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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
終わらない旅の向こう側
30/112

◇29 終わらない夏の始まり

 中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。


 親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。


 新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。




 初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。


 この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。


 作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。

 最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。

 いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。

 あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。


 それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。

 感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。




●ご注意

 この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。

 第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、

 第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。

 引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。




主な登場人物

□女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。


山科やましな 美雅みみや

 中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。



佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。


水野みずの

 夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。


◇29 終わらない夏の始まり



 一学期の終業式が終わりを迎えると、そこから先は誰もが待ち望んだ夏休みへのカウントダウンだ。


 楽しくも煩わしい学校生活の呪縛から、一時的とはいえ解放されるのだ。合法的に暫く学校をサボれるのだから、ある意味では至極の時間ではある。


 ただ、当の詩音にとっては些か微妙な心境であった。


 日々、半ば自然に顔を合わせていた憧れの担任教師、佐伯先生と当面の間、接触する機会を失うことを意味するからだ。


 だからこそ一瞬、詩音は補習を受けてまでその機会を維持しようか、とまで考えたくらいだ。さすがにそんな馬鹿な真似は早々に思い留まったわけだが。


 研修室での騒動はあの場では収拾がつかず、さすがに図書委員の樟葉の判断で、追い出される前に撤収を決め、樟葉と美雅を除く面々の作戦会議第二ラウンドは、いつものバーガーショップに持ち越されることになった。


 会長の詩音だけが「引率の責任者と最終確認がある」との口実でこの場に残り、詩音自身の個人的なもう一つの目的を果たすことにした。


 季節はいつの間にかすっかり真夏の様相だ。こうして校門前にじっとしているだけで、じっとりと汗が噴き出してくる。


 制服の真っ白な半袖ブラウスが肌に張り付くように濡れて、絶妙な不快感を醸している。短めのチェック柄のスカートでさえ、気のせいか少し湿気を含んで重く感じられる。


 既にかなりの生徒が下校し、もはや詩音の目に映る生徒の数も疎らとなった頃合いで、ようやくお目当ての佐伯先生が校門に現れる。いろいろと事前に調査済みとはいえ、炎天下の待ち伏せから解放されて、詩音はほっと胸を撫でおろした。


 「先生! 佐伯先生!」


 予想外の方向から唐突に声をかけられて、佐伯先生ははっと声の主を求めて振り返る。


 「何だ、お前か、西原…」


 ほっと安堵したような、少し呆れたような、微妙なニュアンスでそう言うと、佐伯先生は詩音の汗だくの制服姿をちらりと見て、深い溜息をつく。


 「この暑い中、ずっとそこで待ってたのか、呆れるほど暇なやつだな、お前は…。何か先生に用があるなら、職員室に訪ねて来ればいいだろうに…」


 そういう佐伯先生の言葉に曖昧な苦笑いで答えながら、詩音は憧れの待ち人と並んで歩きだす。


 「あはは、なんか最近、あの一角に呼び出されてばかりで、ちょっと先生恐怖症気味っていうかですね…」


 良くも悪くも立て続けに騒動が起きたせいで、佐伯先生はともかく、校長先生や教頭先生にまで詩音は顔を覚えられる存在になってしまった。もうこれ以上、先生たちの顔は見たくないというのは、詩音のかなりの本音だ。


 「なら、それこそとっとと帰ればいいだろう? せっかくの夏休みなんだし、最後の最後まで担任教師の顔を見るまでもないだろうに…」


 ご指摘はごもっとも過ぎる内容だ。もしも佐伯先生が佐伯先生じゃなかったら、詩音だって何も好き好んでこの馬鹿みたいな炎天下で待ち続けたりなどしない。


 「それで何の用だ? 合宿の件はさっき話しただろう? まだ何か心配事があるのか?」


 あくまで優しく諭すように佐伯先生は詩音に話を促す。


 時折他の生徒たちが二人を追い越して最寄り駅のほうへと駆けていく。追い抜きざまに「先生、さようなら」と声をかけられると、佐伯先生は小さく手を上げて挨拶を返す。


 そう、佐伯先生を親しみやすい教師だと感じているのは、別に詩音に限った話ではない。男女問わずに多くの生徒たちが好感を持ち、一定の敬意をもって接している。


 もっとも、詩音ほど過剰にお熱を上げている生徒は、幸いのところ他に心当たりはないが。


 強いて言うなら、先輩の樟葉くらいのものか。


 樟葉がいったいどこまで本気かは知らないが、面と向かって詩音にライバル宣言を突きつけたくらいだから、どうやら全くの無関心ではないというのは確かなところだろう。


 とはいえ、何か積極的に公然と、あるいは秘密裏にアプローチをしているといった気配もない。どういう状況なのか、詩音にとっても疑心暗鬼になる不安な展開だが、当然それを佐伯先生にも樟葉にも問い質すわけにはいかない。


 「いえ、何ていうか、その…。うん、一学期もいろいろあったなぁ、って思ってですね」


 思い返せば、佐伯先生に出会ったのもこの四月、つまり二年生一学期の始業式だった。詩音のクラスの担任になることがわかると、どういうわけか詩音はこの国語教師に惹かれていった。


 もっとも本人には当初、その自覚はさほどありはしなかった。隣席の彩乃と思いがけない展開で親しくなり、亡き兄の面影を漠然と意識しはじめると、それに重なるように佐伯先生への想いが募っていった。


 少しでも近づくための理由を求めて空回りを演じ、しかし肝心の度胸は完全にガス欠状態で、盛大に明後日の方向に空砲を撃ち鳴らしては、呆れと哀れみの彩乃と夢莉の漫談のネタにされる日々が続いた。


 転機はもちろんRPG同好会―できれば部活にしたかったが―の発足と、その責任者にと佐伯先生に声をかけたことだ。


 開き直った詩音の強引さと、良くも悪くも数々の出来事が重なって、こうして今も無事に憧れの担任教師を巻き添えにして、学園生活という日常の大冒険を繰り広げている。


 だが、しかし…。


 「まったく、お前の周りばかり、いろいろ起こり過ぎだ…。何にでも興味を持つのはいいが、もっと慎重に過ごさないと、そのうち大事になるぞ?」


 佐伯先生は呆れたように言いながら、心配そうな表情で詩音の顔を見つめる。


 「予言…ですか? それとも私のこと、心配…」


 「周りが迷惑するって話だ、先生だけじゃなくて、白岡や香坂や…」


 その言葉に、詩音は少し肩を落として、わざとらしい溜息をつく。


 「私のことは心配じゃないんですね、先生…」


 ついこの前までの自分ならこんなことはできなかったし、考えもつかなかっただろうと詩音は思う。好きな人の前で大胆に、を自分なりに少しずつ実践しているのに、我ながら驚きを隠せない。


 「心配というか、お前の場合、きっと爆心地にいても一人だけ助かるタイプだろう? すぐ傍で見ている側はハラハラしっぱなしだが、身の危険を感じた時にはたぶん、既に手遅れなんだろうな…」


 「それって全然、私のこと、褒めてませんよね?」


 不服そうな表情を浮かべて、詩音は佐伯先生の横顔を見上げる。


 「ああ、褒めてはいないな。でもな、先生は個人的に、そういう火中の栗をわざわざ拾いに行く無鉄砲な馬鹿というのも、世の中、時と場合によっては必要なんだと思うぞ?」


 「正義の…味方ですか、それって?」


 詩音が思いついたことを咄嗟に口にしてみると、佐伯先生は珍しく声をあげて笑った。周囲の疎らな生徒や通行人が、何事かと二人を振り返る。


 「正義…というより、お前の大好きな勇者そのものだな…」


 「はぁ…、でも私、別に勇者が好きとか…」


 確かに詩音が自分自身を奮い立たせるときや、彩乃や夢莉が詩音を煽るときには、度々勇者詩音を名乗っていたりもしていたが、それは全部架空の、空想の世界の話であって…。


 「西原、よくお前、独り言で呟いているじゃないか。気づいていないのか?」


 「え、ええっ!」


 ひと際大きな叫び声をあげて、自分でもわかるほどにみるみる顔を赤らめていく詩音を、今一度、周囲の通行人たちの視線が襲う。


 「まぁ、とにかく、だ。何が正しくて何が間違っているかは、終わってみるまでわからない。正しいと信じたことが誤りだったことも、歴史上数多くある。でも、誰かがそれをやらなければ、結果的に正しいことも起こり得ないわけだ」


 「はぁ…」


 完全に話半分どころか四分の一くらいになっている詩音の思考回路だが、何とか話に相槌を打つ程度の余力はあった。


 「ふと思いついたことを片っ端からやってみるのは構わない。お前らの年頃の特権だ。止めはしないし、応援もする。ただ、これは危ないと気づいたら、近づかないで逃げるのも大切な決断だろう? 逃げることを咎めたり笑ったりする声も気にするな。逃げられるうちに逃げ出すのも、お前らの年頃の特権なんだ…」


 じっと詩音を見据えたままで、そう語る佐伯先生の熱い視線は、気の早い真夏の陽射しよりもさらに熱く、詩音の心と体を火照らせていった。


 「ん? 西原、どうした? おい、大丈夫か? しっかりしろ、詩音!」


 「だいじょ…、あはは…」


 ぐにゃりと歪んだ詩音の視界の端っこで、憧れの佐伯先生の表情が次第にぼやけて薄れていく…。






 暫くの後、頬のひんやりとした感触に気づいて、ようやく我を取り戻した詩音は、佐伯先生に見送られながら、予定通りに皆の待つバーガーショップへと辿りついた。


 緊急の冷却材代わりのペットボトルをおでこに当てながら、問題があれば即病院に行けと何度も念押しされて、やっと解放されたときには既にすっかりお昼の時間を過ぎている頃合いだった。


 思えば、いっそのこともう少し佐伯先生に心配して貰ったほうが嬉しかった気もするが、さすがに立て続けに救急搬送で病院送りになるような事になれば、夏合宿どころかご近所にさえ外出禁止の戒厳令状態を言い渡されかねない。


 帰り道に立ち寄る駅前のバーガーショップ。これもお決まりの光景である。


 樟葉の代わりに夢莉を加えた一同は、そこで改めて今後の作戦会議という運びになった。もちろん全ては涼太の驕りである。


 「なるほどねぇ…。だいたい事情はわかったけど、今後は彩乃次第ってことになるんじゃない? それにしても、あれよ。詩音といい彩乃といい、あんたたちってほんと、難儀よねぇ…」


 呆れたように呟く夢莉を恨みがましく睨みながら、彩乃は力なく反論を試みる。


 「夢莉もきっと好きな人ができればわかるよ! あ、でも、そうでもないか…」


 涼太の存在に思い至って、彩乃の声が尻すぼみに小さくなる。一足早く滑り止めに合格した受験生のようなものだ、と気づいたのだ。


 「あたしだって…、そっか、確かに難儀だねぇ、皆それぞれ…」


 夢莉は詩音と涼太を順番に眺めながら、ふぅーっと大きな吐息を漏らす。


 「私は、彩乃のことを応援したい、と思う。これまで応援してもらった分、返さないと…」


 詩音は両手を握りしめて決意を表明すると、同意を求めるように一同の顔を覗きこむ。


 「詩音、あんた理解してる? 彩乃の恋を応援ってことは、つまり山科の恋路を邪魔するってことなんだよ? 馬に蹴られる覚悟はできてるの?」


 「え、それは、覚悟っていうか…」


 あっちを立てればこっちが立たず、というものである。もちろんどっちも立たずということも十分にあり得る状況だ。ひたすら馬に蹴られながら、全てが徒労に終わる未来も、またあるのだ。


 「勇者は絶対に仲間を見捨てないんだよ! だから、とりあえず今は頑張るしかないよ! ね、夢莉!」


 「えー」


 いきなり求められた同意に、かなり抑揚のない棒読みの相槌を打ちながら、夢莉は詩音を困り顔で見つめ返す。


 詩音はなんの打算もなくこういうことをやってのける。そのたびに夢莉や涼太がとばっちりを受けて巻き添えをくらう。


 もちろん夢莉の微妙な心境なんてお構いなしだ。ずるいとは思うが、それでも何故か嬉しい気持ちもあるのだから、乙女心は複雑というものだ。


 「しかたない、わかったわかった。とりあえず、あたしたちも何とかして謙佑さんと接点を持つしかないわね…」


 そんな二人のやりとりをぼんやりと眺めながら、肝心の彩乃は唐突に涼太に絡みだす。


 「オヤジ、同じのをもう一杯!」


 「誰がオヤジだ、ぺたんこメイド! またシェイクか? しゃあねぇな、腹壊すなよ?」


 しぶしぶカウンターに向かう涼太の後ろ姿を見送りながら、彩乃は詫びるように両手を合わせて拝んでいた。



挿絵(By みてみん)



◇30 魔物たちの巣窟へ に続く

 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。

 いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。

 あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。




●ご注意

 この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。

 第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、

 第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。

 引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。




■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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