◇37 きらめく二人の競演
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇37 きらめく二人の競演
県立体育館の競技場、満席に満たした観客たちの手拍子に招かれるように、すらりとした黒髪の少女がひとつ大きく深呼吸をする。
ゆっくりと観客席を見渡して、明るい笑顔を浮かべると、真剣な眼差しに戻りながら頷いて、右手を掲げる。
そして競技場のエリアの端から軽やかに駆け出すと、そのしなやかな四肢がリズミカルに宙を舞い踊る。
黒のレオタードに包まれた夢莉の姿は、まさに妖精のように多くの観客を魅了しつつ、鮮やかな軌跡を描いて自由自在に宙を駆け巡る。
その光景に、観客席からは感嘆の溜息ともどよめきともいえない声が上がる。
夢莉自身は全くそれを意に返さぬような様子で、凛とした表情を崩さぬまま、時折余裕の微笑みを覗かせつつ、床運動の演技を続けていた。
やがて一段と大きくなった手拍子に促されて、力いっぱいに床を蹴った夢莉の身体は、一見では理解しがたい不思議な軌道を描いて、複雑な回転とともに着地する。
その瞬間、手拍子は割れんばかりの盛大な拍手へと変わり、歓声と口笛のような称賛の騒めきに会場全体が包まれていった。
息を整えながらうんうんと納得の頷きを繰り返す夢莉は、すぐに視線を観客席に向け、とびきりの笑顔で大きく手を振って応えた。
あれから一週間があっという間に過ぎても、相変わらず彩乃と美雅の冷戦状態は続いているようだった。
しかし、一方の当事者である彩乃自身の関心は、既に詩音をどうやって佐伯先生とくっつけるか、という新たな作戦に移っていた。
詩音にとってはどうにも納得の行かない展開だが、とりあえず穏便に二人の緊張状態を脱することになるのなら、あえて自身に降りかかる火の粉を振り払う必要もないだろう、とは感じていた。
先週のRPGイベントに参加した謙佑以外の面々に加え、新たに樟葉とウェリントン一家の四人を加えた大所帯は、県の複合スポーツ施設の体育館に集まり、お目当ての選手たち、つまり夢莉と美雅の登場を待ちわびていた。
中学生体操競技大会の県予選である。
どうしてこの夏休み真っ盛りの時期に…とも思うが、その変則的な日程のおかげで、夢莉の怪我の回復も、美雅の謹慎の解除も、ともに果たすことができたのだから、二人にとっては、いや他の体操部員にとっても幸運だったといえるだろう。
親友であり幼馴染みであり、RPG同好会の会長である詩音でさえ、うっかりすると忘れがちなことだが、夢莉と美雅は今もなお正式に体操部の所属であった。
二人とも経緯や動機はともかくとして、RPG同好会の貴重なメンバーに変わりはないのだが、どちらかといえばそれは副業のようなものだ。もちろん学生である以上は、学業こそがそもそもの本業ではあるのだが。
「懐かしいわねー。あたしも学生の頃は体操やっていたのよ…。もっとこうプロポーションだって、ビシッと引き締まっていたしね…」
「えぇー!」
学生時代に戻ったように興奮に満ちた表情のリンダが語りだすと、皆が一斉に驚きの声を上げて視線を集中させる。
「そうなんですか、ぜひ見てみたかったです」
今現在の外見でさえ、それなりの年齢の子供が二人もいるとは思えないほど、均整のとれたスタイルをしている。早くもおばちゃん体形に突入しつつある詩音の母とは大違いだ、と身内に厳しい評価をしつつ、詩音は答える。
「…でもさぁ、なんでボクがあの山科って子を応援しなきゃいけないわけぇ? お互い冷戦中の敵陣営みたいなもんじゃん…」
「あら、冷戦中でもオリンピックやワールドカップでは、それなりに正々堂々競い合っていたはずよ?」
「ボイコットだってあったじゃん!」
樟葉のもっともな指摘を跳ねのけて、不貞腐れた唸り声をあげる彩乃だった。
彩乃としても、今日は夢莉の応援なのだと割り切ってしまえばさほど問題にはならないのだろうが、どうしても目下の恋敵の様子は気にかかるということなのだろう。
「ま、考えようによっちゃあ、お前と美雅の二人でペア競技…とかじゃなくて良かったぜ。そうなりゃ地獄ってもんだろ?」
「うー…」
先週、架空の世界のこととはいえ、辺り一面を灰燼に帰した恐怖の魔女二人なので、涼太の指摘ももっともなところだろう。
「夢莉、脚、大丈夫かなぁ…」
落ち着きのないツインテールを揺らしながらぽつりと呟く詩音を、涼太が豪快に笑い飛ばす。
「大丈夫、大丈夫! 詩音は気にし過ぎだぜ? さっきの床だって平気だっただろ? 夢莉のやつは、誰かさんと違って無理無謀な見切り発車はしないからな。絶対に行ける!っていう自信がなきゃ、たぶん辞退してるだろうよ」
「だといいけど…」
とはいえ、この大会に出るにあたって、夢莉は出場種目を減らして臨んでいた。やはり全力を完璧に出し切るというのは、多少の不安があるのだろう。
そして、その代理を務めるのが後輩の美雅なのである。彼女もまた、憧れの先輩の代役で、一年生からの大抜擢という栄誉を手に入れたわけだ。
「夢莉さんたち、出てきたわね…。うちの体操部はそれなりに中堅上位の一角みたいな感じだから、予選はそれ程問題ないと思うけれど…」
樟葉がそう解説しながら、館内の演技場に姿を現した体操部員たちに視線を送る。詩音たちとウェリントン一家の熱い眼差しも、それに倣って競技場の夢莉と美雅たちに注がれる。
「頑張れ、夢莉ぃー!」
「リラックス、リラックスぅー!」
詩音たちから少し離れた応援席の一角から、男女の応援の掛け声が上がった。
「夢莉さんのご両親かしら?」
「そうですね、ずっと幼馴染みって感じなんで、私も涼ちゃんも良く可愛がってもらってるんですよ」
樟葉の口にした疑問に詩音が頷く。
「まぁ、俺の場合はお隣っていうか、向かいの家なんで、近所付き合いどころか、叫べばお互い飛んでくるって感じですよ」
「じゃあ、応援も初めてじゃないのね。私は初めて来たわ、競技会とか…」
樟葉が少し興奮気味に話を続ける。
図書委員であるインドア派の樟葉にとって、発表会や展示会というのは、絵画や書道、写真や音楽、舞台や映画など、マイペースに静かに鑑賞するものばかりだった。
スポーツの応援経験もないわけではないが、殆どがモニター越しのテレビ観戦なので、直接現場で声を出す機会などは、せいぜい学校の運動会くらいのものだった。
「また今日も、山科さんのお家の人、来てないのかな…」
誰にともなくぽつりと消え入るように詩音が呟く。
先日の踏切の騒動でも、美雅の家族は誰ひとりとして病室を訪れなかった。
夢莉は家庭の事情だろうと言っていたが、娘の晴れ舞台くらいは見に来てもらいたいと願った。あくまで他所の家庭の複雑な事情なのはわかってはいるが。
澄んだ女声の場内アナウンスが、各競技種目の出場選手たちを学校名や学年とともに紹介していく。
余裕の笑みを浮かべる者、緊張に固まった表情の者、落ち着きのない素振りで手足を動かし続ける者、皆それぞれの様子で紹介と拍手を受けていく。
夢莉はどちらかといえば余裕のあるほうだろう。名前を呼ばれると手を振って応えている。
対照的に名前を呼ばれた途端に、びくっと大きく飛び跳ねそうな反応をみせたのが、初出場の美雅である。
「大丈夫、山科さーん! 頑張れぇー、皆見てるよぉー!」
詩音が精一杯に背伸びをしつつ、声の限りエールを送る。美雅の許まで届くかどうかはわからないが、今自分にできることは、ありったけの力で声援を送ることだけだと思った。
「いつもの不敵な負けん気、見せてみろぉー!」
「失敗したらライバル失格だからねぇー!」
涼太と彩乃が喚くような声援を送る。まるで甲子園の応援席のようだ。
「みーみぁー! ふぁいっ!」
「ゆーりぃー、床、良かったですよー!」
今まで沈黙を続けていたメアリーとジョナサンも声を上げる。ジョナサンはもうすぐ美雅の同級生になるわけだし、応援のしがいもあるだろう。
詩音たちの騒々しい応援の声が届いたのか、美雅は一瞬目を丸くしてこちらに視線を送ると、珍しくはにかんだように小さく右手を上げて応えてくれた。
ひと通りの出場選手紹介が終わると、すぐに美雅の出番の競技、平行棒が待っている。
夢莉と美雅の二人が固く握手を交わして、お互いの健闘を祈り、誓い合う。
RPG同好会の絡みではいろいろと因縁の関係だが、体操部に関しては純粋に仲間であり、先輩と後輩であり、そして競い合う関係でもあった。
詩音はそんな二人に視線を投げかけつつ、なんだか微笑ましいような、少し羨ましいような、複雑な思いを抱いていた。
◇38 憧れの白い山荘 に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




