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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
雨と出逢いとハプニング
18/112

◇17 味方殺しの代償

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。

 新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。



主な登場人物

□女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?



佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。


島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。


水野みずの

 夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。



■ジョナサン ウェリントン

 樟葉の知人の金髪男子。明るく陽気な爽やか系。


□メアリー

 謎のの金髪少女。まさに謎だらけ。



◇17 味方殺しの代償



 さて、要するにコトの発端は、例の婚約者殺害未遂事件である。


 とはいうものの、その後はゲームマスターの彩乃の裁量で、詩音が例の願掛けダイスで「クリスタルヒーリング」を試みた判定により、蘇生が認められ、重大な記憶障害と引き換えではあるが、樟葉先輩は一命を取り留めた、という結論になった。


 「元」婚約者の樟葉先輩は、その記憶障害によって涼太の存在を忘れ、当面は本来の目的であった難病の治療と併せて、あの星で身体と記憶のリハビリを続けていくことになるのだろう。


 まぁ、平たく言えば、涼太には天罰が下ったといえるかもしれないが、婚約者と引き換えに、涼太は医学技能を習得するための予備経験点を入手し、その後に技能を取得することになった。


 ドラマでよくある、婚約者との別れをきっかけに、医療の道に進むことを決意した、とかいうアレである。そう考えると美談のように聞こえるが、きっと当人はそれどころではないだろう。


 樟葉先輩にしても、やっとのことで図書委員の仕事を片付けて、ようやく研修室に顔を出そうとした時には、既に自分の手の届かぬところで亡き者にされていたという妙な話で、しかも婚約者が自ら手を下したという、ドラマの二時間サスペンス劇場なのかと疑う展開だ。


 とはいえ、すべてはゲームの中の話ではあるし、そこに恨みつらみを述べ立てても得るものは何もない…はずだった。


 風向きが変わったのは、その一件から数日後のことだった。


 いつもと大して変わらぬ朝、学校へと急ぐ詩音は、背後から唐突に怪しげな英語で呼び止められた。


 「えくすきゅーず、みー? あー、ゆー、うたぁねぃ?」

 Excuse me? Are you Utane?


 「は、はひっ?」


 ひっくり返った声で返事をしながら振り向くと、詩音のすぐ目の前にびっくりするぐらいに可憐な金髪美少女が立っている。


 詩音と同じか少し上くらいの感じで、ちょっと気の早い薄手のサマードレスが似合う美少女に、詩音はまったく心当たりがなかった。


 彼女がこれこれと手に持った物を振ってみせると、詩音ははっとして制服のあちこちをぺたぺたと確認しだす。


 「いっつ、ゆあーず?」

 It's Yours?


 「い、いえす、さんきゅう、あー」

 Yes,Thank you. Ah…


詩音は彼女が差し出した自分のスマホを受け取りながら、お礼の言葉を紡いで言葉に詰まる。


 「めぁりー。あいん、めぁりー。おぅけぇい? ゆぁ、うたぁねぃ、らいっ?」

 Mary. I'm Mary. Okay? You're Utane,right?


 「めあり…」

 Mary… 


「おぅ、やぁ!」

 Oh Yeah!


 傍から見れば、朝っぱらからなんともいえない不思議なやり取りである。


 目を引く金髪のメアリーと、いまいち冴えない詩音の話す様子は、同じ通学路を歩く他の生徒たちの注目の的だった。


 「ん、誰?」


 「ひゃっ!」


 唐突に隣から声をかけられ、詩音は跳び上がった。


 「そんな大袈裟な、何もそこまで驚かなくてもいいじゃん! ボクまでびっくりだよ」


 詩音の驚きようを見て、あははと彩乃が笑う。一緒にメアリーも笑っていた。


 「あー、めあり、ちゃん、でいいのかな、たぶん…」


 「やぁあ、あいん、めぁりー。あー、ゆー、うたぁねぃず、ふれん、らぃ?」

 Yeah,I'm Mary. Are you Utane's friend,right?


 「いえす、あいむ、あやーの。うたねず、ふれん、かいんどり」

 Yes,I'm Ayano. Utane's friend kindly.


 二人は自然に手を取り合って挨拶を交わす。


 「おぅ、さぁんくす! ばらい、ごーばっ、ほーむ、なぁう。そーりー、あん、さんくす、とぅきんぐ、みー!」

 Oh,Thanks! But I go back home now. Sorry and thanks for talking to me.




 そう言いながらメアリーは小さく手を振り、満々の笑みを浮かべる。


 「ん、あ、もうそろそろヤバい時間だし、詩音ぇ」


 「あ、学校…。それじゃメアリちゃん、またね。ありがとうね」


 最終的には日本語に戻りつつ、ぺこりと日本式のお辞儀で心からの感謝を伝えると、詩音は彩乃に引っ張られるように踵を返した。


 「ばぁい、しー、ゆー」

 Bye,see you.


 背後からメアリーの声が聞こえてくる。落とし物をしたのは自分のほうなのに、詩音の心はなんだかほっこりだ。


 「まさか詩音に外国の友達がいたなんて、予想外、想定外、問題外…」


 「いや、今知り合ったばかりだし…。っていうか、それって酷くない? 私のこと、何だと思ってるのかなぁ…」


 速足で学校へ向かいつつ、二人は軽口を叩きあう。


 そんないつもの朝の様子に戻りながら、詩音はまたどこかであの子に会えるといいな、と思っていた。






 その日は朝から涼太の様子がおかしかった。いや、きっと他の生徒からはいつもと同じように見えていたかもしれない。でも、幼馴染みの夢莉だからこそ、そんな涼太の些細な変化にも、敏感に反応してしまうものなのだろう。


 「涼太、あんた、なんかあったでしょ?」


 隣の席で妙に機嫌よさげな涼太の様子を窺っていた夢莉が、意を決して単刀直入に斬りこんでみた。


 別に涼太が何に関心をもって浮かれているのかには興味がない。勝手に一人で騒いでなさい、としか言いようがないからだ。


 だがそれとは別に、少し、ほんの少しだけ、自分の知らない涼太の世界があるということも、頭では理解しつつどこか寂しい。夢莉はそんな自分の感情のもやもやを上乗せして、多少の言葉の圧力を加えて、涼太に訪ねているのだ。


 それを半ば自身で自覚しているからこそ、夢莉のもやもやは次第に大きくなっていく。


 「なんだ、夢莉、そんなに俺が気になるってか?」


 「馬鹿言わないで。あんたが何かしでかして、とばっちりがこっちに来るのが嫌なだけよ。だいたい夢莉って気安く呼ぶなって…」


 自分の心を見透かされているのは毎度のことだ。涼太には嘘も隠し事もできない。しかしそれを素直に認めたくもない。夢莉はさらにイライラ度を上げていく。


 そもそも、夢莉自身が「涼太」と呼び捨てにしておいて、涼太が「夢莉」と呼ぶことを止めるのは妙な話だろう。


 学校内、少なくとも教室内では「香坂さん」または「香坂」で通したいところだが、逆に涼太のことを「島本君」とか「島本」とか呼ぶのは、なんだか他人行儀すぎて却って妙なこそばゆさを感じる。


 「まぁ、なんだ。そこまで気になるってんなら、仕方ない。幼馴染みのよしみで教えてやる」


 やけに勿体ぶった言い回しがとてもムカつくが、夢莉はぐっと堪えて涼太の話を聞くことにする。


 「聞いて驚け! デートだ、次の日曜が今から楽しみで、授業中は全然眠れないぜ…」


 「はぁ? 相手は誰よ? 涼太に付き合ってくれる奇特な人なんて…」


 恐らく涼太は最初から夢莉に自慢したくて、わざと夢莉が先に尋ねてくるように仕向けたのだろう。ますますムカつく。


 「やっぱり気になるんじゃないか、夢莉。まぁ俺もいよいよイイ感じになってきたってわけだな…。あぁそうだ、妬くなよ夢莉、ちゃんと断るところは断るから、安心して平気だぜ?」


 「知らないわよ、あんたが誰とどうなろうが、あたしには何も関係ないし。だいたい、あたしは男子に興味なんて…」


 そこまで一気にまくし立てると、夢莉は明後日の方向へと視線を逸らした。






 かくして日曜日、学校最寄りの駅前広場を窺う物陰に、詩音たちいつもの三人組が身を潜め、一組の男女の逢瀬を観察していた。いわゆるパパラッチというやつだ。


 別に夢莉が一人でこっそり様子を見に来ても構わないのだが、なんとなく誰でもいいから共犯者が欲しかったのだろう。


 それに、こういうイベントはリアルタイムで楽しむのが一番だし、後になってから「どうして言ってくれなかったの?」と悔しさまぎれに責められても面倒だ。


 お互いに幼馴染みで涼太のことも良く知る詩音はともかく、涼太にあまり関心がないだろう彩乃が、好奇心を抑えられないワクワクした顔で首を突っ込んできたのは予想外だったが。


 この場所からでは目標の二人の会話までは窺い知ることはできないが、その様子から察するに、凡そ友好的な内容の談笑が続いているようだ。


 詩音の目から見ても、傍らのベンチで楽しそうに笑顔を浮かべる涼太と、僅かに微笑んで応える樟葉先輩が、ごく自然な姿で映っているだけだった。


 「なんだ、結局、樟葉先輩じゃん。なぁーんにも問題ないじゃん。ボクはもっと意外なハプニングを期待しちゃったよ…」


 良からぬ騒動を期待していた彩乃が、残念そうにぼそぼそと小声で囁く。


 「確かに…。やっぱり夢莉の心配し過ぎじゃない?」


 詩音も同様の意見だ。確かに何も訝しむべき点はないように思える。それは言い出しっぺの夢莉にとっても同じだった。


 「結局、本音は夢莉も涼太君のことが気になってるってだけでしょ? ボクの好みじゃないけど、別に悪くはないと思うけどなぁ…」


 彩乃は続けて自身の感想を述べると、詩音も首を縦に振って同意する。


 「ま、まぁ、別にあたしだって、そんなに何かを気にしてたってわけじゃないし?」


 微妙にいつもとトーンの違う声音で夢莉が反応する。


 「だいたい、詩音に挑戦状を叩きつけといて、どうして涼太に粉かけてるのよ?」


 それはまぁそうである、としかいえない。詩音が樟葉先輩の心理に思い至るわけもない。


 相変わらず樟葉先輩と涼太は楽しそうな様子で会話に花を咲かせている。話のところどころで、涼太が頷いたり、首を横に振ったりで、受け答えしていることも窺えた。


 「意外と普通に、楽しそうだねぇ…」


 彩乃はちらちらと夢莉の横顔に目をやりながら呟く。もちろん夢莉からの反応はない。むしろ反応がないことが何よりの反応だろう。


 「あっ!」


 物陰の三人が一斉に息をのむ。


 仲良く会話を続けている涼太と樟葉先輩に歩み寄ったのは、やたらと背の高い金髪の男の子であった。


 一見、Tシャツにジーンズ姿の砕けた格好で、幸せそうなカップルにイチャモンをつけてまわる不逞の輩に見えなくもない。


 「どうしよう、あれ、大丈夫かな?」


 詩音が狼狽える。しかし、ここに隠れている以上、飛び出していくのは自殺行為だ。仕方なく三人は、その場での塹壕戦を決意する。


 だが、そんな詩音たちの心配をよそに、すっと立ち上がった樟葉先輩をおもむろに抱きしめた男の子は、釣られて立ち上がった涼太をも続けざまに抱きしめた。


 「おわー、アメリカーンな感じ?」


 彩乃が興奮気味に感想を漏らすと、詩音も夢莉も同意して頷く。とりあえず害はないだろうと知り、ほっと一安心する。


 ベンチを囲んだ三人は暫く何やら立ち話をしていたが、金髪の男の子がこちらを親指で指し示すように合図すると、樟葉先輩と涼太が呆れ顔で肩を竦める。


 「あれ? もしかしてバレてる?」


 彩乃が呟くと同時に、涼太の声が響いた。


 「夢莉ぃ―、そんなトコに隠れてないで出て来いやぁー!」


 周囲にまで聞こえるような声で、涼太が無条件降伏を促す。さすがにこれは無視できない。


 「うわぁ、名指しできたよ、バレバレだよ…」


 詩音もそう言いつつ、自分は関係ありません、と言い逃れはできない状況なのも理解していた。


 「これはもはや投降するしか?」


 彩乃も覚悟を決めて、夢莉を振り返る。


 「わかったわよ、あぁー、もう!」


 ほぼ同時に三人が立ち上がる。苦笑いの詩音と彩乃に対して、夢莉はむすっとした表情のままだ。


 樟葉先輩の手招きに応じて、詩音たち三人がベンチの周りに歩を進める。


 「ボクたち、いつからバレてたのかな?」


 彩乃はバツの悪そうな顔で二人に尋ねる。


 「まぁ何だ、端っから夢莉と詩音が覗きに来るとは思っちゃあいたけど、まさか彩乃までとは正直予想外ってやつ?」


 「別に聞かれてやましいことは何もないけれど、さすがにこういうのはどうかと思うわね」


 二人の返答に、詩音たちは申し開きができない。たとえ夢莉が言い出したこととはいえ、興味本位で首を突っ込んだのは、詩音も彩乃も一緒だ。


 「とにかく皆にも紹介するわね。こちらは…」


 「初めまして、私はジョナサンといいまーす。よろしくお願いしまーす」


 「うわぁ…」


 彼の話し方はまさに、典型的カタコト外国人のそれだった。


 ドン引き気味の詩音は、戸惑いに満ち満ちた表情で、どう返事をしたものかと頭を巡らせる。


 そんな詩音の様子にお構いなく、ジョナサンは詩音に抱き着いて親愛の情を露わにする。


 「ひょぇえー!」


 自分でも驚くような悲鳴を上げながら、一瞬の嵐が通り過ぎるのをじっと待つ。正直言ってこれは心臓に良くない。


 解放された詩音の代わりに抱きしめられた彩乃は、うへへーっと奇妙な言葉を上げて満更でもない様子だ。


 そして最後に夢莉の順番が巡ってくると、突然、ジョナサンは驚いたような表情を浮かべて夢莉の全身を、頭のてっぺんからつま先まで何度も眺めまわす。


 「な、何か…?」


 「おおぅ、ゆー、すうぉーどがーる! ふぁんたすてぃっ!」

 Oh,You're sword girl! Fantastic!


 「はへ?」


 ジョナサンは、よりにもよって涼太の目の前で、力いっぱい夢莉を抱きしめると、ふわりとその両脇を持ち上げ、夢莉を掲げて踊るようにくるくると舞う。


 「うわぁー」


 詩音と彩乃はもちろん、樟葉先輩も涼太も、呆気に取られてただただ呆然と、目の前の幻想的な情景を見つめることしかできなかった。


挿絵(By みてみん)



◆18 憧れの穏やかな街角 に続く

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。

 新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。

 画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。


 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。


■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

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