◇47 祈りの先に望むこと
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■水野
夢莉のクラス担任の体育教師で、体操部の顧問でもある。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。
責任感と筋を重んじる、典型的な昔気質の真面目な教師。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
■神楽 墨染
現在の神楽本家当主で樟葉の父。実業家として堅実に手腕を発揮する一方、一人娘には寛容な子煩悩さも持つ。
ウェリントン家の事情を憂慮しており、陰ながら力になろうと試みる。
■太秦 ウェリントン(うずまさ)
樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。亡き友人の妻と子供を支えるため、神楽家を離れた決意の人。幼い樟葉の家庭教師役でもあった。
■リンダ ウェリントン
国際的な地質学者。ジョナサンとメアリーの実母で太秦の妻。二児の母とは思えぬ若さと美貌の淑女。
◇47 祈りの先に望むこと
長かったはずの夏休みも残りあと僅か。まだまだ残暑の、というより夏本番が続いたままの街道を、一台のオレンジ色の軽自動車がのんびりと走っている。
ラジオの天気予報は当分晴天模様で、暑い日がしばらく続くだろうと告げているが、助手席の詩音はそんなことはうわの空だ。
ちらりと運転席の佐伯先生を盗み見るが、そんな詩音の様子に気づいているのかいないのか、佐伯先生はしっかりと前だけを見て運転に集中している。
―そもそも、どうしてこうなった?―
詩音は数分前の出来事を回想する。
夏合宿の後、海に出かけた詩音たちは無事、いつも通りの様子で帰宅することになった。
もちろん彩乃と美雅の微妙な対立は続いているのだが、肝心の謙佑が飄々とはぐらかし続けるせいで、お互い決定打にかけるままの状況で冷戦状態となっている。
一方の詩音の複雑な心中もまた、まったくといっていいほど解消の兆しをみせず、ただ夏の終わりだけが着々とカウントダウンしていくのみだった。
あと数日で始業式、間もなく二学期が始まるというある日、詩音は毎度のようにお世話になっている市民病院へと向かった。あの夏合宿の騒ぎの後日診断を受けなければならないからだ。
詩音本人としては体調に別段違和感はなかったし、気分の問題を除けばいつも通りの健やかなままなのだが、念のためと釘を刺されている以上、無視するわけにもいかない。
ひと通りの検査が終わり、特に異常なしと専門医の太鼓判を貰った矢先、同じ病院の一角で偶然にも佐伯先生と遭遇したのだ。
考えてみれば、夏合宿以来の再会ということになる。
あくまでさり気なくを装ったつもりで、傍から見ればあからさまな挙動不審な様子のまま、勇気一発佐伯先生に話しかけてみた詩音だったが、佐伯先生は小さく笑顔を浮かべたものの、すぐに曇った表情になってしまった。
その理由が気になったのか、食いついてきた詩音を伴ったまま、ある病室を訪ねると、その部屋のベッドのひとつに一人の中年女性が横になっていた。
その女性が佐伯先生の母だろうというのは、いくら鈍い詩音でも察しはついた。佐伯先生の表情が冴えないのは、きっと病状が芳しくないということなのだろうと直感する。
息子の隣の見慣れぬ少女の存在に驚いたように、女性は目を丸くして僅かな微笑みをみせた。
曰く、佐伯先生が女の子を連れて見舞いに来るなんて今まで一度もなかった。初めてのことなので、腰が抜けるほどびっくりな出来事だったらしい。
とはいえ、その女性はその腰の病気が元で入院しているのだそうで、あまり驚かせるんじゃない、と佐伯先生に対して笑いながら苦情を言っていた。
詩音はしっかりと、ちゃっかりと、佐伯先生の教え子で、クラスでも同好会でもお世話になっていること、ついでに個人的にも心から尊敬していること、などをここぞとばかりにアピールしつつ、失礼のないように自己紹介を終えた。
女性は詩音を小さく手招きすると、耳元でそっと一言。
「十三はまだまだ教師としては半人前だから、しっかり鍛えてあげてね。よろしくお願いね」
詩音はとびきりの笑顔を浮かべて頷くと、女性に向かって両手を握り、頑張りをアピールしてみせた。
その後、暫くの後、病室を後にした詩音は、佐伯先生の車で送ってもらうことになったのだが、その理由は「途中で熱中症で倒れられたら人様に迷惑だし、ここに戻ってくるのも馬鹿馬鹿しいから」という身も蓋もないものだった。
もちろん思わぬ展開に心躍った詩音だったが、いざ狭い軽自動車の車内に二人きりという状況に放り込まれると、想像以上に緊張感に満ちた、嬉しい拷問の時間に早変わりしてしまった。
相変わらずラジオでは交通情報や近隣の物騒なニュースが、詩音の心境をまるで無視するかのように続いていた。
緊張のあまり詩音は、佐伯先生はいったいどういう心境なのだろうか、などと考えてみるが、別に今までだって生徒の一人や二人送っていったことくらいあるかもしれない、という結論に至り、自分だけが特別じゃないんだと理解した途端、浮かれている自分が恥ずかしくなってくる。
「本当にお前とはいろいろと妙な縁があるな。ついでに少し寄り道していくとするか…」
「え?」
赤信号に止められた束の間、唐突に佐伯先生は詩音に顔を向け、そう声をかけてきた。
「母さんにも会ったんだし、ついでに父さんにも会っていくか、って話だ」
「はぁ…」
急にどうしたというのだろう。詩音は理解が追いつかずに、訝しげに佐伯先生を見つめ返すだけだ。
「ちょっとコンビニ寄るぞ。トイレとか飲み物とか必要なら適当にな…」
そして辿り着いたのは、街外れの霊園墓地だった。
結構な広さがあるはずなのに、シーズンでもない平日のせいか、訪れている人影は疎らだ。
コンビニで買いこんだ線香と小さな和菓子を供えて、先生は静かに目を瞑った。詩音もそれに続いて見よう見まねで祈りを捧げる。
いきなり佐伯先生のお父さんに会う、という成り行きになって、さてどうご挨拶するべきか、どうやったら顔を覚えてもらえるかな、などとぐるぐると脳内シミュレーションを繰り返していた詩音だったが、この展開では気の利いたご挨拶などやりようもない。
憧れの佐伯先生の意外な家庭事情というか、現在の境遇の一端を知ることができて、詩音は少し嬉しく思った半面で、子供の自分では、恐らく何ひとつとして先生の支えになるようなことはできないのだと痛感した。
つい先ほど、先生のお母さんから「よろしく」と言われたばかりだというのに、僅か小一時間で早々に挫折するとは思っていなかった。
いくら馬鹿みたいに勇者を語っても、越えられない壁というものはあるのだと思うと、一人で勝手に好きだ好きだと浮かれ騒いでいる自分が滑稽で、つくづく馬鹿だなぁ…と呆れかえる。
気がつくと、いつの間にか詩音は、祈りを捧げる姿勢のままでぽろぽろと涙を流しながら、嗚咽を漏らし始めていた。
「どうした、何でお前が泣いているんだ?」
「わかんない、です。自分でもよく、わかんない、けど、なんか、悲しいんです…」
涙声でそう途切れ途切れに訴える詩音の震える背中を、佐伯先生は静かにさすって、まるで小さな子供をあやすように、いつまでも撫で続けていた。
再び佐伯先生のオレンジ色の軽自動車で、一路詩音の家を目指して街道を進んでいく。
夏の夕方はまだまだ明るさが衰えず、僅かに傾きかけた太陽は西の空を、この車と同じくオレンジ色に染めていた。
その夕焼けに照らされて、泣き腫らした詩音の頬がきらりと光っている。
霊園墓地からの帰途、駐車場までの短い間だったが、佐伯先生は自分のことをほんの少しだけ、詩音に語って聞かせてくれた。
コンビナートなどの技師をしていた佐伯先生のお父さんは、数年前、海外での技術指導の際に事故で亡くなったらしい。
当時、既に駆け出しの新米教師だった佐伯先生は、お母さんと二人支えあって今日まで頑張ってきたが、先日お母さんは腰を痛めて入院してしまった、という話だった。
佐伯先生の言葉が途切れるたびに小さく頷きながら、詩音は静かにその話を聞いていた。
もちろん、佐伯先生のために何かできることがあれば、詩音は迷わずそれをやってあげたいと願った。しかし、現状ではその術はない。
自分がまだ何もできない子供に過ぎないのだ、ということを痛感して、それでもその先に何かできることを求めて、詩音は心の中で必死に手を伸ばし続けた。
「そこ、右です」
何かを求めて迷走しつつも、とりあえずの別れの時間は刻々と近づいてくる。
夕暮れとともに次第に減りつつある詩音の家へのカウントダウンは、容赦なく詩音の心に追い打ちをかける。
「あ、お母さん…」
詩音の家がすぐ近くに迫る中、自転車に乗った女性を緩やかに追い越そうとして、佐伯先生は車を減速させた。
「ああ、今のが詩音のお母さんか。どうする、ここから歩いていくか?」
「そう、ですね…。家まで、最後まで送ってもらっちゃったら、きっと降りたくなくなっちゃうと思うから、今日はここで降りておきますね」
暫しの思案の後、詩音は無理やり笑顔を繕って、佐伯先生に頭を下げた。
「送ってもらってすみません。ありがとうございます」
詩音は静かにシートベルトを外してドアを開く。
「気をつけてな。新学期は笑顔で登校するんだぞ?」
「はいっ!」
詩音はもう一度頭を下げて、ドアを閉めつつ小さく手を振った。
◇48 夏休みの経験値 に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、
現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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