◇51 明かされる過去と真実
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇51 明かされる過去と真実
発案者である詩音を除く全員が、唐突のゲームマスター強制命令に戸惑う中、それは思いがけない美雅の一言で始まった。もちろん彩乃とジョナサンの側からすれば、あまりにも予想外過ぎる戦端の開かれ方ではあった。
「ところで、ねぇ、あなた達って、つき合ってるの?」
「え?」
彩乃とジョナサンが声を揃えて聞き返した。まさに肯定とも取れるほどの息ぴったりの呼吸だった。
「だからさ、彩乃先輩とジョナサンがつき合ってるのか、って話」
「あぁー、やっぱり見てたんだ、あれ」
彩乃としてみれば、詮索を入れているのは自分たちのほうで、まさか自分たちが美雅にあらぬ疑いをかけられているとは思ってもみなかっただろう。
否定するのは簡単だが、ジョナサンの心情を考えると即座に否定するのも気が退けた。
「あやぁのぅとオヤクソクのランチでしたね。まだつき合っていません、ですよ。次はみぃみあーともランチしますか?」
「まだ、って…」
彩乃がジョナサンの微妙な言い回しにぽそりとツッコミを入れるが、それ以上に美雅が顕著な反応を示す。
「私は、その、いいわよ、別に…」
少し頬を赤らめながらも、美雅はそっぽを向いてしまう。
「やっぱり、パパさんと展望レストランのほうが良いですか?」
「ちょ、おま…」
ジョナサンの悪意のないポロリ台詞に、涼太が慌てて口を挟み、かえって状況を明確に際立たせてしまう。もはや自然にスルーできる可能性はなくなっていた。
「はぁ、何だ、知ってたの?」
さも気にしていないといった様子で、美雅はふむ、と淡々と言葉を紡いだ。
「やっぱりパパなんだ…」
詩音のぽつりと口をついた呟きに反応して、場の違和感を察した美雅が慌てて両手の掌をひらひらさせて、否定の姿勢に変化する。
「あ、なんか皆して妙な誤解しているでしょ? パパっていったって、そういう意味じゃないのよ? 純粋に本当の『お父さん』なんだから…」
皆の半信半疑の視線が美雅に集中する。やれやれといった態度で大きな溜め息をひとつついて、美雅はおもむろに話し始めた。
「あぁーもう、わかったわよ、順番に話すから、ちゃんと聞いてよ?」
おもむろに語り始めた美雅の話は、想像以上に長く複雑だった。
自分でいうのも何だが、詩音はあまり賢くはない。それでも要点だけを上手く纏めると、話の内容は概ねこういうことだと理解できた。
美雅には二人の父親がいる。実の父親と育ての父親、みたいなものだそうだ。
母親が実の父親との間に娘である美雅を授かった頃、父親の両親は二人の交際に猛反対をしていた。
末っ子とはいえ堅実な資産家の家系に生まれた父親と、場末の飲み屋の冴えない看板娘とでは釣り合いが取れない、というのも事実だった。将来有望であるはずの若者が、成り行きとはいえ道を違えることは許されざることだったのだろう。
程なく無事に娘の美雅は生まれたものの、幸福なひと時は長くは続かず、やがて二人は引き裂かれる運命にあった。
そんな幸せだった過去の思い出の場所のひとつが、夏合宿で訪れたあの軽井沢の地だった。親子三人で過ごした楽しげな記憶が、確かに美雅の脳裏に焼きついていた。
父方の資産家一家からすれば、母親とその娘の美雅の存在は表沙汰にしたくない汚点であり、それなりの金額を手切れ金に支払うことで話がついたのだという。
その後、父親は別の「真っ当な」女性と結ばれ、幾つかのシティホテルを経営する立場になった。彩乃とジョナサンの訪れた例のホテルも、そのうちの一件だったらしい。
一方で、母親はパトロンとなる男性と出逢い、こちらも自分の店を構えるようになったが、あまり経営は芳しいとはいえなかった。
その男性との間に美雅の弟となる男児を授かると、母親はその世話をまだ幼い美雅に任せたまま、火の車となりつつある店の経営に注力していった。
母親は少しでも資金を手に入れるべく、別れた美雅の父親に連絡をとり、娘の美雅に会わせることを条件に融資、といっても実質的には返済の当てのない借金なのだが、を引き出した。
それ以来、定期的に美雅は実の父親を訪ねる生活を送り、幼いながらも自分の置かれている複雑な状況を悟っていった。
しかし最近になって、周囲を取り巻く事情が大きく変化したのだという。
実父の妻となった女性の病気が発覚し、後継ぎとなる子供が望めないと知った実父は、娘である美雅の引き取りを要求しだしたのだ。
母親からすれば、資金を引き出すための重要な鍵であり、店の経営に集中するための便利な家政婦兼ベビーシッターである美雅を失うわけにはいかない。
実父としても、身勝手な成り行きで苦労をかけている娘を救済する手段であると同時に、自身の将来を託せる希望の存在が美雅という事情があった。
美雅本人の心情を無視したままで、大人たちが互いに金を巡って実の娘を取り合っている。大人と子供の狭間の微妙な年頃の美雅は、そんな愚かしい大人たちの姿を、絶えず日々見つめ続けてきたのだ。
それは人間というものの醜さを垣間見る出来事の連続だった。いくら美雅が人並み以上に早熟で、類稀なる聡明さを持ち合わせていたとしても、さすがに人間不信になるのも肯けるだろう。
そんな状況に追い打ちをかけるように、いちおうは育ての親でもある現在の父親が、一向に好転しない店の経営に痺れを切らせ、度々母親や美雅に対して手を上げるようになっていった。
いずれ遠くないうちに、美雅に対する暴力の質が変わってくるだろうということは、母親も美雅本人も薄々感じ取っていた。だから美雅は両親の元を離れ、逃げるように母方の実家である祖父母と暮らすことになった。
祖父母は悪い人ではなかったが、孫娘に対する申し訳なさか、かえって過剰な気の遣いようがいたたまれず、微妙な年頃の美雅は素直に甘えることもできずに、次第に心を閉ざしていった。
そんな鬱屈とした日常が続く中で出会ったのが、体操という競技に真剣に挑む凛々しい夢莉と、先日のポスター盗難騒動を起こすことになる美雅に同情的な先輩男子だった。
それらの出会いが少しずつ美雅を好転させてはいたが、実際の美雅は他人という存在が怖くて、常に壁の中に籠城している感覚だった。当然ながら、夜な夜な遊び歩くなんてとんでもない、というのが美雅という少女の実態だった。
周囲は輪に入ろうとしない美雅に対して様々にネガティブなイメージを抱くが、その殆どが根も葉もない虚構の産物だったというわけだ。もっとも積極的に否定しない美雅の態度が招いた側面もあるのは事実だが。
「結局、すべてが丸く収まるためには、私が実父のところに行く代わりに、またそれなりの資金を引き出すしかないのよね…」
寂しげに笑いながら、美雅はそう言ってひとつ大きな溜め息をついた。
「…お前、いろいろ大変だったんだなぁ…。俺はなんかこう、勝手に想像して、いけ好かないヤツだなぁってばかり思ってたけどよ、正直ほんとすまんかったわ…」
涼太の言葉が皆の心境を代弁してくれる。詩音にしても、美雅のことを嫌ってはいないものの、何処となく苦手意識があったのは確かだ。多かれ少なかれ他の面々もそうなのだろうと思う。
「ちょ、ちょっと、やめてよ。別に皆が気にするような問題じゃないわ。何処にでもあるような、家庭の事情?ってやつよ。私は全然、大丈夫だし、平気よ…」
そう口では強がっているものの、美雅の声が僅かに動揺をみせていることは明らかだった。いつもの憎まれ口全開の態度とは程遠い、臆病な少女の一面が言葉の端々から顔を覗かせている。
「でもね、ぶっちゃけた話、本当は私、パパの娘であるかどうかも疑わしいのよ。もしそうなら、それこそ完全に行く場所が無くなっちゃうって感じね…」
「美雅さん、それって、どういう…」
詩音は言い淀みながらも疑問を口にする。込み入った他人の家庭事情なのは百も承知の上だが、今となっては既に大切な仲間、詩音にとっても一蓮托生という心境だ。勇者を自称する以上、放っておくことはできない。
「もしかすると、最初から今暮らしている父親との間に私が出来ちゃって、その時たまたま偶然にも母親と付き合っていた資産家の坊ちゃんがいた、としたら? もっと言えば、今の父親以外の第三、第四の男の可能性も無いとは断言できないでしょう?」
「あぁー」
彩乃が無気力な返事をする。いったいどう答えていいのか、誰にもわからない問題なのだから、そのようなトーンになるのも致し方ないところかもしれない。
「それでも、お前はお前じゃねぇか。それこそ気にしても今更仕方のない話ってもんだろ…」
涼太がそう宣言すると、夢莉や樟葉が頷いて同意を示す。
「俺は、その、何ていうか、お前が幸せにならなくちゃ、嘘だと思う。つーかだな、俺がその…つまり、お前の、あれだ…」
「あの、さ、気持ちは素直に嬉しいと思うけど、涼太先輩には大切な夢莉先輩がいるでしょう? 一時の気の迷いで私なんかに同情されても、また困ったことになると思わないですか?」
美雅は何処か悲しそうな、また何処か嬉しそうな、複雑な苦笑いの表情を浮かべて涼太を見つめ返す。
「いや、おま…。っていうか、夢莉は、なんだ、その、あれだ…。あぁ、くそぅ!」
「好き嫌いっていうより、気心知れた相棒みたいなものよ。好いた惚れたってのとは何か、全然違うわよ」
涼太の動揺にとどめの魚雷を撃ちこんで、夢莉が自ら容赦なく僚艦を撃沈にかかる。
「うわぁー、まさにカオスな展開…」
彩乃が呆れたように呟くが、下手に突っ込めば自らに火の粉が飛んで来ないとも限らない。
彩乃の救いを求めるような視線が詩音に注がれても、詩音もまた話をまとめる手段も力量も持ち合わせてはいなかった。
◇52 届かない想いの果て に続く
ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、
現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
ご意見ご感想もどんどんお寄せください。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




