◇39 揺れる陽炎の向こうに
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇39 揺れる陽炎の向こうに
詩音たちの乗る新幹線が軽井沢の駅に到着し、重い荷物を引きずるようにだらだらと改札を抜けると、既に駅前の一角に出迎えのマイクロバスが停まっていた。
なにしろ大人数の上にこの大荷物である。普通のタクシーでどうにかするのは無理な話である。こうして出迎えてもらえるのは嬉しいが、何から何まで至れり尽くせりというのは、さすがに申し訳ない気持ちになる。
運転手の紳士は昨日一足先に神楽本家の屋敷を出たのだという。先日のスパルタ勉強会でも皆が世話になった人物で、いわゆる樟葉お付きの執事的な役割なのだろう。詩音たち庶民には想像のできない話である。
僅かばかりの繁華街となる市街地を抜け、辺りの景色がうっそうとした木々に包まれる頃には、標高もだいぶ高くなり、真夏の暑さも嘘のように和らいでくる。
軽く二十分近くは走っただろうか、道路が綺麗な舗装路から砂利道へと変わり、緑の自然発生的なトンネルを抜けて見えてくる風景こそ、目指す神楽本家の別荘の白い山荘である。
「おいおい、マジかぁ…」
今回も真っ先に反応したのは涼太だった。感動したように呟くが、独り言すら早くも言葉を失っている。
「ここと隣の丘が神楽の所有地になっております」
運転手の紳士は事も無げに説明する。屋敷の姿が見えてもまだ少々かかるというのが、これまた驚きだ。
詩音にとっても、別荘なんて夢の世界、ましてや貸別荘などではなく、辺り一面が自分のものだなどという生活は、想像すらつかない。
「私も来るのは久しぶりだけれど、建物の様子は大丈夫かしら?」
心配そうに問いかける樟葉の言葉に大きく頷いて、紳士は丁重に答える。
「さすがに年季は入っておりますが、造りが今のものとは根本的に違いますので、さほど問題になることもないかと。昨日のうちにウェリントンご夫妻と佐伯様、使用人二名で大方の清掃と点検は終わらせておきました」
紳士の口から唐突に飛び出した「佐伯様」という言葉に、詩音がぴくりと反応してしまう。
普段から魔王佐伯などと冗談交じりに言ってはいるが、確かに神楽の使用人からすれば、次期当主のお嬢様の恩師先生にあたるわけで、当然ながら客人の佐伯様となろう。
とすれば、詩音たち自身もお嬢様の御学友、後輩の皆様方という感じなのだろうか。なんだか大層な歓待過ぎてしっくりと来ない。
「そんなに堅苦しく構えないでいいわよ、藤堂さん。当主の娘が招いた重要な客人という感じでもないし、ウェリントン一家のついでに部屋を数室、友人に貸しているようなものなのだから」
樟葉はそう言うが、藤堂という紳士は首を振って否定する。
「ご当主様から、お嬢様のことは宜しく任せると直々に託っておりますので、そういうわけにも参りません」
「皆揃って過保護なのよね、まったく…」
そう言いながら、何処か嬉しそうに樟葉が笑う。
そして一行を乗せたマイクロバスは、白い山荘の玄関前へと滑るように緩やかに横付けされた。
外見は落ち着いた雰囲気の山荘であったが、ひとたび中に入ると想像以上にその広さが良くわかる。
感動のせいか、旅の疲れのせいか、それぞれが溜息交じりに一息つくと、樟葉が皆の尻を叩きつつ客室へと促す。
「ジョナサンたちは三階に、合宿のメンバーは二階にお願いね。食堂は一階で皆で頂くから、後ほど声をかけるわ。私の部屋も、皆には悪いけど一階に用意させて貰うわ」
もはや誰がRPG同好会の会長なのかわからない。詩音はすっかりお客様に成り下がってなすが儘に身を任せるほかなかった。
「お荷物をお持ちいたします。皆様は先にお部屋の割り当てをお願いします」
使用人の女性が二人、ベテランそうな年輩さんと若手っぽい美人さんが控え、皆にそう声をかけた。
「メイドに歓迎されるなんて、生まれて初めてだし…夢じゃねぇよな?」
「アキバでも行ったら良いんじゃ?」
涼太の感動に水を差すように、辛辣な美雅の呆れ声が重なる。
「そんなもんお前、一回行っただけでひと月分の小遣いが綺麗さっぱり消えちまうだろうが!」
「夢の実現にはお金がかかるもんなのよ」
それは美雅のご指摘のとおりである。些か納得はいかないが、とりあえず今はこの状況を心ゆくまで堪能しようと涼太は誓う。
「おう、皆遅かったな。久々に見るが、元気にしているか、詩音、彩乃」
そう声をかけながら、階段を降りてきた先発隊のウェリントン夫妻と、終業式以来久しぶりの再会となる佐伯先生が、笑顔で迎えてくれる。
目の前の佐伯先生は、普段学校で生徒たちに見せている、それなりにしゃきっとした格好ではなく、いい意味でラフな着こなしのスタイルで、まさにハイキングにでも来たような様子が新鮮だった。
「はいっ! いたって元気で問題なしですけど、毎日学校行ってないとなんか落ち着かないっていうか…」
そう答える詩音も笑顔を浮かべる。
当然、名目はRPG同好会の合宿ではあったが、そんなものは運動部じゃあるまいし、別に何処でやっても構わないわけで、更に言うなら合宿そのものの必要性すらない。
それでも何だかんだと理由をこねくり回して、こうしてはるばる伝説の避暑地までやってきたのだ。期待するなというほうが無理だろう。
さらに言うなら、詩音の知らぬところで彩乃がまた暗躍して妙なことを考えているようだし、不安と期待が詩音の胸を躍らせていたのは当然の成り行きだ。
「お前、そんなに学校好きだったのか? それは知らなかったな」
「いえいえ、先生、詩音のやつは毎日佐伯先生に叱られないと生きていけないんですよ。中毒?っていうか?」
意外そうに感心の表情を浮かべる佐伯先生に、彩乃がズバリと斬りこんでいく。
「叱られるのが生き甲斐って、お前なぁ…。まぁ、詩音らしくはあるのか?」
一転して呆れ顔になる佐伯先生を、他の皆が囲んで口々に挨拶を済ませる。
「よろしく、の言葉はこっちにじゃないだろう。樟葉、暫く大勢で迷惑をかけると思うが、よろしく頼むな…」
佐伯先生が改めて樟葉に向き直って頭を下げる。
「ちょ、いいですよ、そんな…」
教師に頭を下げられる生徒というものは、やはり不思議な光景である。詩音自身もこのところ、何度かそういう立場になったことがあるとはいえ、なんだか気まずい雰囲気なのは確かである。
「樟葉先輩、よろしくお願いします」
皆が声を揃えて頭を下げる。これではまるで、樟葉は合宿所のおばちゃんのようである。
「はい、こちらこそ。自宅だと思って寛いで頂戴ね。でも、外へ行ったら遭難しないように…」
樟葉がやれやれと返事を返すが、不穏な言葉に一同は互いの顔を見合わせた。
誰が先刻のそんな樟葉の冗談を本気に信じていたのだろう。既に日も暮れかかった頃合いになっても、詩音たちは山林をひたすら彷徨い続けていた。
ことの発端は例によって彩乃と美雅の些細な言い争いだった。火種の詳細については、詩音はよくわかっていない。
とにかく、この山荘から見える山小屋を目指してどちらが先に往復できるか、という本当にくだらない意地の張り合いが原因らしい。
それぞれのチームを編成して、詩音、彩乃、夢莉、涼太、美雅、ジョナサン、メアリーの七人を振り分けていった。地の利のある樟葉はお留守番だ。
結果、彩乃チームが詩音、ジョナサンの三人、美雅チームが夢莉、涼太、メアリーの四人という構成になった。
行きはそれぞれが無事到着したようで、僅かに彩乃チームの三人が先着したようだった。
―遅いよ、美雅、十分したら先帰るからね―
などというふにゃふにゃの走り書きのメモが、小屋の扉に張りつけてあった。
そう、そこまではかなり順調だったのだろうと思われる。
「まぁ、先を越されたものは仕方ないわね。美雅、さっきのあそこを下らずに行けば近いから、帰り道はそのほうが良いんじゃない?」
夢莉がお手製の地図を見ながらそう提案し、美雅も頷いて小休止をとる。
「りょうたぁー、元気ない? ゆぅ、たいあぁど?」
メアリーが涼太を心配する。何故かこのチームで一番疲労しているのが、どう見ても涼太である。
「大丈夫、これくらい何でもないって…」
今、夢莉の手にしているメモ書きのお手製地図は、献身的…というより、無理難題を代わりに引き受けた…というか命じられた涼太の活躍あってのものだ。
その結果、小屋への到着が若干遅れることにはなったが、そのぶん帰り道のルートは完璧だった。
「帰りは絶対こっちのほうが早く着くわね! 見てなさい、彩乃先輩!」
美雅が不敵な笑みを浮かべて自信を漲らせる。
「あんた、いつの間にか『白岡さん』が『彩乃先輩』になってるのね…」
夢莉がどうでもいいことに気づいた。
「ライバルに対する最低限の敬意、ってやつですね」
「敬意ねぇ…」
ドヤ顔で胸を張る美雅を呆れ顔で見つめる夢莉だった。
やがて、休息を終えた美雅チームの四人が小屋を後にしたころ、既に真夏の太陽も西に傾きつつあった。
一時間近くの散策を経て、美雅チームが山荘へと戻ってくると、心配そうな樟葉が安堵の表情で迎えてくれた。
「お帰りなさい、そっちが先に到着ね。無事で良かったわ。彩乃さんたちとは会えたの?」
「ただいまです。さすがに山道はきついですね。えーと、小屋に着いた時は行き違いで…先に戻ってるみたいでしたよ? 少なくても十分くらい早く出てると思います」
美雅は淡々と報告する。何はともあれ勝者なのだ。気分が悪いはずもない。
「とりあえず先にお風呂に入ってね。涼太君は申し訳ないけれど、暫く待って貰えるかしら?」
「レディファーストじゃあ、仕方ないですね」
そう返事をする涼太をさて置いて、樟葉に促された美雅チームの女子たちが、ワイワイと騒々しく廊下の奥へと消えていった。
それからかれこれ一時間が過ぎ、ようやく異変に気がつき始めたのは、お風呂上がりのほかほか状態となった夢莉だった。
「やっぱりマズいんじゃねぇのか、これってよぉ?」
涼太があからさまな動揺を見せて狼狽える。夢莉は、ふむ、とひとつ鼻を鳴らしただけだが、その表情は険しい。
「あたしたちより十分以上早くあっちを出た、ってことは、少なくとも二時間以上は彷徨ってるわね。無事にこっちに向かっていればいいけど…」
「探しに行くの? 私たちで? せっかくお風呂入ったのに…」
美雅は不満そうに言うが、それは本心からの言葉ではないだろう。
「もう少し待って帰って来なかったら、藤堂さんたち大人に探しに行って貰いましょう。日没までに見つかると良いのだけれど…」
樟葉はそう言って皆の意見をまとめた。
ここから先は時間との闘い、土地勘のない者がうろついてはかえって足手まといになりかねない。
「詩音のやつ、ほんとにリアルRPGをやらかすとはなぁ…」
涼太の冗談にささやかに笑う余裕が、まだこの時の皆にはあったのである。
◇40 夢見心地の出来事 に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
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