◇46 青い空に刻む想い
●「よよぼう」第三部までのあらすじ
とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。
弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。
同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。
賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。
ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。
迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?
残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。
●主な登場人物
□女性/■男性
《RPG同好会の面々》
□西原 詩音
担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。
トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blanche』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。
従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。
毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。
実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。
偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。
《その他の人物たち》
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。
次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。
■佐伯 十三
詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。
詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。
■水野
夢莉のクラス担任の体育教師で、体操部の顧問でもある。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。
責任感と筋を重んじる、典型的な昔気質の真面目な教師。
■鷹取 謙佑
ホビーショップ『|Colline_Blanche』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。
イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。
□道脇 環
RPG雑誌『月刊TTM』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
■神楽 墨染
現在の神楽本家当主で樟葉の父。実業家として堅実に手腕を発揮する一方、一人娘には寛容な子煩悩さも持つ。
ウェリントン家の事情を憂慮しており、陰ながら力になろうと試みる。
■太秦 ウェリントン(うずまさ)
樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。亡き友人の妻と子供を支えるため、神楽家を離れた決意の人。幼い樟葉の家庭教師役でもあった。
■リンダ ウェリントン
国際的な地質学者。ジョナサンとメアリーの実母で太秦の妻。二児の母とは思えぬ若さと美貌の淑女。
◇46 青い空に刻む想い
無事に軽井沢合宿から帰り着いたRPG同好会の面々は、残りの夏休み期間をお決まりの課題地獄に追われる結果となった。
山積みとなっているまだ消化していない課題の群れを前にして、さすがの勇者詩音もそろそろ戦意喪失、敗北の二文字が脳裏をよぎったころ、狙ったかのようなタイミングで彩乃たちに呼び出されることになった。
最初は彩乃が謙佑と二人きりのデートを目論んだのだが、何故か美雅に計画が漏洩し、ならばいっそ援軍を呼んでしまおうという、まさに彩乃らしい泥縄式浅知恵の展開である。
そして例のミミリン号でやってきたのは、百里近く続くという誇大広告大爆発の海岸線である。
詩音たちの住む街が、いわゆる都心と片田舎を結ぶ街道沿いのほぼ中間地点にある恩恵で、多少の遠出さえ覚悟すれば、海や山などのちょっとしたレジャーには事欠かない。
それどころか、多少の乗り換えの手間をかければ、国際空港にも超巨大テーマパークにも即売会で有名な展示場にも行けてしまう。
それぞれが思い思いの大胆な水着姿で、真夏の眩しい太陽と、青い海と白い波と戯れている。とは言っても、詩音自身は学校指定のスクール水着とさして変わらぬ質素な竜胆色のワンピース姿ではあったが。
蒼く何処までも冴えわたる夏空の下、競うような青さの海原が水平線の彼方まで続いている。
途切れ途切れに聞こえてくる潮騒の音が、白い砂浜のビーチパラソルの陰で横になったままの詩音の耳をくすぐった。
ふと顔を上げれば、大勢の海水浴客たちで賑わう波打ち際の一角で、夢莉と彩乃、謙佑と美雅がビーチバレーのような遊びに興じているのが見える。
瑠璃色の洒落たビキニの夢莉、スポーティな山吹色のセパレートの彩乃、いかにもな迷彩パンツの謙佑と、フリルの可愛い若草色のパレオワンピースの美雅、皆それぞれ冒険的な勝負水着が眩しい。詩音とは気合が違うといった感じだ。
未だ軽井沢の山荘に滞在中の樟葉とウェリントン兄妹を除いた者たちが、こうして青と蒼のせめぎ合う水平線を望む、白い砂浜を訪れているわけだ。
そんな賑やかな夏の日差しの中、詩音はどうにもその楽しげな仲間たちの輪に入る気分にならず、こうしてパラソルの創り出す日陰で無為の時を過ごしていた。
はぁっ、と深い溜め息をついた冴えない表情を浮かべる詩音の頬に、唐突に冷ややかな心地よい感触が触れた。
「わっ!」
跳ねるように上半身を起こして、詩音は周囲をきょろきょろと窺う。その様子を呆れたように見下ろしているのは、幼馴染みの涼太の浅葱色の短パン姿だった。
「いくらなんでも、お前、無防備過ぎるってもんだろ? 通りすがりの野良オオカミに襲われちまうぞ?」
「海だもん、たぶんサメくらいしか出ないよ…」
詩音はそうボケつつも、差し出されたままのペットボトルはしっかりと受け取ることにした。
「まーだ悩んでんのか、お前らしくもない。もっとこう短絡的に、どかーんと突っ込むほうが性に合ってるだろ、お前の場合」
「そんな簡単な話じゃないよ…」
涼太の言葉にそう答えながら、詩音はペットボトルのキャップを捻る。
しかし、ボトルとキャップの相性が悪いハズレに当たったのか、それとも単純に詩音の握力が貧弱なのか、なかなか封を開けることができない。
「ほれ、貸してみれ」
その様子を見かねた涼太が、半ば強引に詩音の手からペットボトルを奪うようにして、力任せにキャップを捻った。
「おおぅ! 詩音、お前、振っただろ!」
ボトルの口から溢れ出る微炭酸の泡とともに、涼太が思わず声を荒らげる。
「あははっ、かかったな若造!」
「いや、俺のほうが微妙に兄ちゃんだし…」
確かに同学年であっても僅かな生まれの差はあるものだ。だからといって、普段はそんなことを気にするような関係ではないのも確かだが。
「まぁ何だ、そっちのほうが詩音らしいぜ。後ろは俺と夢莉に任せて、後先考えずに突撃かましとけや」
「それじゃあ私、馬鹿みたいじゃない…」
「少なくとも、賢くて器用、じゃないわなぁ…。誰もお前に堅実さや慎重さなんて期待しちゃいねぇよ。強いて望むっていうんなら、真剣さと大胆さ、ってとこだろうよ?」
珍しく妙に生真面目なアドバイスをする涼太を見つめながら、詩音はまた、うーんと捻り出すように唸った。
「だいたい、お前のファーストキッスなんて、夢莉と二人まとめて俺が貰っちまっただろうよ。今さら何そんなこと気にしてんだよ?」
「はぁあぁ?」
素っ頓狂な大声をあげて、詩音がまじまじと涼太を見据える。
軽井沢合宿の開始早々に、彩乃のうっかり事故で招いた遭難騒ぎ。
それは別にいいのだが、気を失った詩音を介抱してくれた誰か、そう、恐らく佐伯先生ではない誰かのお陰で、詩音はこうして皆と一緒にいられるのだ。
唇に触れた夢のような感覚、胸に走った衝撃的な圧迫感、それらが詩音の妄想だとはどうしても思えなかった。
もちろん、夢見心地であちらとこちらの境界線を彷徨っていたような気がするのだから、夢で出会った亡き兄の面影がそう感じさせただけなのかもしれないが、それだけではどうにも納得しがたい、と詩音は考えを巡らせる。
―やっぱり、ジョナサン君…なのかなぁ―
それからの合宿期間は、妙にジョナサンのことを意識してしまう詩音の様子が周囲の注目の的となり、彩乃や涼太などは「勇者詩音はついに魔王佐伯討伐を諦めたのか?」と勝手に、新たな強敵登場の第二部開始の展開を予想して盛り上がる始末だった。
「幼稚園の頃の話だぜ? よく状況は覚えてねぇけど、確か何かの成り行きでそんなことになったような記憶があるんだよなぁ。詩音と夢莉と…、ついでにそのあと三人一緒に俺んちの風呂に入っただろうよ?」
そう言われるとそんな気もしてくるから不思議なものである。詩音は半信半疑のまま、涼太の語る不確かな幼少期の思い出話を聞いていた。
「とにかく、キッスどころか、お前ら二人の何から何まで全部、それこそ身体の隅々まで俺にはバレちまってるんだから、改めてどうこう悩んでも仕方ないんじゃねぇの?」
「それとこれとは話が違うよー!」
それはそうかもしれないが、そういう問題ではないのだ、と詩音は心の中で反論しながら、唸り声だけで抗議しつつ溜息を洩らした。
「まぁよ、あれだ…。佐伯佐伯騒いでた詩音が兄弟に乗り換えるってんなら、そいつはそいつで俺は応援するぜ? 何せそっちのが分がいい賭けっていうか、現実的だろ?」
「そんなんじゃないよ、私とジョナサン君は別に、何でもないんだよ…たぶん」
本当に今日はどうしたというのだろう。やけに涼太が親身になって詩音の心配をしているのが不可解だった。いつもなら半分馬鹿にしながら呆れて笑うはずなのに、しっかりと詩音に向き合って話を聞いてくれている。
「涼ちゃん、何かあった? 夢莉と喧嘩でもした?」
詩音にとって思い当たるのはそれくらいのものだ。だからとりあえず詩音は、この問題から話を逸らすべく、些か無理筋の反撃に転じる。
「何もねぇよ、何もなさ過ぎて、でっけぇ溜め息が出てくらぁ…。俺も詩音みたいにイノシシになれれば、ちっとは幸せなのかもしれねぇなぁ…」
「今の涼ちゃんと大して変わんないよ、それ…。って、うわぁ!」
この真夏の海辺に似合わないもやもやした雰囲気を打ち破るように、詩音と涼太めがけて本物の冷や水が浴びせられる。
「二人ともぉ―、そこでいちゃついてないで、こっちにおいでよぉー!」
驚きの表情で振り向いた詩音たちの視線の先では、おもちゃのウォーターガンを構えた彩乃と美雅がこちらに銃口を向けて微笑んでいた。
「ちょっと、彩乃ぉ! ほんとに冷たいんだからね!」
「あら、せっかくのいい雰囲気をお邪魔しちゃったか…。ごめんなさい、続けて、どうぞ…」
詩音の抗議の声は、美雅の意地悪な曲解に跳ね返される。続けろと言われても、はいそうですか、という状況には戻れない。
「お前ら、俺様に銃口を向けたらどうなるか、その身体にたっぷり思い知らせてやる! 夢莉ぃ、俺にウォーターマグナムをよこせ!」
「マグナムぅ? これのこと?」
きっと敢えてこの流れに乗ったのであろう涼太が、夢莉から得物を受け取ると、過剰なほどの見栄をきって、彩乃と美雅に向けて駆け出していく。
詩音は呆気に取られてその光景を見つめているだけだ。
「詩音も来い! やられたらやり返す、ってのが人の道ってやつだ! 勇者詩音が銃撃戦もできるところを見せてやれ!」
涼太はなおも便乗攻勢で詩音を煽る。それが皆の気遣いなのだろうと、詩音も何となくは察するが、あまり乗り気になれない。
「詩ちゃん、ほいっ!」
「え?」
すぐ近くからいきなり目の前に放り投げられたウォーターガンを、詩音は不器用に受け取りながらそっと振り返ると、そこには謙佑の笑顔があった。
「それで思いっきりストレス発散しておいで。何かに悩んでいる詩ちゃんは、ちょっと寂しいからね」
親指を立てて謙佑が笑うと、詩音は大きく頷いていつもの勇者の顔に戻っていった。
「待てぇ、彩乃ぉー!」
◇47 祈りの先に望むこと に続く
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●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、
現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。
●あとがき
初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。
定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。
気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。
作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。
極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。
挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。
3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。
発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。
それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。
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■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
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