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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
小径を覆う落葉の夢
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◇59 暗殺者の人生回顧録

「よよぼう」第四章までのあらすじ



 とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音にしはらうたねは、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三さえきじゅうぞう先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。


 早速会長に祭り上げられた詩音の弱気で引っ込み思案な性格とは対照的な、あまりにも個性的な問題生徒すれすれの仲間たちを従えて、波乱万丈のリアル人生RPG状態の活動は続いていく。


 時に中二女子には手に余る人生の難題にぶつかり、時に入り組んだお互いの人間関係に一喜一憂し、それぞれの夢と願いを叶えるために奮闘しつつ、早半年が過ぎようとした頃、次第に詩音は未来の自分の進むべき本当の道を探しはじめる。


 親友の白岡彩乃しらおかあやの、幼馴染みの香坂夢莉こうさかゆうり島本涼太しまもとりょうた、後輩の山科美雅やましなみみや、転校生の外国人ジョナサン・ウェリントン、先輩にして宿敵のお嬢様神楽樟葉かぐらくずは…彼女たちいったい何処に辿りつくのか。


 本格的な秋の訪れとともに、詩音たちの運命は大きく変化をみせつつあった。




主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。

 何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。

 年下の子供たちからの人気が高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー役。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。

 複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない達観した言動も垣間見える、人見知りツンデレハリネズミ娘。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルに関わる救世主的存在となることも多く、詩音にとっては微妙に気になる存在。



《その他の人物たち》


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『Colline Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。

 相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。

 過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。


◇59 暗殺者の人生回顧録



 詩音のサイバーパンクRPGのシナリオも佳境を迎えていた。ここからは詩音が突然思いついた、例の人生反省会に突入する。


 「皆さんがこの白い部屋に閉じ込められたことを自覚した瞬間から、皆さんの五感は何処か妙な違和感に包まれます。例えば、眩暈、耳鳴り、不快感、みたいな感じですね」


 詩音はどきどきと急かすように木霊する自分の心臓の鼓動を無視して、淡々と告げるように試みる。まずはゲームマスターである自分自身が落ち着かないことには、ハッタリを利かせた台詞すらも説得力を失ってしまう。


 「やがて視界がチカチカしだして、頭が酸欠状態みたいにぼんやりとしていきます」


 「これは案外すんなり死ねそうね…」


 環がまるで他人事のように呟く。


 確かにプレイヤーとキャラクターは別人格なのだから、キャラクターが感じているものが直接プレイヤーの経験とはならない。それでも多少なりとも愛着のあるキャラクターならば、自分の分身が窮地になっている現状をここまで突き放して語るのは、何処か味気ない気もする。


 「やがて意識が朦朧とした皆さんが時間感覚を失って、それぞれようやく気がつくと、全員別々の見覚えのある空間、というか、別の世界にいます。異世界転生なのか、タイムスリップなのか、良くわからないけど、記憶の何処かに引っかかるような場所に自分だけがいる感覚です」


 「何だそれ…」


 吉川が思わず感想を口にする。


 「わかりやすく言うと、皆さんそれぞれの心象風景、しかも過去の出来事を反映したものです。それでは順番に、皆さんがこのトーキョーの街に流れ着いて、または生まれ育って、今の生活に至った様々な経験と経緯について語って貰うことにしましょう…」


 今回のシナリオを始めるにあたって、詩音はキャラクターメイキングの際にプレイヤー全員から「キャラクターはどういう理由でその稼業を始めたか」についての履歴を聞いていた。


 ファンタジー世界のある種の緩さ、言い方を変えればいい加減な適当さと異なり、社会構造がしっかりした未来社会では、ニートが高じて冒険者となり、なんだかんだ日銭を稼いでいけるほど甘くはない。


 裏社会で道を外しつつ生き延びるためには、それ相応の経験と運命的な成り行きが必要なはずだ。その経緯を予めプレイヤーに設定して貰ったというわけである。


 「まずは…そう、暗殺者ミスターヨシカワの過去について語るとしましょう…」


 そう言って、詩音は拍子木のように、ぱんっ、と掌を打ち鳴らして場面を切り替えた。






 「場面は薄暗い警察署の取調室のような部屋で、ミスターヨシカワともう一人の人物が机を挟んで向かい合う感じです。他の仲間は誰もいなくて、そこには二人きり。相手は何処かミスターヨシカワに似ていて、でもかなり老けたみすぼらしい冴えない中年、っていう雰囲気です」


 「あー、ドッペル君か?」


 内心ぎくりとした詩音だったが、表情を面に出さずになんとかその場をやり過ごす。


 「で、取調官とは思えない態度で足を組んだまま、唐突にその男は尋ねてきます」


 そこまで言って、詩音は一気に声のトーンを低く落とす。知らない人から見れば、まるで落語か怪談話のような切り替えの鮮やかさだ。


 「なぁ、あんたはどうして、こんな暗殺者なんていう邪道に堕ちたんだ?」


 普段の詩音からは全く想像できない、冷淡な抑揚のない口調でそう質問を投げかけると、吉川もトーンを合わせるように落ち着いた声音で応える。


 「妹のためだ。難病を抱えた妹の治療には、莫大な治療費が必要だ。高額で難しい手術だが、担当医からは治療法があると聞いている。だからオレは…」


 「たった一人の妹の命を救うために、幾人もの他者の命を奪ってきたと?」


 詩音は突き放すように質問を重ねる。それは天の声、もしかしたら神の声なのかもしれない。


 「その難病についての有効な治療法は、今のところ確立されていないはずだ…。なのに、あんたがその医師の言葉を妄信するのは何故なんだろうな?」


 僅かに目を細めた詩音が値踏みをするように疑惑の視線を送ると、吉川は言葉に詰まる。


 「そんなこと、何でお前が…。あ、あぁ、信じているとも! それに縋る他にオレに選択肢なんてありゃあしないんだよ…」


 初心者にしては演技派の吉川は、当初の落ち着きをすっかり失いつつあるミスターヨシカワをそつなく演じる、次々と投げかけられる問いに苛立ちを露わにして、次第にその声を荒らげていく。


 「だいたい人間の命なんて別に等価なわけじゃないだろ? この世の醜さとは無縁な、それどころか、この世の美しさすら満足に知らない妹の命と、悪事の限りを尽くした汚職官僚や悪徳政治家の命が等価であるわけがない。世の中にはそれなりの報いを受けて当然の連中だっているのさ…」


 「成程、あんたの話はよくわかった」


 詩音は謎の男になりきって、重ねて平坦な声音の言葉を続ける。


 「それであんたは今、とある組織の金、一億を持ち逃げしたクズを消すために、必死に探してる。そいつが当面最後の仕事ってわけだ…」


 「ああ、そんな展開なんだ。了解、了解」


 一瞬素に戻った吉川が改めてキャラクターとしての台詞を言いなおす。


 「あぁ、その通りだ。それで間違いない」


 クールなやり取りを展開する詩音と吉川を、テーブルを囲むプレイヤー全員が注目する。


 その場にいないはずのキャラクターであっても、プレイヤー情報として知っておけば後々の応用はいろいろと利くものだ。


 「それじゃあこうしよう。ここはひとつ取引といこうじゃないか…」


 「取引だと?」


 吉川の声に疑念の色が混じる。RPGに慣れているわけではないはずなのに、すっかりこの世界に嵌ってしまっているようだ。


 「この俺があんたの大事な妹の命を救ってやる。もちろん、今後一切の問題が起こらぬように万全を期したうえで、だ…」


 「信じられるか、そんな話…。だいたいそっちに何のメリットがあるって言うんだ?」


 「俺はこの世界の全てを委ねられた存在。全知全能にして永久不滅なる者。俺に不可能なことはない」


 その詩音の言葉はある種のメタ発言というものにも思える。


 ゲームマスターというのは、シナリオを作り、様々な場面に成否の判定を下し、緩やかにして確実にプレイヤーたちを誘導していく役目、つまりはゲーム内においては神同然の存在である。


 当然ゲームである以上、従うべき共通のルールというものはあるが、その枠組みすらも例外規定として潜り抜ける権限を持っている。まぁ、多用し過ぎればプレイヤーたちの反発を招く行為ではあるが。


 「メタってるわねぇ…良いのかしら、そんなこと言って」


 本来この場にはいないはずの環が口を挟む。当然の疑問ではあるので、思わず口をついてしまったということだろう。


 「なぁ、ミスターヨシカワ。あんたの信じるありもしない治療法を騙る疑惑の医師と、今ここで胡散臭い奇跡を語る俺、信用できるのはどっちなんだろうな? いずれにせよ、選択の権利はあんたの手の内にある」


 「仮に取引とやらに応じるとして、いったいこのオレに何をしろと? 言っておくが、オレにできるのはせいぜい殺し程度だぜ? 何人やればいいんだ? いや何十人かな?」


 吉川がそう言うと、待ってましたとばかりにもう一度、詩音は拍子木代わりの手を鳴らす。






 「次の場面は、運び屋のミスターコシガヤです。何処かのショッピングモールの休憩所っぽいベンチにちょっと疲れた感じで座りながら、少し離れたお店で仲睦まじく買い物に勤しむ奥さんと子供を見ています」


 「うん、わかった」


 ゲームマスターの詩音が唐突に場面を切り替えたわけだが、プレイヤーとして一歩引いた視点で見ている越谷は淡々と受け答えをしてくる。


 RPGの楽しみ方は人それぞれ。キャラクターにどっぷり嵌りこんでしまうタイプもいれば、俯瞰視点で駒のようにキャラクターを扱うタイプもいる。どちらが正解というものでもない。


 ただ、不慣れな初心者プレイヤーはキャラクターとの一体感を意識するのは難しいかもしれない。周りの悪ノリに影響されてようやく羞恥心を乗り越え、徐々に本領を発揮していくものだからだ。


 それでもどちらかというと、女子のほうが「なりきり芝居」には向いているのかもしれない。男子は常に「状況と戦略」を意識しがちのように思える。


 「ちょっと、おい! わかった、じゃねぇよ。お前妻子持ちなのかよ…」


 「そうだけど、何か問題が?」


 吉川が驚いて問い質すも、越谷は気にも留めない。


 成人のプレイヤーが時に、懐かしの青年や少年のキャラクターを演じることはあるだろう。それは多少の美化はされているものの、自分自身の体験に基づく過去の姿を重ねることで十分な存在感を出すことができる。


 一方、今回の越谷のように、自分の未だ見ぬ未来像を演ずることができるのも、RPGの醍醐味のひとつである。好き勝手に理想のパートナーを設定し、幸せな家庭を築くことができるのだ。


 考えようによっては、女子が王子様を、男子がお姫様を演じる場合も似たようなものかもしれない。RPGのプレイヤーとキャラクターの関係は、現実の制約をほぼ完全に無視できるはずだ。そう、宇宙人でもゾンビでも、何でもありだ。


 「いや、妻子持ちって…まさか嫁さんって…」


 吉川は何か越谷の個人的な事情を知っているのだろう。誰かモデルになるような人物、つまり誰か越谷の想い人的な女子が存在するのかもしれない。または漫画やアニメの理想的萌えキャラかもしれない。


 「別に、それとは…関係ないし…」


 吉川から視線を逸らしつつ越谷は呟き、さらに詩音に先を進めるよう促す。


 「で、僕はどうなったんですか?」


 「あー、うんとね…」


 脱線から復旧を果たしたシナリオを進めるべく、詩音は手元のメモにちらりと視線を落とす。


 「ミスターコシガヤが座っているベンチの隣に、一人の若い紳士が腰を下ろします。そしてこう言うのです」


 詩音は再びトーンを落としつつ、若い紳士になりきって言葉を紡いでいく。


 「隣に失礼させて貰うよ、ミスターコシガヤ。些か突然だが、君は過去の人生の選択を後悔した事はないかな? 何か僕が力になれる事があると良いのだけど…」



挿絵(By みてみん)



◇60 戻れないあの日の黄昏 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


●ご注意

 この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。

 第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、

 第二/三/四章(14~27/28~42/43~56)は続編部分で、2024/3/25に終了、

 引き続き現在の第五章(57~)を、2024/4/1より掲載中です。



 初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。

 早いもので、初の毎週連載作品「よよぼう」も開始から一年が経ちました。

 他の多くの作者さんのようなスピード感や勢い、ノリや旬の味覚みたいな魅力には乏しい本作ですが、少数ながらも定期的に読んでくださる読者様に恵まれて、作者としては幸せに感じています。

 今後とも細く長くおつきあいいただけると嬉しいです。


 この作品は、いわゆる『RPGあるある』といった内容を、主人公詩音の中二女子の目線で追っていくものです。とはいえ、いわゆるレトロな古典である対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものについてですが。

 多少の取っつきにくさはありますが、極めて奥深い素敵な世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。


 挿絵の代わりのイメージ画像は、KISS社製のPCゲーム「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。

 3Dモデルをいろいろ独自に弄れるみたいですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。


 それでは引き続き、ずれまくりの季節の少女たちの、現実と空想の冒険譚をお楽しみください。

 ご意見ご感想、AIイラストなどもお待ちしています。



■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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