◇62 機械仕掛けの陰謀
「よよぼう」第四章までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
早速会長に祭り上げられた詩音の弱気で引っ込み思案な性格とは対照的な、あまりにも個性的な問題生徒すれすれの仲間たちを従えて、波乱万丈のリアル人生RPG状態の活動は続いていく。
時に中二女子には手に余る人生の難題にぶつかり、時に入り組んだお互いの人間関係に一喜一憂し、それぞれの夢と願いを叶えるために奮闘しつつ、早半年が過ぎようとした頃、次第に詩音は未来の自分の進むべき本当の道を探しはじめる。
親友の白岡彩乃、幼馴染みの香坂夢莉と島本涼太、後輩の山科美雅、転校生の外国人ジョナサン・ウェリントン、先輩にして宿敵のお嬢様神楽樟葉…彼女たちいったい何処に辿りつくのか。
本格的な秋の訪れとともに、詩音たちの運命は大きく変化をみせつつあった。
主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。
何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。
年下の子供たちからの人気が高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない達観した言動も垣間見える、人見知りツンデレハリネズミ娘。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルに関わる救世主的存在となることも多く、詩音にとっては微妙に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『Colline Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。
相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。
◇62 機械仕掛けの陰謀
真っ白な閉鎖空間の中に、都合五人の男女と、そしてもう一人、いや、もう一体の人型の何かがそこにいた。
「何だい、誰かと思えば、依頼人の旦那じゃねぇか…。あんたが黒幕で自作自演して、俺たち全員を騙してたってわけか? いけすかねぇ話だなぁ…」
その人型の何かを呆れたように見下ろしながら、ヨシカワが淡々とした口調で語りかける。
クズハが撃った銃弾とタマキの投げたナイフをまともに食らって、本来の人間なら苦しみに呻いている状況だが、皆の目の前のその人影は、苦しむ素振りを見せずに、傷口から機械部品やら配線コードやらを覗かせていた。
「凄いや! おじさん、皆が騙されるくらいのロボットだったんだ!」
「ドロイドね。ロボットほど馬鹿じゃないし、規律正しくもないわ…」
サエキ少年の驚きと無邪気な感想を遮って、クズハが忌々しげに吐き捨てる。
「どっちにしろマトモじゃないね、私らを嵌めようとしたってことは、向こうさんにはそれなりの目的があるってもんさね」
「さらに裏にはもう一枚、面倒なヤツが潜んでいるということですね」
タマキの推測にコシガヤが同意する。
「さて、もう君たちに対する全ての案件は済んでいる。お陰様で為すべき事は恙なく完了できた。さすがは道無き道を彷徨い歩く、規格外の存在たちというところか。『弊社』は心より感謝の言葉を言わせていただくよ…」
半壊したドロイドが、老人男性の声を模したノイズ交じりの機械音声で語りかけ、嘲るような高笑いを響かせる。しかし、それも束の間、ヨシカワのマシンガンが容赦ない銃弾の雨を降らせて沈黙させる。
「あぁ、ちょっと! 貴重な証拠品なんだから、腹いせにぶっ壊すのは後にしてくれる? あぁ、あちゃー、これはもう手遅れね…」
思慮深いタマキは、あまりにも直情径行な脳筋ヨシカワの軽率な行動を責めながら、ガラクタと化したドロイドの頭部を、ハイヒールのつま先で突きまわす。
「ちょっとボクに貸して! うん、まだ行けそう。今度はこっちがこいつの頭の中を覗く番だよ! 何が出るか楽しみだなぁ、わくわくするなぁ…」
恐らくこの調子で一連の悪戯を実行したのだろう。犯罪者には違いないが、拍子抜けするほどに軽い認識の行動に、良識派であるクズハとコシガヤは大きな溜め息をついた。
サエキ少年の小柄な体格に似合わない、やたらと大きなバックパックから取り出した端末に、見るも無残な依頼者ドロイドの躯を接続して、おもむろに電源を入れると、まるでカエルの実験のようにその生首がぴくりと反応した。
「えーと、なになに? うーん、これはあれかぁ…。姉御の言ってた『軍用機の積み荷の危険物』っていうののデータだね。『LBDS』っていう、自白剤のちょお強いやつ?みたいな感じで、本人でさえすっかり忘れてる、めちゃめちゃ昔の記憶を強引に引っ張りだせるみたいだね」
サエキ少年…つまり佐伯先生が、ここぞとばかりに切り札を投入して判定を完全成功すると、ゲームマスターの詩音が、詳細な設定を即席ででっち上げながら、解説していく。
軍用機の積み荷が云々…というのは、当初の予定にはない、詩音の全く関知しない設定である。環の咄嗟の出任せが生んだ後付けの設定なのだから。
でも、ゲームマスターの立場としては、この絶妙なフックを活かさない手はない。優秀なマスターの腕の見せ所である。詩音は頼りない文系脳をフル回転させて、どうにか話の辻褄を合わせていった。
その詩音の説明を、「…だってさ」とか「…みたいだよ?」とか言葉を足しながら、佐伯先生が復唱していった。
「つまり、俺たちは都合の良い実験体にされた、ってわけか」
ヨシカワが吐き捨てるように呟く。
「ちなみに、この『LBDS』が体質に合わない人は、神経系に重大な異常をきたすことがあります」
ゲームマスターとしての詩音の天の声で、ヨシカワは納得する。
「それが俺の妹の難病、ってわけだ」
「左様、皆の推察通りのシナリオだ」
ヨシカワの呟きに反応するように、スクラップ一歩手前の壊れた頭部が不愉快な声を発する。
「とある製薬企業…つまり『弊社』のライバル企業が、軍と共同開発したこの違法自白強要剤『LBDS』を闇に葬るべく、ドクターロードサイドに依頼したのは『弊社』だ」
「どくたーろーどさいど…」
越谷が再び披露された詩音の壊滅的なネーミングセンスに言葉を失う。
「うちのイケメン旦那が、まるで路上生活の浮浪者みたいな響きだねぇ…」
「まぁ、西原は英語の成績もアレだからな…」
環と佐伯先生がそれぞれの立場の素直な感想を漏らす。
「ほっといてください! で、続けますよ?」
詩音は矛先が自分に向くのを回避するべく、黙々とシナリオを進めにかかる。
「残念ながら、ドクターは志半ばで敵の手に斃れたが、結果的に技術者と製品を輸送する軍用機を阻止…まぁ想定外の惨事ではあったが、とりあえず阻止する事ができた。そこのサエキ少年に『弊社』は深く感謝しているという訳だ」
耳障りな機械音交じりの合成音声が、聞き取りにくい言葉を淡々と語っていく。その苛々する喋り方にヨシカワが切れ気味に食ってかかる。
「おい、何で今さらそんな話をしやがる? 冥途の土産、ってやつか、くそったれ!」
「別にそういう訳ではない。ただ君たちにも、知る権利のひとつくらいはあるだろうという話さ」
「権利ねぇ…」
夫の死の経緯を知ったタマキが怒りを抑えて呟く。
「ドクターに代わってマダムが後を引き継いでくれた事にも感謝している。おかげで、回収できたサンプルから『弊社』が対策薬を合成する事ができた。これで『LBDS』の極秘開発は大幅に停滞、もしくは白紙に戻る事になるだろう」
「まさか、兄様もその件に一枚噛んでいた?」
一方的な説明に個人的な疑問を投げかけるクズハが、拳銃の銃口を突きつけながら爛れた頭部ユニットに迫る。
「鋭い考察だ。彼が…そう、君の兄上がこの事態を嗅ぎ回っていたのは確かだが、少なくとも『弊社』は一連の事故に直接関与してはいない。ネット空間上のやり取りで、軍用輸送機の足止めが物理的に可能かどうか、自称天才ハッカーたちを挑発、誘導した結果が、ああなっただけの事だ。まぁ、不幸な事故、不可抗力というものだろう」
クズハにとっては微妙に納得しがたい回答が得られたところで、クズハは拳銃の引き金を引く…。しかし、虚しく乾いた音がカチリと響くのみだった。
「あのぉ…」
サエキ少年が恐る恐るクズハを見上げると、クズハは目を細めて冷たく言い放った。
「大丈夫よ、そのガラクタをこれ以上、壊す気はないわ…」
その二人のやり取りを眺めながら、口元に手をやったタマキが、自分なりの結論を考察する。
「どちらにしても、私らがここに集められたのは偶然じゃなくて、実験台を兼ねた口封じのためだった、という感じなのかしら?」
「ならば当然この施設も…」
「吹っ飛ばす、って展開だろうな!」
タマキの推論から、コシガヤとヨシカワが予想される結末を導き出す。
「おい小僧、さっさとここからずらかるぞ! そんな気持ちわりぃ生首なんか捨てちまえ!」
「えー、これはこれで結構なお宝だよ…」
「命あっての何とやらだ、諦めな!」
ヨシカワの提案に渋い顔を覗かせるサエキ少年を一括して、タマキが即時の撤収を促す。
「ちょっと待って、今、入り口の扉、開けるから…」
サエキ少年はさらにドロイドのデータを検索して、この白い部屋の入り口の開錠をあっという間に達成する。
「ついでにPCから、僕たちがまだこの場にいるっていうダミーのデータを送るから、少しは時間が稼げるかも。その隙に皆で…」
「よし、とっととバックレかますぜ!」
「殿は私が…」
ヨシカワを先頭に一行は部屋を後にする。再び大きな盾を構えたクズハが最後に部屋を一瞥して、撤退する。
「さようなら、ありがとう、兄様…」
「え? 何? どういうこと…」
「兄様?」
立ち去り際のクズハの呟きに、素に戻った他のプレイヤーがそれぞれに反応を示す。
「あ、別に、何となく、ふと思いついた台詞を言ってみただけだから…」
プレイヤーの樟葉は軽い調子でそう答えるが、その瞬間に詩音の脳裏に閃きの高速回転と連鎖反応が起きる。
「ちょっと待ってね。なんか思いつきそう、なんか思いつき…思いつき…ましたっ!」
「あぁ?」
吉川が半分ヨシカワになりきったままの横柄な態度で、絡むような口調の疑問を投げかける。
「いいですか? まず、ここまでの話を整理します」
詩音は、湯気が出そうな勢いで回転させた脳味噌から導き出された結論を、噛み砕きながら自問自答のように繰り返す。
「まず、『LBDS』という薬を軍と製薬会社が開発して、それを良く思わない組織が妨害しようとした。その依頼を請けたのがマダムタマキの旦那さんで、結局暗殺されちゃう。で、次に適当に妨害案をネットで募集したら、お馬鹿なサエキボーイが食いついた、と…」
「お馬鹿じゃないし…」
佐伯先生のなりきり反論を無視して、詩音は話を続ける。
「軍用機の足止めのはずが墜落して、ついでにミスクズハ一行も事故に遭って、『LBDS』のことを調べてたお兄様が亡くなって、さらに余罪を繰り返したサエキボーイのせいで、ミスターコシガヤが横領疑惑に巻き込まれた、と…」
「いや、僕は元々使い込んでいたんで…」
「そうそう、ボクは悪くないもん!」
越谷と佐伯先生が口を挟む。またもや流しつつ、詩音は続ける。
「流出した積み荷の『LBDS』のせいで、ミスターヨシカワの妹が難病になって、その治療薬を開発したのが、最初に妨害を企んだ組織で、それに協力したのがマダムタマキと愉快な仲間たち…」
「むしろ不愉快な仲間たち、だわ…」
樟葉も思わず呟きを漏らす。
「そして、横領犯のミスターコシガヤの始末を任されたミスターヨシカワを含めて、謎の導き手の指示でこの施設に皆が集まった、という感じ?ですね」
「イマイチわからんのは、俺たちを今さらここに集めたところで、いったい何になるんだ? もはや全部手遅れじゃないのか?って話だ。俺たちを始末するだけなら、全員が集まったところで、ドカン!で済むわけだろ?」
詩音の解説が終わったところで、改めて吉川が疑問点を述べる。
確かに彼の言うとおり、所詮はゲームのシナリオとはいえ、ここまでの話の展開は、ご都合主義な断片の切り貼り感に溢れていた。
無理もない話ではある。サイバーパンク初心者の駆け出しゲームマスターが、それぞれのキャラクターの過去設定を盛り込んだうえで、即席で物語を創ろうというのだから、たとえ詩音でなくとも困難な作業に違いないだろう。
「だから、今、たった今、ちょうどゲームマスターも納得できる展開に辿りつきました」
詩音は自信満々のドヤ顔を浮かべて、ゆっくりとプレイヤー全員を見渡していく。やがて、一呼吸置いて詩音は静かに語りかけた。
「あのドロイドは、ミスクズハのお兄様の分身だったのです」
◇63 心の中の羅針盤 に続く
ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二/三/四章(14~27/28~42/43~56)は続編部分で、2024/3/25に終了、
引き続き現在の第五章(57~)を、2024/4/1より掲載中です。
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
早いもので、初の毎週連載作品「よよぼう」も開始から一年が経ちました。
他の多くの作者さんのようなスピード感や勢い、ノリや旬の味覚みたいな魅力には乏しい本作ですが、少数ながらも定期的に読んでくださる読者様に恵まれて、作者としては幸せに感じています。
今後とも細く長くおつきあいいただけると嬉しいです。
この作品は、いわゆる『RPGあるある』といった内容を、主人公詩音の中二女子の目線で追っていくものです。とはいえ、いわゆるレトロな古典である対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものについてですが。
多少の取っつきにくさはありますが、極めて奥深い素敵な世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりのイメージ画像は、KISS社製のPCゲーム「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるみたいですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
それでは引き続き、ずれまくりの季節の少女たちの、現実と空想の冒険譚をお楽しみください。
ご意見ご感想、AIイラストなどもお待ちしています。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




