◇28 終業式の暗殺者
中等部二年の西原詩音は、担任の若き国語教師、佐伯十三に憧れる少し弱気な女子生徒。
親友の白岡彩乃と香坂夢莉、幼馴染みの島本涼太、先輩の神楽樟葉らと発足させたRPG同好会の責任者として、佐伯先生を説得して順風満帆に見えたが、様々なハプニングに悩まされていく。
新たに加わった後輩の山科美雅、謎多き外国人兄妹ジョナサンとメアリー、さらにメンバーたちの周囲も巻き込んで、今日もまたドタバタ冒険譚は続いていく…。
初めましてorお久しぶりです。真鶴あさみです。
この作品は、定期的な掲載を目論んだ初めての作品になりますが、おかげさまで順調に連載をこなし、第三部まで到達しました。ありがとうございます。
作品の内容は、いわゆる「RPG同好会の中学生たちのドタバタ劇」ではありますが、今日一般的なスマホゲームやPCゲームではなく、伝統芸能ともいうべきテーブルトーク形式のRPGです。
最初の取っ掛かりはなかなか難しいと思いますが、独特の味わいのある素敵な趣味ですので、この作品をきっかけに興味を持っていただければさらに嬉しいです。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
それでは、迷走女子のRPG大冒険の様子を、今後も引き続きお楽しみください。
感想や評価も、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■水野
夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
◇28 終業式の暗殺者
今日でようやく波乱の一学期も終業式を終えて、気の早い盛夏の足音が、中等部の校舎を、いや、この街全体を包み込んでいた。
僅かにひんやりと流れる図書館独特の空調が、火照る身体に心地いい。
そんな快適極まりない研修室には、RPG同好会の会長、中等部二年の西原詩音と白岡彩乃、島本涼太、そして唯一の三年生、神楽樟葉の姿がある。
いつもと同じ放課後、いつもと同じ研修室。相変わらずのメンバーが三々五々に集まって、相変わらずのぐだぐだしたお喋りに興じている。
それは平和過ぎる日常のはずだった。
「おいおい、どうした、彩乃? そんなゾンビみたいに腐ってよぉ? お前、また何かあったんか?」
だらしなく椅子にもたれかかりながら、涼太が彩乃に投げやりな声をかける。
「んー? 何もない、別に何もないよ…。ボクは何もないよ…」
涼太以上に崩れた姿勢のまま、テーブルに突っ伏した状態の彩乃が、気のない返事で反応する。
「あぁ? 何もないのにいきなりそんなゾンビみたいになってんのか? 知らんうちに何処かで感染したんじゃないだろうな? 俺にうつすなよ? っていうか、襲うなよ? 食うなよ?」
「うー、襲う気も食欲もないから安心していいよ、大丈夫、大丈夫…」
視線さえ向けずにそう言葉を続ける彩乃だが、いつもの陽気なお馬鹿さは何処へやら、どんよりした雰囲気を纏いながら力なく唸るばかりだ。
「いったい、どういうことなの?」
読みかけの文庫本を手にしたまま、二人のやり取りを窺っていた樟葉が顔を上げて口を開く。その視線の先には、彩乃のクラスメイトでもある詩音の姿があった。
「えーと、私にもさっぱり良くわからないんですけど、今朝、通学路でメアリーちゃんに会ってから、ずっとこんな感じなんですよね…」
詩音は横目でちらりとカマボコ状になった彩乃に視線を巡らせ、溜息交じりの説明をする。
「メアリーって、例のあの金髪少女だろ? 兄弟と一緒に編入試験に合格したって聞いたぜ?」
兄弟と涼太が勝手に認定しているのは、メアリーの兄のジョナサンだ。二人は今も神楽本家に居候の身である。
「そうね、二人とも二学期から通うことになるわね。何も問題はないはずだけれど…」
涼太の言葉に樟葉が答えながら、僅かに小首を傾げる。
「問題、あるよ…」
彩乃がぽつりと呟いた。
異国からやってきたジョナサンとメアリーの兄妹だが、結論から言って、二人の編入試験は無事に終了した。
学科はもちろんのこと、一抹の不安があった面接にも問題なく通り、晴れてこの学校に二学期からの通学が認められた。
しかし、問題はそこではない。もっと根本的なことなのだ。
二人ともこの学校に通えるようになれば、当然の算段として、詩音たちRPG同好会のメンバーが自動的に二人増え、さらに未確定ながら後輩の山科美雅の参加も当てにできそうで、二学期を待たずして相当賑やかになるはずだった。
ところが、である。
日本の教育制度上、ジョナサンこそ予定通り中等部の一年に編入されたが、メアリーは初等部の六年に編入されることになり、残念ながら早くも詩音たちの取らぬ狸は何処かへ行ってしまうのだった。
「まぁ、こればっかりは仕方ないってもんだぜ…。考えようによっちゃ、無事に来年の即戦力ルーキーを確保できた、ってことでもあるんだしよ。これで樟葉先輩だって、心置きなく高等部に行けるってことだ」
涼太の言葉に答えて、樟葉が少し驚いた表情を浮かべる。
「あら、意外…。涼太君の口から、そういう先々の展望みたいな話が出てくるなんて、思いもよらなかったわね」
「そりゃないっしょ、先輩! 俺だって俺なりに…」
涼太の言葉を遮りながら、樟葉はなおも話を続ける。
「どちらにしても、私は来年にはいなくなるわけだから、その後の事を私が気にかける筋合いはないのだけれど、確かに考えておくべきではあるわね。乗りかかった舟とはいえ、私が下船したら即沈没しました、というのも流石にね…」
樟葉もそれなりの心配をしてくれているのだろうことは、その遠回しの話しぶりからも伝わってくる。
「そういうことじゃなくて…!」
がばりと顔を上げた彩乃は、うるうるした瞳いっぱいの涙目でじっと皆の顔を一望して、ゆっくりと重い口を開く。
「そういうことじゃなくて…?」
鏡のように問いかける詩音から視線を切ってから、彩乃がぼそぼそと消え入りそうな小声で言葉を紡ぎ始める。
「メアリーに、さ…、小学生にさえいろいろ負けてるのが、何ていうか、その…」
「あぁー」
瞬間的に彩乃の言いたいことを察した詩音が、複雑すぎる感情のこもった溜息交じりの相槌を打つ。
こういった乙女心というものは、ありきたりな同情の常套句ではまったく埋め合わせられない。
幼い頃から夢莉と一緒に過ごしてきた詩音だからこそ理解できる、持たざる者の苦悩というものは言葉にできない。
同学年の親友にして幼馴染みの関係でさえこうなのだ。いくら個人差の問題だとはいえ、年下の小学生相手にコンプレックスを抱えてしまうのも無理もないかもしれない。
「なんだ、そういうことか」
涼太が呆れたように彩乃に視線を送る。対する彩乃は相変わらずの俯き加減のままだ。
「なんだ、じゃないよ、大問題だよ…」
「なんていうか、あれだろ? 素材が違うっていうか、だ。ネコとトラみたいな関係っていうかだな? 勝手に対抗心燃やしても、勝つのは無理ってやつだ…。個性が違えば需要も違う、ってことだな。トラよりネコのほうが人気あるだろ?」
彩乃にとってもわかり切ったことではあるが、改めて涼太に言われてみても素直に納得はし難いものだ。
「ばいんばいんが好きなエロ涼太には、ボクの気持ちなんてわかんないよ…」
「おまっ、ちょっ! エロ言うなって! だいたい俺はだな、そんなばいんばんいん…」
「確かにまぁ、夢莉さんはばいんばいん、ではないわね…」
樟葉の冷静なツッコミが容赦ない鋭さで、その場の空気を凍らせる。まさに二つ名のとおりの「鋼鉄の冷嬢」ぶりである。
「でも彩乃さんが落ち込んでいる理由は、それだけではなさそうよね?」
さらに踏み込んで樟葉が問うと、ついに観念したのか、彩乃がことの真相を語りだす。
「その、山科さんが、ね…」
彩乃の説明はこうだ。
先日の神楽本家でのスパルタ勉強会が終わってからというもの、どういうわけか美雅が足しげくホビーショップを訪れるようになったのだという。
初めのうちは、皆が楽しんでいたRPGの様子に興味を持ったのかと考えていた彩乃だったが、何を買うでもなく入り浸った挙句、謙ちゃん…店員の鷹取謙佑と何やら楽し気に談笑して帰っていく、というのが日課になり始め、さすがに彩乃も動揺が隠しきれない、ということらしい。
「謙ちゃんって、あのミミリン号の運転手の兄ちゃんだろ? 確か大学生って言ってなかったか? 確かにイケてる兄ちゃんって感じだったし、あの一年がお熱になっても不思議じゃないかもなぁ…」
「だから困ってるんだよ…」
涼太の素直な感想に彩乃が答える。その独特なトーンで涼太以外の二人は、彩乃の複雑な心境を十分に察した。
「でもそれで、何でお前が落ち込んでるわけ? だいたい、大学生って言えばもう大人なんだし、いいように半端に相手されて適当にあしらわれるか、そもそも中坊の小娘なんてちっとも興味ないか、どっちかだろ?」
「う、う、うわぁ、うわわぁーん!」
彩乃が大声を上げて泣きだすのと、樟葉が涼太の頭に無言で拳を落とすのと、詩音が怪しげな踊りで慌てふためくのと、全てが同時に進行する中で、RPG同好会最後のメンバーである香坂夢莉が研修室の扉を開く。
「遅くな…これ、いったいどういう状況? 何なの、この混沌…」
「おう、夢莉、遅かったな…。体操部はもう…」
目前の状況を理解できずに立ち尽くす夢莉に、涼太が真っ先に声をかけるが、その背後に見えた小柄な少女の存在に気づいて、再び素っ頓狂な大声を上げる。
「はぁあ? どうしてお前がここにいるんだよ?」
「はいはい、涼太君…。ここは図書館ですので、お静かに」
勢いのまま椅子から立ち上がりかけた涼太を止めたのは、またしても樟葉だ。
鼻息荒く椅子に座り直すと、改めて涼太は睨むような視線をその異分子、話題の問題児少女である美雅に向ける。
「どうして、って言われても、そう…うーん。せっかくだから、私もなんとか同好会に入会しても良いかなぁ、とか思ったわけですよ…」
この美雅という少女は、どういうわけか悪い意味でRPG同好会と因縁があり、入会希望を諸手をあげて歓迎するムードとは言い難い状況だ。
「何ぃ?」
「えっ!」
美雅の言葉に弾かれたように、大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべた彩乃が、あんぐりと大口を開けて美雅を振り返る。
「いろいろと私なりに考えたんですけどね、夢莉先輩とも一緒にいられる時間が長くなるし、全然問題ないと思いますよ?」
「大アリだよ、ボクにとっては大問題だよ!」
◇29 終わらない夏の始まり に続く
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。
是非ご支援よろしくお願いします。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というPCゲームで作成しました。
いかんせん発展性に乏しいので、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを引き続き募集しています。
あまりお礼はできませんが、ご興味があれば、ぜひよろしくお願いします。
●ご注意
この連作小説は、毎週月曜日の10:00に更新掲載していく予定です。
第一部(0~13)は別途掲載中の「あの世とこの世の冒険譚」を分割したもの、
第二部(14~27)はその続編となる部分で、2023/07/31に終了しました。
引き続き第三部(28~)を、2023/09/11より掲載中です。
■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。
■Twitterもあります(@manazuru7)。




