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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
秋空と乙女心と伝説と
49/112

◇48 夏休みの経験値

●「よよぼう」第三部までのあらすじ


 とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。

 弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。


 同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。

 賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。


 ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。

 迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?

 残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。



●主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》

西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。

 トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。

 従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。

 複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。



《その他の人物たち》

□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


水野みずの

 夢莉のクラス担任の体育教師で、体操部の顧問でもある。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。

 責任感と筋を重んじる、典型的な昔気質の真面目な教師。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『|Colline_Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。

 イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。


神楽かぐら 墨染ぼくせん

 現在の神楽本家当主で樟葉の父。実業家として堅実に手腕を発揮する一方、一人娘には寛容な子煩悩さも持つ。

 ウェリントン家の事情を憂慮しており、陰ながら力になろうと試みる。


■太秦 ウェリントン(うずまさ)

 樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。亡き友人の妻と子供を支えるため、神楽家を離れた決意の人。幼い樟葉の家庭教師役でもあった。


■リンダ ウェリントン

 国際的な地質学者。ジョナサンとメアリーの実母で太秦の妻。二児の母とは思えぬ若さと美貌の淑女。

◇48 夏休みの経験値



 待ちに待った新学期、である。少なくとも詩音にとっては、ではあるが。


 夏休みの間、あの夏合宿を除いては、詩音と佐伯先生の接点は殆どなかった。


 先日たまたま病院で出会えたというだけで、そんな機会はそうそうあるものではない。


 相変わらず夢莉や彩乃、涼太たちとつるんでぶらぶらと出歩くことはあっても、樟葉や美雅、ウェリントン兄妹まで勢揃いという機会もない。


 まぁ、夏休みというものはそういうものだ、といえばその通りなのだが、一学期後半からの妙に濃厚な慌ただしさからすると、詩音はなんだか少し物足りなくも思う。


 結局、トラブルは嫌だと口では言いつつも、それを解決していくことを何処かで楽しんでいるのかもしれない。人間とは我儘な生き物である。


 とはいえ、中等部への通学路を歩む詩音の心は複雑だ。


 僅かに詩音の知るところとなった佐伯先生の状況は、詩音の空回りする勇者魂では太刀打ちできないものだ。しかし、知ってしまった以上、少しでも自分にできることはしてあげたいと思うのは、当然の感情だろう。


 さらにジョナサンの存在だ。涼太の言うとおり、別に気にするようなことではないのかもしれない。恋愛以前の人命救助の話だ、後ろめたいことは何もない。


 一方で、これも涼太の言うとおり、もし佐伯先生を諦めてジョナサンと付き合うのなら、それこそ簡単で面倒なことは何もないはずだ。成就の可能性も、佐伯先生よりは高いかもしれない。


 はあっ、とひと際大きな溜め息をついて、詩音はとぼとぼと歩を進めていく。


 「おはようございまーす! うたぁねぃ、元気、ないですか?」


 ぽんぽんと唐突に肩を叩かれて、ゆっくりと詩音が振り返ると、いきなり目の前の金髪男子に抱きしめられる。


 「ちょっ…」


 よりにもよって、真っ先に詩音に声をかけてきたのが、夢莉でも彩乃でもなく、ジョナサン本人だというのが、運命の皮肉というやつだろう。


 「元気、出た?」


 いや、逆効果でしょ…と思いつつも、苦笑いで誤魔化す優柔不断な勇者がそこにいた。


 解放された詩音は改めてジョナサンの姿を確認し、不思議な違和感に包まれる。


 「あ、あはは…、あ、ああ、制服なんだ…」


 涼太の格好で中等部男子の制服姿は毎日のように見慣れているはずなのに、金髪で色白、背も高い理想的な男子スタイルのジョナサンが着ると、まるで別物だ。夢莉とはまた違った意味で、女子生徒が群がりそうではある。


 「今日から、うたぁねぃセンパイ、ですね! よろしくお願いしまぁーす!」


 「詩音でいいよ、別に。あ、会長でもいいよ?」


 さすがに金髪美少年に先輩と呼ばれるのは何処かこそばゆい。事実はその通りなのだが、詩音自身がそれを今ひとつ自覚していないのも確かだった。


 「よぉ、兄弟! 制服もイケてやがるな。新学期早々、詩音を攻略か?」


 「こうりゃく?」


 後ろから追いついた涼太と、その隣の夢莉に挨拶の抱擁を交わして、ジョナサンが首を傾げる。


 「あー、要するに、お前が詩音を好きなんじゃないか、ってことだ」


 「ちょ!」


 詩音も夢莉も涼太のぶっちゃけトークに凍りつく。そこにさらに話をややこしくする天才、彩乃と美雅が追いついてくる。


 「やっほー! みんな揃ってどうしたの?」


 「また何かやらかしたんですか?」


 通学路の真ん中、生徒たちが何事かと視線を送ってくる真っ只中で、RPG同好会の一同だけがその場で固まっているのは、あまりにも奇妙で更なる注目を浴びるに十分だ。


 「私は、うたぁねぃセンパイ、好きですよ?」


 「はいぃぃー?」


 詩音は裏返った声の雄叫びか悲鳴かわからない言葉を発し、真っ赤になって狼狽え始める。


 周囲の無関係な生徒たちも、その言葉に反射的に詩音たちに注目せざるを得ない。


 見慣れぬ金髪美少年が、ちんちくりんな先輩女子に、夏休み明けの熱烈な告白…という絵に描いたような状況が展開されているのだ。誰もが足を止め、渦中の男女に視線を送っては、こそこそと率直な感想を呟きあったりもしていた。


 「あー。そうじゃなくてだなぁ、いいか兄弟?」


 「うたぁねぃも、ゆーりぃーも、あやぁのぅも、みぃーみあーも、もちろん、りょうたぁーも、みんな、みんな大好き、ですね!」


 「だよなぁ…。さすが兄弟、編入早々、掴みはばっちりだぜ…」


 詩音以上に大きな溜め息をついて、涼太ががっくりと肩を落とす。別に涼太ががっかりする必要はないのだが、ジョナサンに話を振った責任を感じている、というのもあるのだろう。


 「はい、解散っ!」


 瞬間的に状況を理解した彩乃が、自分の両手を打ち鳴らしてそう宣言する。


 「朝っぱらから全く、馬鹿よねぇ…」


 美雅が呆れたように呟く。


 「ほら、さっさと行くよ!」


 夢莉が皆の尻を叩くように追い立てにかかる。


 呆然自失のままの詩音は、結局最後の一人となって、慌てて皆の後を追うのだった。






 新学期の教室は、何処か未だに夏休みの延長線にいるような感覚で、皆それぞれに夏の思い出ややり残した無念さを語る混沌の世界となっていた。


 そんな賑やかな教室に詩音と彩乃が入ってきた途端、クラス中の生徒たちが一瞬にして静まり返り、一斉にその視線が詩音に集中砲火を浴びせる。


 「うへぇ…」


 自分は関係ないんで、とばかりに彩乃がこそこそと自分の席につく。酷いやつだと思われるのはこの際お構いなしで行くしかない。


 通学路の真ん中であれだけ派手な騒ぎを起こしたのだ。見聞きしていたクラスメイトも一人や二人ではあるまい。この年頃の噂話の伝播速度が半端ではないことは、もちろん同じ年頃の詩音自身が誰よりもよく理解していた。


 「あ、あはは…」


 詩音は引き攣り笑顔を浮かべつつ、静々と自分の席を目指す。いわゆる針の筵という状況だが、詩音は別に悪い事などした覚えがないのだから、事態の解消方法も思いつかない。


 自分の席に着いてからも、クラスのあちこちでひそひそと詩音の話題が続いている気配を感じて、詩音の心中は穏やかではなかった。


 「よぉーし、皆おはよう! 元気だったか? いない者はいないか?」


 救世主現る。


 結局、この妙な雰囲気を終わらせる最後の決め手は、詩音にとっての救世主、佐伯先生に他ならなかった。


 佐伯先生はひと通りクラスの全員の顔を一望すると、納得したように大きく頷きながら話を続けた。


 「この中学二年生の夏っていうのは、当然二度と訪れないわけだ、それはまぁ毎年そうだと思う。でも、中二の夏が特別なのは、たぶん君たちの人生の中で一番経験値がたまる期間だと思うからだ…」


 そこまで言って、佐伯先生は言葉を区切った。


 「センセー、ボク、ぐーたら過ぎて全っ然、経験値溜まってませーん!」


 唐突に、彩乃が自ら墓穴を掘りに行く。


 「白岡ぁ…、お前、山で遭難したじゃないか。そんな経験、やろうと思って出来るもんじゃないぞ?」


 クラス中がどっと笑いに包まれる。そうなんだ、そんなことがあったんだ、とばかりに、クラスの生徒たちの注目の矛先は彩乃に向けられる。


 彩乃はちらりと隣席の詩音を振り向いて、笑顔で親指を立ててみせた。


 対する詩音は、目を丸くして彩乃を呆然と見ていたが、それが彩乃なりの友情助け舟、彩乃丸であることに気づいて、僅かに微笑みを返した。


 「もちろん、この夏にいい思い出なんて…そもそも思い出のひとつもありゃあしない、なんて者もいるかもしれない。でも、それは自分自身が自覚していないだけで、多かれ少なかれ何かを経験しているものだ。ひたすらゲーム三昧だったやつなんかも、恐らく相当『経験値』溜まっただろう?」


 再びクラス中が笑いに包まれる。もはや詩音とジョナサンの一件など、すっかり忘れ去られているようだ。


 「ここから先はそれを活かしていく時間だ。この夏に特に何もなかった者こそ、そのことを胸に刻んで二学期を歩んでいくと良いな。文化祭や体育祭もあるし、お楽しみはまだまだ続くからな。またよろしくな」


 はいっ、とクラスの皆が声を揃える。


 そう、まだまだ勇者と魔王の物語は続いていくのだ。詩音は佐伯先生の姿を目に焼き付けるようにじっと見つめ続けた。


 「あー、西原、放課後ちょっと職員室に寄ってくれるか…」


 「は、はひぃ!」


 進歩とか経験など縁遠い、狼狽える勇者詩音の姿に、彩乃が大きな溜め息をついた。



挿絵(By みてみん)



◇49 王子様とお姫様 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください



●ご注意

 この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。

 第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、

 第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、

 現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。



●あとがき

 初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。

 定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。

 気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


 作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。

 極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。


 挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。

 3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。

 発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。


 それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。

 ご意見ご感想もどんどんお寄せください。



■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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