◇58 気合で挑む晴れ舞台
「よよぼう」第四章までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
早速会長に祭り上げられた詩音の弱気で引っ込み思案な性格とは対照的な、あまりにも個性的な問題生徒すれすれの仲間たちを従えて、波乱万丈のリアル人生RPG状態の活動は続いていく。
時に中二女子には手に余る人生の難題にぶつかり、時に入り組んだお互いの人間関係に一喜一憂し、それぞれの夢と願いを叶えるために奮闘しつつ、早半年が過ぎようとした頃、次第に詩音は未来の自分の進むべき本当の道を探しはじめる。
親友の白岡彩乃、幼馴染みの香坂夢莉と島本涼太、後輩の山科美雅、転校生の外国人ジョナサン・ウェリントン、先輩にして宿敵のお嬢様神楽樟葉…彼女たちいったい何処に辿りつくのか。
本格的な秋の訪れとともに、詩音たちの運命は大きく変化をみせつつあった。
主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない引っ込み思案娘。
何故かトラブルに好かれる体質で、意地と気合で難題に立ち向かう、出たとこ勝負の精神的ハリボテ勇者。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『Colline Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、根っからの商売人気質。
年下の子供たちからの人気が高い姉貴分だが、従姉弟の謙佑に初恋のリベンジを誓う乙女でもある。天邪鬼な鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士といったクールな雰囲気ながら、人情に脆い苦労人。実質的な詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトで家もお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、思慮深く陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に鍛錬を欠かさぬ努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない達観した言動も垣間見える、人見知りツンデレハリネズミ娘。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い温和な性格。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、編入早々から女子の注目度も高い。涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルに関わる救世主的存在となることも多く、詩音にとっては微妙に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、かなり偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『Colline Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、様々な玩具に詳しい。
相応にイケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
過去の自分に似た境遇の詩音に、分不相応な過大な期待を抱いているようで、半ば世話焼きのお節介お姉さんと化している。
◇58 気合で挑む晴れ舞台
文化祭も滞りなく進行した土曜日の夜、つまり飛び入り参加のRPG雑誌編集者、道脇環にゲームマスターの応援を頼んだその晩、詩音は例によって自宅の湯船でゆっくりとリラックスしたバスタイムを満喫していた。
RPG同好会の会長などといえば聞こえはいいが、要するに雑用一般をもれなく引き受けることになる、所詮は便利な小間使いである。何がとか何処がとかではなく、なんだかんだで疲労も心労も溜まってくるというものだ。
それでもこうして湯の中に浸かっていると、心底落ち着いた気分になれるというのは、日本人の悪くない特権だった。
手足を伸ばしてぎりぎりの湯船いっぱいに自分自身の身体を広げながら、明日のことを考える。
明日は日曜日、いよいよ文化祭も最終日である。まぁ、ばたばたと慌ただしいのはあらかた準備の段階での話で、いざ始まってしまえば本番は流されるようにしかならないものでもある。
しかも部活動やクラスでの出展に関わっていない生徒は、別に出席の義務があるわけでもない。それこそRPG同好会を始める前の詩音たちも、その例外ではなかったはずだ。
とはいえ、詩音にとっては明日こそが本番といえる状況だった。
久々に憧れの担任教師、佐伯十三先生とのゲームが楽しめる。しかも再び詩音がゲームマスターを務めて臨むのだ。
シナリオを駆使してプレイヤーたちを翻弄するのは、ゲームマスターの醍醐味だろう。憧れの攻略目標をどうやって自分の掌の上で転がしてやろうか、などと考え始めると、水面に映る詩音の頬は自然に緩んでしまう。
もちろん相手は、駆け出しの新人ゲーマー、もといテーブルトーカーである詩音に比べれば、天と地ほどの経験を持つ歴戦の強者だ。だから勝手に魔王佐伯などという通り名をあてがったりもしている。
それに、別に詩音が相手をするべきプレイヤーは、佐伯先生一人というわけでもない。
元々日曜午前に詩音がサイバーパンクのテーブルでゲームマスターをすることは決まっていたが、佐伯先生が参加を予約してくれたのだ。
そこにすかさず便乗を申し出たのが環であり、さらに佐伯先生目当てなのか、詩音の恋敵を自称する三年生、神楽樟葉も手を上げた。
結果的に、見知った顔が三人もテーブルを囲むという、それはそれで逆に緊張してしまうような状況に詩音は追い込まれてしまった。
シナリオのテーマは「過去の探索」である。
言葉にするとたいそう大袈裟な響きだが、要は「自分の人生を振り返れ」という、ただそれだけのことだ。
詩音のような未だ人生発展途上の身ならともかく、佐伯先生にしろ環にしろ、大人の面々は相応の波乱万丈な人生を送ってきているはずだ。名家のお嬢様の樟葉にしても、詩音よりも多少は変化に富んだ日常を送ってきたことだろう。
ゲーム内では単なる冒険者やエージェント、いわゆる「禄でもない連中」に僅かな正義感と最低限の理性を加えた者たちであっても、その個々人の背景にはいろいろと紆余曲折の人生体験、つまり物語があるはずだ。
そこまで考えて、ふと詩音は風呂場の天井を見上げて呟く。
「私の人生物語って、いったいどんな感じなんだろう…。これから先も、やっぱり地味に薄味だったりするのかなぁ…」
翌朝、詩音の目覚めは早かった。気合入りまくりの空回り具合は、まるで運動会直前の小学生を思わせる。
慌ただしく中等部の制服に着替えると、洗面台の鏡で笑顔の練習を確認する。
たかが文化祭の、それも普段と変わらぬRPGのゲームマスターをするだけなのに、詩音の心は初めてのデート前の乙女のように舞い上がっていた。当然そんな経験など詩音にありはしないのだが。
確かに晴れ舞台ではある。いつものようになぁなぁで誤魔化しの効かないお客様プレイヤーたちを相手に、しかも佐伯先生と環という、顔見知りながらも拘り派の気難しい…悪く言えば厄介な面々に対処しなければならない。
まずはできることからやるしかない。それは別にRPGに直接関係のない、身だしなみや表情、喋り方ひとつから始まるというものだ。
詩音は鏡の中のもう一人の自分に言い聞かせるように、気合のポーズを作り、大きく頷いて玄関へと向かった。
そこからの通学路での出来事を、詩音はほとんど覚えていない。
ただ黙々とシナリオのフローチャートを脳内でなぞりながら、それらしい思わせぶりな台詞を呟きつつ、あの世とこの世の区別が曖昧の状態でふらふらと通学路を漂うように歩く。
それはそれで相当に危なっかしいことではあるのだが、詩音らしいといえばまさにそうであった。とりあえず、何か突発的な事故や事件に遭わずに学校へと辿り着いたことは幸いだった。
RPG同好会の展示会場、というより、慣れ親しんだいつもと同じ自分の教室に入ると、まだ他に誰も来ていないのを確認し、詩音は再び気合のポーズで雄叫びを上げた。
「よしっ、今日も気合入れていくぞー、おぉー!」
「おは…あんた何やってんのよ、朝っぱらから…」
タイミングよく、いや悪くだろうか、微妙な遅れで教室に入ってきた幼馴染みの香坂夢莉に、そんな可愛らしくも間抜けすぎる後ろ姿を目撃されて、詩音は一気に顔を真っ赤に染めて振り返る。
「あ、あはは…、おはよう夢莉ぃ…」
夢莉は呆れ顔で小さな溜め息を漏らすと、詩音に諭すように言葉を紡ぐ。
「気合入れるのはいいけど、程々にしないと、いざって時に舞い上がってしくじるんじゃないの? ま、あんたらしいっちゃ、あんたらしいんだけど…」
「大丈夫、な、はず…。脳内では完璧に予行練習できたし」
「そういう時ほど想定外の出来事に足元を掬われがちだから、注意を怠ってはならないものよ?」
詩音の言葉に反応したのは、たった今到着したばかりの樟葉だった。その鋭い指摘は至極もっともな内容である。まさに「鋼鉄の冷嬢」の渾名に相応しい一言だ。
「おはようございます、樟葉先輩。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくね。どういうお話なのか、楽しみにしているわね」
そう言葉を残して、積み上げられた机とカーテンで周囲から仕切られた一角に消えていく夢莉と樟葉は、さも当然のようにそれぞれの衣装に着替え始める。夢莉は女剣士、樟葉は修道女だ。
別に制服のままでも問題ないのだが、せっかく仲間の白岡彩乃とその従兄、鷹取謙佑が用意してくれたのだから、半分は謙佑の個人的趣味であっても、ここはご厚意に応えよう、ということだ。
何だかんだで評判も良く、結局は皆も満更でもないのだろう。それぞれが口々に、次は何がいいかと次回のコスプレ衣装をリクエストするような有様だった。
「んー、よし、これでおっけー?」
詩音も自分のこれからプレイするテーブルの準備をし終えると、何故かとても不人気な「魔法少女ミミリン」に変身すべく、カーテンの奥へと消えていった。
「そんなこんなで、やがて皆さんが辿り着いたのは、何もない真っ白な広い空間…、うーん、防音室っぽい白い壁面にぽつぽつ穴が開いてる、天井高めの窓のない体育館っていうか、屋内練習場?みたいな感じの部屋ですね」
詩音がサイバーパンクRPGのシナリオを始めてから、かれこれ一時間が過ぎようとしていた。
佐伯先生と環、樟葉の他にプレイヤーは二人。当日に参加を希望した越谷と吉川という、詩音のクラスメイトの男子だ。
強引に勧誘したわけでもないクラスメイト、しかも詩音や彩乃とは直接縁のない男子が二人も自発的に興味を持ってくれるとは予想外だったが、落ち着いて考えてみれば、佐伯先生は詩音や彩乃のクラス担任でもあるのだから、担任教師の参加を聞きつけた教え子が冷やかし半分に参加したに過ぎないのかもしれない。
何はともあれ、プレイヤーたちはそれぞれの思惑で対立と協調を織り交ぜながら、怪しげな先端技術の研究所を突き止め、その内部に潜入したのだった。
サイバーパンクというジャンル、というより、この手の上級者向けRPGのシステムでは、ごく普通にありがちな仲間たちがパーティーを組んで団結の末、ことを為すという展開は殆どない。
プレイヤー各々の個人的利害や所属する組織の事情、その他様々なしがらみの結果、何とか一時の妥協で協力関係がとられているだけであり、次に会う時は敵かもしれず、場合によってはこのシナリオの展開次第で即敵対関係になることすらありうる。
そんなタイトロープの同盟を結んでいるのは、暗殺者のヨシカワ、運び屋のコシガヤ、ボディガードのクズハ、闇の女帝タマキ、そして少年ハッカーのサエキの面々だ。
「行き止まりぃー、って、敵さんの罠に嵌ったってこと、姉御ぉ?」
佐伯先生がまるで何処かの少年探偵のように、姉御の環に尋ねる。
教え子を前にした担任教師でなければ、別にどうということはないRPGのプレイ風景ではあるのだが、同じテーブルを受け持ちクラスの生徒が三人、その上級生が一人、囲んでいるのだから、傍からみればなかなか奇異な光景だろう。
「そうさねぇ、こいつは一杯食わされたって感じかもしれないねぇ…。この部屋には何か、他に目ぼしいものがあったりしないのかい?」
流石に手慣れた調子で環がそう尋ねるが、詩音は首を横に振る。
「何もありません、というか、たった今、完全に何もなくなりました…」
「は?」
こちらは素のままで、越谷が思わず聞き返すと、詩音の表情は悪魔のように歪んだ笑みを浮かべる。
「皆さんの入ってきた通路、というか扉が綺麗さっぱり、消えてなくなりました」
「おいおい、そいつはお約束過ぎるだろ…」
吉川が身振りを交えて呆れた声を上げる。
「で、お次はいったい何が起きるのかしら?」
樟葉が落ち着き払った様子で冷静に先の展開を促す。
その言葉に応えるように、詩音は大きく深呼吸をしながらプレイヤーたちの顔をぐるりと一望する。
そして、一度通過させた視線を佐伯先生に向け直すと、詩音はゆっくりと次の言葉を続けていく。
「人生…そう、人生です。これから皆さんの過去を語っていただきましょう。もちろん、他人の滑稽な過去を自由に覗き見る権利も与えましょう。いずれにせよ、当人の意思に関係なく自然に身体が動いてしまうことでしょうが…」
◇59 暗殺者の人生回顧録 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二/三/四章(14~27/28~42/43~56)は続編部分で、2024/3/25に終了、
引き続き現在の第五章(57~)を、2024/4/1より掲載中です。
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
早いもので、初の毎週連載作品「よよぼう」も開始から一年が経ちました。
他の多くの作者さんのようなスピード感や勢い、ノリや旬の味覚みたいな魅力には乏しい本作ですが、少数ながらも定期的に読んでくださる読者様に恵まれて、作者としては幸せに感じています。
今後とも細く長くおつきあいいただけると嬉しいです。
この作品は、いわゆる『RPGあるある』といった内容を、主人公詩音の中二女子の目線で追っていくものです。とはいえ、いわゆるレトロな古典である対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものについてですが。
多少の取っつきにくさはありますが、極めて奥深い素敵な世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりのイメージ画像は、KISS社製のPCゲーム「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」で作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるみたいですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
それでは引き続き、ずれまくりの季節の少女たちの、現実と空想の冒険譚をお楽しみください。
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