◇42 二人だけの特別な時間
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇42 二人だけの特別な時間
詩音が目を覚ますと、そこはまた真っ白な天井のある空間だった。
以前と違うのは、上下の感覚と夏の日差しの眩い光が感じられること。そして、良く見知った顔がすぐ傍にいること。
「…先生? 佐伯…先生? ここって、こっちの世界?でいいんです…よね?」
自分でも馬鹿な質問だと感じつつも、詩音はそう言って佐伯先生の顔をまじまじと見つめ、暫し返答を待つ。
驚いたような、不思議そうな、呆れたような…、そんな複雑な表情を浮かべながら、こちらに向き直る佐伯先生の表情が僅かに緩み、ゆっくりと口を開く。
「なんだ、詩音。お前はあっちの世界まで行っていたのか? まったく…。それにしても、まぁ第一声がそれなら、いつも通りの詩音で問題なさそうだな」
やはり声のトーンからは呆れている様子が伝わってくる。
「あー、なんか酷いです! 残念ながらあっちまでは行ってないです、たぶん…ですけど。きっと真ん中辺りでうろうろしてた感じですか、ねぇ…」
詩音らしいな、と佐伯先生は静かに笑う。
その憧れの先生の笑顔を眺めながら、詩音はこの現実世界に帰ってきたことを嬉しく感じ、あの時の命の恩人の誰かさんに感謝する。
「結局、私、どうなっちゃったんですか? いまいちよく覚えてなくて…。誰か男の人? 男の子? の声に呼ばれたような…」
詩音が記憶の糸を手繰っても、中途半端な記憶の断片が幾つか浮かんでは消えるばかりで、そもそもそれが実際にあった出来事なのかも朧げな状態だった。
「彩乃の証言によると、丸太橋を渡ろうとして途中で振り返ったらバランスを崩して、咄嗟に詩音の足首を掴んだのが悪かったらしい。丸太橋の端っこで頭を打って、助けようとしたジョナサンともども沢に転落したようだ」
「あーそれでかぁ…」
佐伯先生から事の顛末を聞きながら、詩音は自分の後頭部にある違和感のもとに右手を伸ばす。
幾重にも重ねられたガーゼが包帯でぐるぐる巻きになって、どうにも大袈裟な状況になっているらしい。僅かに頭の後ろが妙なかたちに腫れている。
「立派なたんこぶだな」
「笑い事じゃないですよ、まだなんか変な感覚っていうか、触ると痛いし…」
「それでもだいぶ腫れが退いたほうだぞ?」
何はともあれ流血騒ぎにならなくて幸いだった。神楽の別荘地を到着して僅か数時間で血の海にするとか、もはや勇者を返上して狂戦士認定ものだ。
「彩乃も猛反省しているようだし、夢莉や樟葉たちも昨夜は心配で眠れなかったようだぞ? あまり皆に迷惑かけるなよ? と言いたいところだが…」
そこまで言ってから、佐伯先生はひとまず言葉を切った。改めて詩音と先生の視線が交錯する。
「無事で何よりだった。今回『も』お前が悪いわけじゃないし、到着早々とんだ災難だったな。本当にお前が無事で安心したよ」
気のせいか先生の言葉が少し涙声になっているように、詩音は感じた。まぁ、自分勝手な都合の良い解釈だとしても、とりあえずそう思っておいて損はない。
「あ、あの、私…、なんか言ってませんでしたか? なんだかとんでもないことを言ってたような気がするんですけど…」
頃合いを窺いつつ、詩音は核心めいた疑問を恐る恐る尋ねてみる。仕方ない。本人にははっきりとあの突拍子もない発言の記憶があるのだから。
「あー、そうだな。なんかひたすら『ありがとう、佐伯先生』と繰り返し呟いていたぞ?」
とぼけた表情で視線を逸らす佐伯先生の様子に、詩音は大きな違和感を覚えると同時に、その様子こそが記憶が事実であったことの確たる証明なのだと思い至る。
「…嘘つき…」
先生の耳には届かないような小声で詩音はぽつりと呟き、今後のことを思いながら深い溜め息をつく。
暫くの間をあけて、詩音は枕元のナースコールのスイッチを押した。
遥か遠くのほうでチャイムが鳴っているのがここまで響いてくる。
「いきなりどうした? 何処か痛いのか? 気分でも悪いのか?」
途端に血相を変えて詩音の顔を覗きこむ佐伯先生が不思議とおかしくて、つい詩音は奇妙な笑顔を浮かべてしまう。
「別に痛くないですよ」
「なら、どうして」
慌てる佐伯先生に微笑みながら、詩音はだんだんと頬を赤くして、恨みがましい視線で半睨みになる。
「もう、デリカシーがないですぅ! トイレですぅ、おしっこですぅ! 先生が連れて行ってくれますか?」
少し悪戯っぽくそう問いかけてみると、真剣な顔つきだった佐伯先生がその場で凍りついたように一瞬で固まる。
「あ、いや、それは…」
途端にうろたえ始める佐伯先生が更におかしくて、詩音はあははっ…と声を上げて笑いだす。油断していると、肝心の水門が決壊しそうだ。
「はい、西原さん、どうしましたか?」
カオスな空気に包まれた病室に、看護師さんの優しげな声が飛びこんできた。
午後の山荘のリビングに、時計の音だけが響いている。
一人掛けのソファーでなぜか正座の体勢になっている彩乃に、ウェリントン一家を除く面々が呆れた表情で尋問している。
もっとも別に彩乃ひとりを責めているわけではない。事ここに至る流れというものが知りたいだけの話である。
「つまり、詩音の兄ちゃんの声が、この山荘までの道を教えた、って話か?」
「そう、ボク自身も信じられないんだけど…」
涼太の問いに彩乃は答える。彩乃の説明はこうだ。
丸太橋からの転落でどうにか一人脱出に成功した彩乃だったが、すっかり山荘への方向を見失ってしまっていた。
とりあえず直感を頼りに歩を進めたものの、その進路に自信など持てなかった。
暫くすると、彩乃の耳に懐かしい男の子の声が聞こえてきた。その声に導かれるようにして、半信半疑のまま道なき道を抜けると、すぐ目の前にこの山荘があったのだという。
その頃には男の子の声はもう聞こえなくなっていたが、それが既に亡くなっている詩音の兄の声だと気付いたのは、樟葉に発見される直前だったらしい。
「初恋…だったんだよね、たぶん…。今にして思えば、ボクの初恋って、詩音のお兄さんだったんだなって…」
彩乃は自然とそう口にすることができた。
もちろん今までだって、別に皆に隠してきたわけではないのだが、すべては過去の話なのだから、改めて皆に何か相談することもありはしなかった。単に言い出すきっかけがなかっただけの話である。
もっとも、その兄のお陰で詩音と知り合い、今ここでこうしているわけだから、縁というものは侮れない。彩乃は改めてそう思う。
今はもう想い出の一部になってしまったし、謙佑という目下の最重要攻略目標ができたのだから、過去はもう想い出の中にしまっておこうと、彩乃は決心していたはずだった。
彩乃はほんの少しだけ寂しく思いながらも、前を向いて今を、未来を歩んでいくことにわだかまりなどはない。
「妹の…詩音の友達でいてくれてありがとう、みたいな感じかな。あのお兄ちゃんらしいわね。きっと彩乃に助けを呼んでもらいたかったのは、お兄ちゃんも同じだったってことよね…」
夢莉がそう話をまとめると、皆はそれぞれの仕種で賛成の意思を示す。
詩音と夢莉、涼太は幼稚園の頃からの幼馴染みだ。当然のように詩音の兄の存在も知っている、というより一緒に遊んでもらった記憶もそれなりにある。妹思いの優しい皆の『お兄ちゃん』だった。
「あるんかねぇ、死者の魂の助言なんて…」
涼太は唸りながら首を傾げる。
「あるわよ、きっと…」
美雅が珍しく口を挟んできた。きっと何か思い当たる節があるのだろう。
「遠く離れていても、大切な人の声は聞こえるものよ…。あっちの世界からでもきっと届くわ…」
「そういうもんかねぇ…」
「そういうものよ」
信じようとしない涼太の態度に、美雅は穏やかな口調のままで繰り返した。
「皆さん、先ほど佐伯先生から連絡があったそうです。詩音さんが無事に意識を取り戻したそうよ」
リビングの入り口で藤堂と立ち話をしていた樟葉が、皆を振り返ってそう声をかける。瞬間的にその場の全員の安堵の溜息がリビング全体を包みこんだ。
「無事で良かったけど、これじゃまるで『別荘の別荘』生活よね」
「偉く贅沢な暮らしじゃねぇか。詩音らしいっちゃ、らしいんだが」
夢莉の感想に涼太が同意する。
「あの、ボク、そろそろ正座やめていい、かな?」
彩乃がここぞとばかりに恩赦を要求する。
「誰もダメなんて言わないでしょ? ほら、さっさと立って、一緒に晩御飯の支度を手伝って貰うわよ、彩乃先輩!」
そう言って真っ先に反応したのは、あろうことか美雅だった。予想外の展開に彩乃が戸惑っていると、美雅はくるりと背を向けてリビングを後にしようと歩きはじめる。
「彩乃…先輩?」
彩乃は自分でもう一度反芻しながら、美雅の後ろ姿を呆然と見送る。
「先、行くから…」
それだけを言い残して美雅は去っていく。
唖然とした彩乃は暫しの沈黙の後、おもむろにソファーから立ち上がろうとして、情けない悲鳴を上げた。
「あっ、あっ、ああぅ! あし、あし…」
二人のやり取りを穏やかに見守っていたリビングの皆の視線が、みっともない姿勢でその場に崩れゆく彩乃の様子に注がれ、引き攣り笑顔で呆れた表情に変わっていった。
◇第三部「終わらない旅の向こう側」終◇
第四部も近日掲載開始の予定です
ここまでのご愛読ありがとうございました
引き続きよろしくお願いいたします
ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




