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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
雨と出逢いとハプニング
20/112

◇19 伝説を引き継ぐ者

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。

 新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。



主な登場人物

□女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?



佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。


水野みずの

 夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。



■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。


□メアリー ウェリントン

 樟葉の遠縁の金髪女子。ジョンの妹で、日本文化に憧れている。


太秦うずまさ ウェリントン

 樟葉の遠縁の実業家。ジョナサンとメアリーの継父。




◇19 伝説を引き継ぐ者




 放課後の研修室、いつもと同じ顔ぶれが、今日もまた集まっていた。しかし、テーブルを囲んだそれぞれの表情は、どことなく曇っている。


 「いったいこれで何枚目だよ? いくらなんでもあり得ないだろうが!」


 樟葉先輩からの報告をうけて、真っ先に反応したのは涼太だった。


 椅子から半分ほど腰を浮かせた涼太の、少し呆れを滲ませた怒りの言葉が、あまり広くない研修室じゅうに大きく響く。


 「涼太君、いらいらするのはわかるけど、研修室も図書館の一部なんだから、静かにして貰わないと使用禁止になるわよ?」


 「いや、先輩、けどよぉ!」


 黙っちゃいられないぜ、とばかりに血気盛んに吠える涼太を、樟葉先輩の鋭い視線が流し目で窘めると、涼太はそこから先の言葉を紡げなくなる。


 「…すみません、でした」


 ゆっくりと元の椅子に腰を落ち着け、涼太は反省の言葉を続ける。


 「確かに問題ではあるわね…、これで五度目? 六度目かしら。価値のあるなしは別にしても、連続窃盗事件ということになると、このまま放置はできないわね」


 樟葉先輩が言葉を選びつつも、深刻な面持ちでそう語る。


 「まぁ、いいじゃん。それだけ夢莉が人気ってことでしょ? 別に悪い話じゃない気もするけど…」


 彩乃が率直な個人的見解を述べる。確かにそういう見方もできなくはない。


 「いや、絶対ダメだ! この俺が許さん! とっ捕まえて成敗だ!」


 涼太は相変わらずの剣幕である。


 「ねぇ、なんでそこまであんたが騒いでるのよ?」


 物事の当事者である夢莉が、溜息交じりに呆れ顔で涼太に問いかける。


 「はぁ? だって夢莉…、どこの馬の骨ともわからないヤツが、部屋じゅうにぺたぺたお前のポスター貼って生活してるかもしれないんだぜ? ムカつく通り越して、正直怖ぇぜ…。そう思わねぇか?」


 改めて涼太にそう説明されて、ようやく事の重大さに気づいた夢莉は、頬を引き攣らせて青くなった顔で笑えない笑顔を浮かべた。


 「考えたくもないわ、それ…」


 先日のRPG同好会の会員募集ポスター、つまり夢莉の扮した少女剣士のアレが校内のあちこちに掲示されるようになって数日、まず最初の事件は起こった。


 中等部一年の教室脇に貼ってあったポスターが無くなっていることに、通りかかった佐伯先生が気づいて、詩音たちに尋ねてきたのだ。


 最初は皆、偶然ポスターが剥がれて、どこかに飛ばされてしまったか、捨てられてしまったか、だと楽観的に考えていたのだが、改めて貼りなおしても、次は別の場所でポスターが無くなる、ということが毎日のように連続するようになった。


 次に考えたのが、どこか別の部活動などの妨害工作か嫌がらせか、の可能性だったが、それならポスターにラクガキをするとか、見せしめに破くようにするとか、そういう方向に行きそうなものである。


 しかも警告文とか犯行声明みたいな感じのものも、誰の許にもまったく届いてこない。もちろんRPG同好会のメンバーが、何らかの個人的な迷惑を被ることもなかった。


 そうなると消去法的に結論は、単なる愉快犯か、さもなくば少女剣士の、または夢莉の熱烈なファンということになる。


 「とりあえず別に同一犯と決まったわけじゃないし…」


 それまで沈黙を貫いていた詩音がそう口を開くと、涼太が反論する。


 「複数犯だとしたら、そいつら揃いも揃って、お揃いの夢莉のポスターを部屋に貼ってるってことになるわけだろ? いいのかよ、それで!」


 「さすがに、部屋に貼ってるかどうかまでは…」


 詩音は涼太の剣幕に押されつつ、自ら突いてしまった藪蛇を反省する。


 「とにかく、あのポスターの予備も無くなっちゃったし、もし増刷するなら別の…」


 彩乃はそこまで言ってから、おもむろに詩音に視線を向ける。


 「へ?」


 「あぁ、そっちのほうがイイかもしれないわね。犯人の目当てが何なのかもわかるし、別に無くならないなら、それはそれに越したことはないしねぇ…」 


 ここぞとばかりに、夢莉は不幸な仲間を増やそうと同意を表明する。


 「何のこと?」


 「次は魔法少女のヤツにしようってコトだろ? あれならセクシー路線とは全然違うし、持ってくような連中もいないだろ…」


 「まぁ、それでもまた違った需要があるかもだけどね…」


 察しの悪い詩音に、涼太はそう身も蓋もない説明をするも、さっそく彩乃に補足される。


 「え、ちょっ! あれ、使わないって約束…」 


 「確かに、うちのホビーショップには貼らない、って約束はしたけど、RPG同好会の非常事態だし? 会長さんなら、メンバーのピンチを放っておく手はないんじゃないかなぁ?」


 「う、うぅ…」


 相変わらずの押しに弱いところは変わっていない詩音である。彩乃の強引な言葉の突っ張りを受けながら、あっという間に土俵際へと追いやられてしまう。


 「実はどのみち、商店街のイメージアップ用にぜひ使いたい、って声もちょうどあったトコなんだよね。今度は商店街の協賛ってことにしちゃおうか?」


 詩音の知らぬところで、とことん商売上手な彩乃である。恐らくは初めからそのつもりで…と考えるのは、邪推が過ぎるだろうか?


 「うぅ…、わかった…けど、また印刷に予算がかかっちゃうと、夏の合宿、行けなくなっちゃうよ?」


 弱小同好会の悲哀というやつだ。恥ずかしいことはどうにか我慢できても、無い袖は振れない。


 「おっけー、商店街の役員さんに交渉してみるから、そこは任しといて!」


 満面の笑みで彩乃が胸を張る。小さい胸のいったいどこからそんな自信が湧いてくるのだろう、と同じく小さな詩音が呆れかえる。


 というか、すべてが最初から彩乃の自作自演なのでは、とさえ疑いたくもなってくる。


 「あの、合宿の件、もし何処か行きたいという場所が決まっていないのなら、うちの別荘で、というのは駄目かしら?」


 ここまで黙って皆のやり取りを聞いていた樟葉先輩が、遠慮がちに魅力的な提案をしてくる。


 「うちの別荘、って神楽家の、ってことですか?」


 詩音がそう訊き返すと、樟葉先輩は頷いて答える。


 「ええ、軽井沢の少し外れにある…まぁそうね、あまり大きなものではないのだけれど、早めにお父様に話を通しておけば問題ないと思うわ」


 「軽井沢…」


 詩音だけではなく、その場にいた樟葉先輩以外の皆がいっせいに息をのむ。


 日本人なら誰もが知る、セレブ御用達の超高級リゾートだ。それこそ、明治の文豪から現代の政治家や皇族、芸能人や実業家などに至るまで、様々な人たちの憧れる避暑地である。


 些か厚かましい気もしないでもないが、これぞ千載一遇のチャンス到来である。詩音の尊い魔法少女姿と引き換えだとしても、その恩恵にあずかる価値は十分にあるだろう。


 「ご迷惑でなければ、ぜひお願いしたいです。日程が決まり次第、ご挨拶に伺います」


 詩音は深々と頭を下げながら、樟葉先輩に感謝の意を伝える。まさに棚から牡丹餅、瓢箪から駒、魔法少女から軽井沢である。


 「そんなに気にしなくても構わないわよ。それに、別荘なら「あの子たち」も一緒に過ごせるから、いい機会じゃないかしら?」






 地質学者だったジョナサンとメアリーの父は、とある自身の立てた仮説を証明するため、愛する妻とともに異国の地を訪れていた。


 その異国、日本での暮らしも数年を迎え、息子であるジョナサンが生まれ、さらにメアリーも授かることになった矢先、大きな地震が北日本を襲った。


 幸いにして、地震の規模のわりに被害はさほど大きくはなく、予想が確信へと変わりつつあった父は、身重の妻と息子を残して、研究仲間とともに震源地へ向かった。


 誰もがその時の地震を本震と信じて疑うことはなかった。だから発生が予測される余震も、それと同程度か、多少小さなものになるだろうと思われた。


 だから、その瞬間が訪れたときは、誰もが我が目を疑った。


 いや、そんな余裕すらなかったのかもしれない。


 日本という国の歴史に残る最悪クラスの大災害が、ありとあらゆるものを飲み込んでいった。


 残されたものは、広大な廃墟と化した港町と失われた命の記憶、立ち入ることも許されない故郷の姿だった。


 やっとの思いで母国へと戻ったジョナサンは、妹のメアリーとともに、母の努力のおかげで健やかに成長し、それなりの平和な時間を過ごしていた。


 近所の教会の幼稚園に通うようになって程なくして、ジョナサンは何気なく母に尋ねたことがある。


 どうしてウチには父がいないのか? と。


 それは極めてシンプルな質問であり、そこにあるのは幼児ゆえの純粋な疑問だけであり、一切の他意は含まれていない。


 だから、母はそんなジョナサンの質問に幾つかの例え話を交えて、わかりやすく答えていった。


 ジョナサンの父、そして母の夫は、この大地に刻まれた遥か昔の出来事を調べる賢者だった、と。


 ある時、遠い異国で新たな禍が起きると啓示を受けた父は、異国の人々の未来を案じて、家族と弟子たちを連れてその地に赴いた、と。


 「禍?」


 ジョナサンの疑問に母は更なる例えを織り交ぜて説明する。


 「そうね、大地の底には遥か昔のドラゴンみたいな大きな力が眠っていてね、それが暴れだすと、大きな禍が大地を襲うのよ」


 「ふぅーん…」


 さらに母の話は続く。


 最初の禍の少し前に、ジョナサン、あなたが生まれ、予想通り禍が起きるとすぐに、父は弟子たちとともに現地の探索に向かい、そして…。


 メアリーが生まれる少し前に、最悪の禍がその地を襲ったのだ、と。


 あなたの父は、世界の人々の穏やかな暮らしを護ろうとして、日本という異国で天に召されたのだ、と。


 だから、ジョナサンもメアリーも、父がいないことを嘆いてはいけない。誇りにさえ思ってもいい。あなたは立派で偉大な賢者の息子なのだから。


 たまにこの家に訪ねてくるウズマサの小父様は、父のことをずっと…いいえ、今も私たち家族のことをずっと支え続けてくれる、日本のカグラという由緒ある地方貴族で、父の真の友達だった人なのだ、と。


 まぁ、幼稚園で時折耳にするであろう英雄活劇のお伽噺と、僅かに宗教的な伝承の物語を、程よく混ぜながら創り出した母のお手製の冒険譚だったが、聞いていたジョナサンは何度も歓声を上げながら、嬉々として話に夢中になっていった。


 もっとも、その話を傍で聞いていたまだ幼いメアリーは、あらぬ誤解をしたようだったが。


 「ねぇ、めぁりーのパパは魔法使いなの?」


 どうしてそうなるのか、とジョナサンも母も思わず吹き出してしまったが、当のメアリーは愛くるしい満面の笑顔で、大きな瞳を輝かせていた。


 以来、ジョナサンは、いつかはあの日本という異国を再び訪れて、父の旅路を巡り、その地の人々の暮らしを味わってみたい、と関心を持つようになった。


 だから暫く後に、母が新たな父となるウズマサとの再婚の話を切り出した時にも、二つ返事で歓迎した。


 そして、あの樟葉との再会がさらにその想いを後押しした。


 ―いつか僕も父のように―






 窓辺から差し込む朝日に包まれて、ジョナサンがゆっくりと目を覚ますと、そこは異国の冒険者ギルド…ではなく、ようやく慣れてきた神楽本家の客室だった。


 久しぶりに懐かしい夢を見たな、と思う。


 ここ数日、いろいろな出来事が多すぎた。


 ホビーショップでケンスケという店員の青年に出会い、あのピンナップガールの女剣士がその店の看板娘の友人であることを知り、少し…いや、大いに興味を持った矢先に、当人を樟葉に紹介され…。


 しかも樟葉の通う中学校の後輩で、同じRPGのグループで活動しているらしい。


 何より驚いたのは、あの「クズハお姉様」が予想外にRPGを嗜んでいるという意外性だった。


 確かに本の虫?という感じの知識欲旺盛な樟葉なら、外国の古い伝承や神話のようなものに興味を持ってもおかしくはない。それでも、それがどう転んだらRPGの方向に行き着くというのだろうか。


 ともかく、樟葉とジョナサン、メアリーまで含めて、共通の趣味というか話題というか、があるかもしれないというのは、それほど悪い話ではない。


 「地の底のドラゴン」と「啓示を受けて旅立つ賢者」、そして「パパは魔法使い?」の影響からか、ジョナサンもメアリーもすっかりファンタジーのRPGに夢中になってしまった。


 その輪の中に樟葉も加わってくれたら、どんなに嬉しいことだろう。


 そして、あのユーリという彼女とも、いつか一緒に冒険をできれば最高だろう。


 樟葉の話によれば、ユーリはあの剣士姿そのままに凛々しい性格のようだし、賢者ジョナサンの仲間には必要な、欠かせない存在になるだろう。


 そう、冒険の始まりはいつも、信頼できる仲間集めからである。


 これが運命だと信ずるならば、自ずと道は開かれよう。


 願わくば、この異国の地に眠る父の加護の在らんことを…。


挿絵(By みてみん)



◇20 小さな混乱、大きな障害 に続く

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。

 新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。

 画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。


 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。


■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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