◇52 届かない想いの果て
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇52 届かない想いの果て
時間は若干遡る。
彩乃たちと美雅たちがホテルで鉢合わせをした翌日の日曜日、詩音たちRPG同好会の面々が前回参加していたRPGイベントでのことである。
夏休み中だった前回とは違い、今回は若干参加者の数が控えめとなった会場の多目的ホールで、打ち合わせを続けるゲームマスターたちの姿があった。
「鷹取ちゃん、今回は一人きりで寂しそうね」
そう謙佑に声をかけてきたのは、同じ共通の趣味仲間であり、専門誌の編集にも携わる先輩の道脇環だった。
「中等部でも学校行事がいろいろある時期ですから」
表情を変えないままで返答する謙佑を見つめながら、相変わらずのゴスロリ衣装に身を包んだ環が、ふむ、と鼻を鳴らす。
この二人は殆ど休むことなく毎月のイベントに顔を出している常連だった。だから自然と他の参加者とも顔馴染みになり、もちろん主催者とも次第に懇意になっていった。
要するに半ばスタッフ待遇、悪くいえば便利に使われる立場、といった微妙な存在ということになる。
「惜しいわね、エルザ西原、面白い子だったのに…残念」
「エルザ?」
環の言葉に首を傾げて謙佑が問う。
「そう、エルザ西原は将来有望な、最近珍しい逸材なのよ。鷹取ちゃん、ちゃんと捕まえといてよ?」
はぁ、と気のない生返事をしながら、困り顔の謙佑が応える。
さほど深い接点が謙佑と詩音の間にあるというわけではないが、謙佑が知り得る限り、詩音は中等部のRPG同好会を軌道に乗せることに夢中で、他に気を回す余裕などないだろうと思えた。
そうでなくとも、詩音が恋しているのは、あろうことか担任の佐伯先生で、親友の彩乃が果敢に支援の奮闘劇を繰り広げようが、詩音と佐伯先生の双方と面識のある謙佑からみれば、すんなりその想いが成就するとは考えられない。
「でも、彼女が慕っているのは中等部の担任教師みたいですよ」
「あら、相手が自分じゃなくて御不満なのかしら? 前回の両手に花状態でまだ足りないだなんて、鷹取ちゃんも随分と贅沢になったわねぇ」
環は謙佑を揶揄ってくすくすと笑う。心の底から女王様気質なのだろうと呆れながら、謙佑は苦笑いで返すが、その目元は笑っていない。
「人の気も知らないで…と言いたいところですが、道脇さん、全部承知の上で言ってます、よね?」
「あらぁ、何のことかしら? 場に提示された情報から推察はできるけど、それはあくまで推察で、本人に面と向かって言われたことなんて、全く記憶にないしねぇ…」
まるで狸と狐のプロレス試合である。予定調和の話の落としどころなど見つからぬまま、互いに空しい牽制攻撃を繰り返しつつ、痛み分けというか、先送りの道を歩むのみだった。
「若いコに想われているうちが華なんだから、贅沢言わないで頑張って応えてあげなくちゃ駄目よ?」
環はそう言って盛大なブーメランを放り投げる。本人がわかっていてやっているのだから、尚更質が悪い。
「そっくりお返ししますよ、そのブーメラン」
若干の苛立ち交じりの表情を浮かべて、謙佑が環を見据える。
「それにしても、担任の先生に、ねぇ…」
話の矛先が急に移ったことに戸惑いながら、謙佑は訝しげに問いかける。
「道脇さんも、そんな経験あるんですか?」
「そうね、あるわよ…。もっとも、相手はまだ教育実習中の大学生だったけれどね」
環は少し目を細めて、懐かしい想い出を振り返るように寂しく微笑んだ。
時は戻って、とある日の放課後、詩音は佐伯先生には内緒で、佐伯先生の母の病室を訪ねていた。
将を射ようと思わばまず馬から射よ、とはよく言ったものであるが、別に詩音にそれ程大層な思惑があっての行動ではない。
ただ、佐伯先生の家庭事情というものが詩音との間の秘密だとするなら、ここに訪れる生徒は詩音以外には他にいないわけで、見舞いがてらの世間話ついでに、佐伯先生についてのことを少しでも聞くことができれば、それだけで満足だった。
「でも、あれよね。なんて言うのかしら、いくら担任教師の母親といっても、わざわざ一人で訪ねて来てくれるなんて、やっぱりあなた、珍しい生徒さんよね…」
「詩音です、西原詩音。覚えてもらえたら嬉しいです。まぁ、自分の検査のついでみたいなものですから、あ、ご迷惑でしたか? すみません、気付かなくて…」
ついでというのは真っ赤な嘘である。少なくとも今の詩音は、検査を必要とするような問題を抱えてはいない。
佐伯先生の自宅、といっても独り暮らしのアパートらしいが、そこに押し掛けるほどの度胸はない詩音としては、学校以外での憧れの人との接点はこの病室以外なかった。
佐伯先生は時折、彩乃のホビーショップにも顔を出しているようだが、彩乃や謙佑、最近では美雅までもが頻繁に出没する状況では、下手な真似はできないだろう。
もっとも、何か大胆な積極策を講じる気もありはしないのが、詩音の詩音らしいところではあるのだが。
「忙しいのに来てくれているんだから、迷惑なんてとんでもない。私も知らない十三の話が聞けて、こっちが嬉しいくらいよ」
「そういえば、先生って『じゅうぞう』っていうんですね…」
にこやかに微笑んでいるベッドの上の女性は、依然よりかなり元気そうだ。快方に向かっているのであれば、佐伯先生はもちろん、詩音にとっても嬉しいことであった。
「私の両親、つまり、十三の祖父母がつけた名前なのよ」
へぇ、と意外な名付け親に興味を示した詩音が、じっと次の言葉を待った。
「私の父が市禄、母が文というのよ。当時の古風な田舎では珍しくもない名前なんだけど、一六と二三だから合わせて十二ね」
「ああ、なるほど」
詩音は感心したほうに頷いて応えながら、佐伯先生のRPG好きの原点に思い至った気がした。
「だからそのもう一歩先へ行って欲しくて、十三で『じゅうぞう』ってわけ。ちょっと時代錯誤な感じもするけど、今風の…なんて言うの? キラキラした感じの名前も、なんだかねぇ…」
「あ、あははは…、そうですね。私もなんとなく、自分が『うたね』って名前で良かったなぁ、って思います」
サイコロ二つ転がしても絶対に出ることのない、出すことのできない十三という数字は、考えようによっては不吉とも取れる数字だが、詩音にとってはとても大切な数字だと思えた。
サイコロ二つで出ないなら、誰かの力を借りればいい。皆でサイコロを持ち寄れば、どんなに大きな数字も出せないことはないはずだ。
一人で出来なければ二人で、それでも駄目なら三人で、四人で…。いつかその願いは必ず成就すると信じて、挑み続けることが大事なのだと、詩音は思う。
そういえば佐伯先生も、確か前にそんな話をしていたなぁ、と思い出す。
「良い名前だと思います、十三…」
「ありがとうね、そう言って貰えると私も嬉しいわ」
そう微笑む女性の顔色も健康そのものに見えた。
「でも、あれよね。当の息子よりその教え子のほうが頻繁に見舞いに来てくれるなんて、不思議な気分ね」
「あぁ、先生はそれなりに忙しいんですよ、きっと。中等部も文化祭やら体育祭やらありますし。私で良ければ、またお喋りしに来ますよ?」
「ほんと、いい生徒さんね。息子には勿体ないわ。十三もこういうお嫁さんでも見つけてくれば良いのだけどねぇ…」
あははは、と複雑な笑いで誤魔化しつつ、詩音は佐伯先生にそんな相手が現れないことを祈った、というか呪った。
「そういえば、十三がまだ学生だった頃、教育実習先で女生徒さんに猛アタックされてたことがあった気がするわね…」
「えっ!」
思いがけず掴んだ佐伯先生の過去の恋愛話に、詩音の心は激しく動揺をみせる。
もちろん今更の話、過去の思い出話に過ぎないことは理解できるが、それでも恋する乙女の詩音としては平常心でいることが難しいのも事実だった。
「どうなったんですか、その話…」
聞いてしまって良いものかどうか、詩音は判断しかねたが、ここで聞いておかねば有耶無耶のもやもやになることは確実なのだから、選択の余地はない。
「毎日お弁当作ってきてね、毎日家まで迎えに来てね、そりゃぁもう見ているこっちが恥ずかしくなるくらい初々しい感じだったんだけど…、そういえば、その後どうなっちゃったのかしら…」
当時を思いだしながら、そう懐かしそうに語る女性の嬉しそうな笑顔は、きらきらと輝いてみえた。まるで女性自身がその女生徒だったような錯覚を覚える。
「教育実習の期間が終わっちゃったから、もしかしたらそのままになっちゃったのかもしれないわね。あの子は今どうしているのかしら? でも、今でも十三を慕ってくれる詩音さんみたいな生徒さんがいるんだもの、結果的に良かったのかしらね…」
◇53 小さな小さな大作戦 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、
現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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