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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
秋空と乙女心と伝説と
46/112

◇45 内面世界の深淵

●「よよぼう」第三部までのあらすじ


 とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。

 弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。


 同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。

 賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。


 ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。

 迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?

 残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。



●主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》

西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。

 トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。

 従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。

 複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。



《その他の人物たち》

□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


水野みずの

 夢莉のクラス担任の体育教師で、体操部の顧問でもある。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。

 責任感と筋を重んじる、典型的な昔気質の真面目な教師。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『|Colline_Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。

 イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。


神楽かぐら 墨染ぼくせん

 現在の神楽本家当主で樟葉の父。実業家として堅実に手腕を発揮する一方、一人娘には寛容な子煩悩さも持つ。

 ウェリントン家の事情を憂慮しており、陰ながら力になろうと試みる。


■太秦 ウェリントン(うずまさ)

 樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。亡き友人の妻と子供を支えるため、神楽家を離れた決意の人。幼い樟葉の家庭教師役でもあった。


■リンダ ウェリントン

 国際的な地質学者。ジョナサンとメアリーの実母で太秦の妻。二児の母とは思えぬ若さと美貌の淑女。

◇45 内面世界の深淵



 「自分とは違う世界に暮らしている勇者に恋をして、自分も一緒に旅に出たいけど、そうもいかないって感じで、悩んで悩んで…ついに、もう一人の自分が勇者の独り占めに成功するんだけど、結局振られちゃって…」


 彩乃は、自分自身の身の上を語るように、旅館の不遇な娘に共感しながら、さらに話を続ける。


 「だったら、夢が叶わなくても、ずっと勇者の傍にいて? 行く末をただ見守っていたい、ってそう願ったのに、なんだかんだで浄化されちゃって? あれって本当に正義とか善とかなのかな? なんか悲しい話かなぁ…って、まぁボク的にはそんな感じ?」


 感心したように頷きながら、佐伯先生は彩乃の話を聞いていた。


 「…彩乃、お前、そこまでわかっているのに、どうして国語の成績悪いんだ?」


 「え? 関係ないじゃん、それとこれとは…」


 褒められてるのか貶されてるのかわからずに、むぅーっと膨れっ面になる彩乃を笑顔で見つめつつ、佐伯先生は語りかける。


 「国語、特に現代文というのは、別に活用形がどうしたとか、倒置法がどうしたとか、そんなことは些細な話に過ぎないんだ。大事なのは、言葉の意味…特に言葉の裏側に秘められた思いというものを、どう読み取って理解してあげられるか、ということに尽きる。だからその点では、RPGも教科書も童話も古典も一緒なんだ」


 「うーん…」


 わかったような、わからないような、複雑な表情のまま唸り声をあげる彩乃を促して、佐伯先生は更なる答えを求めた。


 「で、そうなると、どうなると思う?」


 「旅館の娘は、恋する勇者だけじゃなくて、周りの皆に拒絶されて…きっと居場所がなくなっちゃう…かも? だからもう一つの世界から戻れない? のかなぁ…」


 「そうかもしれないな…。しかもそれを誰も気にしてくれない…」


 彩乃の意見をうけて、佐伯先生がそう呟く。


 「ダメじゃん! バッドエンドじゃん! 勇者最悪じゃん!」


 興奮して思わず大きな声になってしまう彩乃を制して、詩音を起こしてしまわないかを気遣う。


 「そうだな、彩乃の感想文はざっと70点…てところだな」


 「えー、ならセンセの意見も聞かせてよ」


 「それなら、詩音を起こさないようにデッキで続きを話すか…」


 佐伯先生はゆっくりと立ち上がると、ぐっすりと眠ったままの詩音を気にかけながら静かに通路に出る。


 やがて、佐伯先生と彩乃が立ち去って暫くすると、一人だけ詩音の後ろの席に残された美雅が、ぽつりと誰にともなく呟いた。


 「周りの皆に拒絶された子は、居場所がない、帰ってこられない、か…」






 その後、他の乗客の迷惑にならないように、また詩音を起こさないように、場所をデッキに移して、佐伯先生と彩乃のマンツーマン講義が再開された。


 「正直言って、詩音のやつがどれほど考えてシナリオを練ったのかは、全くわからない…。わからないんだが、まぁ、本人が自覚していない状態でも、あいつはしっかり物事を観察して分析している気がするな…」


 佐伯先生の勿体ぶった言い回しに首を傾げながら、彩乃は質問を返す。


 「センセ、それって詩音のこと褒めてる? もしそうなら、本人が聞いてるときに言ってあげたほうが…」


 「それはそうなんだが、詩音の場合は下手に褒めると調子にのるからな」


 それもそうか、と彩乃は一発で納得する。


 「そもそも、旅の勇者と旅館の娘の関係というのが、たぶん『誰か』と詩音自身の関係なんだろうな、と先生には思える。一期一会というか、一時的な接点しかない関係というわけだ」


 「あぁー、そっか」


 彩乃は、佐伯先生があえて『誰か』と表現している「誰か」の存在を詳細に知っている。そう考えれば当然、一時的な接点しかない間柄だというのは十分に納得がいく。


 「例えるなら、クラスメイト同士のような関係性だな。だからいずれ自然と別れが来ることになる。でも、恋をした娘はそれを受け入れられない」


 佐伯先生は話を続ける。まさにその通りの展開である。但し、詩音の相手はクラスメイトではないはずだが。


 彩乃は大きく頷きながら、先を促した。


 「だから、娘はもう一人の大胆な自分を創りだして、自分の醜い部分や、全ての我儘な想いをそれのせいにしてしまう。つまり、闇皇帝の行動は自分のせいじゃない、と自分に言い聞かせつつ、実際にはそれに従うほかなかった。夢を叶えるためには、闇の道だろうと魂を売るしかない。選択の余地なんてなかったのかもしれない」


 そこまで黙って聞いていた彩乃は、ふと浮かんだ疑問を口にする。


 「でもさ、そんな面倒なことしなくても、勇者の旅にその娘がついて行けばいいだけじゃないの?」


 「ふむ…」


 佐伯先生はそこで一度話を区切り、まじまじと彩乃の顔を見つめなおす。大きな澄んだ瞳に向けて、改めて佐伯先生は話を続けた。


 「もし彩乃に誰か好きな人がいて、どうしても他の人に譲りたくなくて、つまりその人を独り占めしたくてしょうがなくなっちゃったときに、彩乃は自分がその人の仲良しグループの一員になるだけで満足できるのかな? つまり、アイドルの熱狂的なファンの一人、最前列で熱狂的に応援している一人、みたいな立場で満足できるのかな?」


 「あー、ボクは無理…かも。現に今も戦争中みたいなもんだし…」


 彩乃は自分に重ねてそう考える。従兄の謙佑をめぐる美雅とのくだらない抗争劇は、彩乃にとって結構真剣な悩みごとのひとつである。


 「だから闇皇帝は、勇者一人を仲間から引き離して、別の世界に幽閉する。この辺まではたぶん、ゲームマスターの詩音もわかってやっている、と思う」


 話が途切れるたびに、狙ったかのようにトンネルがやってくる。新幹線のデッキの小さな車窓には、夏空の光とトンネルの闇とが交互に訪れては、あっという間に去っていった。


 「でも、詩音の誤算は、参加メンバーにお前たち三人がいなかったことだろう」


 「え? なんで? 冒険者一行はちゃんと人数いたんじゃ…」


 彩乃はそう言いかけるが、佐伯先生はそれを制して話を続けた。


 「人にはそれぞれ役割というか、生まれもった性格…性向というべきかな? そういうものがある。これは別にRPGに限ったことじゃない」


 「向き不向きってやつでしょ? それが何で関係するの?」


 そう彩乃が素直な疑問を呈すると、佐伯先生は頷きながら、言葉を慎重に選んで話を続けていく。


 「そうだな…。樟葉のほうもまったく自覚なしでやっていることなんだが、司祭っていうのは、今の樟葉自身と同じく与えられた外部の力、つまり『神の威光』というのを武器にしている立場なわけだ」


 「えっと、それってつまり、現実の神楽本家…とかが神様に代わっただけ、ってこと?」


 彩乃の反応に佐伯先生は大きく頷いて応える。確かにそう言われてみればそうだと、彩乃も納得する。


 「だから結局、司祭の樟葉はその威光を振りかざして、想い人に近づく恋敵というか、ライバルを追い払った。しかも、その相手の本当の、純粋な想いを、悪いもの、邪なものと独断で断罪して、自分自身は正しいことをしていると、自身の行動を疑うことを知らない…」


 「あぁー、ってことは、実は樟葉先輩が良くないってこと?」


 「それはどうだかな…」


 彩乃の指摘する通り、例えそうだったとしても、佐伯先生は教師という立場上、そうだとは言わないだろう。それはわかる。でも、話を聞いている彩乃としてはすっきりしない。


 「もしあの場に樟葉の行動に疑問を持つ仲間が一人でもいてくれれば、結末は少し違ったかもしれないな。だから、お前たち三人がいなかったのは、とても大きいんだ。あの娘の、つまり詩音の側に立ってくれる良き理解者っていうのが必要だったんだよ」


 「結局、友達は大事だよね、って話じゃん、それってさ…」


 極めて単純化した結論を彩乃は口にする。佐伯先生は一言、そうだな、とだけ返答する。


 「どちらにせよ、あっちもこっちも問題は尽きないという話だ。信じるものに一直線なのは、お前や詩音に限った話じゃない。一見完璧と思える樟葉にも、もう少し考えるべきところがあるかもしれないと、そんなところだ」


 「うーん、ボクには難しくてわかんないよ…」


 もはや彩乃の頭はいっぱいいっぱいになって、頭のてっぺんから湯気が出そうな勢いだった。


 「簡単にいえば、想い人の浮気相手はその『存在』すら絶対に許さない。恋敵を片っ端から『退治』して回って、それが正義だと疑うことなく信じきっている、という話だろう? ある意味、闇皇帝より恐ろしいし、何処か狂気的でもあるとは思えないか? その自覚がないのは、質が悪い」


 佐伯先生はまるで難しい問題に挑戦する学生に戻ったように、なんだか複雑な表情を浮かべたままで、彩乃を見つめる。


 「何となくわかるけど、そこまで来るともう、ボクには手に負えないでしょ、それって…」


 「そうだな、とある宗教の熱烈な信者に『それは違う』と説教するようなものだしな…。たとえこっちが大人でも、教師でも手を焼く難題だな」


 狭いデッキ中に響くような、ひと際大きな溜め息をついて、佐伯先生が肩を落とした。


 「あー、でも、佐伯センセの意外な一面が見れて、良かったかも? 詩音に内緒にしとかないと、後が怖いかも?」


 彩乃はそう言って、いつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべた。



挿絵(By みてみん)



◇46 青い空に刻む想い に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


●ご注意

 この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。

 第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、

 第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、

 現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。



●あとがき

 初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。

 定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。

 気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


 作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。

 極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。


 挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。

 3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。

 発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。


 それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。

 ご意見ご感想もどんどんお寄せください。



■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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