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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
ゲーム部を目指して
12/112

◇11 それぞれの決意

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したものです。

 既存部分の掲載に引き続き、新作部分を連作小説形式で公開していきます。



●主な登場人物

 □女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部に所属。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。


佐伯さえき

 詩音と彩乃の担任の国語教師。


涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。


水野みずの

 夢莉の担任の体育教師。


◇11 それぞれの決意

 

 「いいから、もういい加減泣き止みなさいよ、うざったい!」

 いつもと変わらぬ研修室。すでにその利用スケジュールの半分ほどを詩音たちが占領する格好になっているのだが、建前上はあくまで生徒の誰でも使える図書館の一室である。

 今、そこで聞きなれない妙な声音で泣いているのは、いつもお馴染みの三人の女子生徒たちではなく、樟葉先輩でもなく、もちろん佐伯先生がここにいるはずもない。

 「だってよぉ、うまくいったからぁ、夢莉の願いが叶ったからぁ、俺よぉ、ちったぁ役に立ったのかなってぇ」

 あの後、突然泣き崩れた涼太を、夢莉と樟葉先輩の二人がかりでどうにかこの研修室へと引きずってきたのだ。

 まるで樟葉先輩に告白して玉砕したか、はたまた成就して感動のあまり撃沈したか、傍から見ればそんな想像が膨らむ光景ではある。

 「どういうこと、これ?」

 彩乃が皆を代弁して、もっともな疑問を呈する。

 「何と言いますか、間接的に私が一本取られたというか…」

 「はぁ…」

 樟葉先輩の説明もいま一つ要領を得ず、皆は一様に首を傾げるばかりだった。

 「ま、まぁ、こいつのことは…この際どうでもいいでしょ。とりあえず五人集めたんだから、詩音、あとは部長が何とかしなさいよ」

 何処か照れくさそうな表情をはぐらかすように、夢莉が詩音を指さした。

 「五人…って、涼ちゃんも入ってくれるの? ありがとうね、感謝だよ」

 詩音にとっても涼太は幼馴染み。いつも三人で日が暮れるまで遊んでいた幼稚園時代の記憶を懐かしく思い出す。

 「あたしの代わりに樟葉先輩を口説き落としたんだ、いまさら自分は関係ありません、なんて戯言は言わせないからね!」

 もともとそのつもりで樟葉先輩の許に連れて行ったのだ。夢莉の説得に素直に応じてもらえなくても、涼太も必ず入部させるんで、どうか先輩もよろしくと頭を下げる算段だった。まさかその生贄役の当人が、予想外の立ち回りを演ずることになるとは思いもよらずに。

 「へぇー、この人、そんなに凄いんだ?」

 そうは見えないんだけど、といわんばかりの彩乃の感心も無理からぬことだろう。夢莉も、樟葉先輩も、そして何よりもちろん涼太自身でさえも予想していなかった展開によって、ことが丸く収まったといえるのかもしれない。

 「涼ちゃん、実は夢莉のことになると昔から凄いから…」

 「はぁあ? ちょっと詩音、あんた何余計な事言ってんのよ! こいつはなんていうか、その、単なるあれっていうか…」

 詩音の言葉に、あわあわと否定のゼスチャーを交えて狼狽える夢莉を眺めながら、彩乃と樟葉先輩が顔を見合わせる。

 「なんか、いつもと逆?」

 確かに普段ならば詩音が夢莉に揶揄われているのがお約束の光景だが、今日は少しばかり様子が違った。

 その新たな風の吹き始めは、夢莉が挑んだ挑戦か、樟葉の選んだ決断か、涼太の大勝負の顛末か、何よりそれらの相乗効果がもたらしたものなのだろう。

 「あー、ほらほら、それじゃあもう帰るわよ。あんたもいい加減にしゃきっとしなさい!」

 「お、おう!」

 多少は落ち着いたのか、涼太が夢莉に急かされて、ようやく立ち上がる。

 「まぁ、その…今日はありがとうね、涼太」

 照れくさそうにそれだけを言うと、夢莉は再びそっぽを向いてしまう。その横顔を見つめる涼太の視線は空振りだ。

 「ほら、帰るんだからね! 彩乃もにやけてないで支度しなって!」

 一連の流れをにやにやと眺めていた彩乃が、夢莉に尻を叩かれるようにして立ち上がる。

 「ほいほい」

 詩音もゆっくりと自分の席を立ち上がり、研修室を後にしようと歩みだすと、その背中に樟葉先輩の声が投げかけられた。

 「西原さん、ちょっといいかしら、少しお話が…」

 「あぁ、はい、何でしょう?」

 戸惑いがちに振り返ると、いつもよりさらに鋭さを増した樟葉先輩の眼光が詩音を見据えていた。

 「あー、ボクたち先に行ってるから、いつものバーガー屋で…」

 ただならぬ気配を察した彩乃が、気を利かせたのか自己保身に走ったのか、そんなことを言い残して研修室を後にする。

 「退却ぅー、撤退撤退ぃー!」



 他の皆が帰った後、二人きりで残された研修室で、しかしなかなか樟葉先輩は言葉を発しようとはしなかった。

 「あのぉ、樟葉先輩?」

 何度目かの詩音の問いかけで、ようやく樟葉先輩の重い口が開く。

 「昨日、あの後、私なりにいろいろ考えてみたのですけれど…」

 「はぁ」

 詩音に何も思い当たることはない。

 夢莉と樟葉先輩がシナリオ上で対立したというのはあったが、それは当人同士の間で解消済みのようだし、樟葉先輩の性格からして、現実世界の詩音や彩乃を逆恨みするようなこともないだろう。

 「西原さん、あなた自身はいったい、これからどうしたいのですか?」

 「え?」

 突然樟葉先輩の口にした疑問が、いったい何を言わんとしているのかが理解できず、詩音の頭が混乱する。

 「たぶん皆さんそれぞれ一生懸命で、白岡さんは佐伯先生を顧問にしようと説得に毎日奔走していましたし、香坂さんはあなたの夢を叶えたい一心で必死に…その思いがさっきの彼にも伝わった結果、私もこの場所に参加することを決心したわけですし…」

 「はい、なんというか、皆には本当に感謝しています」

 詩音は素直にそう答えた。その言葉に嘘はない。

 「それはともかく、西原さん、あなたはその間、いったい何処で何をしていたのかしら?」

 どくんとひとつ詩音の心臓が大きく跳ねた。

 「あなたが性格的に説得や交渉に向いていないというのは、まぁ傍で見ていれば雰囲気でわかります。でも、あなたにも何かできることがあったのではありませんか?」

 そこまで言うと、樟葉先輩は静かに目を閉じて大きく息を吸い込み、再び見開いた澄んだ瞳を詩音に向けた。

 「私、決めました。西原さん…いえ、詩音さん、あなたと勝負をします、私」

 「あの…」

 戸惑いを隠せない詩音は、顔じゅうに疑問を浮かべたままの不安げな表情で、ぼんやりと樟葉先輩を見つめた。

 「今まで詩音さんは、自身の願いを叶えるための挑戦に値する十分な環境に置かれていたはずです。でも、あなたはそれを少しも活かそうとしてこなかった。それが運命なら、どんなに放置してもいつかきっと上手くいくだろう、誰かがきっと導いてくれるだろう、そんなふうに気楽に構えていたのでしょうね」

 樟葉先輩の指摘は鋭く詩音の心に突き刺さるが、ほぼ正確に的を射ているだけに、詩音本人にも大いに自覚がある内容で、否定の言葉も浮かばない。

 「自分から最初の一歩を踏み出そうとしなければ、誰にも道は拓けません。自らが歩もうとして、初めてそこに道ができるのですから。だから私は、私自身の新しい一歩に挑む決意をしました」

 「それって…ええと、つまり…」

 詩音は確信をもって導き出した推測を言葉にできなかった。ひとたび口に出してしまえば、もはや取り返しがつかなくなってしまいそうで不安だった。

 「私も佐伯先生に改めてとても興味が湧いてきました。先生に私の知らないもう一人の神楽樟葉、いいえ、数えきれない幾つもの神楽樟葉の姿を教えてほしい、一緒に見つけていきたい、と心から思いました」

 樟葉先輩は改めて詩音の瞳を見つめると、自信に満ちた笑顔を浮かべながら最後のとどめを刺しにかかる。

 詩音にとってはまさに青天の霹靂という状況だった。樟葉先輩に対する反論を考えようとしても、心も体も言葉さえも震えるばかりで、同じところをぐるぐると巡り続けるようだった。

 「詩音さん、お互い手加減無用の真剣勝負、恨みっこなしで行きましょう!」




◇12 毎日ひとつだけの挑戦に続く

●ご注意

 この連作小説は、2023/4/1より当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したものです。

 2023/4/8より毎朝10:00に各章を順次公開しますが、分割にあたって変更した部分はありません。

 既存部分の掲載に引き続き、新作部分を連作小説形式で公開していきます。新作部分のスケジュールは現在検討中です。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。

 画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。


 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。

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