◇65 想い出少女の終着点
「よよぼう」第四章までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
早速会長に祭り上げられた詩音の弱気で引っ込み思案な性格とは対照的な、あまりにも個性的な問題生徒すれすれの仲間たちを従えて、波乱万丈のリアル人生RPG状態の活動は続いていく。
時に中二女子には手に余る人生の難題にぶつかり、時に入り組んだお互いの人間関係に一喜一憂し、それぞれの夢と願いを叶えるために奮闘しつつ、早半年が過ぎようとした頃、次第に詩音は未来の自分の進むべき本当の道を探しはじめる。
親友の白岡彩乃、幼馴染みの香坂夢莉と島本涼太、後輩の山科美雅、転校生の外国人ジョナサン・ウェリントン、先輩にして宿敵のお嬢様神楽樟葉…彼女たちいったい何処に辿りつくのか。
本格的な秋の訪れとともに、詩音たちの運命は大きく変化をみせつつあった。
主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。
何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。
年下の子供たちからの人気が高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない達観した言動も垣間見える、人見知りツンデレハリネズミ娘。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルに関わる救世主的存在となることも多く、詩音にとっては微妙に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『Colline Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。
相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。
◇65 想い出少女の終着点
なし崩し的に詩音は美雅のクラス、正確には美雅とジョナサンのクラスの出展である和風喫茶に立ち寄ることになった。
別に行く当てがあるわけではないし、特にこれといって見たいものがあるわけでもない。友人知人の出店には既に昨日までに顔を出してあるし、あとは適当に行き当たりばったりの放浪をするだけだったので、何も問題はなかった。
抹茶アイスのセットを頼んで窓際の席に陣取ると、詩音は無気力に窓の外を眺めた。
僅かに見下ろす校庭では、半ばやけくそ気味の勧誘合戦の続く露店群の合間で、早くも後夜祭に向けたセッティング作業が始まっている。屋上では何やら花火の仕掛けもあるようだ。
「おぉう、うたぁねぃ! うぇるかむ、じょなさんず、かふぇえー!」
「こらこら、メアリーはおまけでしょ。だいたい、ジョナサンのお店じゃないし…」
詩音のテーブルに危なっかしい足取りで注文の品を届けるメアリーは、美雅に小突かれながら、美雅と色違いの和装メイド姿で愛嬌を振りまく。
「ありがとう…でも、どうしてメアリーちゃんがここに?」
「ぷりんせすみぃみやぁーの仲間たちに捕まったぞい!」
「あー…」
何となく事情を察することはできる。
恐らく兄のジョナサンか美雅のどちらかにくっついてきたメアリーに、美雅の友人たちが勝手に盛り上がって、勢いのままに見習い和装メイドに仕立て上げたのだろう。
当のメアリーにしても、憧れの和装姿は満更でもないだろうし、お互いにウィンウィンの関係で、臨時の看板娘の出来上がりというわけだ。
「そういえば、さっき、あの…みちわき?さん? あの人に会ったんですけど、なんか探し物をしていたみたいで…。会長先輩、何か心当たりありませんか?」
美雅はそう問いかけるも、詩音には心当たりなど…なくもない、かもしれない。もちろん仮説ではあるのだが。
「あー、もしかして?」
詩音はハンディポーチからオレンジ色の手帳を取り出し、抹茶アイスのグリーンに並べた。
「とりあえず、先に食べたほうが良いのでは? 溶けちゃうし、汚れても困るので…」
美雅は冷静にそう言いながら、その手帳に視線を走らせた。
少し使い込まれた様子ではあるが、鮮やかなオレンジ色はまだ綺麗なままで、相当大事に扱われていることがわかる。
「それ、道脇さんのなんですか?」
「うーん、わかんないんだけど、てっきり佐伯先生のだと思ってたんだよね。先生の好きな色で、愛車と一緒だし…」
「へぇ、佐伯先生はオレンジが好きなんだ…」
美雅が何の気はなしに反応する。
「たぶん、だけどね」
詩音にとってはそれよりも気がかりな問題が、またひとつ浮上してきた。そう、あの写真の少女と環の関係である。
仮にこの手帳が環のものだったとして、そうなれば当然、あの写真も環のものということになるだろう。だとすれば、あの写真の少女が環である可能性も出てくる、というより、その可能性はかなり高いだろう。
つまり、昔、どのくらい前の話かはわからないが、環が佐伯先生と腕を組んでツーショット写真を撮るくらいの間柄だったことになる。単なる生徒と先生という関係ではないはずだ。
思えば、佐伯先生のお母さんの言っていた、「毎朝迎えに来て、毎日お弁当を作ってくる女子生徒」の存在をすっかり失念していたが、もしやそれが環なのではなかろうか。
いずれにせよ過去の話、今さらどうこうという問題ではないのかもしれない。ただ、それなら何故、環はあの写真を後生大事に持ち歩いているのだろうか。まだ未練というか、なんなら現在進行形で縁が続いている可能性もあるのではないか。
一度気になると、詩音の妄想はネガティブな方向へとどんどんと加速していく。
「あー、うたぁねぃ! どろっぴんぐ、ふぇいるず!」
ぼんやりしたまま妄想に耽る詩音に、必死の形相のメアリーが声をかけるも、当人に気がつく様子はない。
「おー、うたぁねぃ! のぅのぉぅー!」
「あらあら、エルザ西原、ここで寝ちゃダメよ?」
メアリーの援軍の声が聞こえてくるが、それが渦中の人物の声であることに、詩音はまだ気づかない。
「詩ちゃん、大丈夫?」
環に同行しているのだろう謙佑も声をかけるが、詩音は抹茶アイスを掬ったスプーンを口に運ぼうとする直前の姿勢で、凍ったように固まっていた。
「ていっ!」
最終的に美雅の手によって、小さなお盆を頭の上に落とされ、ようやく我に返る詩音である。
「ったぁーい!」
「どうしたのよ、全く…」
衝撃でさらにスプーンの抹茶アイスをぶちまけながら、頭を抱えるように詩音が縮こまる。容赦なく垂れてくるどろどろのグリーンが、そんな詩音の腕と髪に垂れてくる。
「あー、ちょっと! 汚れちゃうわよ、ほら!」
咄嗟に濡れタオルを差し出して、無様な会長先輩に冷たい視線を送る美雅。その様子を見ながら、環がひときわ大きな溜め息をついた。
「これは、絶対…見たわね、あれを…」
暫くの後、詩音は微妙なメンバーでテーブルを囲んでいた。
詩音の他には、話の要である環と、同行者の謙佑、何故か興味津々のメアリー。話が気になる様子の美雅は、残念ながら他の接客もあるようで、後ろ髪引かれつつも席を外し、それでいて時折巡回しつつ聞き耳を立てていた。
「成程ねぇ、先生のお母さんが覚えていたのは予想外だったわねぇ。その噂の女子生徒ってのが、つまり私なのよねぇ…」
「でも、それならどうして佐伯先生は、道脇さんと一緒にプレイしてるのに、気づかずにスルーなんですか? ひょっとして喧嘩別れ、とか…」
一連の流れに沿って環が昔話を進めると、詩音が当然の疑問を口にする。
確かに不自然ではある。もし環の語っていることが事実ならば、佐伯先生だって何かの反応を見せるものだろうと思う。気まずい関係ならそれはそれで、何処かに微妙な空気を孕んだりするものだろう。
「それはたぶん、私のことに気づいていないんじゃないかな…。あの人、結構鈍感だし、他人の事見ているようで全然見てないし…」
「あー…」
詩音にも思い当たる節がないでもない。時に油断なく鋭いくせに、時に超がつくほど察しが悪いのが、佐伯先生という人物である。
「それに私、本名は『道脇環』じゃないからねぇ…」
「え?」
「本名は『環』じゃなくて『円』だし、『道脇』っていうのは、昔適当につけた思いつきのペンネームだし…」
初耳である。
もっとも、環との初対面がゲームイベントなのだから、その場で名乗った名前が、いわゆるリングネームのようなものであることはあるだろう。いちいちそれに対して、それは本名なのか?と尋ねる無礼者は多くはない。
「見た目も、ほら、全然違うしねぇ…」
改めて写真の中の純朴な女子生徒と、今の大人びた自分を比べるようにして、自嘲気味に環は笑った。
「あの頃は、ほんっ…っとに冴えない野暮なもんだったわ…。今になって思い出したら、笑っちゃうくらいにねぇ…。そう、エルザ西原の何倍も地味娘ちゃんだったのよ…」
正直、説明されたところで、写真の女子生徒が目の前の環だというのは、詩音には俄かには信じられない。
「はぁ…」
「でも、当時は盲目的に真っ直ぐでね。あそこまで行くと正直、馬鹿だわね。毎朝、先生の家まで押しかけて迎えに行って、見様見真似のお弁当作って、放課後待ち伏せて…。でも楽しかったなぁ…」
何処か遠くを見るような視線を彷徨わせて、環が呟く。
「当時は教育実習生だったからさ、短い時間で攻略しないと後がなくてね。思いつく限りの何でも、それこそ片っ端から攻めていったのよ」
「それで、どうなったんですか? 先生のお母さんも、その後どうなったか覚えてなくて、ちょっと気にしてたんですけど…」
詩音はその先を聞きたいような聞きたくないような、そんな葛藤を抱えつつ、佐伯先生の母を言い訳にして突破口を開く。
「どうもこうも、あっさり玉砕よ。本命がいたのよね、他に…」
「本命? 他の女性が先生と?」
予想外のことで詩音は動揺を隠しきれない。その様子を謙佑とメアリーがじっと無言で見つめている。
「もうじき実習期間が終わる、っていうある日の晩、サプライズで先生の家に襲撃をかけたのよ。まぁ今思えば馬鹿過ぎて、無計画にも程があるって感じで、おまけに覚悟のひとつも無かったんだけど…」
そこで一度言葉を切って、環はテーブルの皆と、すぐ近くで聞き耳技能の判定に挑む美雅を順番に見回した。
「先生のお母さんはたまたまその日留守だったみたいで、もうこっちも慣れているし、勝手にとことこ階段上っていったら、そこで見ちゃったのよ。先生とその女の人が、その…ね、わかるでしょ? ぶっちゃけ衝撃というか、最悪というか、まさに、ずがぁーん!って感じよ…」
ごくりと唾を飲み込んで、詩音は環の話に集中していた。
正直に言えば、聞きたくない話ではある。佐伯先生と環が、というだけでも心苦しいのに、見ず知らずの誰かとそのような関係であるなど、詩音にとってはもはや想像力が追いつかない別世界の出来事で、RPGの架空世界より遠い、まさに異次元の話であった。
「本気で先生のことを好きだったなら、当然そういう展開も、私と先生の間に起こるかもしれない、っていう発想がこれっぽっちもなかったのね。だからもう何が起きているのか全然わからなくて、一目散に逃げだしたわ。今の私だったらきっとその場で、『あら、あんた達、いったい何をやっているのかしら?』とか言ってやるところだけれどね!」
詩音は無言である。実際にその場に自分がいたとしたら、環と同じ立場だったとしたら、自分に何ができただろうか。環のように逃げ帰ってくる以外に、他にできることがあるのだろうか。
「翌日はさすがに学校、サボったわよ…。うちの親も心配してね。そりゃあ、ここのところ毎日、意気揚々と馬鹿みたいに早起きして学校に行っていた娘が、突然ズル休みを言い出すんだから、何事かと思うわよね…」
それはそうだろう。毎朝佐伯先生を迎えに行っていたのだから、当然早起きもするだろう。しかも二人分のお弁当を作ってから出かけるのだ。詩音には端っからできない芸当である。
「仕方ないから、次の日からはしぶしぶ学校へ行ったけど、それ以来先生の家にも寄り付かなくなっちゃって。授業中もなんだか落ち着かなくて…。落ち着かない、の方向性が真逆になったというかね。で、そんな様子を見ていたクラスの女子たちが、まぁ斜め上の噂を囁き始めたわけよ…」
「噂…?」
「たまたま偶然、先生の家から半泣きで飛び出してくる私を見ていたやつがいたらしいのね。私が教育実習生にお熱なのはもうバレバレだったから、ついに何かやらかしたんじゃないか?って噂がね…。もちろん冤罪なんだけど…」
確かに、教育実習生とはいえ教師の家から教え子が半泣きで飛び出して来たら、火のないところにさえ煙も立つというものだ。
「佐伯先生からしたら、私が…っていうか、臨時とはいえ自分の受け持ちの女子生徒が、あろうことかその『状況』を覗き見ているとは思っていないものね。でも、弁解できるような『状況』じゃないのも確かだし、八方塞がりってところよね」
謙佑とメアリーは黙って環の話を聞いているが、メアリーに至っては何処まで理解しているかも疑わしい。
「結局、卑怯にも私は、先生を擁護せず、先生に謝りもせず、他の女子を制することもせずに、実習期間が終わってサヨウナラ…。噂が炎上する前に先生がいなくなったのは、不幸中の幸いだったと思う…」
淡々と自嘲気味に語る環の様子がどうにも痛ましくて、詩音にはその姿に、あの写真に写っていた純朴な女子生徒の姿が重なって、さらに何処かで、もう一人の自分を、もう一人の西原詩音を重ねて想像し、自分でも驚くくらいに感情が高ぶってしまう。
気がつけば、詩音はまるで自分のことのようにしゃくりあげ、嗚咽を漏らしていた。
◇66 永遠の呪いと祝福 に続く
ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二/三/四章(14~27/28~42/43~56)は続編部分で、2024/3/25に終了、
引き続き現在の第五章(57~)を、2024/4/1より掲載中です。
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
早いもので、初の毎週連載作品「よよぼう」も開始から一年が経ちました。
他の多くの作者さんのようなスピード感や勢い、ノリや旬の味覚みたいな魅力には乏しい本作ですが、少数ながらも定期的に読んでくださる読者様に恵まれて、作者としては幸せに感じています。
今後とも細く長くおつきあいいただけると嬉しいです。
この作品は、いわゆる『RPGあるある』といった内容を、主人公詩音の中二女子の目線で追っていくものです。とはいえ、いわゆるレトロな古典である対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものについてですが。
多少の取っつきにくさはありますが、極めて奥深い素敵な世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりのイメージ画像は、KISS社製のPCゲーム「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるみたいですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
それでは引き続き、ずれまくりの季節の少女たちの、現実と空想の冒険譚をお楽しみください。
ご意見ご感想、AIイラストなどもお待ちしています。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




