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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
秋空と乙女心と伝説と
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◇44 もうひとつの問題提示

●「よよぼう」第三部までのあらすじ


 とあるきっかけからRPGに興味をもった中等部二年の西原詩音は、憧れのクラス担任の国語教師、佐伯十三先生を巻き込んで、念願のRPG同好会を設立する。

 弱気で引っ込み思案な会長の詩音を支えるのは、詩音の亡き兄に恋をしていたクラスメイトの白岡彩乃、詩音の幼馴染みで体操部員の香坂夢莉、同じく幼馴染みでお調子者の島本涼太、なし崩しに口説かれた先輩でお嬢様の神楽樟葉たち。


 同好会に発足直後からトラブルが多発。会員募集ポスターの盗難騒ぎを発端にして、夢莉の後輩の山科美雅、神楽家の居候のジョナサンとメアリーのウェリントン兄妹を加えて、仲間の輪は広がっていく。

 賑やかさを増したRPG同好会だったが、比例するようにトラブルも増加していく。佐伯先生を巡る詩音と樟葉、彩乃の従兄の鷹取謙佑を巡る彩乃と美雅、その他諸々の感情がぶつかり合っていく。


 ついに学校を飛び出して一般サークル主催のイベントに出向いた詩音たちは、年上のベテラン達から様々なことを学びつつ、夏休みも様々な体験を通じて仲間たちとの絆を深めていく。

 迎えた夏合宿、到着早々の遭難騒ぎの中、一気に距離が縮まったかに見える詩音と佐伯先生の恋の行方は?

 残暑と初秋の季節、少女たちの心の色彩は次第に大きな変化を見せはじめる…。



●主な登場人物

□女性/■男性


《RPG同好会の面々》

西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に想いを寄せる、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長だが、威厳の欠片もない。

 トラブルに好かれる体質で、精神的ハリボテ勇者の意地と気合で挑む引っ込み思案娘。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップ『|Colline_Blancheコリンブロンシュ』の看板娘。明るくマイペースなボクっ娘で、年下の子供たちからの人気は高い。

 従姉弟の謙佑相手に、初恋のリベンジを誓う鉄砲玉トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部の期待の星でもあり、男女問わず人気が高いスタイリッシュ女子。

 毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。詩音たちのストッパー役。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。

 夢莉にいいように使われつつ、陰ながら支える縁の下の力持ち。自称、ジョナサンの兄貴分。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。

 複雑な家庭環境で育ったゆえか、年齢に似合わない言動も垣間見える、いわゆる地雷系の側面も。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生で、地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。

 実際は、次期当主としての境遇と自分自身の目標に悩む年相応の少女であり、渾名の「鋼鉄の冷嬢」とは程遠い。詩音のライバル?を公言中。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系男子で、涼太とは凸凹コンビの間柄。

 偶然か必然か、詩音の遭遇するトラブルを解決する王子様的な存在となることも多く、詩音にとって非常に気になる存在。



《その他の人物たち》

□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。初等部六年生の快活児童。ジョナサンの妹で、偏りまくった日本文化に憧れている。

 次世代RPG同好会の予備軍として、詩音たちに帯同することも多い。容姿も年齢以上に可憐で、詩音や彩乃のコンプレックスの源になることも。


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃のクラス担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。なし崩しにRPG同好会の責任者となる。

 詩音の憧れの存在であり、生徒からの評判も良好の好青年だが、生徒との距離感に戸惑いを感じる一面も。


水野みずの

 夢莉のクラス担任の体育教師で、体操部の顧問でもある。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。

 責任感と筋を重んじる、典型的な昔気質の真面目な教師。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップ『|Colline_Blancheコリンブロンシュ』のアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。

 イケメンだが、かなりアバウトな性格で、一見掴みどころがない存在。彩乃の良き相談相手であり、目下の攻略目標。


道脇みちわき たまき

 RPG雑誌『月刊TTMテーブルトーク・マンスリー』の編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。


神楽かぐら 墨染ぼくせん

 現在の神楽本家当主で樟葉の父。実業家として堅実に手腕を発揮する一方、一人娘には寛容な子煩悩さも持つ。

 ウェリントン家の事情を憂慮しており、陰ながら力になろうと試みる。


■太秦 ウェリントン(うずまさ)

 樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。亡き友人の妻と子供を支えるため、神楽家を離れた決意の人。幼い樟葉の家庭教師役でもあった。


■リンダ ウェリントン

 国際的な地質学者。ジョナサンとメアリーの実母で太秦の妻。二児の母とは思えぬ若さと美貌の淑女。

◇44 もうひとつの問題提示



 詩音たちRPG同好会の軽井沢合宿が、ぐだぐだのうちに終了するかに思えた最後の晩、最後の最後にこれほど大きな波乱が待ち構えているとは、その場の誰も予想できなかった。


 「お父様がどうしてこちらに?」


 樟葉が驚きの表情のまま立ち上がり、父である神楽家の現当主を見つめる。


 「どうしても何もないだろう? 私が自分の別荘にふらりと立ち寄っただけの話さ。樟葉には迷惑な話だったかな?」


 「いえ、別にそういう訳ではありませんが…」


 樟葉の表情は冴えない。


 恐らくのところ、せっかく息苦しい神楽本家の屋敷を離れ、遠路はるばる軽井沢まで来たというのに、ここに神楽のご当主様が現れては、伸ばせる羽などないということなのだろう。


 「それに、太秦と…ウェリントンの皆の顔を久々に見たくなったのさ。ここなら他の煩い連中のことを気にかける必要もないだろう」


 「それは、まぁそうですが…」


 詩音は突然現れた「お父様」に驚きのあまり言葉を失っていたが、唐突に思い出したように席を立って頭を下げた。


 「樟葉先輩のお父様…ですよね? つまりこの別荘の…今回は私たちの合宿を許可していただいてありがとうございます。RPG同好会の会長で西…」


 相手は神楽の現当主様である。詩音は可能な限り丁寧な姿勢を心掛けつつ感謝の言葉を伝えた。が、意外にも相手は、詩音の言葉を遮るように問い返してくる。


 「君が、西原詩音さんかな? 娘の樟葉が大変お世話になっていると聞いているよ。私からも礼を言わせて貰いたい。本当にありがとう」


 「あ、いえ、そんな…こちらこそ、樟葉先輩や神楽のお屋敷の方にはご迷惑をおかけしてばかりで…」


 こちら側から先制攻撃を試みたはずが、思わぬ速攻の反撃を食らい、詩音は更に動揺する。


 「おいおい、樟葉先輩のお父様、ってことは、神楽一族で一番偉い人ってことじゃねぇか。なんか俺たち、場違い過ぎんだろ…」


 「確かに、ボクもそう思う」


 こそこそと小声でこの状況を語りあう涼太と彩乃を、夢莉と美雅の視線が無言で窘める。


 「いや、今回は私のほうが唐突に邪魔をしている立場だから、君たちは何も気にする必要はない。ぜひ、ゆっくりしていって貰いたい」


 樟葉の父はそう言って紳士的な笑顔を浮かべた。


 傍から見ていてもわかる気品と威厳、それを柔らかく包み込む清廉な雰囲気と物腰の穏やかさ。さすがに一人娘の樟葉をあのようなお嬢様に育て上げた父親、そして神楽本家の現当主という風格だ。


 「それから、会長さんの先ほどの物語も、成程と感心させて貰ったよ。傍から見ていても楽しめるとは正直思いもしなかった。西原さんと参加者の皆さんに心より拍手を贈りたい」


 予想外の言葉に、ゲームマスターの詩音とプレイヤーたちはもちろん、外野席勝手に応援団の面々も、驚きに固まってしまう。


 「ご挨拶が遅れました。RPG同好会の責任者で、中等部の国語教師を務めております、佐伯十三です。今回は大変ありがとうございました」


 唯一石化を逃れた佐伯先生が深々と頭を垂れて挨拶すると、樟葉の父はそれを留めるような仕種で言葉を続けた。


 「こちらこそ自己紹介が遅くなって申し訳ない。樟葉の父の神楽墨染と申します。学校の皆さんも改めて宜しくお願いするよ」


 はい、というか、はぁ、というか、微妙なニュアンスの言葉を紡いで、一同が頭を下げる。


 「ところで諸君、樟葉の…、あぁ、いや、先程の展開を見れば今更尋ねるまでもないかもしれないな…」


 墨染はその場に集った一同の、特に男性諸氏の顔を順に窺いながら、そう口を開きかけ、すぐに撤回する。


 「あの、何か気になるところ、ありましたか?」


 不安そうな表情を浮かべて詩音がそう問いかけるが、墨染はただ黙ったままで横に首を振った。


 「会長さん、いや、西原さん。もしも娘が何か我儘を言い出しても、気を遣って無理に執りあう必要はない。貴女の、自分の思う通りを進みなさい」


 「は、はぁ…」


 「お父様、何を言い出すのです、唐突に…」


 樟葉が突然の父の発言を訝しんで、睨むような表情のままに抗議の声を上げる。その様子はまるで、樟葉が先ほどまで演じていた、闇皇帝に挑む女司祭そのものだった。


 「そうか、樟葉自身はまだ何も気付いていないのか…」


 墨染はそう独り言のように呟き、自分の娘の樟葉と詩音の顔に順番に視線を向けた。


 「それもまた、ひとつの勉強であるのかな、佐伯先生?」


 「そうですね、確かに…」


 完全に置いていかれたままの詩音と樟葉、RPG同好会の面々と使用人やウェリントン一家を放置して、墨染と佐伯先生は交互に頷きあった。






 そして一同は翌朝、なんだか釈然としないまま帰路についた。


 神楽本家の当主である樟葉の父、墨染がわざわざ軽井沢の山荘を訪れた一つの理由が、「神楽家の娘」としてではない、普段の樟葉を見てみたいという親心、いやもしかすると単純な興味だけなのかもしれないが、まぁそういう感じなのは、詩音でなくともおおよその察しがつく。


 ウェリントン家に会いに行くついでに、ということであれば樟葉も文句は言わないだろうと踏んでのことだ。


 その場では呆れたように抗議の態度を示していた樟葉だったが、目の前に現れた父を追い返すわけにもいかず、流されるままに不機嫌な表情で合宿を終えるはめになった。


 墨染はその夜のうちに早々に引き上げていったのだが、残りの面々に与えた影響はあまりにも大きかった。


 あの墨染の謎めいた言い回しはいったい何だったのだろう。


 樟葉当人が意識していない、気づいていない「何か」とは結局のところ、何なのかがわからず、まるで全員がそれぞれ手掛かりのないミステリー小説の主人公にでもなったような気分だった。


 引き続き山荘に残ることになったウェリントン家と樟葉、そして藤堂たち使用人と別れ、帰路についた詩音たちは、毎度ながらに疲れ果てた様子で新幹線に揺られていた。


 詩音は勢いに任せて佐伯先生と並んで二人席、その後ろに美雅と彩乃の呉越同舟状態、さらに後ろに夢莉と涼太のいつもの顔ぶれが並ぶ。とはいえ、夢莉と涼太は既にぐっすり夢の中である。


 「ねぇ、詩音ぇ…」


 彩乃が退屈な時間に痺れを切らせたのか、自分の席を立って前の席の詩音に話しかける。だが、詩音もまた睡魔の虜となっていた。


 「あーもう、なんだかなぁ…、散々大騒ぎしてセンセの隣に座るんだ、って張り切ってたのに…」


 詩音の隣席から佐伯先生が、自分の唇に人差し指を当てながら彩乃を見つめ返す。


 「どうかしたのか、彩乃? 詩音もきっといろいろあって疲れているんじゃないか? 急用でなければ、もう少しそっとしといてやってくれるか?」


 「うん、ちょっと昨日の話のことが気になっただけ…」


 彩乃は小声で佐伯先生にそう話しかける。


 「昨日の、って神楽のご当主様の話か?」


 「ん? それも気にはなるんだけど、そうじゃなくて、詩音のシナリオの旅館の娘のこと…」


 「ほう…?」


 いつになく真剣な表情を浮かべる彩乃の様子を図りかねて、佐伯先生は黙って話の先を促した。


 「物語の終盤が近くなって、勇者一行が現実世界に戻っちゃうと、そっから先はあの子出てこないでしょ? ヒロイン枠って感じなのにそれで良いのかなぁー、とか、むしろ闇皇帝よりそっちのほうが大事っていうか、気になるっていうか…?」


 ふわっとした曖昧な表現の疑問だが、彩乃の言いたいことはわからなくはない。佐伯先生はうんうんと頷きながら、ただ静かに彩乃の話を聞いていた。


 「お話は終わったかもしれないけど、なんか全然終わってないような? 皆して肝心なことほっぽっちゃってる気がするんだよね、ボクの頭が悪いせいかもしれないけど、それで本当にいいのかな?…って」


 そこまで言うと、彩乃は言葉を切って、黙って聞いている佐伯先生と詩音の無防備な寝顔をちらりと見る。


 「…成程。それで、彩乃自身は正直、どう思ったんだ?」


 「え、ボク? ボクの意見? ボクは参加してないけど、いいの?」


 唐突に佐伯先生に意見を求められて、彩乃は戸惑う。


 事実、昨夜は彩乃や夢莉、涼太の三人は完全な部外者、単なる野次馬だった。そんな立場の者が、横から意見など言ってよいのだろうか?


 「RPGだって物語なんだ。まぁ、文字起こししていないリプレイを生で味わったと思えば、わかりやすいだろう?」


 リプレイというのは、実際のRPGの進行状況を議事録のように纏めた、一種の読み物である。「誰々が何を言った、何をした」とか、「判定の結果こうなった」とか、現場の状態をそのまま箇条書きにして、抜け落ちた不足の部分を補って一冊の本にしたものだ。


 「うーん、ボクの感想っていうか、足りない理解だと、闇皇帝って、もう一人のあの子じゃないかな? とか思うかも?」


 「なかなか鋭いな、彩乃。面白い意見だ。それで?」


 佐伯先生は彩乃の顔を見つめながら、驚いたようにそう声をかけて、さらに彩乃の話を促した。



挿絵(By みてみん)



◇45 内面世界の深淵 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


●ご注意

 この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。

 第一部(0~13)は掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、

 第二部(14~27)及び第三部(28~42)は続編部分で、2023/12/11に終了、

 現在の第四部(43~)は、2023/12/25より掲載中です。



●あとがき

 初めましてorこんにちは。真鶴あさみです。

 定期的かつ長期的な連載を目指して開始したこの作品ですが、第一部の公開から早くも八ヶ月となりました。もちろん新年を迎えても続けていく予定です。

 気分も新たに第四部の開始となります。引き続きお付き合いいただければ幸いです。


 作品のコンセプトは、いわゆる『RPGあるある』を中二の少女目線で追っていく感じになります。もっとも、もはや伝説の存在になりつつある対面会話形式のRPG、テーブルトーク型RPGというものですが。

 極めて奥深い素敵な趣味の世界ですので、ぜひ興味を持っていただけると嬉しいです。


 挿絵の代わりとなるイメージ画像は「カスタムオーダーメイド3D2(COM3D2)」というPCゲームで作成しています。

 3Dモデルをいろいろ独自に弄れるようですが、あいにく知識がなく、基本的な本体仕様の範疇を出ません。ご容赦ください。

 発展性を考慮して、イラストをお任せできる絵師さんを募集しています。こちらもぜひよろしくお願いします。


 それでは、季節感無視の暴走RPG青春物語を再びお楽しみください。

 ご意見ご感想もどんどんお寄せください。



■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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