◇40 夢見心地の出来事
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇40 夢見心地の出来事
神楽の山荘を離れること数十分。距離にすればほんの二キロにも満たないだろう近さなのだが、辺りはかなり起伏の激しい土地柄である。少し山道を逸れれば、そこはうっそうとした森林と身の丈ほどもある高い草叢が広がっている。
真夏のじりじりとした太陽は既に大きく西へ傾き、辺りは次第に薄暗さを増していった。
まさか山荘から見渡せそうなこんな場所で遭難するような騒ぎを起こすとは、当の本人である詩音も思ってもいなかっただろう。自分の異常過ぎるトラブル遭遇率に呆れるほかない。
もっとも本人に意識があれば、の話ではあるが。
ほんのくだらないきっかけからお互いに意地を張りあった、彩乃と美雅に付き合わされる羽目になった他のメンバーだが、二班に別れて山小屋への往復競争に臨み、目標への先着を果たしたのは、彩乃、詩音、ジョナサンの三人組だった。
目的地の山小屋で暫く待ってみたものの、一向に現れる気配のない美雅たち四人との合流を諦め、彩乃チームの三人は再び帰り道を急ぐことにした。
そこまでは当人たちも拍子抜けするくらいに、極めて順調であったはずなのだ。
しかし、帰路の途中、勝利を確信し楽観的な雰囲気に包まれた彩乃たちは、窪地を渡る丸太橋から見事に転落し、あれよあれよという間に三人揃って窪地の底を流れる清流に飛び込む羽目になった。
清流といっても、沢とまでもいえないちょろちょろとした水が流れるだけのもので、かえって落下の衝撃はダイレクトに身体を直撃した。
最初に足を踏み外したのは恐らく先頭の彩乃なのだろうが、打ち所が悪かったのはむしろ後続の詩音のほうらしく、衝撃で頭を打ったのか気を失っているように見える。
一方のジョナサンも腰を強打しているようで、その場に立ち上がるだけでやっとという有り様だ。
窪地自体は深さ二メートルもない程度の、さして大袈裟なものではなかったのだが、溝になった周囲の急斜面は脆く、最も軽傷な身軽な彩乃でもなかなか脱出することができない。
「あわわ…」
何度目かの急斜面トライを続けていた彩乃の股下に潜り込むように、ジョナサンは肩車に似た姿勢をとって彩乃を押し上げる。
いくら散策用のキュロット姿であっても、予告なしに股下に潜られてはさすがに彩乃も驚きを隠せない表情で赤く頬を染める。
「い、いきなり何を…」
「あやぁのぅは先にホームに知らせに戻って! 皆を連れてきて!」
ジョナサンは詩音とともにこの場所に残るつもりなのだろう。確かに気を失ったままの詩音を放置するわけにもいかない。ましてや頭を打っている可能性があるなら尚更に警戒しておく必要がある。
「わかったよ、ボクがひとっ走り行ってくるから、二人で待っててね! すぐに戻ってくるから!」
意を決した彩乃がジョナサンの両肩に両足を乗せ、組体操のタワーのように急斜面を這い登る。
状況を窺おうとジョナサンが上を見上げると、泥だらけのキュロットとすらりとした細身の素足が必死にもがいていた。
「見るな!って言いたいけど、この際だから見てもいいよ、今更だし…。無事帰ったら、ランチ奢ってね!」
ああ、これがいわゆるフラグっていうやつか、と彩乃はどこか冷静にそう思いつつ、最後のもう一伸びを求めてジョナサンの頭を踏み台にする。
「ごめん、ウィンウィンってことで許して!」
力いっぱい容赦なく踏み台を蹴り飛ばして、彩乃はやっとのことで窪地の溝からの脱出に成功する。足下で少々嫌な音がしていたが、きっと気のせいだと彩乃は思うことにした。
一度振り返って辺りの様子を確認すると、意を決して彩乃はその場から駆けだした。
その時、詩音は夢を見ていた。もっとも、当人はそれが夢だとは自覚していない。
地に足の着いていない感覚で、ふわふわと暖かな温もりに包まれた空間に漂いながら、閉じていた瞼をゆっくりと開くと、そこには真っ白な世界が広がっていた。
遠くで誰かが詩音のことを呼んでいる。その声音は何処かで聞き覚えのある懐かしい感覚だった。
「お兄ちゃん…? お兄ちゃんなの…?」
思い至った相手のことを朧げな記憶の引き出しから持ち出して、詩音はそう問いかけてみる。が、返答が返ってくるでもない。
そもそもここが何処なのか、どうして自分がここにいるのか、それすらも疑問の只中だ。
もし詩音の想像通り声の主が兄ならば、詩音自身もまた死んでしまって…、つまりここはあの世ということになるのだろうか。
それにしては、あの世だというのに随分と殺風景なものだ。もう少しなんかこう…、色とりどりの花畑とか、澄んだ青空とか、幸せそうな小鳥たちとか、そんな誰もが思い描くわかりやすい情景は微塵もないのだ。詩音は訝しげに首を捻りながら、そんなことを考えていた。
となれば、ここはあの世までまだ行っていない、あの世とこの世の中間地点なのかもしれない。
たとえそうだとしても、辺り一面が真っ白な空間では、どちらに進めばいいか見当もつかず、下手に動き回れば、結局あの世へと辿り着きかねないのだが。
もちろん現時点ですら現実世界に帰れる保証はないし、そもそもどうしてこんな状況になっているのかさえ思い出せない。
先ほどとは違う方向から、また新たに詩音を呼ぶ声が聞こえる。
こちらもよく知っている声のような気がするし、何人かが声を重ねるように詩音に呼びかけている気もする。
いったい誰だろう? 記憶も時間感覚も曖昧で、現実感というものがまるでない。まぁ、現実世界にいるわけではないのだから、相応に然るべき状態なのかもしれないが。
詩音を呼ぶ声がさらに大きく、澄んだ響きとともに詩音の耳元をくすぐる。その声音は若い男の人のようで、不思議な響きはどういうわけか安堵を覚える温もりがあった。
その声に重なるように幾重もの男女の声がぼんやりと響く。遥か彼方からは相変わらずの兄の声も聞こえ続けていた。
詩音は薄々予感めいた閃きを感じていた。
恐らくどちらか片方を選ばなければならない。しかも詩音自身の意思で。
もうここにいる時点で、身体の痛みは感じない。もしかすると身体なんてとっくの昔に何処かにいってしまって、もはや残ってすらいないのかもしれない。ならば痛みがまるでないのも納得できるというものだ。
兄のほうを選んであの世とやらに行ってしまったとしても、これから更に苦痛があるわけではないのなら、それでも別に構わないかもしれない。
でも、もう一方には大勢の必死に詩音を呼び続ける人たちがいるみたいだし、心残りがないわけでもない。
それにしても、そこまで真剣になって詩音のことを、恐らく現実世界のほうに連れ戻そうとする人たちなんて、そんなにいたのかな…?とも考える。
まぁ多分、この場所では時間も流れてはいないような雰囲気だし、暫くここでじっくりと今後のことを考えるのもありかもしれない、と勝手な結論に達した詩音はゆっくりと再び目を瞑った。
しかし、気のせいだろうか、なぜか息が苦しい。
身体がないはずなのに、痛みも感じないはずなのに、呼吸だけが続かずに頭がぼぅーっとなって、視界がだんだん薄暗く、意識が次第に遠のいてくる。
―あぁ、これは考える暇とか、なかったってやつかな?―
そう悟りながら、詩音はそれでも兄に会えるならそれもありかもなぁ、と思ったりもする。
胸も何かに圧迫されるように、なんだかズキズキする。息が苦しいからか、喉も唇も渇いてやたらと熱をもって火照っている。身体のない意識だけの世界なのに、誰かに抱きしめられている感覚だけは伝わってくる。
詩音は胸と唇に交互に誰かの温もりを感じ、また再び抱きしめられる。何処の誰かは知らないけれど、もう少し優しく気を遣ってもらいたいものだ、と詩音は不満を抱く。こっちはまだ中二の乙女、しかもとりあえず怪我人なのだから、と。
―あ、あれ? 怪我人…? それって私のこと?―
ふとした疑問が詩音の心に湧き上がると同時に、抱きしめられた誰かの両腕に一層力が入るのが感じられた。
「詩…音…」
「は、はいっ!」
耳元で唐突にはっきりとした少年のような声が聞こえ、思わず反射的に詩音はそう返事を声に出し、驚きとともに飛び起きる。
詩音が改めて目を覚ましたその場所は、もはや真っ白な不思議空間などではなかった。
◇41 大捜索と大救出 に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
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第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
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