◇54 過去を顧みる方法
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇54 過去を顧みる方法
結局のところ、半ば強引に押し切るようにして詩音は暫定単独ゲームマスターの立場を確保するに至った。
ここから先は、彩乃の想像どおりに佐伯先生に相談がてらのアプローチをしても良し、そのまま自由気ままな単独犯を決めこむも良し、といった展開である。
最近はこれといって特に大きな問題もなく、詩音自身の周囲は平穏な日常が流れていた。
もちろんRPG同好会の仲間内まで話を広げれば、未だに彩乃と美雅の微妙な関係は続いているし、その美雅の家庭の問題は一朝一夕で、しかも一介の中学生風情にどうこうできるような代物ではない。
佐伯先生の個人的な事情もそうだし、詩音にとってやれることはかなり限られていた。
ある日の放課後、その日は体操部の練習があるので、RPG同好会のほうは特に集まることはせず、各自のシナリオを練ることにしていた。
それぞれの都合に合わせて、夢莉と涼太はお向かいさん同士なので会う機会はあるだろうし、彩乃と美雅も恐らく謙佑のアドバイスを仰ぐことだろう。樟葉とジョナサンも神楽本家でメアリーを交えて相談するはずで、恐らく問題はないと思えた。
そして、一人きりになった孤独の勇者詩音は、とりあえずこの駅前の書店に情報収集に向かうことにした、というわけである。
別に何か特定の本や雑誌に目をつけているわけではないが、ここに来れば大なり小なりのインスピレーションを刺激されるだろうと思ってのことだ。
まずはざっと趣味の雑誌コーナーを巡る。学生を中心に立ち読み客で賑わう一角、鉄道や自動車、アニメや模型の専門雑誌が並ぶ中、片隅にゲーム雑誌が幾つか並んでいる。
大概はスマートフォンやパソコンのオンラインゲームや、これまた底なし沼だという噂のカードゲームに隠れるようにして、数冊の「TTM」という派手なロゴの雑誌が置かれていた。
いかにもサイバーパンクといった雰囲気の半透明なテキストが宙に浮かぶ空間の中で、ゴーグルの美少女がぴっちりしたボディラインまるわかりのスーツ姿で微笑んでいるカッコいいイラストが印象的な「テーブルトーク・マンスリー」というその雑誌は、RPG黎明期から続く化石的雑誌なのだと彩乃が言っていた。どうやら先日のイベントでお世話になった環も編集に関わっているようだ。
パラパラとページを無造作に飛ばし読みしながら、何か目ぼしい記事はないかと目を走らせる。いっそのこと一冊買って帰って自宅でじっくり読めばいいのだろうが、中二女子のお財布事情は厳しいのでそこは諦めるしかない。
あぁ、これは…と詩音が手を止めたのは、あのマフィア抗争劇のシナリオの前日譚といった内容の記事だった。
当然の話ではあるが、そこに描かれている「エルザ」なるギャング団の跡取り娘の詳細は、詩音が演じた「エルザ」という少女とは全く別の人物である、はずだ。
RPGの面白いところ、奥深いところは、たとえ能力値や素性経歴が同一の人物であっても、演ずるプレイヤーによってその人物像に予想以上の開きが生じることだろう。
もっと言うなら、同じプレイヤーが演じても、ゲームマスターや周囲のメンバーが異なれば、また違った彩りをみせることになるはずだ。
プレイする度に新しい経験を味わうことができるというのも、RPGの不思議な特徴のひとつだろう。もちろん、今回は成功を収めたシナリオが次回も無事成功するとは断言できないわけだが。
「エルザ」やドロシー、メイスンにボビー、更には詩音「エルザ」とは会話すらできなかった、エルザお気に入りのミーガンの「喫茶店」に関する細々としたことが詳細に載っている。
詩音はどこか懐かしく感じると同時に、まるでギャング仲間の同窓会を天上から覗き見ているような奇妙な感覚を味わっていた。
あくまで「前日譚」なのだから、それは詩音の「エルザ」ではないし、モーリスもジェイミーもそこにはいない。組織のボスであるエルザの父、マシウスの体調も幾分穏やかなことだろう。
―あ、そうか―
ふと詩音は気づく。それは極めて根本的な話である。
RPGのシナリオは、とある物語の一部である。連続プレイで進行するキャンペーンなら、物語の最初から最後までを綴ることができるだろうが、それでも一度のプレイではその一部しか描くことはできない。
でも、だからこそ…。
その世界の時間軸に逆らって、物語の過去を描くこともできるのだ、という逆転の発想に詩音は思い至る。
例えるなら、勇者一行が集って魔王討伐に旅立った後に、どうして勇者は勇者になったのか、という素朴な疑問の顛末を描くことができるはずだ。
勇者の、そして仲間たちの人となりがある程度固まっている状況だからこそ、その生い立ちや人生の岐路についてを、より深くプレイヤーたちは演じることができるだろう。
自分の人生、何でこうなった? という究極の問いに、RPGならではの答えを示せるかもしれない。
―人生反省会RPG、って感じかなぁ―
たかだか中三の小娘風情が何を大袈裟に人生なんぞと宣っているのか、ということはさて置き、なかなかに興味深いテーマのシナリオが思いつきそうではある。あとはゲームマスターである詩音の発想力次第、といったところである。
「あらぁ? エルザ西原じゃない! こんなところで偶然ねぇ…」
脳内であれこれ思考を巡らせていた詩音は、唐突に女性の声に呼びかけられて、思わずびくっと大袈裟な反応をしてしまう。
振り向いた詩音の視界に飛び込んできたのは、ウェーブのロングヘアが綺麗な若い大人の女性だった。
「あ、あぁ、道脇さん。びっくりした。いったい誰かと思いました」
今日の環は、例の印象深いゴスロリ衣装ではなく、周囲と馴染むようなありふれたラフなパンツルックのいで立ちだった。詩音が一瞬、誰だろうと疑問に思ってしまうのも当然だった。
「今月はちょっとバタバタ気味で、イベントに行けなくてごめんなさい」
ようやく落ち着きを取り戻した詩音が環に小さく頭を下げる。
「良いの良いの! 学校、忙しいんだって? 鷹取ちゃんが話してたわよ? 会長さん、大変そうだ、って」
「はぁ、まぁ、RPG同好会って言うより、それ以外でトラブル続き、っていうかですね…」
気さくな人柄の環は矢継ぎ早に笑顔で話題を振ってくるが、詩音は防戦一方で切り返すこともできない。
「あの全滅シスターズの二人は相変わらずかしら? ちょっとは落ち着いた?」
「全滅…」
恐らく彩乃と美雅のことを言っているのだろうが、直接関係のないテーブルでの出来事だというのに、そこまで有名になっているのか、と少々唖然とする。
「あー、それ読んでくれていたのね…。この前の私のシナリオの前日譚があったでしょ? エルザ西原のプレイも参考にさせて貰ったわよ。感謝しているわ、ありがとうね!」
「いやぁ、感謝とかとんでもないですよ」
詩音は慌てて否定するが、プロの編集者兼ゲームマスターにそう言われると悪い気はしない。
「欲を言えば一冊お買い上げいただけると嬉しいところだけど、まぁ、中学生のお小遣いじゃ、厳しいか。正直、ちょっとばかりお高いしねぇ…」
「あははは…」
苦しい立場の詩音はそう曖昧に笑うしかない。
「そうそう、鷹取ちゃんから聞いたんだけど、文化祭に何かやるんだって?」
環の瞳が興味深げに詩音を捉える。それはまるで小さな子供が好奇心に胸を躍らせるようなワクワク顔である。
「やるっていっても、殆どが、お試しプレイ体験のゲームマスターだけですよ?」
「あぁ、いいなぁ、若いコと一緒に私もプレイしたいなぁ」
「何かそれ、何処か邪念が入ってませんか?」
環の瞳に浮かぶキラキラの輝きが、詩音の心に僅かばかりの警戒心を抱かせる。深くは知らない環だからこそ、その悪い予感は大いに警戒するべきだ、と詩音の中の何かが訴えていた。
「とりあえず、陰ながら応援してるから、頑張ってね。あ、気が向いたら編集部に遊びに来て! 皆と一緒に、ね!」
環は詩音の手を取ると、強引に自分の名刺を握らせて、ふふふ、とばかりに悪戯な微笑みを浮かべた。
◇55 渦中の宝珠の乙女心 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、
現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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