◇24 雨の日の贈り物
●ご注意
この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。
新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。
主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
■水野
夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。
□山科 美雅
中等部一年の体操部員。先輩の夢莉を目標に、自己鍛錬を欠かさない努力家。些か情緒不安定な面もあり、周囲から孤立しがちな一匹狼。
■ジョナサン ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。
□メアリー ウェリントン
樟葉の遠縁の金髪女子。ジョナサンの妹で、日本文化に憧れている。
■太秦 ウェリントン(うずまさ)
樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。
◇24 雨の日の贈り物
注文した商品が届かないというのは、思いのほかストレスに感じるものだ。
ジョナサンが先日ネットで購入した例のポスターも、発送中の表示で固まったまま、数日たっても変化が見られなかった。
考えられるのは、詐欺などの事件性のあるものか、郵便事故などのトラブルか。いずれにせよ、待ちぼうけを食らっているジョナサンにとっては、もどかしい思いを募らせるより他になかった。
日本には詐欺は少ないと聞いたことがあるし、わずか数千円程度のはした金でそこまでするのも、正直効率の良い稼ぎとはいえない。ましてや、過去の他の取引が無事に終了しているのだから、わざわざジョナサンだけを狙い撃ちにしたとも考えにくい。
悶々とした思いにうんざりして、朝の街へと繰り出して気分転換を図ったジョナサンだったが、あろうことか踏切での騒動に巻き込まれるとは、予想もしなかった展開だった。
非常停止ボタンを押し、もつれあった少女たちを咄嗟に引き寄せながら、その少女の一人に見覚えがあることに気づく。
確か樟葉の後輩の、うたぁねぃだったか。RPG仲間のリーダーだったはずだ。
ジョナサンは詩音の名前を呼びかけながら、二人の少女の無事を確認したものの、そこで意識を失ってしまった詩音たちの対処に困り、そうこうしているうちに、到着した警察官や救急隊員に取り囲まれてしまった。
外国人とはいえ、別段悪事を働いているわけではないのだから、胸を張って堂々としていれば良いのだろうが、異国の警察官に取り囲まれての状況説明は、少年のジョナサンには少々荷が重かった。
結局、「ニホンゴ、ヨクワカリマセーン!」という魔法の万能呪文で、その場をどうにか脱出することができた頃には、ボスターの件の苛々などすっかり忘れて、勇敢なる…いや、蛮勇なる突撃少女、詩音に興味が移ってしまっていた。
日本の女子は想像以上にアクティブで興味深い。むしろ魅力的であるとさえ思えた。
剣士姿の凛々しい夢莉に続いて、詩音にまで英雄的活躍を見せつけられたとあっては、関心の矛先がそちらに向くのも当然の成り行きだ。
いずれは樟葉とも、詩音たちとも一緒に、異世界の冒険を楽しめたら最高だろう。もちろん現実の彼女たちにもそれなりの関心が湧いて然るべきだった。
それからさらに数日後、いつものように自室で寛ぎながら、もはや半ば諦め気味の一向に届かぬお届け物を待ちつつ過ごしているジョナサンの許を、突然樟葉が訪ねてきた。
「ジョナサン、少し良いかしら? お邪魔するわね」
ノックとともに樟葉に声をかけられ、ジョナサンがおもむろにベッドから立ち上がると、ゆっくりと開いた扉の向こうから、樟葉と他に二人の人影が見えた。
「よぉ、兄弟! 元気にしてたか?」
樟葉の後ろの少年が、真っ先にジョナサンに声をかけた。
「あー、うーん、そう、りょうたぁー。私は元気です」
暫し記憶の糸を手繰り、ようやく涼太のことを思い出すと、ジョナサンは爽やかな笑顔を浮かべる。
「そうかぁ、覚えててくれて嬉しいぜ、兄弟! でもよ、そこは私じゃなくて、男ならこう、俺とか僕とか…」
「拙者…元気でござる」
「あー、それはさすがに止めとけ、ちょっとばかり痛いからなぁ…」
いつの間にか勝手に兄弟になっている涼太とジョナサンのお馬鹿なやり取りに、樟葉ともう一人の少女が呆れかえっている。
「こちらは、山科美雅さん。あなたが踏切で助けたもう一人の子よ。詩音さんのほうは知っているでしょう?」
そう樟葉に紹介されると、美雅はジョナサンの前におずおずと歩み出て、深々と頭を下げた。
「そ、その節は、あ、あり、りがとうございますた」
成り行きとはいえ、自分の命を救ってくれた二人の恩人が、ちんちくりんのツインテール先輩と、それとは対照的な金髪外国人男子であることを知り、周到に用意してきたはずの感謝のセリフも一気に吹き飛んでしまった美雅が、しどろもどろで言葉を紡ぐ。
「おぉー、あの時はいきなりで、よくわからないでした。怪我がなくて良かったですね」
ジョナサンは涼太と、続いて美雅に続けざまにハグをして、歓迎の気持ちを伝えた。
少し驚いてぴくりと反応する美雅を開放すると、ジョナサンは笑顔で言葉を続ける。
「みぃーみぁ、ありがとうはうたぁねぃに伝えないと。私はただボタン押しただけ、だから」
はい、と小さく頷く美雅を遮って、再び涼太が首を突っこんでくる。
「そっかぁ、お前が非常停止ボタン押したんかぁ、そいつはありがとうな。危うく詩音のやつがエライことになるとこだったわ…。でもよく知ってたなぁ、日本の踏切の…」
確かに外国人にしては咄嗟によく気がついたものだと言わざるを得ない。あの場にいた大多数の日本人、ましてや同じ学校の生徒たちでさえ戸惑ってしまった状況で、冷静な判断ができたのは奇跡といえた。
「うーん、前に確かアニメで見た覚えが…」
「あー、それかぁー。お前もなんつーか、彩乃系だったかぁ…」
涼太に勝手に彩乃系というよくわからない分類に一纏めにされたジョナサンだが、本人が理解できていないのか、小さく首を傾げるだけだった。
「ところでジョナサン、少し頼みたいことがあるのだけれど、良いかしら?」
改めて樟葉が話を仕切りなおす。
「何ですか、改まって。クズハお姉様の頼みなら、私は喜んで協力するのですよ」
「その呼び方は…まぁ、それは今は置いておいて…」
クズハお姉様、という呼ばれ方に僅かに動揺を見せながら、樟葉は一気に本題に話を進める。
「あなた、涼太君たちに英語を教えてみない?」
「英語? 私が? 何で、どうして?」
話をまったく理解できないジョナサンが、疑問だらけといった表情で聞き返す。
「あーその、何だぁ。話せば長くなるんだが、ぶっちゃけ俺も詩音も…っていうか俺たち全員、揃いも揃って英語が苦手な連中ばっかりでなぁ。次の試験に引っかかるといろいろヤバいんだわ、これが…」
涼太が身も蓋もない説明を、恥ずかしげもなく赤裸々に語りかけると、隣の美雅も頷きながら同意を示した。
「私も、少し苦手です、英語…」
その二人の様子を見ながら、ジョナサンは暫し思案顔になる。
「あなたももうすぐ編入試験なのだから、お互いにいろいろ教えあったほうが良いと思うし、いい機会じゃないのかしら?」
そう、樟葉の言うとおり、ジョナサン自身も中等部の編入試験を受けなければならない。ならば、ここはひとつギブアンドテイクというのも悪くはない選択だろう。そのうえ、詩音たちと親しくなれる機会というのなら、まさに願ったり叶ったりだ。
「それに、何もタダで教えろってわけじゃないんだぜ? お前のお目当てのアレを用意してあるんだが…」
そういった涼太が、まるで闇取引のご禁制の品を披露するような勿体ぶりかたで、ジョナサンの目の前に一枚のポスターを広げると、途端にジョナサンの表情ががらりと変わった。
「おー、おおぅ! ほわぁぃ? なんで、どうして…」
「ある筋からの押収品なんだが、これが本来届くべきだった注文主ってのが…さぁ、いったいどこの誰だったかなぁ?」
その後、病院での簡単な検査を経て、無事に解放された詩音だったが、間髪を入れずに警察と鉄道会社の聞き取り調査が待ち構えていた。
とはいえ、殆ど形式的なものだけで、早い話、無謀な女子中学生に「危ない真似は二度とするな!」と釘を刺すためのものだ。無事で済んだとはいえ、周囲に心配をかけるような行為は避けるべきだと痛感する。
学校への復帰初日には、詩音はまた再びあの豪華な応接室へと召喚された。先週の謝罪に引き続き、今回は人命救助の名誉を讃えて表彰されるらしい。
しかも今回は、先週顔を合わせた佐伯先生と教頭先生に加え、この学校のラスボス的な存在、つまり校長先生と、管轄の地元警察署のかなり偉い人まで登場することになった。
威厳がありつつ、どこか親しみやすい雰囲気をまとった校長先生は、ここに至るまでのことの顛末をあまり深く理解していないのか、終始笑顔で詩音を褒め称えながら、本校自慢の生徒だとご機嫌だった。
はぁ、と溜息をつくだけで精いっぱいの詩音が苦笑い気味に微笑むと、警察署の偉い人は詩音に握手を求めてきた。
警察としても、危険を顧みず後輩を救った勇気ある先輩という認識で、一連の騒ぎはあずかり知らぬところなのだろう。
しかし、学校側は詩音の知らないことまで含め、事件の全体像をすべて把握しているはずだった。だから、校長先生がこうもあっけらかんと詩音を褒めちぎっているのは、どうにも違和感だらけにしか思えない。
もしかすると、教頭先生の一存で、詳細の報告を差し控えているのかもしれないと疑いたくもなる。
詩音がさり気なく教頭先生の表情を窺うと、余計なことを言うな、とばかりに鋭い視線を返し、校長先生の機嫌を取って相槌を打っている。
―まぁ、そういうことなのかな、たぶん―
さすがに詩音としても、好き好んで場を掻きまわしたくはない。正直言って、元の平穏な日常が戻ってきてくれれば、それで良いのだから。
本来なら全校集会で盛大な表彰式をしたいが、助けられた側も在校生で、自ら踏切内に入った経緯もあり、あまり大々的に周知するわけにもいかず、こんな中途半端な形で申し訳ない、と校長先生には丁重に謝られた。
確かに、いろいろと要らぬ詮索や憶測を生みかねない状況だけに、それもそうかな、とは思う。教頭先生からすれば、ほっと一安心な展開だろう。
小一時間後、詩音は中等部からと警察署からの二枚の感謝状を受け取り、ついでに、くれぐれももう危険な真似はしないように、とダメ押しに再び釘を刺されて、ようやく解放された。
応接室を退出した詩音は、再び佐伯先生に見送られ、研修室へと向かう。
「詩音ぇー、お疲れさまー。最近ほんとに忙しいねぇ」
研修室の扉を開くなり、すっかり本来の調子を取り戻した彩乃が、早速詩音に明るい声をかけてくる。
「それでそれで、ラスボス閣下に謁見した感想は?」
彩乃の興味津々の問いに、疲れ果てた表情のままで詩音が答える。
「どうもこうもないよ、校長先生だけじゃなくて、警察署の偉い人も一緒でびっくりだよ」
「あー、二度と馬鹿な真似はするな!ってシメられたわけか」
詩音の発言の意図を汲んで、夢莉が答える。
「ねぇ、金一封とか出ないの? 高級和菓子のおかわりは?」
彩乃がわくわく顔で尋ねる。そうそう調子良くいくものか、と呆れる詩音と夢莉が溜息で応える。
「それはそうと、山科さんは大丈夫かなぁ…。体操部、辞めちゃったりしないよねぇ?」
詩音はごく自然にそう思いついたことを口にする。
「ほんとに呆れるほどお人好しだね、あんたってやつは…」
どうも夢莉の周囲の連中は、根っからのお人好しか、お気楽お馬鹿か、の二択しかいないようだ。
「まぁ、最終的には本人次第って感じだけど、別に水野も部活を締め出すようなことはしないとは思う。例の三年生が謹慎している手前、発端の生徒だけ何もお咎めなしじゃ済ませられない、って感じじゃないの?」
「それなら良いんだけど…」
夢莉の説明にも、今ひとつ詩音の表情は冴えない。
「どうしたの? 何か気になることとか、心配事でも?」
詩音の様子を気にかけて、彩乃が問いかける。
「うーん、たいしたことじゃないんだけど、病室にさ、結局誰も来なかったんだよね…」
詩音の発言に、小首を傾げて自分と夢莉を交互に指さす彩乃に手を振って、今一度発言を訂正する。
「あー、そうじゃなくて、山科さんのお家の人、家族とか…」
結局あの後、佐伯先生と樟葉先輩が帰ってしまうと、病室には詩音と美雅の二人だけが取り残され、看護師さん以外に訪れる者はいなくなった。
本来なら、詩音以上に周囲の関心を集めて然るべきだろう美雅に、誰一人として見舞いに訪れる者がないことに、詩音の心にもやもやとした疑問が募っていった。
普通なら、少なくとも両親のどちらかが血相を変えて飛んでくるのが自然だ。たとえ急に席を外せない状況だとしても、遅くともその晩のうちに娘の様子を見に来るというのは、極めて常識的な気がする。
だが、実際には誰一人、美雅の許を訪れる者はなかった。詩音はその理由が気になって仕方がなかった。
もちろんそれは余計な詮索、他人の家庭事情に首を突っこむべきではないのかもしれない。それでも詩音には、美雅の突発的な行動の一端が、そこにあるような気がしてならなかった。
「あまり良い家庭環境じゃない、ってことかもしれないわね。それ以上は、あたしたちには知りようがないけど、あんたも良く気がつくわね、そんなこと…」
夢莉は冷静にそう語るが、物事に聡いのはむしろ夢莉のほうで、詩音は常に心配や苦労をかける側だ。そういう自覚は、まぁ、詩音自身にもそれなりにある。
「うーん、次からは思い詰める前に何か話してくれるといいねぇ。せっかく勇者詩音に出会ったんだから、助けられたヒロインの特権ってやつで、無理難題のワガママなお願いでも…。きっと勇者詩音なら、絶対何とかしてくれると思うし?」
とんでもないことをさらりと言い出す彩乃を放置したまま、苦笑いの詩音はひらりと話題を逸らす。
「ところで、樟葉先輩と涼ちゃんは?」
「ん? あの二人なら今頃…」
「あー、詩音ぇ、無視は悲しいから止めて…」
話から置いていかれた彩乃が、夢莉の説明を遮って全身で存在を訴えると、詩音も夢莉も思わず笑いがこみあげてくる。
―そう、この暖かな日常に触れれば、たぶんきっと彼女も―
「あぁー、やっぱり雨降ってきたぁ! ボク、傘持ってないよ…」
唐突に彩乃が窓の外を眺めながら呟く。確かに空は薄暗い雲にすっかり包まれたまま、ぽつりぽつりと窓ガラスに水滴がつき始めているのがわかる。
「勇者詩音の登場早々だけど、ここはひとつ撤退するのが常套策かもなぁ…。どうする詩音?」
夢莉の問いかけに詩音は頷いて答える。
「まぁ、人数も少ないからしょうがないよね。よし、じゃあ、撤収っ!」
ばたばたと慌ただしく周りを片付けながら、三人は帰り支度を整える。
「そういえば、最初は私たち三人だけだったんだよね…」
感慨深く詩音がそう呟くと、二人もうんうんと同意する。
「そのうちまだまだ増えそうな予感だけどね」
彩乃が微笑んでそう答えると、夢莉が言葉を続ける。
「まぁ、その前にスパルタ勉強会を終わらせないとなぁ…」
「え、スパルタ?」
まったく話についていけない詩音が不安げな表情を浮かべると、夢莉はにやりと意味深な笑いを見せた。
「ちょうどいい外国人講師を口説いているところだから、まぁお楽しみに、って感じかな?」
「はぁ…」
詩音のあずかり知らぬところで着々と進む計画に、すっかり蚊帳の外の詩音はもはや溜息をもらすほかなかった。
◇25 激動のお屋敷訪問 に続く
●ご注意
この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。
新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。
画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
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