◇56 お祭りの乱入者
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇56 お祭りの乱入者
いざ一度、方向性が決定してしまえば、物事というのはそれなりに順調に進んでいくものである。
あっという間に時は過ぎ、それまでのぐだぐだ感が嘘のように、晴れ舞台となる文化祭当日を迎えると、さすがに皆の表情にも緊張感が窺えるようになった。
初日の金曜日は内部関係者向けの展示ということもあって、準備ができたところからぼちぼち開始、という感じで、比較的訪れる者―つまり生徒や先生たちであるが―も少なかったが、以降週末の土日が本番であり、校外からの一般人も訪れるわけで、活気溢れるところと寂しいところと、盛況さに顕著な差ができてくる。
弱小無名の同好会である以上、どうせ閑古鳥が鳴くだろうことを予想して、三日間の午前午後で各二卓のみという控えめな、というより極めて消極的なテーブル構成にしたものの、蓋を開けてみればどういうわけか驚きの大盛況で、土曜の午後早々にして臨時のテーブルを設ける必要に迫られる状況となってしまった。
男女問わず人気者の夢莉と、一部に信者がいると噂の樟葉が参加していることに加え、新たに歩く映えスポットと評判になったジョナサンがいるのだ。まさに幅広いオーダーに応えられる魅惑の布陣というわけだ。
「おー、やってるわねぇ、エルザ西原。いや会長さん…」
まさにてんてこ舞いという状況の中での突然の来訪、いやむしろ襲撃といったほうが適切かもしれない。なんとその声の主は環だった。
受付テーブルで会誌のリプレイ集を売り捌いていた詩音が、驚き半分で環に応対する。
先日の書店での偶然の出会いが思い出される。しかしまさか学校にまで襲撃を敢行してくるとは、さすがの勇者詩音も予想してはいなかった。
「あ、道脇さん、いらっしゃいませ。来ていただけるなんて思わなくて、ばたばたしちゃってて、すみません」
環の後ろからは謙佑の姿も見える。恐らくは彩乃か美雅が謙佑に声をかけたのだろう。いわば環は、ついでに現れた極上のおまけ、といった感じである。
「謙佑さんもいらっしゃい。良かったら、今から臨時で彩乃がスぺオペの卓をやるんですけど、参加しませんか?」
スぺオペとはスペースオペラのことで、広義のSFというジャンルの中でも比較的とっつきやすい、科学的考証より物語と雰囲気を大事にした、ファンタジーのSF版のような作品である。
「あぁ、うん、来て早々なんだけど、私がマスターやりたい、って言ったら、迷惑かしら?」
突然過ぎる環の提案に詩音は若干の戸惑いを隠せない。書店でのやり取りで感じた微妙な違和感、猫を殺しかねない無邪気な環の好奇心、そういった漠然とした不安感が詩音の心の底に蘇ってくる。
「あぁ、えっ…とぉ…」
「いいじゃん、詩音ぇ。ボクもシナリオ温存できるし、別に『参加者募集』ってだけで、マスターは募集しません、ってわけじゃないし」
「そりゃあ、そうなんだけど…」
結局なし崩し的にメイド服姿になっている彩乃が口を挟むが、その意見に間違いはない。
本来は詩音たちの教室であるこの会場では、既にジョナサン樟葉組のファンタジーと、夢莉涼太組の学園ホラーの二つのプレイが始まっている。
彩乃と美雅は本来なら自由時間で、あちこち見て回っているはずだったが、ふらりと戻ってきた彩乃に緊急で一卓お願いする状況だったわけで、それが部外者とはいえ経験豊富な、しかもプロでもある環に引き受けて貰えるというのであれば、それこそ渡りに舟といったところである。
「うーん、それじゃ、道脇さんにお願いする…として、ジャンルとシステムはどうしますか?」
詩音は環の提案を受け入れ、彩乃の代理をお願いすることを決め、同時に詳細を詰めていく。
システムの選択というのは、簡単にいえば、どのゲーム作品のルールブックを使うかという話で、それぞれ創意工夫を凝らしたダイスやカードの使用法で差別化を図っている数々のゲーム作品から、気に入ったり使い勝手が良かったりするものを選ぶことになる。当然ながら、ゲームマスターの個性も大きく関わる問題だ。
「プレイヤーの皆がスぺオペで納得済みなら、別にそれで構わないわよ?」
例えば、これがもし漫画やアニメの関係者、いわゆるプロの登場ということになれば、あっという間に大騒動に発展するのだろうが、生憎というべきか、幸か不幸かRPGの世界はそこまでメジャーなものではない。
プロのゲームマスターやゲームデザイナー、雑誌編集者といえども、それだけで客寄せパンダになるほどの知名度があるわけではないのだ。
どちらかといえば、三ツ星料亭の名のある料理人が、お忍びでふらりと何処かの大衆食堂に現れたようなものである。知る人ぞ知る、しかし、知らぬ者はとことん知らない、という微妙な世界なのである。
だから、ここで環が如何に本格的なマスタリングを披露しようとも、周りからみれば、「あれ? 卒業生の先輩が引っ張りだされたのかな? それとも顧問の先生かな?」程度の認識であろう。
夢莉涼太組の学園ホラー卓では、メアリーがクラスメイトの女子を多数引き連れて、小六ハーレム状態でゲームマスターの涼太を困惑させていた一方で、ジョナサン樟葉組のファンタジー卓では、樟葉目当ての男子たちがジョナサンに軽くあしらわれる展開になっていた。
環のスぺオペ卓は、さすがプロの時間配分で、あとから開始したはずなのにきっちり巻き返しをしながら、しっかりとシナリオを進めているようだった。巻き添えの形で引っ張りこまれた謙佑の恩恵もあるのだろう。
「各テーブルの皆さーん、お楽しみのところ申し訳ありませんが、残り時間はあと三十分ですので、よろしくお願いしまーす」
教室の時計に目をやりながら、受付テーブルの詩音が呼びかける。
RPGのシナリオというのは、大抵、ゲームマスターの目論んだ時間内には終わらないものである。内容が面白ければそれだけ、話が弾めばそれだけ、風呂敷全体が広がってしまうものだから、いくら万能の神様であるゲームマスターであっても、それを纏め上げて大団円にもっていくのは一苦労である。
「おー、西原、お疲れ様だな。思ったより随分と盛況じゃないか、驚いたな…」
もういい加減プレイも終わろうかという頃合いになって、そう詩音に労いの声をかけてきたのは、この同好会の責任者であり、この教室の責任者でもある佐伯先生だった。
「あー佐伯先生、ありがとうございます。私もびっくりの展開ですよ。ここまで人が来るとか思ってなかったんで…」
詩音は今日一日の接客とテーブル管理で疲れ果てた表情を一転させて、最高の笑顔を浮かべながら答える。
「西原は今日はマスターやらないのか?」
「はい。明日の午前中の予定ですけど…、あ、そうだ、佐伯先生が入ってくれるなら、予約で一席空けておきますよ?」
佐伯先生からの何気ない質問に、ここぞとばかりに攻めの姿勢をみせる詩音が、身をのり出すように食いついていく。
「予約、って、そんなのもあるのか? どうせ白岡の思いつきだろう? まったく商売上手というか、何というか…」
「せいかーい! さすがセンセ、ボクのことをとっても良く理解してるなぁ、って感じ?」
再びの放浪生活から戻ってきた彩乃が、佐伯先生の背後から屈託のない笑顔で胸を張る。
「ちょっと呆れているだけだ…」
そうは言いつつも、佐伯先生は微笑みを絶やすことなく、にこやかな表情のままで彩乃を振り返る。
「お帰り、彩乃。山科さんには会わなかった?」
詩音の問いかけに、彩乃は意味深で不気味な笑みを浮かべながら答える。
「さっきちらっと見かけたけど、例のパパ紳士と一緒に歩いてたよ。なんだかんだ、校門前の騒動の噂は聞いてたから、ちょっとびっくりだったけど、たぶんちゃんと仲直りしたんじゃないかなぁ。親子水入らず?って感じで、結構いい雰囲気だったよ?」
「そっかぁー、いい雰囲気なら、それはそれで良いんだけど…」
詩音はまるで自分のことのようにひと安心して、ほっと溜め息をついた。何はともあれ、誰かの問題が落ち着いてくれるのは、心の底から良いことだと思えた。
「あ、センセ! 会誌、リプレイ集、もうお買い上げいただけましたかぁ? 今ならお好きなポストカードが選べちゃいますよ? 佐伯センセはどの子がお好みですか? って、あぁー、ジョナ王子と剣士夢莉は今日の分、終わりかぁ…。また帰ってから刷らないと…」
あくまで商人魂に生きている彩乃は、たとえ担任教師が相手であっても、会誌のセールスに余念がない。まさに見上げた根性ではあるが、もう少し違う方向に活かせばいいのに、と詩音は思ったりもする。
「会誌は一部三百円で、好きな葉書が一枚つくってわけか。じゃあ、せっかくだから一冊貰うか。葉書は…そうだな」
おもむろに財布を取りだして、佐伯先生がテーブルに並べられたポストカードに視線を走らせる。
詩音はドキドキしながら佐伯先生の選択を待った。
当然ながら本音では自分のカードを選んでもらいたいと願ってはいるものの、どうにも気恥ずかしいという今更過ぎる気持ちもまた存在する、微妙に複雑な中二少女の乙女心というものだ。
「そこはセンセ、会長の詩音以外ないでしょ? このメンバーで何故か一番人気がない、不思議で可哀想な魔女っ娘、ミミリン詩音を救ってあげなくちゃ!」
確かに今回、ネタ枠としてマハラジャ姿になった涼太が不思議な人気を得る一方で、対照的にさっぱり人気がないのが詩音のミミリンだった。ポスター撮影のときの素材使い回しという目新しさのない点が原因の気もするが、さすがに最下位は誰もが予想外の展開だった。
「そうか、意外だな…。西原はもっとこう、何か隠れた人気があるのかと思っていたんだが…。まぁ、そんなに売れ余っているんだったら、先生はお前を貰って行くとしようかな」
「毎度ありぃ!」
佐伯先生がミミリン詩音のポストカードを手に取るや否や、彩乃が得意満面で反応する。
「いや、毎度はないでしょ…。佐伯先生、ありがとうございました」
「千円札お預かりぃ! センセ、お釣りはカンパってことで…ダメ?」
「白岡ぁ、お前は本当に商売人魂全開だな…」
いつもと変わらぬ賑やかなやり取りを眺めながら、それがたとえ佐伯先生の同情心から出たものだとしても、詩音は自分を選んでもらえたことに素直な喜びを感じていた。
「先生、これからも改めてよろしくお願いしますねっ!」
自分のポストカードを乗せた会誌を佐伯先生に手渡しつつ、とびきりの笑顔をあつらえて詩音は微笑みかけた。
◇第四章「秋空と乙女心と伝説と」 終◇
第五章 小径を覆う落葉の夢
◆57 彼女なりの最終回答 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一章(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二章(14~27)及び第三章(28~42)、第四章(43~56)は続編部分で、2024/3/25にて終了。
引き続き第五章(57~)を、2024/4/1より開始予定です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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