◇55 渦中の宝珠の乙女心
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇55 渦中の宝珠の乙女心
時は僅かに遡って、詩音が書店で趣味の雑誌を物色していたちょうどその頃、中等部の校門前では波乱の一幕が展開されていた。
騒動の中心にいるのは、三つ揃えのスーツ姿の中年紳士と対峙する美雅だった。
周囲にはまだそれなりの数の生徒たちが下校している時間帯だが、その殆どが遠巻きにその二人の様子を窺いながら通り過ぎていった。
幾人かはその場で歩みを止めて、状況の推移を興味半分で見守っているが、その野次馬集団の中に、ジョナサンと樟葉の姿もあった。
「まったく信じられない…。どういう神経してたら学校の、しかも校門前で女子中学生を待ち伏せなんてできるのかしら。因縁好きの中学生でも今時ないわ…」
ぶつぶつと小声で悪態をつきながら、美雅は視線を外すことなく目前の紳士を睨みつける。その挑むような鋭い視線は、美雅の中に宿る怒りと呆れの感情を如実に表しているようだった。
「こうでもしないと君とはなかなか会えないだろう? 急なことですまないが、これから私と一緒に来て貰いたい」
そう言うが否や、強引に紳士は美雅の手を取って自分のほうに引き寄せる。
パパさんだ、と様子を窺うジョナサンが小声で樟葉に囁く。あの人がそうなの?と樟葉も囁き返す。
「何を言ってるの? 次は来月までそっちと会う予定はないはずでしょ? 勝手に私の予定を決めないで欲しいんだけど」
そう拒絶の意思を言葉に込めて冷たく言い放つと、美雅は紳士の手を振りほどきにかかる。
この中年紳士と美雅、というより中等部二年の女子生徒、という奇妙な二人の関係を理解できず、周囲の生徒たちが騒めきたつ。
「知り合いの大学病院を押さえてある。取り急ぎ検査をするために、絶対に君に来て貰わなければ困る」
「そんな自分勝手な都合でいきなり『他人』をどうこうできるとでも? だいたい、どうして私のことを『君』なんて呼び方するのよ? それじゃあ、まるで本当に『他人』みたいじゃない…」
美雅は紳士に挑む姿勢を崩してはいないが、その声は僅かに震えている。
―これってつまり、あのコのオトコなんじゃね?―
―検査って、やっぱりデキちゃったってヤツか?―
周囲を取り巻く無責任で身勝手な想像と妄想が、微かな、しかし確実な悪意を孕んで美雅の耳元に流れてくる。美雅はそのいたたまれない状況に独りぼっちで耐え忍んでいた。
「他の人の前で、自分の実の娘を『君』なんて呼ぶ人は、私のパパなんかじゃない! 絶対に、永遠に私のパパになんてなれやしないのよ! いいからもう、私のことなんて放っておいてよ!」
かっと大きく目を見開いて、美雅は自分の実父である紳士に対して、叫ぶような言葉を言い終えると同時に、その大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
「私を置き去りにして逃げ出したくせに、今更のこのこ戻ってきて、父親面なんてしないでよ…」
「美雅…」
漸くのことで紳士が美雅の名前を口にする。
―親子?―
―だったら余計にマズい状況じゃね?―
別に誰も二人のことを咎めているつもりはないのだろうが、誰の口からともなく紡がれる言葉に含まれる棘は、確実に美雅の心を抉り、傷つけていく。
「帰ってよ…帰りなさいよ! 私は誰かの人形なんかじゃない! 自分たちの勝手で都合よく扱える小娘だ、なんて思わないで!」
殆ど涙声になりながらもそう訴える美雅の剣幕に怯み、実父である紳士は二の句を継ぐことができないままだ。
「私もそれが良いと思いまぁーすね。こんなにいっぱいの仲間たち、クラスメイトの前で、みぃみやぁーを連れて行くのは、多分良くない、ですね」
そう冷静に客観的な言葉を投げかけながら、大の字に両腕を広げて、紳士と美雅の間に立ち塞がるように現れたのは、真新しい制服姿の金髪の男子だった。
「ちょっ、あなた何して…」
「こういう時は、誰か、みぃみやぁーを助けてくれる王子様、必要ですね!」
ジョナサンは僅かに美雅を振り返ると、微かな照れも窺わせることなくそんな気恥ずかしくなる台詞を、堂々と胸を張って言い放った。
それから小一時間の後、美雅とジョナサン、そして樟葉は、珍しく駅前のバーガーショップに現れていた。
どうにも表現しがたい複雑な雰囲気を纏った半睨みの表情の美雅と、対照的な朗らかな笑顔でそれを励まそうと奮闘するジョナサン、さらに二人を見守る心配性の母親のような樟葉、という不思議な取り合わせの三人組は、それぞれのペースでポテトを摘まんでいた。
美雅の剣幕か、ジョナサンの出現か、何はともあれ、目的を果たせずに帰らざるを得なくなった件の紳士は、いずれまた再び美雅の目の前に現れるだろうと予想された。
いつもの通学路、神楽本家への帰り道と逆方向にはなるが、美雅の寄り道の目的地、つまり彩乃の家でもあるホビーショップまで無事に送り届けるため、ジョナサンと樟葉は美雅に同行することにした。
それでもなお心細いようであれば、美雅の自宅までミミリン号で謙佑に送り届けて貰えばいいだろう。もしそういうことになれば、美雅当人からすれば千載一遇のチャンス到来、といった状況になるわけだが、そう単純に喜んでばかりもいられない心境でもある。
「それにしても、会長先輩といい、あなたたちといい、本当にお節介でお人好しよね。とりあえず…ありがとう。まぁ、感謝はするけど、私にそこまでしてくれる程の価値なんて、全然無いわよ?」
「さぁ、それはどうかしらね…。そういうことは、手を差し伸べる相手が判断するべきものなのではないのかしら?」
美雅の感謝半分の憎まれ口に、樟葉が真正面からの答えを返す。そんな二人のやり取りを、ジョナサンは満足顔の微笑みで見つめている。
「王子様、ねぇ…」
流し目のようにじろりとジョナサンの様子を窺いながら、美雅が呟く。
当然ながら、自分を護ってくれる王子様が現れてくれるなら、それは美雅にとって願ってもないことではある。
なんだかんだ言いつつも、孤軍奮闘で終わることのない抵抗を続けるのは厳しいし、心の奥底では誰かに救いを求めていたという事実を、美雅自身も否定はできない。
しかしその王子様が今、自分の目の前でポテトを頬張っている金髪転校生の男子生徒だとはどうにも信じ難いというものだろう。
「みぃみやぁーは王子様、嫌い、ですか?」
「べ、別に、嫌い、なんかじゃ、ないわよ…」
ぶっきらぼうに愛想なく答える美雅の前には、輝くばかりの笑顔でじっと自分を見つめているジョナサンの澄んだ瞳があった。
「でも、あまり私に関わってばかりいると、周りに変な誤解をされるわよ? もしそうなっても、私には責任なんて取れないからね…」
「それこそ、何を今更、の話なのではなくて?」
樟葉が美雅の自虐的な言葉を冷静に受け流すと、これ見よがしに美雅は大きな溜め息をついた。
「あれ? 皆どうしたの? なんだか珍しい組み合わせだけど…また何かあったの?」
唐突に声をかけられた三人が振り向くと、そこにはテリヤキセットのトレイを手にした詩音の姿があった。
「何も、ないわよ。たぶん…」
詩音から視線を逸らしつつ美雅が呟く。
樟葉が促した席に腰を下ろしつつ、詩音が一同の顔を探るように窺う。そして、おもむろに一本のポテトを口にすると、ふむ、と僅かに小首を傾げた。
「うたぁねい、私、お願いがありまぁーす!」
ジョナサンが人目も憚らず大きく手を上げて、そう話を始める。
「ん?」
美雅はジョナサンが余計なことを詩音に暴露するんじゃないかと戦々恐々の思いで、じろりと横目で睨みつける。しかし、ジョナサンはそんな乙女心を察することなく続ける。
「文化祭のお姫様、みぃみやぁーじゃダメ、ですか?」
「はぁあぁっ?」
思わず美雅が勢いよく腰を浮かせて中腰になる。流石にそう来るとは思っていなかった、というのが正直な感想だろう。
「うーん、別に駄目じゃないけど…、山科さんはそれで良いの?…って、良くない感じ、かも?」
「いや、まぁ、嫌じゃ…ない、けど、どうしても、ってジョナサンが…皆が言うなら…私はそれでも、いい、けど…」
美雅はしどろもどろで言葉を捏ね繰り回しながら、言い訳じみた了承の意思を紡ぎだす。その視線は定まることなく宙を彷徨い続けている。
「まぁ、成り行き上、そういう方向に行くしかないわね」
目を閉じたままの樟葉がアイスティーを啜りながら、ぼそりとそう一言だけ呟いた。
◇56 お祭りの乱入者 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、
現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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