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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
波乱の冒険のその先へ
110/112

◇108 魔王が魔王をやめる時

まえがき


「よよぼう_~あの世とこの世の冒険譚」は、原則的に毎週月曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。


2025/1/13より、現在の第八章を掲載中です。今のところ、この章で完結となる予定となっています。



「よよぼう」第七章までのあらすじ &登場人物

https://ncode.syosetu.com/n0444ie/98


◇108 魔王が魔王をやめる時



 慌ただしく始まったRPGサークル主催のクリスマスパーティには、詩音たち中等部RPG同好会の面々と、詩音のクラスメイトたちも加わって、賑わいをみせていた。


 当然ながら、他の参加者のほぼ全員が、詩音たちにとって年上のお兄さんお姉さんという状況なわけで、いくらある程度の人数で集まっていても、場違い感は拭えない。


 気を遣ってくれているのか、スタッフ側の謙佑や環が時折声をかけてくれたりもするが、妙に浮いているといった雰囲気は否定しようがない。


 浮いているといえば、もうひとつ。大変身乙女デビューの彩乃である。


 前回、彩乃がこのイベントに参加した時は、例の「全滅シスターズ」騒動の片割れとして知名度こそ高かったものの、どちらかと言えば、悪名が轟いたという類なので、モテモテの大人気というには程遠かった。


 だが、今日の彩乃はまさにシンデレラ状態である。


 立食形式のパーティということもあるのだろうが、イメチェンを図り大成功した彩乃の周囲には、今日のプレイ仲間に限らず、様々な男女が集っていた。


 ちやほやと誉め言葉をかけられて、彩乃は喜色満面の照れ笑いで、その元気溢れる顔を綻ばせていた。


 客商売をしているということもあって、元々営業スマイルには定評のある彩乃だったが、今日の笑顔はそれとは違う、まさに天使の微笑みのように詩音には感じられていた。正直、少し羨ましく、妬ましくさえ思えてくる。


 彩乃の周りから瞬間的に人が途絶えると、そんな詩音の様子に気付いて、彩乃は大きく手を振ってくる。その屈託のない笑顔が眩しすぎて、詩音は曖昧に小さく手を振り返すことしかできなかった。


 「こらぁ、暗いぞ、どうした、詩音ぇ! せっかくのクリスマスパーティなんだから、楽しまないと!」


 詩音に絡んでくるのは、別に酔っぱらっているわけでもなく、ナチュラルにハイになっているパリピ娘の風歌だった。


 「うん、楽しんでるよ…」


 笑顔のないまま口元だけで微笑もうとする詩音に、風歌はしつこく絡み続ける。


 「嘘は良くないぞぉ? ほら、風歌お姉ちゃんに何でも話してみそ? まぁ、だいたい予想はつくけどさ…」


 「わかってんなら、別にそれでいいじゃない…。今の私には、どうやっても首を突っ込めない話なんだから…」


 自虐的な心理状態を赤裸々に呟く詩音に、それでも何とか励ましの声をかけたいと思った風歌だったが、全く取り付く島を見つけられない。


 「あー、真っ暗だなぁ、ホントにもう! 今からそんな調子じゃ、先が思いやられるってばよ…。時には何事も運に任せて、ほったらかしが一番!ってこともあるって…」


 もはやバンバンというよりガンガンという表現が似合うほど、激しい勢いで詩音の背中を叩きながら、さも自分は恋愛の達人ですっ!とばかりに風歌は語る。


 詩音や彩乃と同じ中二女子とは思えない、まるで居酒屋ねーちゃんといった雰囲気全開の風歌である。


 「実を言うとさ…、あたしも前に一度、こっ酷くフラれた事があってさ…。あぁ世界が終わっちゃうぅー!とか考えて、絶望のあまり真夜中にそっと家を飛び出してさ…」


 「ふぅーん、ちょっと意外、かも…」


 詩音がようやく気だるげな視線を、そっと風歌に向ける。


 「そしたらさぁ、何と!パパもママも全然気付いてくれなくて、誰も探しに来てくれないんだよね…。おいおい本気か?って、流石にビビったわ…」


 「それで、無事だったの?」


 知らず知らずのうちに風歌の話に引きこまれてしまった詩音は、先の展開が気になって思わず真顔で聞き返してしまう。

 勿論、今こうして風歌自身が語っているわけなのだから、いわゆる最悪の事態にはならなかった、ということだろうが、やはり詩音はその後の顛末が気になって仕方がない。


 「で、どういうわけかウチの弟だけが私が出てったことに気付いててさ、パパママ放置で自分で近所を駆け回ったのよ…。ホントに…、小学生が夜中にやるこっちゃないわよね」


 「弟さんって、彼女どうこう…っていう?」


 「あー、うん、初等部の金髪美少女って話だけど、まさか、ねぇ…。まぁ何だかんだで結局、その時は、騒ぎを聞きつけた吉川と越谷がさ、あ、二人ともご近所なんだけど、弟に『家に戻って姉ちゃん待っとけ』って言い聞かして、二人で明け方まで必死に探してくれたわけよー。もうあたし、感激しちゃってさー」


 風歌は少し涙ぐみながら当時の記憶を辿っていく。


 「じゃあ、何か、恩人? みたいな感じなのかな…」


 「そうだねぇ、そうかもねぇ…。もっともぉ、その二人の片方があたしを見事撃沈させたってのが、そもそもの原因なんだけどさぁ…。血相変えて探しに来るくらいなら、最初から…さぁ…」


 「あぁー…」


 何となく詩音も他人事ではない感覚を共有してしまう部分がある。


 もし、今ここで自分がいなくなってしまったとしたら、佐伯先生は必死になって探してくれるだろうか…。


 当然ながら、担任教師の責任感というか、義務感からそうせざるを得ないだろうというのは理解できる。しかし、詩音が求めているのはそういう意味ではない。


 佐伯先生自らの意志で、義務感や責任感からではなく、特別な女性を探す…、いや流石にそこまでとは言わなくても、かけがえのない大切な仲間として、詩音を探しに来てくれるだろうか…。


 最近の詩音が多少なりとも、自分という存在に自信を持ちつつあるとはいえ、そこまでの確証があるわけでもない。


 ただ、少なくとも越谷だけは、自分のことを探して、必死になって駆けずり回るんだろうなぁ…と、詩音は嬉しさ半分の複雑な気分になっていく。


 ―あー、つまり、越谷くん…。風歌のアプローチをばっさり蹴って、私一筋の道を選んじゃった、ってことになるのかぁ…―


 風歌の思い出話と越谷の現状を照らし合わせると、どうやらそういう事になるのだろうと、詩音は心の中で推測した。


 「何ていうか、あはは…。ゴメンね、風歌…。私、全然知らなかったよ…」


 「まぁ、詩音が鈍いのは知ってたから、気にしてないしぃ…。ついでに玉砕確定で口説きにかかるあいつも頭おかしいしぃ…」


 詩音にはもはや返す言葉もない。


 「でもさ、詩音がちゃんとビシッと我が道を行くんなら、あたしはそれでイイと思うし、雑魚敵モブ男子なんて蹴散らして、ガンガンいっちまえー! …って、わりとあたしはマジに思うわけよ! だから自信もって突き進め!」


 「あー、うん、頑張る…」


 再び風歌にガンガンと背中を叩かれながら、頼りなさげな微笑みを浮かべた詩音は決意を新たにした。


挿絵(By みてみん)



 華やかなクリスマスパーティの喧騒を一足早く後にして、佐伯先生と樟葉先輩の二人は、迎えに来た藤堂の車で一路、神楽本家に向かっていた。


 豪華な車内の上質な後部座席に座る二人の間には、ひたすら冷ややかな沈黙の空気が流れていた。


 まるで別れ話を拗らせた恋人同士、といった様相である。まぁ、この二人の交際はまだ始まってすらいないのだが。


 「本当に良いんですか、佐伯先生…。後悔をする事はありませんか?」


 長く続く沈黙に耐えかねた樟葉が、先に口を開く。樟葉からすれば、ここで佐伯先生が翻意してくれれば、それに越したことはないだろう。


 「どちらにせよ、後悔はするもんだ…。神楽には悪いが、今は詩音を優先してやりたい…」


 そう答える佐伯先生は、樟葉のほうに向き直ることなく、じっと前を見据えたままだ。


 その心はもう決まっているのだろう。樟葉のことを神楽と呼び、詩音のことは詩音と呼んでいる佐伯先生の無意識の感覚が、それを如実に物語っていた。


 「せめて二人きりの時くらい、『樟葉』と呼んで頂けませんか? 私にはそのくらいの我儘も許されませんか? 佐伯『さん』…」


 そんな小さな呟きが、今の樟葉にできる精一杯の抗議だった。





 神楽本家に到着するなり、二人は前回同様の応接室に通された。


 そこは事務的な来客用というよりは、一家団欒のために誂えた部屋のようで、恐らく上流階級の者たちにとっては、十二分にリラックスできる空間なのだろう。


 但し、今の佐伯先生にはそのような精神的余裕はない。


 前回訪れたときは、まったく話の内容に聞き及んでいなかったこともあり、樟葉の単なる進路上の相談だとばかり考えていたので、佐伯先生の緊張は、お屋敷に呼び出されたという一点のみに尽きた。


 だが今日は違う。樟葉からの…いや、神楽本家の当主からの直々の申し出を先延ばしにする交渉に訪れたのだ。


 当然ながら、その場で話は無かったことにされてしまう可能性が大きかった。そのような身勝手な言い分が通るとは到底思えない。黙って話を受けるか、断るかの二択しかないと考えるのが自然だろう。


 既にそこには神楽家当主の墨染ぼくせんとその夫人、つまり樟葉の両親が顔を揃えていた。


 佐伯先生が、いつも以上に堅苦しい挨拶を述べながら、二人に向かって深々と頭を垂れた。


 「本日はお忙しいところ、お時間を頂戴し、有難う御座います」


 ここからは、樟葉が妥協案として佐伯先生に示した三つの条件のひとつ、両親に自ら状況を説明する事、を実行しなければならない。


 「まぁ、そう気負わずに、まずは座って貰いたい…。こちらとしても、急な話で申し訳なかったからね…。佐伯先生にも、さぞ迷惑をかけてしまったことだろうと思う…」


 「いえ、それは構いませんが…。失礼します」


 佐伯先生は墨染に促されるままに席につくと、当然のようにその隣に樟葉も腰を下ろした。


 迎えの車内とはうって変わった対照的な二人の様子は、まるでご両親に結婚の了承を取り付けに訪れた年上彼氏と、当のお嬢様といった雰囲気である。


 「先ずは樟葉の…娘の個人的な我儘はさて置くとして、佐伯先生の率直な意見や感想、勿論要望でも構わないんだが、そこの辺りを聞かせてくれないかな?」


 「はい…。今回はその件について、大変失礼ながら、こちらからのお願いがあって参りました」


 佐伯先生はしっかりと墨染の顔を見つめながら話を始める。


 そのすぐ隣では、気が気ではない様子の樟葉が、僅かに小さく唇を噛みしめながら、佐伯先生と父親の顔を交互に見つめている。


 「お申し出は大変有難く、また自身の向上にも繋がる非常に有意義なものだと考えております。そして同時に、今ははっきりとその想いに応える事は出来ませんが、お嬢様からのご好意…と申しますか、そういった想いにも深く感謝しています」


 佐伯先生はそこで一度言葉を切って、ちらりと樟葉のほうに視線を送った。


 不意打ちのようにいきなり目と目が合ってしまった樟葉は、目を丸くして美しいその顔を真っ赤に染めながら俯いてしまう。どれほど照れて恥ずかしがっていても、やはり気品あふれる美少女であることは隠しようがない。


 「その上で、敢えてのお願い…お許しを頂きたいのです。一年間の猶予を私にいただけませんか?」


 「一年…それはいったい、どういう意味なのかな?」


 怪訝そうな表情で墨染は佐伯先生に問いかける。


 「はい。ご承知のとおり、現在、私は教職の傍ら、RPG同好会の責任者を務めております。それは『とある生徒』からのたっての要望で、仕方なく引き受けたものではありますが、流石に後任が見つかるまでの間、若しくは…」


 「その『とある生徒』さんが卒業するまでは、一年間の猶予が欲しい、と?」


 「はい…」


 佐伯先生が一切否定することなくそう伝えると、隣の樟葉が表情を曇らせて、膝の上に置いた両拳をそっと握りしめる。


 「その『とある生徒』さんとは、西原会長で間違いないね? そうだな…、佐伯先生自身は個人的にはどうなのだろうね? やはり西原会長に対して『特別な何か』を感じていたりはしないのかな?」


 「あ、いえ、詩…西原個人に対して、受け持ちクラスの一生徒、或いは同好会の発起人として以外に、特別な個人的感情は…」


 「無い、そんなものは全く在りはしない、と…。そう胸を張って、樟葉の目の前で誓えますか?」


 些か恫喝じみた強い声音になって、墨染が佐伯先生を問い詰める。


 その様子を今にも泣きだしそうな表情でじっと樟葉は見つめていた。それは誰よりも樟葉自身がやりたかったことであり、そしてその答えを聞くのが怖かった質問でもあった。


 「それは、否定できません…。非常に失礼な物言いになってしまいますが、何より私自身が、自分の感情に自信を持つことができません。端的に申し上げれば、仮に西原詩音と神楽樟葉という二人の生徒の二者択一を求められても、正直即断はできないと思います…」


 「つまり、これから一年間かけてその辺りをじっくり考えていきたい、という事で良いのかな?」


 「はい、仰る通りです。我儘ではありますが、お許し頂ければ幸いです」


 改めてもう一度深々と佐伯先生は頭を下げた。その姿をじっと見つめたままの樟葉の瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。


 「樟葉、あなたはそれで良いの? 一年間、佐伯先生を待っていられる? それに、もしも…」


 これまで黙って話を聞いていた樟葉の母が、涙混じりにしゃくりあげる我が娘を心配して声をかける。


 「はい、大丈夫です、お母様…。佐伯さんは、まず誰よりも先に、私にその複雑な心情を話してくれました。留学から一年後に必ず会いに来る、それまでも連絡は絶対に欠かさない、という確約もいただきました…。ですから私は…、私が選んだ佐伯さんを、心惹かれたお慕いする殿方を、精一杯信じてみようと…、そう思っています。」


 途切れ途切れの涙声で、そう一気に思いの丈を口にする樟葉は、気丈に両親を見つめて、自分も深々と頭を下げた。


挿絵(By みてみん)



◇109 太陽の陰と月の陽 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください

あとがき


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 行き当たりばったりで始めたこの「よよぼう」の週刊連載も、ようやく最終章(予定)の第八章となりました。


 定期的に読んでいただいている皆様、ありがとうございます。


 TRPGという趣味は些かマニアックでニッチな趣味なので、取っ掛かりが難しいと敬遠している方も多いと思いますが、実は予想以上に簡単で、寧ろ問題は「己の羞恥心との闘い」だったりします。


 役者や声優を目指している人ならともかく、一般の…いえ、多少その手のオタク初心者からすれば、カッコいいけど小恥ずかしい台詞を「さぁ言ってみろ」とばかりに促されても、躊躇してしまうのは良くわかります。


 ですが、一度そこを乗り越えれてしまえば、後は爽快感溢れる夢の世界が待っているという寸法です。


 皆様も是非、一度は挑戦してみてください。


 いつも校正チェックでお世話になっている鳥ことトットさん、アイディアを頂くことも多い蛹ことハセベさん、諸々感謝しています。ありがとうございます。


 それでは、最後のエピソードまでもう暫く、詩音の迷走物語にお付き合いをお願いします。


 ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。



■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを公開中。「よよぼう」関連以外も沢山あります。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を運営…というより絶賛放置中です。


■TINAMI(http://www.tinami.com/)にも、いずれ掲載予定…と言いつつも…。


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)。


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