◇38 憧れの白い山荘
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇38 憧れの白い山荘
例えるなら、空中に緩みなく張られた一本の細い綱のように、そこまでとは行かずとも、狭く深い渓谷に架けられた一本の丸太橋のように、凡その左右と呼べる空間はそこにはない。ひとたび足を踏み外せば、そこに待ち受けるのは奈落という名の地獄である。
とはいえ、もし万が一に転落しても恐らくは命を落とすことはない。落とすのは、そう、落胆という心の問題だけである。
美雅はゆっくりと両手を広げ平均台の上でバランスをとると、静かに一歩を踏み出した。
本来なら観客の誰もが固唾をのんで静かに見守るべき状況だが、同時並行で他の種目の競技も行われている都合もあって、完全な静寂とは程遠い状況だ。
こうも騒々しいと、美雅が集中力を欠いたりはしないだろうか、と心配する詩音だったが、競技に挑む演技者当人には、もちろんそんな雑音など全く耳に入ってはいないのだろう。
二歩目を踏み出すとともに、美雅のしなやかな身体が大きく勢いよく前転の運動に入る。狭い平均台の上とは信じがたい光景だ。
いとも簡単に回転を終えた美雅の身体が、何事もなかったようにくるりと回れ右をする。今回転してきた道を静々と引き返し、元の位置に戻ると、次は背面回転をくるくると繰り返す。
二回転ほどで反対側の端に近づくと、片足立ちでバランスのポーズを幾度か披露する。
小柄でまだ子供体形に近いプロポーションの美雅ではあったが、のびのびとしたキレのある動きとその姿勢の良さに、周囲の観客も、もちろん詩音や彩乃までもが魅了されていった。
「ほえぇー」
言葉にならない意味不明の声を漏らしつつ、彩乃が一時も目を逸らさずに美雅の姿を見つめている。
もはやそれは、いわゆる恋敵に挑戦的な視線を送っているライバルの瞳ではなく、完全に魅了されてしまった熱狂的な観客の瞳だった。
暫く丁寧で可憐な技の数々を披露したのち、観客席からの声援に応えて、平均台のやや端から助走をつけた美雅は、ダイナミックなスピンを魅せつつマットの上に危なげなく着地し、緊張の面持ちで両手を掲げて制動姿勢のフィニッシュを迎えた。
次の瞬間、僅かな沈黙の時を打ち破り、割れんばかりの観客の拍手に包まれた美雅は、ようやく満面の微笑みを浮かべて小さくガッツポーズを見せた。
「凄ぇ…、なんじゃこりゃ…」
涼太が真っ先に感想を漏らすが、致命的に語彙力に欠けるどころか、殆ど言葉になっていない。
「びっくりだよ、こんなことって、人間にできるんだねぇ…」
運動も人並みに苦手な詩音が、涼太の言わんとすることを汲んで、同意の溜息をもらす。
「詩音の場合、目を瞑って真っ直ぐ前進!って言われるだけで、落っこちそうだしねぇ…」
「うーん…」
彩乃の冗談めいた指摘も否定できない。何もない道端で転ぶわ、時折電柱や看板に突撃をかますわ、そんな詩音なら、たとえ目を開けていても平均台から落ちるかもしれない。
「みーみぁー! ぶらぼぉー!」
メアリーが跳び跳ねながら身をのり出して力の限り手を振る。しかし、周囲の件層にかき消されて、その大きな声援も美雅の許へは届いていないようだ。
周囲の様子をゆっくりと見渡しながら、美雅は観客席全体に向けて手を振り返していた。
その後もお昼休みの休憩を挟んで、各学校の選手たちによる演技が長く続くことになったが、結論から言えば、予選はほぼ危なげのない形で余裕の通過となり、体操部の面々は、これでようやく晴れて正真正銘の夏休みへと突入することになった。
帰り際に詩音たちは、体操部の顧問であり、夢莉の担任でもある体育教師、水野先生にいきなり呼び止められて、きっちりとした謝罪と感謝の意を込めて深々と頭を下げられるなど、困惑する一幕もあった。
実のところ、詩音たちが思っている以上に学校側は戦々恐々としているのかもしれない。
取るに足りない問題とはいえ、スキャンダルであることに違いはないわけで、無事に体操部が活動できているのも、詩音たちのお陰といえなくもないのだ。まぁそれも済んだ話、いまさらという感じがしないでもないが。
別行動となる体操部の二人、夢莉と美雅と別れて再び帰路についた詩音たちだが、行きの仏頂面は何処へやら、彩乃は完全に体操競技の虜になっていた。
自分もやってみたい、ということではないようだが、どちらかといえば男子視線というか、カメラ小僧視線というか、あまり健全とはいえない方向性ではあるが。
先週に引き続き列車での帰路となった一同は、延々と沈まぬ夏の日差しを浴びながら、応援疲れの気だるさとともに列車に揺られていた。
「まさか、詩音よりも影響受けやすいやつがいるとはなぁ…」
涼太が彩乃の様子をちらりと一瞥して呆れたように呟く。
列車の中でもはしゃぎ回る子供のような彩乃の姿は目立つことこの上ない。休日でさほど混雑していないことが幸いだった。
「あー、まぁでも結果オーライっていうか? 二人の内輪揉めが収まってくれたら、私はそれで十分だよ」
詩音はそう言うものの、こうして涼太と並んで、興奮の限りを語る彩乃とメアリーの様子を見ていると、まるで我が子か…一歩間違えば孫娘を見ている老夫婦のような気分だった。
「お疲れ様です、うたぁねぃ、りょうたぁー。応援で疲れましたね? みーみぁーたちはもっと大変だった、ですね」
ジョナサンがそんな抜け殻と化した様子の詩音たちに声をかける。いつもエネルギー全開のメアリーを相手にしている兄だけに、この程度では動じないのだろう。
「まぁ、あれだ。兄弟も楽しんでくれたようで良かったぜ。まさか一家総出で来るとは思わなかったけどな…」
「招待してくれて、ありがとうでした。あー、うん、そう! ゆーりぃーは、私にとってアコガレ?のニホンガールなので、体操見られて良かったです。決勝も絶対見にいきたいですね!」
「決勝ってお前、確か代々木だぜ? 結構面倒だけどなぁ、しゃあないか…」
メアリーだけでなく、ジョナサンもすっかり体操競技に嵌ったようだ。果たして体操競技が凄いのか、夢莉や美雅が凄いのか、とにかく応援に来た甲斐はあったというものだろう。
だが、涼太は詩音と違うところに興味の矛先が向いているようだ。
「お前…、あーいうのが好みかぁー。まぁ、月とスッポンだったら、やっぱり月だよなぁ…」
涼太が詩音をちらりと見てそう言葉を続ける。些か慎重に、涼太にしては珍しく言葉をかなり吟味したうえでの発言であろう。
「私、スッポンなの? せめて比べるなら、狐と狸とか、キノコとタケノコとか…」
「ちょ、それはやめとけ、戦争になっちまうぞ?」
できれば戦争はしたくないなぁ、知ってるやつとは特になぁ。という現実と空想が複雑に重なり合った感情を涼太は抱くが、今のところは問題ないだろう。
三日後の朝、RPG同好会のメンバーたちは、毎度のように慌ただしく最寄駅から列車に乗り、都内を経由して新幹線に乗り換えると、ようやく一息つくことができた。
目指すは軽井沢、日本有数のリゾート、著名人御用達の豪華別荘地帯である。
初めての新幹線に興奮するメアリーとジョナサンだが、残念ながら車窓はあまりぱっとしない山岳地帯とトンネルの連続である。
機会があれば、東海道新幹線の旅に連れて行ってあげたいと詩音は思ったが、一般的な女子中学生の財力では、とてもそんな贅沢旅は望めない。
「ここまで来ておいて今更なんだけど、本当にあまり期待しないで頂戴ね。軽井沢とはいっても、本当に外れのほうなのよ。駅から結構遠いし…」
申し訳なさそうにそう語る樟葉の表情は今ひとつ冴えない。
軽井沢の外れのほう、奥のほう、という表現は正確ではない。むしろそちらが正当な由緒正しき軽井沢であって、後に道路が、鉄路が、高速道が、新幹線が、と度重なる交通手段の変遷を迎えて玄関口となった今の町場は、どちらかといえば、いわゆる新市街にあたるのだ。
ただ、新市街を中心に数多くのリゾート施設が充実し、商業的にも賑わいを見せるようになると、本来の軽井沢の町は勢いを失っていった。
とりわけ、バブル後の失われた何十年の時代には、旧来の名士と言われる地権者が財を失い、上流階級の行き届いた管理の手を離れた多くの土地や建物が荒廃し、不誠実な者たちの手に渡って、様々な問題を起こしたりもしていた。
神楽家のような名門同士の間柄でさえ、上流階級同士でのつまらぬ争いの一端として、別荘地の所在の優劣が話題に上るくらいである。
長く続く別荘地というのは、裏を返せば鄙びた環境であるとも言え、近代的で利便性に優れたリゾートに幻想を抱く若いセレブ気取りの連中からすれば、神楽家の別荘の佇まいとその立地は、相当に期待外れの代物に映るだろう。
「大丈夫、気にしないでいいですよ。この連中だったら、手頃な空き地とテントがあれば、一週間や十日くらい平気で生きていけますから」
夢莉はドヤ顔でそう答える。その表情は本気で実践RPGをやりかねない気合の入りかただ。
「あの辺も最近は時々、熊も出るらしいわよ?」
「クマぁ?」
それはさすがに予想外である。皆が一斉に声を合わせて叫ぶ。
「しぃ-っ! 他の人もいるのですから、お静かに…」
すみません、と咄嗟に口元を押さえた一同は、周囲をきょろきょろと見まわして、声を潜めた。
「まぁ、クマの一人や二人、勇者詩音がさくさく退治してくれるでしょ!」
「無理だよぅ、金太郎じゃないし…」
彩乃の冗談に詩音が真顔で応える。彩乃の性格からして、もし本物の熊に出会っても、脚の竦んだ詩音のことなど放置で、真っ先に逃げ出すだろう。
「そもそも何で熊が一人二人なのよ、匹でしょ普通…」
夢莉も彩乃にツッコミを入れ、夢莉のチョップが彩乃のつむじにクリーンヒットする。
「ぐはっ! クマより強い…」
「日本語、数、難しい、ですね…」
そんなやり取りを見ながら、ジョナサンが笑いながら考え込んでいる。
「軽井沢、かぁ…」
和気あいあいの皆と離れて、独りぼんやりと車窓を眺めていた美雅は、目を伏せ気味の表情を浮かべて、誰にともなくそう呟く。
そう、それは美雅にとっては大切な幼き日の記憶。父と母が争わずにいた頃の朧げな幸福の日々…。
「今度もまた元気に楽しく戻ってきたわよ…」
◇39 揺れる陽炎の向こうに に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




