◇35 荊の路の道しるべ
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇35 荊の路の道しるべ
帰りの列車に揺られながら、再び大きな溜め息をつく詩音だった。
向かい側の七人掛けロングシートのあっちとこっちの端っこに、彩乃と美雅が陣取り、中央の謙佑にちらりちらりと視線を送る。
二人の視線は、まるで何かで測ったかのように絶妙のタイミングでずらされ、お互いの視線がぶつかりあうことはない。
ゲームマスターを務めた謙佑の話によると、美少年貴族の依頼で魔物退治に行くお約束の展開だったが、止めを刺した者がパーティの代表となって報告するということになったようだ。
彩乃と美雅の二人が選んだのは揃って魔法使いであり、最終局面でお互い譲ることなく最大魔法の奥義を炸裂させたとき、よりにもよって双方がファンブル、つまり大失敗を起こし、辺り一面が消し飛んだ…ということらしい。
当然パーティは壊滅し、敵と一緒に味方も全滅させるという結末を迎え、その世界の大局的には平和が戻ったはずだが、プレイヤー同士で揉めに揉めたという話だ。
マスター権限で瀕死の状態で留めようとした謙佑に対して、ご都合主義にせずルールを厳格に適用するべきだ、とプレイヤーの一人が言い出し、別のプレイヤーは長く育ててきたキャラクターの退場は納得できない、と抗議した。
散々ああでもない、こうでもないと揉めた挙句、謙佑の出した結論は「今までの事は全て夢でした」という、ある意味無難すぎる、そして身も蓋もないものだった。
もちろん反対意見も上がったが、これ以上に巧みな解決方法など思いつくはずもなく、強引にそういうことに落ち着いた。
なお、そこから先は、全滅容認派の美雅と瀕死状態派の彩乃による、場外乱闘延長戦が繰り広げられて今に至っている。
詩音のテーブルの小さな揉め事がいかに可愛いものだったか、ということを痛感する。RPGとはなんと奥深く、そして面倒な趣味なのだろう。
「ところで、夢莉たちはどうだったの?」
詩音は気分転換を図るため、隣に座る夢莉と涼太に時代劇RPGの様子について尋ねてみた。
「あー、こいつ、越後のナントカ問屋の爺さんにナンパされてよ、一緒に旅に出ませんか? とか…」
「えっ?」
いきなりそう来るか! と詩音が驚きの表情を浮かべるが、夢莉が話の続きを引き継いだ。
「あたしは新さん一筋だから、江戸を離れるわけにはいかないよ! って断ったけどね」
「新さん…」
詩音がますますあんぐりと大きな口を開ける。思わず列車の中にいることすら忘れてしまっていた。
「新さんと、金さんと、それから…桃さん! 三人とも風来坊してるんだってさ…」
設定を聞いただけでツッコミどころ満載で面白そうではある。しかし、その話に収拾はつくのだろうか、些か疑問でもあった。
「で、涼ちゃんは? お侍さん?」
詩音の質問に、涼太は暫く迷ったように口が重かったが、やがて観念したようにぽつりと呟くように口を開いた。
「…もんど」
「モンド? 異人さん?」
「違う違う!」
夢莉がプレイ中の光景を思い出したように、吹き出しながら答える。
「こいつ所帯持ちで、奥さんと姑さんに頭が上がらないの。二言目には『婿殿!』って…」
「あー…」
そういえば、瞬殺だか爆殺だかという有名なシリーズに、そんな感じの人がいたような気がする。
「うっさいわ!」
それにしても何という素晴らしい配役だろう。詩音の頭の中にも、涼太のプレイの様子が手に取るように思い浮かぶ。
「夢莉は?」
「人呼んで、流れ星お香!」
唐突に胸を張った夢莉は、高らかに名乗りを上げる。
ドヤ顔とはこういうものを言うんだろうなぁ、と詩音が引き攣りながら苦笑いで応える。
どうやらこっちは隠密同心のようだ。確か昭和の昔の時代劇で、詩音の祖父もよく見ていた記憶がある。
「そのシナリオ、なんていうか、悪人に同情しちゃうよ…」
まさにオールスターでボコボコである。どんな悪党かは知らないが、もはや二度と悪事は働くまい。いや、働けまい…。
列車の右と左で極めて対照的な温度差を生みながら、一行は一路いつもの地元駅を目指して列車に揺られていった。
「いい加減、二人とも機嫌直しなさいよ…」
地元駅、つまり学校の最寄り駅が近づいた頃、彩乃と美雅の二人を交互に眺めながら、呆れ顔の夢莉が声をかける。
時間帯は夕方近くに差しかかり、日曜日とはいえ多少利用客も増えてくる頃合いだ。僅かに立ち客も目につくようになってきている。
それでも相変わらずの二人は冷戦状態のままだ。そして恐らく、このままの状況は夏合宿まで延々と続くことになるのだろう。
幸か不幸か、学校行事という建前上、揉め事の争点である謙佑が不参加なのは助かるが。
「あたしたちはこのまま乗ってっちゃうから、悪いけど詩音、あとはよろしくね!」
「はぁ…」
よろしくと言われても詩音にできることは多くない。彩乃の愚痴をとことん聞いてやるくらいだ。応援すると言ってしまった以上、詩音にも一種の連帯責任のような意識はある。
「頑張れ、会長殿!」
無責任な涼太も追い打ちをかける。結局、今日一番美味しい思いをしたのは、実は涼太じゃないか、と少し不服に思う詩音だった。
程なくして、足元の大きなスポーツバッグを掴んだ謙佑が立ち上がったのと同時に、列車はいつもの駅のホームへと滑りこんだ。
その晩、詩音はお風呂と夕飯の時間を除いた殆どを、彩乃の大ブーイング大会に付き合う羽目になった。
しかし、考えてみればおかしな話だ。
そもそも美雅の我儘が発端で突然、RPGのイベントに参加することになったわけなのだから、付き合わされたのは寧ろ詩音たちのほうなのだ。
そのうえ、こうして彩乃の盛大な愚痴を延々聞かされているというのは、かなり理不尽といえる。
ぐるぐると不定期にループを繰り返すご意見ご感想を、不明瞭な相槌とともに半分流しながら聞いていた詩音だが、時折その矛先が詩音に対しても向いてくるので油断ならない。
要するに、真剣な中学生の乙女心を謙ちゃんはまるでわかってない! 美雅の誘惑なんかに乗らないで、ガツンと言ってやるべき! といった内容である。
彩乃としてはもう既に確定済みの正妻の座、といった感じなのだろうが、実際にはまだ何も始まってすらいないはずで、それ故に正妻の余裕などありはしない。
それを指摘するのは藪蛇というか、そこは武士の情け、いや、勇者の情けで放置するのが常套だろう。
「だいたい詩音だって、何か具体的にアクション起こしてるわけじゃないじゃん…。ボク以上にハードル高いっていうのにさ…」
それは頼むから言わないでほしい、というのが詩音の本音だ。もはや乾いた笑いしか紡ぎようがない。
「私だって、なんていうか…私なりに? 頑張ってはいるんだよ…」
精一杯の反論を試みる詩音だったが、彩乃はここぞとばかりに反撃に転ずる。
「せっかく夏休みなんだし、合宿もあるんだし、一気に詰めるチャンスじゃん! ボクの話よりそっちのほうが大事だよ!」
「あー、まぁ、うーん…」
「この部活っていうか、同好会だって半分以上、佐伯センセにアプローチするきっかけっていうか、口実っていうかだったわけじゃん? ここまでお膳立てされて何もなし、っていうんじゃ…」
彩乃の言いたいことはわかる。
以前からRPGの知識があった彩乃はともかく、体操部の夢莉や帰宅部の涼太まで幼馴染みのよしみでつき合わされているわけだし、先輩の樟葉にいたっては強引な巻き込み事故のような形で参加している。
樟葉のお陰でジョナサンたち兄妹―当面は兄だけだが―も加わり、下級生の美雅のお目当ては謙佑なのだから、同好会への参加はもののついでに過ぎないだろう。
実際、このRPG同好会が無くなったとして、とりあえず困るのは、佐伯先生との接点が減る詩音だけなのは紛れもない事実である。
「よし、決定ぇ!」
「え、いったい何が…?」
唐突の彩乃の決定宣言に戸惑う詩音にはお構いなく、彩乃の言葉は更に続く。
「勇者詩音よ、夏合宿での魔王佐伯に対する積極的全面攻勢を命ずる!」
「はぁっ?」
何を言い出すかと思えば、えらく突拍子もないことを思いついたものだ。詩音としても、素直にはいそうですか、と承諾するわけにはいかない。
「何、勝手な…」
「大丈夫、何も案ずることはない…我らに策がある。安心してその身を委ねるがいい! あーはっはっは…!」
スマホから駄々洩れてくる彩乃の高笑いを聞いていると、いったい誰が本当の魔王なのかと疑いたくもなる。
「というわけで、そんじゃあ、まったねー!」
こうして散々好き放題暴れまわった暴君彩乃は、詩音の返事を待たずに一方的に通話を切った。
ぽつりと取り残されたように自室で呆然と放心する詩音は、何でこうなったのかと結論の出るはずのない自問自答を、暫くの間繰り返していた。
◇36 幕間の舞台袖 に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




