◇33 自分にとっての最適解
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇33 自分にとっての最適解
三日後、ボビーやメイスンの暗躍もあり、事件の首謀者と思われるゴーダ一家の構成員の始末も終わったころ、町外れの川岸で少年の亡骸が発見された。
少年の名前はジェイミーといった。
自宅でもあるバリアの邸宅で、優雅に午後のコーヒーを楽しむエルザの許にも、その悲報は程なく届けられた。、
表情ひとつ変えぬドロシーから淡々と報告をうけたエルザは、彼女の分も引き受けるかのように血相を変えて、テーブルを叩き立ち上がる。
「どういうことなの? 誰も監視はついていなかったっていうの?」
「お気持ちは察しますが、犯人の処分も終わった今、当方としては彼をどうこうする必要も、義理もないかと…」
ドロシーは当然の事実を口にする。当たり前の話だ。
組織の運営は慈善事業ではない。小娘一人の同情や気まぐれで、少年一人に割いている時間も人手もありはしない。
「本当にうちの連中は関わっていないのね?」
「勿論です」
エルザは改めてゆっくりと腰を下ろすと、ドロシーにコーヒーを淹れなおすように命じて、溜息交じりに窓の外に視線を投げる。
初秋の空は澄み渡って高く蒼く、一点の雲すら見うけられない。いわゆる日本晴れ…アメリカでは果たして何というのだろう。
翌日の午後、もやもやした気分を引きずったままのエルザは、いつもの噴水広場でモーリスの姿を探していた。
いつもであれば、この時間はこの辺りで、街頭の似顔絵描きや街並みのスケッチをしているはずなのだが、暫く捜し歩いてもモーリスの姿は見つけられなかった。
不安に駆られながら辺りを窺うと、ポップコーンのワゴンの脇で少女がこちらに手を振っているのが見えた。
ゆっくりと少女に近づくと、そばかすだらけの顔をにこにこと輝かせて、彼女はエルザに一通の手紙と、まだ暖かなポップコーンのカップを差し出してきた。
「いつもの画家の兄ちゃんから預かったんだ。チップも貰ってるから、ポップコーンはサービスしとくよ! 味が気に入ったら、今度は自腹でよろしくね」
「モーリスから? ありがとう、いただくわね…」
エルザは感謝の言葉を伝えて、いつもの花壇の淵に腰を下ろした。
暫しの躊躇の時間の後、覚悟を決めたエルザは、大きく深呼吸をすると手紙の封を開いた。
『親愛なるエルザへ
この手紙を君が読んでいる頃、僕は既にこの世にいないかもしれない。
でも、自分の決断に後悔はしていない。だからどうか君も理解してほしい。
昨日、弟が亡くなった。
信じ難いことに、裏社会の連中に襲われたらしい。
数日前にバリア一家とかいうあまり良い噂のない組織に、追い回されていたという目撃談もある。
確かに孤児院上がりのその日暮らしな生活だが、弟は何も悪事を…悪い連中の邪魔を働くような人間じゃない。
それに孤児院育ちのその日暮らしなら、僕も一緒だ。
君に打ち明けるのが最後の最後になってしまって申し訳ない。
とにかく僕はそういう身の上で、残念ながら君とは到底釣り合いそうもない。
ところで幸運にも、ちょうどバリア一家のボスが、とある病院に入院していると聞いた。
これから彼のところに話を聞きに行ってみようと思う。
さすがにマフィアのアジトに押しかける度胸はないから、彼と穏便に話ができれば助かる。
もし次に君に再び会うことができたら、ぜひ渡したいものがあるから、幸運が続くことを祈ってほしい。
エルザ、どうか健やかに…』
手紙を読み終えるや否や、エルザは跳びはねるように立ち上がり、手元のポップコーンのカップを盛大にひっくり返す。
何も知らぬ鳩の群れが幸運な餌のおこぼれに群がるのを気にせず、エルザはポップコーン売りの少女を目指して駆けだした。
呆然とした表情でテーブルに両手をついて固まっている詩音を、他のプレイヤーたちがじっと無言で見つめている。
暫くの沈黙の後、重苦しい空気を破ったのは詩音ではなかった。
「大丈夫かしら? ちょっと展開が厳しすぎたかな?」
ゲームマスター、つまり物語の進行役、語り部の環の心配そうな表情が、その場の皆の心境を代弁していた。
「大丈夫、です…」
「それならいいけど…」
そんな二人のやり取りに口を挟んだのは、ボビー役の男性だった。
「まぁ、マフィアとかギャングとかの世界じゃ当たり前だからなぁ。厳しいって程じゃないでしょ。だいたい、あのガキを開放した段階で、生きた証拠を相手の組織が放っておくわけないんだし、何も手を出すなって念押しされちゃ、放っておくしかないしなぁ。どっちに転んでも助からんと思うわ…」
その通りなのだ、と詩音も思う。ジェイミーには命を狙われるに十分な理由があるのだ。
ならば、いっそあのまま倉庫に閉じ込めておくほうが安全ではなかったのか。彼を囮に黒幕を引っ張りだそう、などと余計なことは考えずに…。
しかし、そもそもそういうことではない。ミスターボビーと詩音のものの考え方、捉え方の溝は想像以上に深かった。
ミスターボビーはこの物語、つまりシナリオをゲームだと考えていた。そう、それは間違いではない。
どんなに高尚な理由をつけようとも、RPGというものがロールプレイングゲームという名であるように、所詮は何処までいってもゲームに他ならない。
ゲームであるなら、その場に提示された条件下で、いかに効率よく目的を達成するかが勝負になってくる。
その目的が、ボビー自身の生き残りと出世であり、ゴーダ一家に勝利しバリア一家を繁栄させることにあるならば、他の枝葉は彼にとっては蛇足以外の何物でもない。
殊にマフィアだギャングだヤクザだという世界の話であれば、この考え方が最適解ともいえるだろう。
下手な人情に流されて、明日という日が拝めないなど論外にも程があった。
それでも、詩音の考えは違った。
詩音は考える。
エルザはその世界に生きている人間だ。確かに空想の産物ではあるが、その世界において血肉を持ち、感情と思考を抱く生きた人間に他ならない。
ならば当然、エルザは彼女自身が思った通りの行動を起こし、その行く末に一喜一憂することだろう。たとえその決断が誤りであったとしても、だ。
だからエルザの苦悩は詩音の苦悩であり、詩音が受け入れなければならない苦悩であるはずだ。
詩音にとっては、というより、詩音の周りのRPG同好会の殆どがそういう感情を抱いてRPGというものを楽しんでいる。
楽しんでいる、というのも正確な心境ではないかもしれない。
時に苦悩し、悲しみ、嘆きながらも、もう一人の自分に自分自身を重ねてその体験を味わう。そこには勝ち負けなど存在しないのだ、と詩音は思う。
それこそがRPGの楽しみ方の正解だ、とも言うつもりはない。すべては人それぞれだろう。それは詩音自身も漠然と理解しているつもりだ。
「そうは言うけど、せっかくエルザのお陰でお話が活きてきたんだから、エルザはエルザらしく、で良いんじゃない?」
ミスドロシーが中立的な言葉で間に立ってくれる。普段の彼女は、ドロシーの役柄以上に周囲に気を遣える穏やかな性格のようだった。
「で、エルザはポップコーン売りに何かしたいことがあるのよね?」
そう環に促されて、詩音は物語の世界に戻る。
「あ、はい、モーリスがいつ頃来たのか聞いてみたいです」
うんうんと頷いて、環は淡々とシナリオを進めていく。
「すると、彼女は微笑んでこういうのよね。『うーん、お昼過ぎてすぐだったかしら…。そういえば、フラワーアレンジメントの綺麗な箱を大事そうにしていたけど、あれって…あなたへのプレゼントじゃなかったの?』」
「はぁあー?」
「ヤバいんじゃないの、それって!」
ますます蒼くなった顔で目を丸くする詩音に代わって、他のプレイヤーたちが騒めき立つ。たった一人、モーリス役の女性を除いて…。
「とにかく、お父様のところ…病院に向かいます!」
詩音がそう宣言すると、他のプレイヤーも便乗する。
「お嬢から連絡を受けたってことで、俺たちも向かっていいですか?」
「エルザが良ければ別に構わないわよ?」
環が詩音に視線を送りながらそう答える。
ボビーやメイスン、そしてドロシーにとっても、第一なのはバリア一家という組織の事情だ。ボスの命が危ういとなれば、迷わずに相手を手にかけるだろう。たとえそれが一般人、そしてエルザの想い人であったとしてもだ。
しかし、彼らが守るべき相手は、エルザにとって実の父親でもあるのだ。
詩音は暫しの間躊躇して、そして決断する。
「よろしくお願いします」
「それじゃあ、皆マシウスの病室に向かうのね。さて、場面変わって、その病院内、モーリスが来たところから…」
◇34 正解のない答え探し に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




