、とりあえず、何も? っていうか、何もないからこそ、なのかなぁ…」
体操競技の応援そっちのけで、ぐいぐいと詩音を尋問にかかる涼太の勢いに怯みながらも、詩音は落ち着いた表情で言葉を紡ぎだす。
「でも、なんかね、ちょっと不思議な気分で、今のうちに自分の気持ちをカタチにしておかなくちゃ!って思って…。まぁ、それでどうなるってわけでもないんだけど。うーん、なんだろうねぇ…。自分でも良くわからない、かも…?」
詩音は奇妙で抽象的な言葉を呪文のように紡ぐ。途切れ途切れではあるが、それが今の詩音のありのままの素直な想いなのだから、曖昧な表現になってしまうのは仕方がない。
「あの優柔不断の勇者詩音もついに観念して、とうとう開き直る時が来たってことかなぁ…」
「うーん、これって、開き直った、っていうのかなぁ?」
彩乃の容赦のない感想を否定も肯定もせずに、詩音は僅かに小首を傾げる。
恐らく、詩音の佐伯先生に対する恋慕の情というか、憧憬の念というか、そういうふわふわした不確かな感情が、本人の自覚している以上に大きく、激しく変化しているのだろう。
例えば、単純に「佐伯先生が好きだ」というだけではない何か…。
好きになって、傍にいたくて、何がしたいのか。将来どうなりたいのか。つまるところ、最終的に詩音自身としては何がしたいのか、という問いに対する漠然とした答えが、朧気ながら見つかりつつあった。
多分に環の影響は大きいだろう。いわばループものの冒険譚の一周目を、詩音の代わりに環が体験したようなものである。
その昔の環と佐伯先生の関係がどうだったのか、具体的な詳細こそ詩音が知る由もない話だが、詩音がしようとしていた何かを、環が代わりに一足早く実践し、ひと通りの結末を迎えているのだ。少なくとも参考になる前例だといえる。
その後の状況、つまり今現在の環の状況が幸せであるかどうかはわからない。より幸福な未来があったのかもしれない、というのは、それこそパラレルワールド的な仮定の話である。
少なくとも二周目か、あるいはそれ以上に、詩音の知らない誰かが重ねた周回かもしれないこの現在に挑戦するには、先人である環たちの尊い屍と礎に学んで、さらに新しい何かを試みるしかない。
今のところは何も進展はない。
まぁ、教え子の女子中学生とクラス担任の男性教師である。下手に進展しようものなら、それこそ大問題ではある。つまり、事に当たっては慎重を期する必要がある、ということだ。
だから今はゆっくりと、マイペースな匍匐前進で良いのかもしれない。勝負の瞬間は焦らなくてもいずれやってくるものだ。
「ねぇ、ほら! 夢莉の演技が始まっちゃうよ。今日は夢莉たちが主役なんだから、私のことより、夢莉と山科さんを応援しないとダメだよ?」
詩音は自分の心の中の自問自答に一区切りをつけるように、視線を体操競技の選手たちに戻しつつ、皆に笑顔で呼びかけた。
「よし、いけー! 頑張れ夢莉ぃー!」
詩音は渾身の声援を幼馴染みに向けて投げかけた。
「結局、全ては君のお陰だったね」
「そんな事はないわ。最終的に決断したのは、あの子自身だもの」
詩音たちのいる格安観客席のベンチシートとは一目見て違いがわかるほどに、まるで空気感の異なるいかにも高級そうな指定席に腰を降ろした、二人の男女が囁き合う。
もちろんその間も、二人の視線は会場で演技を続ける若い選手たちに向けられたままで、お互いの視線が絡み合うことはない。
「その背中を押してくれたのは、君だろう?」
「違うわ、私は道を示しただけ…。新しい道に歩みだすべきか、その場に留まり続けるべきか、それとも元来た道を引き返すべきか…。それは私たちがとやかく口を挟むことじゃないのよ…」
そう言葉を紡いだ女性、笹嶋佳苗は、隣の男性、笹嶋武生に視線を向けないままで寂しく笑う。
「それに、正直なところ、『いい母親』っていうのが何なのか、まだ良くわからなくてね…。あの子にかえって負担をかけてしまうかもしれないと思うと、先行きが不安にもなるわ」
そう言葉を続ける佳苗の横顔を眺めながら、武生が励ますように声をかける。
「それは私も同じだよ。これまでの私は、けっして美雅にとって『いい父親』ではなかっただろう。寧ろあの子の恨みすら買っていたと思うよ。だから、そう、これからは三人で、新しい家族として少しずつ『いい家庭』を築いて歩んでいけたら良いんじゃないか? 時間はたっぷりとあるんだし、少しずつ、ゆっくりと…」
「そうね、でも、うかうかしていたら、すぐに私たち、お爺ちゃんお婆ちゃんになっちゃうかもしれないわよ?」
そこまで言って初めて、佳苗は最愛の人に振り向きながらにっこりと微笑んでみせた。
「それもまた良いものじゃないか? その頃にはきっと、美雅の隣にも誰か素敵な人がいて、君にも負けないくらいの可憐な花嫁姿を見せてくれるよ」
「もしかしたら、可愛い孫にも会えるかしらね」
「ああ、きっと…」
武生はそう言いながら、脳裏に浮かべたウェディングドレス姿の美雅と、隣に立つ金髪の好青年の姿に頬を緩ませた。
あの夏休み明けの日、中等部の校門前で美雅を庇うように自分の前に立ちはだかった異国の少年がいた。
彼が美雅にとって、いったいどういう関係なのかを武生は深く知らない。知ったところで、年頃の娘に対して今さら父親面をするような真似ができるのか、疑問ではある。
美雅には美雅の人生があるのだ。沢山恋をして、上手く行かずに悩むこともあれば、上手く行き過ぎて困惑することもあるだろう。別に恋だけじゃない。仲の良い友達も、将来の夢も、やりたいことを様々とやってみるのが良いだろう。
そして、いつかは小さな夢を叶えて、誰かと幸せな道を歩んでほしい、と願う。
「どうしたの、いきなり…。奇妙な微笑みを浮かべたりするなんて、あなたにしては珍しいこともあるものね…」
「いや、何というか…、人生はつくづくわからんもんだ、と今さらながら思ったりしたんだ」
「なぁにそれ?」
くすくすと上品そうに笑う佳苗は、これから訪れるだろう幸せな日々に胸を躍らせ、再び視線を会場へと戻す。
「ほら、あの子の…、美雅さんの出番よ」
「ああ、『私たちの』魅力的な愛娘の晴れ舞台だ。絶対に見逃すものか…」
「あらあら、早くも親馬鹿なのね…」
二人の男女は互いの顔を見つめ合いながら笑い合った。
演技会場の美雅は、平均台の競技に臨む直前、賑やかに大勢の観客たちで溢れかえる観客席の一角に、ひと際鋭い視線を向けた。
美雅の向けた視線の先、だがそこには、ぽつんと取り残されるように空席となった二人分のスペースがあるだけだった。
それは美雅の最後の我儘だった。そのために美雅は、実父である武生に頼んで両親の、つまり実母と継父である山科夫妻の席を用意したのだ。
初めての全国大会、決勝の舞台である、仕事が忙しいとか、そういう大人の事情というものはあるだろう。でも最後に一度くらいは、愛娘の演技のひとつも見に来てもらっても罰は当たらないだろう。
自分は要らない子だとは思いたくない、信じたくはない。そんな思いが美雅の心の何処かにあった。
けっして小さくはないその想いが、美雅自身の存在意義をまるごと飲み込んでしまう前に、できれば二人には…少なくとも実母だけには、自分の精一杯の演技を見てもらいたかった。それは嘘偽らざることのない本心である。
だが、最後の最後まで山科の家族はひとつになれなかった。そう思うと、ぽっかりと心に穴が開いたような気分になる。もちろんそれは今までも何度も味わってきた感覚だ。むしろ今さらの感さえある。
それでも何処かで信じていたかった。叶わぬ願い、ではある。ただ、もしかしたらもう一度、最後に願いは叶うのではないか。信じることで願いが成就するのなら、もう一度だけ二人を信じてみようと思い、願い、祈ったはずだった。
―まぁ、所詮、私の人生なんてこんなもんなのよね…―
はぁ、と小さく溜め息をついたが、そんな美雅の表情に涙はない。というより心なしか寂しい笑顔さえ浮かべているように見える。
―だから、この決意はきっと、新しい正解への第一歩、なんだ―
後悔はないといえば嘘だろう。でも今は心機一転、笹嶋の家に希望を託すことに決めたのだ。実父の武生にも、その奥さんの…まだ母と呼ぶには照れ臭いけれど…佳苗さんにも、胸を張って自慢できるような素敵な一人娘になってみせる、と誓ったのだ。
―それにしても、どいつもこいつも揃いも揃って、皆、自分勝手な人生よね―
美雅が呆れ顔でそう自嘲気味に微笑んだ瞬間、会場のアナウンスで美雅の出番が告げられた。
無言で右手を高々と掲げ、気合一閃。全てを吹っ切れた美雅は、華麗な足取りで平均台に駆け寄っていった。
◇69 新たな道の第一歩 に続く
ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二/三/四章(14~27/28~42/43~56)は続編部分で、2024/3/25に終了、
引き続き現在の第五章(57~)を、2024/4/1より掲載中です。
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
早いもので、初の毎週連載作品「よよぼう」も開始から一年が経ちました。
他の多くの作者さんのようなスピード感や勢い、ノリや旬の味覚みたいな魅力には乏しい本作ですが、少数ながらも定期的に読んでくださる読者様に恵まれて、作者としては幸せに感じています。
今後とも細く長くおつきあいいただけると嬉しいです。
この作品は、いわゆる『RPGあるある』といった内容を、主人公詩音の中二女子の目線で追っていくものです。とはいえ、いわゆるレトロな古典である対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものについてですが。
多少の取っつきにくさはありますが、極めて奥深い素敵な世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりのイメージ画像は、KISS社製のPCゲーム「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるみたいですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
それでは引き続き、ずれまくりの季節の少女たちの、現実と空想の冒険譚をお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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