表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
雨と出逢いとハプニング
17/112

◇16 無謀なる挑戦の顛末

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。

 新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。



●主な登場人物

 □女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。

白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。

香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。

神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?


佐伯さえき 十三じゅうぞう

 詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。

島本しまもと 涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。

鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。

水野みずの

 夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。


■ジョナサン ウェリントン

 樟葉先輩の知人の金髪男子。今のところ謎だらけ。

□メアリー

 謎の金髪美少女。



◇16 無謀なる挑戦の顛末



 例の妙に気合の空回りした壮大なポスターでRPG同好会の宣伝を試みる傍らで、まだその御利益が現れない頃、いや、もしかしたら御利益なんて全然ないのかもしれないが、とにかく詩音たちは相変わらずの活動を黙々と続けていた。


 恥ずかしい格好をせずに済んだことの埋め合わせのつもりか、彩乃がスペースオペラ系RPGのゲームマスターをやると自分から言い出したのだが、もちろん誰も反対する者はいない。


 とにかく、毎度お馴染みの顔ぶれが、これまたお馴染みの研修室に集って、ちょっとだけ壮大な宇宙冒険譚の幕が上がった。






 「船は通常ドライブの不調で急降下中だから、まずは緊急着陸だね。全乗組員の2D6で合計30以上が目標値だよ、頑張ってね!」


 開始から僅か十五分、どうやら早速の非常事態のようだが、些か緊張感に欠ける彩乃の明るい声が雰囲気をぶち壊しつつ進行していく。


 2D6というのは、六面体のダイス、つまりサイコロを二個振りなさい、という指示を示す。要するに、この場の全員でサイコロを振り、合計値が30を超えれば「なんとかなる」かもしれないわけだ。


 この場にいない樟葉先輩以外の、詩音、夢莉、涼太とゲームマスターの彩乃で30を目指すということになる。


 「航宙操船の技能があればレベル分を足していいよ。まずは航法支援コンピューターのボクは、んと、8だけどNPCなので半分の4になるよ。残り26だね」


 NPCというのはノンプレイヤーキャラクターの略で、早い話がいわゆるモブキャラのこと。大概の場合はその他大勢の扱いになって軽視されがちだ。


 「残り26を三人で、ってことは、全員9以上出さないと墜落するわけか」


 夢莉が落ち着いて計算する。2D6の期待値が7だから、少し厳しめかもしれない。


 「私、航宙操船技能2だから、よいしょっ! と8だから10になるね」


 詩音が先陣を切って幸先の良い数値をたたき出す。世界が違ってもさすがは勇者詩音だ。


 「あたしは、えいっ! あー、7だから残り9。涼太、あんた9以上出しなさいね、義務だから」


 夢莉が続いて、無理難題を涼太に押し付ける。


 「ちょっと待て、お前ら二人が8と7で、なんで俺だけ9が義務なんだよ?」


 こうなることは最後にダイスを振る者の宿命だ。場合によっては振る必要なく成功のこともあるが、時には既に失敗が確定していることすら起こり得る。ゲームの理不尽、ここに極まれりといった感じである。


 「大丈夫、この勝負に勝てば貴様は英雄だ! 気張れ涼太、男の意地ってやつを見せてみろ!」


 夢莉が更に煽る。妙にノリの良いところも夢莉の魅力だろう。SFっぽくはない言い回しではあるが。


 「ええい、どやぁっ! 5と…2で、あれ? これは…いや待て、航宙操船技能が確か…」


 周囲の静まり返った空気の中、涼太は必死に手元のキャラクターシートを覗き込む。そこにはこの世界の涼太のすべてのデータが記されている。


 「えー、誠に残念ながら、俺の技能レベルは1なんで、みんな衝撃に備えて覚悟を決めてくれ、よろしくっ!」


 ゲームの世界では、あとひとつ足りないという理不尽な状況は往々にして起こるものだ。それで命拾いをすることもあれば、致命的な破局をもたらすこともある。


 これが現実世界であれば、足りなかった数値が具体的に明示されないだけ、多少は心に余裕があるかもしれないが、いわゆる「あとちょっと」は当然、現実でも起こりうるはずである。要はそれを自覚できるかどうかの問題だ。


 「うわぁ、マジか…いくらゲームの中とはいえ、さすがに墜落は気分がいいもんじゃないよなぁ…」


 冷静に夢莉は感想を述べる。もっとも、これが現実の出来事だったなら、さすがの彼女とてこうも落ち着いてはいられないだろうが。


 「あー、不時着の成功判定は主任操船士の詩音がやってね」


 こちらも彩乃が淡々と話を進める。


 「え、私? えーと2D6で10…技能が2だから、12? これって大きいほうが良いんだっけ、なんか嫌な予感がするけど」


 促されるままにダイスを振って、自信なさげな表情を浮かべる詩音。その顔をじっと見つめたまま、眉毛だけをぴくりと動かす彩乃。


 「な、何が起きたのかなぁ…」


 ひきつり笑顔の詩音を堪能するように、彩乃は徐々に邪悪な悪戯じみた表情へと変わっていった。


 束の間の沈黙の睨みあいの後、彩乃はいきなり諸手を挙げる。


 「じゃーん! 船内の全電源喪失、動力炉停止、非常電源は48時間しか持ちません! おめでとうございます、乗組員全員の命は助かりました」


 「え?」


 「それって、おめでとうな状況なわけ?」


 詩音と夢莉が微妙な反応を返す。とりあえず最悪の状況は免れたが、とても喜べる状況とは程遠い気がする。


 「えーと、予定到着地点の宇宙港から1500キロくらい東の場所、砂漠地帯のど真ん中に墜…不時着したね。上下はそのままだけど、これからは重力の影響があるから注意してね」


 「今、墜落って言おうとしただろ、彩乃」


 「いや、ほら、コンピューターにとっては、不時着も墜落も同じようなもんなんだし?」


 「とにかく無事でよかったよ。もしかしたら、みんなでおっきな花火になっちゃったかもしれないんだから」


 確かにそうである。どこまでゲームマスターの神の手が差し伸べられたかはわからないが、裁量なしに生き延びたのは大きい。


 「待て! 全電源喪失って言ったよな? 俺の樟葉はどうなるんだ?」


 「俺の樟葉ぁ?」


 涼太のいきなりの大胆な発言に、皆が一様にドン引き気味の声を上げる。


 「今回はそういう設定なんだよ、難病の若い女性を冷凍睡眠で名医の許に運ぶ婚約者、ってのが今回の設定なんだから、しょうがないだろう」


 「あー、他の乗組員の皆には黙っていたが、実は…って感じか」


 これもRPGにはよくある展開だ。ゲームマスターと一部のプレイヤーだけが裏設定を共有していて、いざというときに素性を明かすサプライズ演出である。その効果は極めて絶大だが、活かせるタイミングをつかむのは意外に難しい。


 「よかったね、涼ちゃん。美味しい役じゃない」


 「美味しいっちゃ美味しいんだろうけどよ、電源のない冷凍睡眠ってどうなるんだよ、おい」


 ゲームとはいえ、涼太も完全に雰囲気にのまれている感じだ。むりやり強引に夢莉がここに引っ張ってきた当初は、かなり投げやりな様子もうかがえたが、今となってはすっかり馴染んで、むしろ先陣を切って大ポカをやらかしたりもする。


 「停電のときの冷蔵庫状態…」


 詩音がぽつりとつぶやく。


 「なぁ、コンピューター…ていうか、マスター。救援って来るのか? そもそも船の状態は?」


 こういう客観的なことは夢莉にお任せだ。彼女に船長を任せておけば、大概のことはどうにかなる気がする。


 「うーん、ちょっと待ってね。ふむふむ、船体損傷度はB判定だから、修理に二週間のドック入りが必要。ドライブ類は機能停止だけで、爆発とかはなし。でも、再起動に必要な電力が足りません、って感じ?」


 やけに砕けた口調のコンピューター彩乃が淡々と報告を続ける。


 「爆…発…」


 詩音は改めて自分たちの置かれている状態に震え上がる。確かにいくら宇宙船が頑丈でも、これは航空機事故みたいなもの、というよりそのものだ。空中で爆発分解しなかっただけで儲けものかもしれない。


 「救難信号は絶賛発信中だけど、応答なし。いちおう言っとくと、船体が半分くらい砂に埋まってるから、サルベージ船が来ないと脱出不能かも?」


 「万事休す、って状態だなぁ、こりゃ」


 冷静を通り越した諦めムードで夢莉が溜息をもらす。


 「それより、俺の樟葉はどうなるんだよ? 俺の大切な樟葉にもしものことがあったら、いったい俺はこの先どうやって生きていきゃいいんだよ?」


 涼太の空気を読まない発言に、いろいろと複雑な心境の夢莉は、苛立ち気味に言 葉を返す。


 「…涼太、どうでもいいけど、その発言は全部記録されているんだからね? あ とで樟葉先輩に文字起こしをお願いするんだし…」


 「あ…」


 夢莉の手元のボイスレコーダーが小さな赤い光を放っているのを確認し、涼太の 声のトーンが若干落ち着いた。


 「冷凍睡眠装置の優先度は三番目だから、あまり高くはないかも? 生存者の管理、救難信号とデータの確保、の次だね。どっちみち予備電源の48時間が過ぎたらアウトだし」


 コンピューター彩乃の性格か、ゲームマスターの冷静さか、ありのままの事実だけを述べていく。


 RPGのスタイルでは、演技派や雰囲気派な情に訴えるタイプと対照的な、ゲーム派や攻略派といった感じの扱いだ。こういう手合いの多くは、ルールに厳格な判定を要求しがちで、融通に欠けるぶん、現実的ではある。


 「樟葉先…婚約者を蘇生するなら、医学技能で2D6してね。8以上で…って、どうしたの?」


 彩乃は説明の途中でプレイヤーたちの異変に気付く。何かボク、間違えたかな?と自問するが、何も思い当たる節はない。


 「あの、さ、医学技能なんだけど…」


 冷静なはずの船長夢莉が珍しく言葉を濁す。それが一連の致命的な出来事のそもそもの発端だった。


 「医学技能が要るから取っといてね、って言ったよね。まさか忘れてたり?」


 あぁー、と彩乃が察し良く聞いてくる。ゲームマスターたるもの、この程度のハプニングは予想の範囲だろう。


 「いや、ちゃんと取っちゃあいるんだが、取得済みのキャラってのが、だな…」


 涼太がそれに言葉を返すも、いつもの勢いがない。まるで何か悪いことをしでかした子供のように、小さく弱々しい口調である。


 「肝心のお医者さんが冷凍睡眠中なんだよ」


 後を引き継いだ詩音が結論を述べる。つまり、昔よくあった、車の中にキーを入れてドアロック、みたいな状態ということだろう。


 「ははぁー、それは何というか、何でこうなった?」


 彩乃は小首を傾げながら、どうしたものかと考えを巡らせる。


 「普通、スチュワード技能で冷凍睡眠の解除はできるし、まさか到着前に墜ち…不時着するなんて思わないよ…」


 詩音はもっともな答えを返す。


 確かに通常な手順なら、冷凍睡眠からの復帰は客室乗務員の片手間業務で事足りるはずだった。十分なコンピューターの支援さえ受けられれば…。


 「なぁ、彩乃? 確か、技能を持ってないやつがむりやり判定して、クリティカルで成功すると技能貰えるって聞いた気がするんだけど?」


 「あー、確かにクリティカルかファンブルで予備経験点が入るんだけど、まぁ普通、医学技能だと、うーん…」


 彩乃が夢莉の質問を受けて、歯切れの悪い返答を返す。


 クリティカルは「完全なる成功」、ファンブルは「想定外の失敗」を意味している。


 小さいほうが有利の場合は最低値、この場合2D6だから、1のゾロ目の2がクリティカル、逆に6のゾロ目の12がファンブルとされる場合が多い。当然、大きいほうが有利なら反対になるわけだ。


 だからダイスを振る際は、人と場合によっては奇声や呪文を発しつつ、コロコロといくのである。要はこれが、ちょっと前まで頻発していた樟葉先輩お説教事件のきっかけでもあった。


 さて、誰かが何かに新たに挑戦する場合、すんなりと結果が出るより、大成功か大失敗のほうが得られるものが多く、それがのちに技能としての足掛かりになるはずだ、というのは、ルールとしてそれなりに納得のいく説明であった。


 しかし、こと医学や操船のような高度な専門分野になると、いわゆる素人に任せていいのかどうか、判断が難しい。


 別に切り傷擦り傷なら良いだろうが、外科手術や疫病の対策となれば、その辺の素人に「挑戦する権利」が与えられたとして、どうにかしろというのも無理無謀というものだろう。


 そもそも「俺、やったことないけど、ちょっとやってみるわ!」的ノリで、身内や愛する者の命を託せるのか、逆に自分自身で「試しにやってみよう!」と思えるのかどうか、所詮はゲームだし、という一点を除けば、容易に賛同はしにくいだろう。


 「ええぃ、もういい、俺がやる! 愛する樟葉はこの俺が救ってみせる! 2D6、どやぁあ!」


 皆が止める間もなく、涼太がダイスを振る。宙を舞うダイスが陽光に煌めく。


 その運命の重力に導かれる結果を緊張した表情で眺めているのは、涼太だけではなかった。


 凍りついた一瞬ののち、運命の女神が示した答えは、あまりにも無情であった。


 「ファン…」


 「蘇生だ蘇生だ! お前らも頑張ってどーにかしろ! 俺の樟葉がぁ…」


 その時、研修室の扉がノックとともに開かれた。


 「ごめんなさいね、遅くなってしまって。え、皆どうしたの、幽霊でも見るような青い顔して…」


 皆の視線を一身に浴びて、入ってきたばかりの樟葉先輩が凍りつく。


 「樟葉先輩、すみませんでしたぁ。俺がぁ、俺が至らないばっかりに…」


 「はぁ…」


 状況を理解できるはずもない樟葉先輩は、無表情のまま凍り続けるだけだった。


挿絵(By みてみん)



◇17 味方殺しの代償 に続く

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。

 新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。

 画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。


 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。


■HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を公開中ですが、只今、絶賛放置中です。

■Twitterもあります(@manazuru7)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ