◇32 正しい茶番劇の作法
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
□道脇 環
RPG雑誌月刊TTMの編集部員で、謙佑の先輩。気さくなゴスロリ美女だが、実態は謎の多き人物。
◇32 正しい茶番劇の作法
町の片隅の噴水広場。初秋の優しげな風にスカートの裾を流しながら、エルザは花壇の淵の赤レンガに腰を下ろしていた。
その頬には僅かな朱が差し、期待と恥じらいの狭間で揺れ動く女心を覗かせる。
彼女の前では、簡素な折り畳み椅子に座った青年が、じっと無言のままエルザの表情を見つめては、時折視線を落として手元のパネルに筆を走らせている。
二人の間には何も会話は要らず、見つめ合えばそれだけで互いの心は満たされていくのだった。
近くの教会の鐘楼が午後三時の鐘を響かせた頃、広場に面した通りの一角からエルザを呼ぶ女性の声が聞こえてきた。
エルザは声の方向に向き直り、そこにいる侍女服姿の女性に見えるように、自身の唇に人差し指を当てる。
単に黙るように促すゼスチュアだが、捉えようによっては、良いところだから邪魔をするな、とも取れなくもない。
「ごめんなさい、モーリス。私、そろそろ行かないと…」
エルザはゆっくりと花壇から立ち上がると、目の前の画家の卵、モーリスに申し訳なさそうに声をかけた。
「…そっか、今日は筆がのってたからちょっと残念だけど、仕方ないね。また会えるよね? エルザ…」
穏やかな笑みを浮かべながら、名残惜しそうにモーリスはそう答える。
「もちろん、すぐに会いに来るわ。私、結構この場所、気に入ってるの!」
「僕は、気に入ってる?」
悪戯っぽく問いかけるモーリスの問いに、エルザは意地悪な微笑みを返す。
「さぁ、どうかしらね? ミーガンさんのお店もお気に入りだし、そうね、たぶん三本指…ううん、五本指くらいには入ってるかも?」
「それじゃあ、まだまだだな…」
エルザはそっとモーリスを抱きしめると、ぽんぽんとその背中を叩いた。
「そうね、頑張って早く一番になってくれないと、先にお婆ちゃんになっちゃうかも」
「そりゃあ、困る…。でも、最近はちょっとした仕事を回して貰って、少しは稼げそうなんだ。早く一人前にならないとね」
そんな二人のやり取りを遠目に見ていた侍女服の女性が、呆れたように大きく溜息をつく。その吐息がエルザの耳元まで届きそうな勢いだ。
「それは良かったじゃない、私も応援してる。また近いうちに逢いに来るわ…」
そう言い残して、エルザは足早に彼女の許に駆け出した。
「それで、いったい何事なの、ドロシー? 『ビジネス』関連の話なら、私じゃなくて、メイスンに伝えなさいって言ってるでしょ?」
エルザとドロシーを乗せた黒塗りの車が、ゆったりとした速度で大通りを流していく。車窓を過ぎゆくのは、普段と何も変わらない午後の街並みだ。
暫くの沈黙の後、ドロシーがようやく口を開いた。
「ミーガンの店が爆破されました。酒の納入を断られたゴーダ一家の報復かと…」
「そう…。あの古風な『喫茶店』、私も気に入ってたのに、残念ね…。それで、ミーガンさんは、当然…?」
時代は悪名高き禁酒法の頃、場所はデトロイト郊外のとある小さな町。
このケチ臭い田舎町でさえ、天下の悪法は町を二分する弱小マフィア同士の対立を生み出し、抗争は日々果てるともなく続いていた。
新興勢力でありながらデトロイトの巨大組織の傘下となったゴーダ一家と対峙するのは、この町の誕生まで起源が遡ると噂される由緒正しき古参血統のバリア一家である。
「嫁と小学生の娘も一緒に…。あちらで達者にやって貰うしかありませんが、客も多数が巻き添えで死傷していますし、いずれにせよ店のほうは…」
エルザは、バリア一家のドン、マシウス・エドワード・バリアの一人娘だ。
敢えて母方の姓であるリスターを名乗り、表向きはあくまで一般的な高校生ということになってはいるが、その素性はもはや公然の秘密となっていた。
本来、裏社会のことに全く関心のないエルザだったが、長年の不摂生が祟った父、マシウスの体調が想像以上に思わしくないため、いわゆる番頭格であるメイスンの補佐として、度々厄介事が舞いこんでくることになった。
「爆破の実行犯は既に捕らえたので、裏にいる輩もすぐに炙りだせるかと…」
「それは良いけど、この煙草の匂い、どうにかならないの?」
エルザは悪態をついて、あまり興味のないドロシーの話から話題を逸らす。
「間もなくですので、ご辛抱を」
ドロシーの言葉通り、程なくして一棟の貸倉庫に車が横付けされた。
いつ来ても、正直言ってあまり良い想い出のない場所だ。組織の連中がよく「商談」や「面接」そして「一時的な保護」に利用する場所だからだ。
「こんなところで私に何を?」
そうエルザが疑問を口にしようとした瞬間、車のドアが丁重に開かれた。
「お嬢、ご苦労様です。こちらです」
組織の構成員の中年男、ハンチング帽姿のボビーがそう声をかけた。
「お嬢はやめて、といつも言っているでしょう? で、私に何を?」
柔らかな物腰で車を降りながら、エルザはボビーを軽く睨みつける。
先頭に立って歩きはじめたボビーが倉庫に向かうと、エルザたちも後に続く。
倉庫の鉄扉を入ったあたりで、ようやくボビーは振り返り事情を説明する。
「とっ捕まえたガキの話では、店に花束の箱を置いてこい、としか言われてないようで…。ガキがちょうどミーガンの娘と顔見知りだとかで、手頃な鉄砲玉だったんじゃないかと…」
暫くボビーに促され狭い倉庫の通路を進んでいくと、元は従業員食堂か何かだったのであろう広い空間にぽつりと置かれた椅子に、不貞腐れた表情の野球帽の少年が縛り付けられていた。その周囲を数人の若い衆が取り囲んでいる。
「メイスンさんは別件も兼ねてゴーダの屋敷に出向いてますし、このガキをどう始末するかは、お嬢…エルザ様に任せると…」
エルザは大きく溜息をついて、肩を竦める。
「面倒事は嫌だと言ってあるのに、メイスンめ…」
ぼやきつつ、エルザは少年の顔を改めて凝視した。
小学校低学年くらいの年頃の少年は、薄汚れてはいるものの造作も悪くはない。鋭い眼光でこちらを睨みつける瞳が、その頑なな印象を強くしていた。
「可哀想に、随分と『歓迎』されちゃったみたいね…。それにしても少年、あなた良く生きてたわね? お陰で店は滅茶苦茶だっていうのに…」
エルザは努めて優しい声音で少年の警戒心を解くように語りかける。だが少年は無言のままでこちらを睨み返す。
「おい、クソガキ! エルザお嬢様に対してその態度は何だ!」
若い衆を代表してボビーが声を荒らげるが、それを制してエルザが話を続ける。
「名前は? 何て呼んだらいいかしら?」
「…ジェイミー」
「良い名前ね、ジェイミー」
視線を逸らしながらもそう答えた少年、ジェイミーを穏やかな微笑みで見つめながら、エルザはそう呟く。
「どうやら孤児院の出のようですが、以前からミーガンの娘にちょっかいをかけていたらしく、すぐに店から叩き出されたお陰で命拾いしたようで…因果なもんですよ、まったく」
ボビーが少年の素性について、詳細を説明する。
「そう、結構苦労しているのね…」
確かに孤児院育ちというのは何かと苦労を伴うものだ。ただこの時代、このご時世では、誰であっても生まれながらにして順風満帆とはいくものではない。
「この子を開放してあげて!」
「…!」
エルザの一言に弾かれたように、ジェイミーの視線が驚いたようにエルザに注がれる。
「いや、しかし、お嬢…」
ボビーが戸惑いの表情を浮かべる。若い衆も口には出さぬものの不満の表情が窺える。
「解放してちょうだい…」
「はぁ…」
些か不服そうな態度ではあるが、若い衆の一人が手早くジェイミーの拘束を解いていく。
「ジェイミー、あなたも二度と変なことに関わらないで。次に捕まったら、どうなるかわかるわね?」
ジェイミーはこくりと頷くと、野球帽をとってエルザにぺこりと頭を下げ、倉庫の外へと駆けだしていった。
「帰り道、わかっているのかしら? あの子…」
RPGイベントというのは不思議な空間である。
いくら多くのテーブルが並んでいようとも、実際にひとたびシナリオが始まってしまえば、そこから先はテーブル毎に様々な独自の世界が展開されていくわけで、正直言って他のテーブルの事情など考える余地などない。
その多数併存する世界のひとつ、ギャング抗争物という極めてマニアックな世界に放り込まれた詩音は、周囲を取り巻く猛者たちに負けないよう、いっそうの気合と緊張をもってプレイに臨んでいた。
「イイじゃない、エルザ西原ちゃん。さすがはRPG同好会の会長さんね。将来が楽しみだわ」
環は大袈裟に詩音を褒めちぎる。周囲のプレイヤーの面々も微笑んで詩音を見守っている。
なんだか気恥ずかしい雰囲気に包まれて、詩音はさらにしどろもどろになって答えた。
「流されるまま、勢いっていうか…。ほんと、慣れてなくてすみません…」
「いいって、いいって! 初々しい子を見てると、私たちも昔を思い出すっていうか、ね…」
環の言葉に詩音以外のその場の全員が頷く。
「しかし、ちょっと情に流され過ぎっていうか、甘いっていうか、素直に納得はしにくいところだなぁ…」
そう不満を述べるのはボビー役のベテラン男性プレイヤーだ。
「そこをフォローしていくのが、ベテランじゃないの? ミスターボビー」
すかさずモーリス役の女性プレイヤーが詩音を擁護する。
「まぁまぁ、追々厳しさも知っていくでしょ、きっと」
環がそう言って場の雰囲気を元に戻そうと試みるが、ミスターボビーはまだ不服そうだ。
「だと良いんだけどなぁ…」
ちらりと詩音に視線を送ると、ミスターボビーは大きな溜め息をついた。
◇33 自分にとっての最適解 に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
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第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
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