◇66 永遠(とわ)の呪いと祝福
「よよぼう」第四章までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
早速会長に祭り上げられた詩音の弱気で引っ込み思案な性格とは対照的な、あまりにも個性的な問題生徒すれすれの仲間たちを従えて、波乱万丈のリアル人生RPG状態の活動は続いていく。
時に中二女子には手に余る人生の難題にぶつかり、時に入り組んだお互いの人間関係に一喜一憂し、それぞれの夢と願いを叶えるために奮闘しつつ、早半年が過ぎようとした頃、次第に詩音は未来の自分の進むべき本当の道を探しはじめる。
親友の白岡彩乃、幼馴染みの香坂夢莉と島本涼太、後輩の山科美雅、転校生の外国人ジョナサン・ウェリントン、先輩にして宿敵のお嬢様神楽樟葉…彼女たちいったい何処に辿りつくのか。
本格的な秋の訪れとともに、詩音たちの運命は大きく変化をみせつつあった。
主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。
何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。
年下の子供たちからの人気が高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない達観した言動も垣間見える、人見知りツンデレハリネズミ娘。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルに関わる救世主的存在となることも多く、詩音にとっては微妙に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『Colline Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。
相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。本名は「大路 円」。
過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。
◇66 永遠の呪いと祝福
文化祭最終日の昼下がり、ほど良い倦怠感と達成感に満ちた校内とは対照的な、和風喫茶の一角で、詩音と環、そして場違いな傍聴人の謙佑とメアリーが一つのテーブルを囲んでいた。
それは傍から見れば、かなり奇妙な光景だっただろう。
魔法少女に扮した詩音が嗚咽を漏らしながら、和装メイドの金髪少女メアリーに頭を撫でられている。同じテーブルを囲むのは、少しラフな格好だがごく普通の若い男女である。
事情を知らない者からすれば、ヤンキーカップルに因縁をつけられている気弱な魔法少女、といった図なのだ。
「よしよし、うたぁねぇい、げんきだす、よろし…」
いったい何処の国の人なのだろうという疑問ありありの言葉をかけながら、メアリーは懸命に詩音を励ましていた。
「うぅー…」
当の詩音は唸るばかりで、なかなか落ち着きを取り戻すことができない。
「まぁ、昔の話だし、今さら私が出しゃばって、あれこれ面倒なことをする気も全然ないし、別にエルザ西原が気にするようなことは何もないわよ」
「うー、でも…」
やはり軽々しく詩音に話したのは失敗だったか、と表情を曇らせる環に対して、詩音が上目遣いの微妙な視線を送る。
詳しい話を聞きたいし、興味はある。でも果たして聞いてしまって良いものだろうか。詩音だけでなく、環にとっても辛く、思い出したくない話なのではないだろうか。
「それで…それから…の先生と道脇…さんは…」
結局、好奇心が勝ってしまうところが詩音らしい。詩音は遠慮がちに途切れ途切れの疑問を投げかける。
「うーん、そうねぇ、むしろその後のほうが地獄だったかもしれないわね…。私より周りの女子たちが大騒ぎしてね。本命彼女さんの情報を突き止めて、勢い余ってそっちまで押しかけて、嫌がらせ紛いなこともやらかした子もいたのよ。今にして思えば、暴走した正義の恐ろしさ、って感じね…」
何となく詩音でも想像はできる。正義とかいう微妙に扱いにくいものを信じるあまり、無目的に暴走した勇者は時に狂戦士となって、罪なき民衆に牙をむくこともあるだろう。
「そうそう、先生はその頃からRPGが好きで、大学の仲間たちとRPGのイベントをやっていたのよ。私も誘われてね。そりゃもう、憧れの人からのお誘いだもの、かぶりつく勢いで参加したわ」
「それって…」
詩音の直感めいた閃きに答えず、環は淡々とした口調で話を続ける。
「結局、先生と私の最後の縁はRPGだけになっちゃったわね。先生の一風変わった趣味を知って、気に入られたい一心で始めたRPGだったけれど、なんだかんだで自分の予想以上に嵌っちゃってね…。それも運命って話ね…」
環の過去物語はさらに続く。
「当時は中学生、しかも女の子って珍しかったから、年上のお兄さんにちやほやされて、いい気になってたのもあるわね。そのイベントには、本命彼女さんもいたはずだけど、ああいう展開になるまで全く気にしてなかったのよ。呆れるほど無警戒で、もう完全に先生だけを見てます、他には何も目に入りません、って感じだったわ」
詩音はその状況を、まるで自分の経験したことのように感じていた。今まさに詩音自身の体験している現在進行形の状況こそが、環がかつて体験した「経験値不足の駆け出し勇者」の姿なのだから。
「教育実習が終わってもまだクラスの女子たちは燻ぶっていたけど、とうとうそのRPGイベントまで飛び火しちゃったのよ。先生と本命彼女さんが中心で頑張っていたから、無理筋の焼き討ち対象になったってわけよ…」
一度勢いのついた暴徒の群れは、ただひたすら破壊の限りを尽くすものだ。自分たちが正義を執行していると信じて疑いを持たず、その後に何がどうなるかなど知ったことではない。
「結局、イベント運営に支障が出て、先生と本命彼女さんは辞めることになったわ。私たちが追い出したようなもんよね。ただ、いつか必ず帰ってくると私は信じていたから、私は図々しくもイベントに参加し続けて、皆が気軽にプレイできる場所を守っていくことにしたの。自分勝手な言い種だけど、せめてもの罪滅ぼしみたいな気持ちもあったのよ…」
「それが、あのイベント…なんですね…」
詩音の言葉に環は頷く。
「まぁ、騒いでいた女子たちのほうは、その辺りで打倒佐伯を達成して満足したのか、嘘のように沈静化したんだけど、私は以来ずっとこの世界にいるってわけよ。ある意味で呪いじみた状況かもしれないわね…」
「呪い、ですか…」
誰かを好きになる、というごく自然な気持ちが高じて、信念というか執念というか、その深すぎる感情が暴走すれば、それはもはや執着心であり、呪いともいえるものに変質してしまうのだろう。一途な気持ち、などという爽やかで生易しい表現では到底追いつかない、どろどろとした鬱屈したものにきっと嵌りこんでしまう。
「まぁ、良かったこと、っていうか、あぁそういうもんなんだなぁ…って気分になることもあったわ」
「良かった、こと?」
「大学生の頃、さて就職先はどうしよう、って段になって、例のRPGイベントの私のテーブルに、たまたま初心者の男子高校生が参加してくれたのね。それはそれは全く垢抜けない感じの子でね、まるでその昔の自分みたいだったわ…」
今までの淡々とした口調から一転して、明るく無邪気な普段の環に戻りながら話は続いていく。
「別に大したシナリオじゃなかったんだけど、ありふれたファンタジーなのに、その子はえらく気に入ったみたいで、始める前とは別人のようにキラキラした目をして、ゲームマスターの私を見つめて、一言、『ありがとうございました』って言ってくれたのよね…」
「あ…」
その時、今まで沈黙して話を聞き入っていた謙佑が唐突に反応し、危うくアイスコーヒーのグラスを倒しそうになる。
メアリーはその様子を横目で見やりながら、何かを察したように次第に悪戯好きな少女の顔になっていく。
「どうしたんですか、謙佑さん…って、あれ? …あ、あぁー」
恐らくだが、メアリーの表情がここまで意地悪な好奇心に満ちたものでなければ、鈍感な詩音はまったく気付かず、華麗にスルーしていただろう。考えようによっては、メアリーからの「察してやれ」というメッセージなのかもしれない。
「まぁそれで? その時になってようやく、あぁ多分、あの頃の先生もきっとこんな気持ちだったんだろうなぁ…って思い至ったのよ」
「なるほど…」
複雑な表情を浮かべて、どう答えたものかと思案する詩音だったが、環はさらに思いがけない言葉を口にする。
「人の縁は巡る、とはよく言ったものよねぇ…」
「縁、ですか」
上手く言葉にはできないが、佐伯先生が環に残した何かが、今度は環の出会ったその男子高校生―もしかしたら謙佑かもしれない―に引き継がれていく、ということだろう。
規模こそ大きく違っても、詩音だってRPG同好会の活動を通じて、できれば様々な人に何かの思いを残したい、と考えてはいる。実行できているかと問われたら、自信などまるでありはしないが。
「だからさっきのエルザ西原のシナリオね、ちょっとドキッとしたのよ。憧れのあの人とまた同じテーブルでゲームができて、でも、もうお互い別の道を歩んでいて、向こうは私の存在なんてちっとも気付きゃしない…。でも、もし目の前の『誰か』からあの人を奪って、再び初めからやり直すことができたなら、私にだってまた違った人生があるんじゃない? ってことを言われている気がしてね…」
「後悔…してる、って意味…ですか?」
未だ挙動不審な謙佑とメアリーをぼんやりと眺めながら、詩音は咄嗟に思いついた感想を口にする。
「後悔なんて、人間生きていればしょっちゅうよ。人生はゲームと違ってリセットできないしね。だから残された最善の選択肢を選び続けるしかないわね…。それが私の物語ってやつなんだから、せっかく先生から貰った感動を、次世代の若い衆に伝えていく、ってのも悪くない選択よね…」
何処か寂しそうに、そして何処か嬉しそうに、環は笑顔を浮かべる。
「そんなこんなで、先生とその男子高校生がきっかけで、今のRPG雑誌の編集の仕事に携わっていくってことになったわけ。今度はその元男子高校生だった子が、次の世代の『誰かさん』を引っ張りこんで、英才教育を受け持つ番だわね」
「あぁー、なるほど…」
それはきっと自分のことを言っているのだろう、ということに思い至って、詩音は微妙な声音の相槌をうった。
「時代って、やっぱり繰り返すもんなんですねぇ…」
何ともいえない不思議な時間をともに過ごした面々は、程なく美雅のクラスの和風喫茶を後にして解散した。
もうすぐ終わりの文化祭とはいえ、いちおうまだ数時間は出展すべき時間は残っているのだから、曲がりなりにも責任者である詩音はRPG同好会の出展会場に戻らなければならない。
複雑な表情のままの謙佑と、何やらすっきりした雰囲気の環を見送って、詩音は本来いるべき場所へと戻っていく。
混雑もだいぶ減ってきた午後の廊下を歩む詩音の足取りは、行きとはうって変わって穏やかだった。
何も、全ての問題が一気に解決したとは言い難い状況に違いはない。あまり大きく状況が改善したわけでもない。
ただ、そう、悩みの焦点がはっきりしたことで、詩音にとってのわだかまりが解消されたのは確かだった。
「戻りましたぁー」
出展会場の教室に戻ると、詩音は現在進行中のプレイを邪魔しないように、声を抑えつつ頭を下げた。
「あぁ、詩音、お帰りぃー」
暇を持て余し気味の彩乃が、受付兼物品精算所のテーブルから声をかける。なんだか板についているというか、普段、ホビーショップで客待ちをしている彩乃と何も変わらない有様だ。
「何か、すっきりした?」
「うーん、どうだろう…。ちょっとは気が楽になったのかな…?」
詩音の挙動不審さが解消されているのに気づいて、彩乃は優しく声をかけてくる。
あくまで推測の話、ではあるのだが、先ほどの環たちとの話の合間に察した、謙佑に関する部分については、彩乃にはまだ話さないほうがいいだろう、と詩音は思う。
彩乃が謙佑のことをどう思っているか、はっきりとはわからないが、美雅との鍔迫り合いを見ている限り、まぁそういう事なんだろうなぁ、とは思う。いくら鈍い詩音でも、辛うじてそのくらいは理解できる。
出展会場の教室では、夢莉涼太組のファンタジーと樟葉ジョナサン組の和風ホラーのプレイが進んでいるようだ。
特に夢莉涼太組のテーブルには、昨日メアリーに引き連れられてやってきた小六ハーレムの女の子たちが、再び何人か参加していた。これをきっかけにRPGに興味を持ってくれたら、来年以降のRPG同好会は安泰かもしれない。
「やっぱり、繰り返されていくんだなぁ…」
詩音がぽつりと漏らした一言に、隣の彩乃は疑問を浮かべた表情で、小さく首を傾げるだけだった。
◇67 妖精たちの舞踏会 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二/三/四章(14~27/28~42/43~56)は続編部分で、2024/3/25に終了、
引き続き現在の第五章(57~)を、2024/4/1より掲載中です。
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
早いもので、初の毎週連載作品「よよぼう」も開始から一年が経ちました。
他の多くの作者さんのようなスピード感や勢い、ノリや旬の味覚みたいな魅力には乏しい本作ですが、少数ながらも定期的に読んでくださる読者様に恵まれて、作者としては幸せに感じています。
今後とも細く長くおつきあいいただけると嬉しいです。
この作品は、いわゆる『RPGあるある』といった内容を、主人公詩音の中二女子の目線で追っていくものです。とはいえ、いわゆるレトロな古典である対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものについてですが。
多少の取っつきにくさはありますが、極めて奥深い素敵な世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりのイメージ画像は、KISS社製のPCゲーム「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるみたいですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
それでは引き続き、ずれまくりの季節の少女たちの、現実と空想の冒険譚をお楽しみください。
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