◇15 果てしない難題
●ご注意
この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。
新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。
●主な登場人物
□女性/■男性
□西原 詩音
担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。RPG同好会の会長。精神的ハリボテ勇者の引っ込み思案娘。
□白岡 彩乃
詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。明るくマイペースなボクっ娘トラブルメーカー。
□香坂 夢莉
詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部にも所属。毒舌系百合剣士な雰囲気ながら、情に脆い苦労人。
□神楽 樟葉
図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。完璧主義で融通の利かない修道女的性格。詩音のライバル?
■佐伯 十三
詩音と彩乃の担任の国語教師。RPGの造詣も高く、心理描写重視の演劇スタイルが得意。生徒の評判も良好。
■島本 涼太
詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。夢莉にあからさまな挑戦を続けるトリックスター。
■鷹取 謙佑
ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。RPGのほか、玩具系に詳しい。イケメンだが、かなりアバウトな性格。
■水野
夢莉の担任の体育教師で、体操部の顧問。親身な熱血指導が誤解と不評を受ける不運な境遇。
◇15 果てしない難題
とある日の放課後、詩音たちいつものRPG同好会の面々は、体育館の二階にあたるテラスから身をのり出すように、眼下の館内の様子を眺めていた。
高い天井の体育館特有の照明に照らし出された館内では、リズミカルな女子生徒の掛け声と手拍子に合わせて、体操服姿の夢莉たち体操部の生徒たちが、きびきびとした動きで準備体操を繰り返している。
怪我の長期離脱が明けたばかりの夢莉だったが、皆の心配をよそに本人の調子はかなり良さそうだ。
夢莉本人もなかなか復帰できないことで不安もあっただろうが、その辺の微妙な心中を目ざとく察していたのは、夢莉と毎日顔を合わせている腐れ縁の幼馴染み、涼太だけなのかもしれない。
今日、夢莉がこうして練習に復帰する踏ん切りがついたのも、涼太の影響力も少なからずあってのことだろう。
体操部の象徴みたいな可憐なレオタード姿ではないものの、長い髪をポニーテールにまとめた夢莉の真剣な表情は、それだけで凛々しく勇ましい。
「夢莉のやつ、思ったよりイイじゃないか。ハラハラして損したぜ」
そう言ってはみるものの、涼太の視線が夢莉から外されることはない。
「まぁ、夢莉だからねぇ。万全じゃなかったら、復帰なんてしないよ」
詩音もそう言いながら、安堵の表情を浮かべる。まるで夫婦が我が娘の体操教室を見学しているようなノリだ。
「でも、どうするのかしら、今後は?」
樟葉先輩が誰にともなくそう問いかける。
RPG同好会は目下のところ、最低人数の僅かに五人きりである。本格的に夢莉が体操部に軸足を移すことになれば、というか、こちらが本来の彼女のいるべき場所なのだろうが、研修室に常時集まれる人数はさらに減ってしまう。
校則の規定では、特に欠員が出た場合については触れられていないが、それは常識的に考えて、ぎりぎりの人数で始める愚か者はいないだろうということの裏返しでもある。
長期的に誰かを勧誘するとしても、それが実現するころには、今度は三年の樟葉先輩が卒業の時期を迎えることになるかもしれない。いくら規定にないとはいえ、人が減り続ける同好会というのも、大いに問題ありだろう。
女子生徒の掛け声が途切れたタイミングで、彩乃が夢莉に大きく手を振ると、夢莉もそれに応えて小さく手を振り返す。
考えてみれば、ボーイッシュなボクっ娘の彩乃こそ体操競技とかに向いていそうなものなのだが、本人はサバイバルゲーム以外のスポーツにはまったくと言っていいほど興味がないらしい。なんだか随分と勿体ないようにも思えるが、詩音自身も運動はからっきしなので、そういうものかと納得した。
「ねぇ、涼ちゃん、帰宅部で仲のいい暇な男子っていない?」
涼太に振り返りつつ、藁にも縋る思いで詩音は尋ねたが、返ってくる答えは限りなく素っ気ない。
「あぁ…まぁ、暇なやつは腐るほど知っちゃぁいるけどなぁ、なんつーか、あいつらの興味あるゲームってーと、ゲーム機やゲーセンでバキバキやるほうのアレだしなぁ」
現代のゲーム界事情では、それが普通ではある。
コンピューターの劇的な進化で、3Dやらバーチャルやらオンライン多人数接続やらボイスチャットやら…が手軽に誰でもできるようになった今日、詩音たちのように、わざわざ集まって、顔を突き合わせて何時間もダイスをコロコロやっているほうが希少な存在なのである。
詩音にしたところで、もし兄が例のルールブックを遺して向こう側に旅立たなければ、恐らく一生関心を持つこともなかったであろう世界である。
もしそうなっていたら、今一緒に過ごしているこの場の皆との関係も、全然違うものになっていたことだろう。
「とりあえず、地道に新兵を確保して補充しないと、このままじゃジリ貧で戦線崩壊だよ、司令官殿…」
彩乃が茶化し気味にそう言うものの、それはここにいる全員の共通認識、喫緊の課題というものだった。
「こればっかりは、現地徴用はできないしねぇ」
詩音は大きく溜息をつく。RPG同好会設立のドタバタ以来、すっかり少なくなっていた溜息だったが、まだまだ当面はお別れできそうもない。
「どっかに落ちてないかなぁ、即戦力…」
「まぁ、普通は無理よね」
詩音の何気ない呟きまで、即座に樟葉先輩に砕かれる。この世界は何処までも冷淡で無情だ。
「あー、ボク、ひょっとしてイイコト思いついたかも?」
彩乃の悪戯な瞳が、いっそう輝きを増して煌めいた。
彩乃がそのイイコトとやらを思いついてから、RPG同好会の面々はまさに大わらわで下準備に取りかかった。
そしてあっという間に日々が過ぎ、迎えた二度目の日曜日、佐伯先生を加えたいつもの愉快な仲間たちは、街外れの河川敷を利用した広場に集まっていた。
普段は芝生の生えた広々とした空き地に、時折、子供たちやペットたちが走り回る感じののんびりした場所だが、河川の氾濫を防ぐため、速やかに水没するようにもなっているせいで、建物らしい建物は殆どない。
「はい、それじゃあ、夢莉、そろそろ撮影始めるよー」
「ねぇ、彩乃、本当にここでやるの? あー、もう! さっさと終わらせてさっさと帰るわよ!」
そんなさほど人目が気にならない状況ではあるのだが、夢莉にとってはそんな余裕をかましている心境ではなかった。
「しっかし、まぁよくもこんな突拍子もない真似を次から次へと思いつくもんだなぁ、お前らは…」
詩音の隣で腕組みをしながら、半ば呆れたように佐伯先生はそう感想を語った。
「いったいどこからこんなものを調達してきたんだ?」
佐伯先生が疑問に思ったのは、詩音たちが見つめる視線の先、凛々しい剣士夢莉の纏うファンタジー色に溢れた衣装一式のことだろう。
アルミっぽい金属素材の胸当て、厚手の布製の紋章入りスカート、お揃いのグローブとブーツ、大きな羽根飾りのついた耳当て一体のヘアバンド。そして控えめな長さのエストック。その紅白に統一されたデザインは、遠目には本物と見紛うほどの出来栄えだ。
そしてなによりそのすべてが、背の高い夢莉のすらりとしたシルエットに抜群に似合っている。
「謙ちゃんの知り合いのコスプレイヤーさんから借りたんですよ。結構本格的っていうか、イイ感じになって良かったですよ」
女子中学生にはあまり似合わない、大きなカメラを片手に彩乃がこちらを振り返って説明する。まるで自分の立てた手柄のように自信満々の表情だ。
「ついでにそっちの魔法少女も借りてきたんで、おまけで詩音も後で撮影だからね」
「うぅー」
そう、今、佐伯先生の隣で出番を待つ詩音もまた、どこかで見たような魔法少女風のカラフルなフリフリドレスのミニスカート姿だ。妙な過剰装飾のバトンまで持たされている。
いくら毎日ひとつ新しいことに挑戦しようと決めた詩音であっても、さすがにこのやりすぎな色物衣装で胸を張るだけの度胸は持てなかった。
白と桜色を基本に赤と黄色のワンポイントをあしらった、伝説のアイドル顔負けの姿である。罰ゲームでもなければ好き好んで着たいとも思えない。
「こんなの小学生までだよ…」
確かに小学校低学年の頃までは、詩音も例外なく憧れていた記憶はあるものの、もはや中学二年になった今では、似合うと言われるほどにどこかチクリと心が痛くなる。
「そんなことないだろう、詩音だってとても似合っているぞ」
「はぁ、ありがとうございます」
空気を読めない佐伯先生の悪意のない言葉が、余計に痛い、というか、よりにもよって魔王佐伯の目の前で、このような魔法少女の姿に変身せねばならない屈辱を恨むしかない。
そもそものことの発端となった、彩乃の計画というのがとんでもないもので、RPG同好会のポスターを作って会員を呼び込もうという作戦だった。
そこまではまぁ良いだろう、普通だ。理解できる。
撮影にあたってファンタジー風の仕立てにしよう、というのもわかる。RPGといえばファンタジー、というのは一種のお約束だからだ。
で、校内の他にも彩乃のホビーショップにも掲示しよう、きっと趣味の近い生徒が立ち寄ってくれれば見てくれるはずだ、というのも理解できる。
問題はそのあとだ。
ホビーショップを協力店としてポスターに名前を入れることで、多少の限りなく薄い宣伝効果を口実に、撮影資金を出資して貰おう…まぁ実際のところは、彩乃の両親が娘のためにお金を出しているだけなのだが、少なくとも帳簿上は宣伝広告費として経費に計上できるはずのお金だ。
その話を聞いていた店員の鷹取さん、つまり彩乃のいう謙ちゃんが、衣装の調達を申し出てきたわけなのだが、その衣装が女剣士と魔法少女という究極の二択ともいうべき代物だった。
あまりのインパクトに衝撃を受けたモデル役の夢莉が、迷うことなく女剣士のほうを選び、モデルを引き受ける条件に、他の誰かが魔法少女になれと言い出したのだ。
どうせ恥ずかしい思いをするのなら、平等に味わいましょうというのが夢莉の言い分だ。まぁ、立場が逆なら詩音でもそう言い出しただろう。
幸か不幸か、残りの四人でダイス対決をした結果、涼太が魔法少女になるという最悪の事態は回避することに成功したものの、詩音がその名誉ある権利を授かることになってしまったというのが、ことの顛末だ。
「はーい、始めるよ、夢莉。こっち向いてポーズ。うーん、なんかこうカッコイイ感じで!」
彩乃が限りなくアバウトな指示を出しながらカメラを構える。
屋外での撮影ということもあって、初夏の日差しが程よく自然な陰影を投げかける。
「ポーズって言ってもなぁ、適当過ぎて良くわかんないんだけど? あー、涼太、あんたその辺に立って敵のフリしなさいよ、刀の錆にしてあげるから」
問答無用の多数決でモデル役を押し付けられた夢莉だったが、なんだかんだ言っても、結局満更でもない様子である。憧れの剣士姿なのだから、成り行きはどうであれ、それなりに嬉しいのだろう。
「夢莉さん、楽しそう」
「た、楽しくなんて…まぁ、どうしても嫌!ってほどじゃないですけど…」
大きな反射板を掲げながら樟葉先輩が微笑むと、夢莉は少し顔を赤らめて俯く。その表情が初々しくて、彩乃は「イイね、イイねぇ!」と怪しげな撮影会のような奇声を上げつつ、勝手に盛り上がりながらシャッターを押し続けた。
「ちょっ! こら、涼太ぁ、あんた何勝手にスマホで撮影してんのよ、プライベートは有料よ、有料!」
「あぁ、まぁ気にすんな、別に減るもんじゃなし。俺の宝物にしとくからよ」
一方的に巻き込まれ気味の涼太にとっては、またとない役得の機会だ。ご褒美は貰えるうちに貰っておくしかない。
「夜間は絶対、閲覧禁止だからね!」
そっぽを向きながら、ぶっきらぼうに夢莉が反応する。
「オッケー、ちょっと交代ね。詩音、おいでおいでーっ!」
恥じらう女剣士の撮影に十分満足したのか、彩乃は次の獲物に声をかける。
「うぅー」
嫌々ながら、もはや逃げ道のない詩音がゆっくりと歩みだそうとした時、背後の土手から小さな女の子の黄色い歓声が上がった。
「あーっ、魔女っ娘ミミリンだー、おーい、ミミリーン!」
ミミリンというのかこれは、とどこか冷静に理解しつつ、詩音はぎこちない微笑みを浮かべて声のほうを振り返った。
「ミミリーン!」
両親に挟まれた幼稚園児くらいの女の子が、めいいっぱいに跳びはねながら、大きくこちらに手を振っている。
もともと、何事も控えめに、ということを信条に過ごしてきた詩音にとって、誰かに注目されること、しかも見ず知らずの無邪気な子供の期待の眼差しを向けられることなど、まさに想定外の出来事だ。
「ほら、詩音、顔が怖いぞ…。笑顔だ、笑顔」
佐伯先生がそう言葉をかけると、詩音は大きく息を吸って、女の子に手を振り返した。
女の子の両親は揃ってぺこりとお辞儀を返すと、そっと女の子の手を引いて土手の道を再び歩き始める。
「またねー、ミミリーン! がんばえー!」
詩音はなんだか暖かな気持ちになって、先ほどまでの気恥ずかしさも忘れて、女の子が見えなくなるまで手を振っていた。
◇16 無謀なる挑戦の顛末 に続く
●ご注意
この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したもの、及びその続編となる各章のショートショート連作です。
新作部分は2023/5/1より、毎週月曜日の10:00に掲載していく予定です。
作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。
画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。
ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。
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