◇107 瓢箪から出た駒
まえがき
「よよぼう_~あの世とこの世の冒険譚」は、原則的に毎週月曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。
2025/1/13より、現在の第八章を掲載中です。今のところ、この章で完結となる予定となっています。
「よよぼう」第七章までのあらすじ &登場人物
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◇107 瓢箪から出た駒
詩音たちのテーブルで進行中のRPGシナリオは、最大の難敵に挑んでいた。次元を超越した永久不滅の存在は、容赦なく全てを押し流してしまう。
そう、時間である。
異世界の住人であるキャラクターは勿論のこと、現実世界のプレイヤーでさえ太刀打ちできない、冷酷非情な悪魔的存在…。それが時間というものだ。
とはいえ、その場の全員がその気になれば、何処か別の場所に会場を移して小一時間ほどの延長戦という可能性は無くはないのだが、今回ばかりはそうはいかない事情がある。
この後、この場所はクリスマスパーティの会場となり、そのまま皆で盛り上がろうという算段になっているのだ。
皆が笑顔でパーティを楽しむ傍らで、会場の片隅で怪しい一団としてプレイを続行するわけにもいかない。それぞれの個人的事情もあるだろうし、詩音自身も夢莉や彩乃たちとパーティを楽しみたいと思っている。
ならば、そこは打ち切りエンドもやむを得ない状況というものだろう。何事も大人の事情というものがあるのだ、と中二女子の詩音が言い訳がましい事情を捏ね繰り回す。
「さて、結論としては、皆で敵側に寝返る…って展開でいいですかね?」
「儂らは元々そのつもりじゃが、女騎士や賢者まで離反して良いのかのう?」
詩音がプレイヤー全員の意見を取り纏めると、元老魔導士役の佐伯先生が確認の手助けをしてくれる。
ベテランプレイヤーが多いと、こういう時は大助かりである。
「僕は姉姫様…いえ、二人の王女殿下に同行するのが役目ですから…」
「おいおい、仕事だから…じゃなくて、好きだから…なんだろ? この期に及んで言い訳がましいこと言ってんじゃねぇよ…」
元従者の言葉を豪快に笑い飛ばして、元盗賊がその背中を思いっきり叩くと、元従者はよろよろと姉姫殿下の傍に突き出されてしまう。
「あのような不遜の愚王が我が実父とは…。どうか皆さんには、私たち姉妹の鉄槌となって戴きたく、改めてお願い申し上げます」
真剣な表情の姉姫が気品ある態度で皆に訴えかけると、恐らく妹姫も共に頭を垂れているだろうと察することができる。
「姫様直々のお願いとあっては、断れませんね。お供致します」
「私は、その…。兄を死に追いやった原因が王の愚策であるなら、或いは民草のためにも、騎士の誇りにかけて剣を取らねばならん!」
元賢者、元女騎士がそれぞれ続く。
「気負い過ぎだぜ、姉さんよぉ…。大義名分なんざ、やっちまった後からついてくるもんさ…」
「き、騎士というのは、貴様ら賊民とは事情が違うのだ。仮にも陛下から賜った剣で、その陛下を討とうというのだぞ?」
元盗賊と元女騎士が、互いの立場ならではの意見をぶつけ合い、掛け合いを演出する。とても絵になる名シーンではあるが、残念ながら時間がないのだ。詩音は冷徹に話を続ける。
「では参るとしよう。諸君らの働きに期待させて貰おう…」
「別にあんたのためじゃないんだからねっ!」
闇皇帝の言葉に反応して、無意識に元女騎士がそんなことを口走る。お約束的本能というか、条件反射みたいなものだろう。
右腕を天高く突き上げた闇皇帝の合図で、一行の周りの風景がぐにゃりと歪んでいく。
誰一人として手を触れることなく、王宮前の城門が僅かな軋みと共に開かれていく。そして同時に、幻影の街並みが現実の街並みへと入れ替わっていった。
「皆の者、続けぇ!」
先陣を切って駆け出していく元女騎士が腰の剣に手を伸ばす。その後を皆が一斉に雪崩れこむように進撃していく。
「あー、そういう事になるのかぁ…。うーん、予想外の展開かも…」
「ん?」
困惑気味の表情を浮かべて呟く詩音の様子に気付いた越谷が、首を捻りながら詩音を見つめる。
「ほら、私さ、『皆、いつになったら元の格好に戻る気なんだろう?』って思ってたから、まさかそのまま、姫様七人で寝返って、王宮に乗り込むとは思っていなかった、っていうか…」
「あー、確かに…」
当初の予定では、闇皇帝の目を欺く目的で、双子王女に扮することになったはずの一行だったが、気がつけばそのまま、量産型のデコイ姫君と正真正銘本物の双子王女が合わせて七人、おまけに闇皇帝…に見えない白装束の優男を引き連れて、王宮に凱旋、いや天誅に訪れたのだ。
マスターの詩音はもちろん、その場の誰も予想すらしていなかった展開だろう。
「っていう事で、『何奴? ひ、姫様? しかし、その数は…』とか、『惑わされるな、敵の幻術に違いない! 偽者は討って構わん!』とか、『いったいどれが本物の王女殿下なんだ? もし間違って殺めたりしたら…』とか、予想外の大混乱です」
詩音が冷静に説明すると、言葉に詰まったプレイヤーたちは、苦笑いのような曖昧な表情で小さく笑い合う。
「作戦成功…なんですかね、これは…」
「結果良ければ全て良し、と言うじゃろうが…。これも儂の見通し通りよ…」
「嘘こいてんじゃねぇぞ、爺ィ!」
元賢者が呟く率直な感想に、元老魔導士と元盗賊が反応する。
「コッシー、あんたは姫たちを連れて王の間に急ぎな! すぐに私たちも駆けつけるから、焦ってしくじるんじゃないよ!」
元女騎士が、戸惑う衛士たちの一群を往なしながらそう叫ぶ。
「はいっ! っていうか、そのコッシーって、もう既定路線なんですね…」
元従者は、半分ほど世界の境界線を跨いだ発言を残しつつ、左右の手にそれぞれ姉姫と妹姫を従えて、互いに繋いだ手の力を確かめ合いながら、王の間を目指して石造りの階段を駆け上がっていった。
「今日の従者は、まるで勇者みたいね…」
「はい、姉様! いっそこのまま、私は…」
「あらあら…。でも、その話は全てが終わってからよ?」
双子姫たちは、元従者に聞こえるか聞こえないかの微妙な声音で、ひそひそと囁き合った。
「でぇ! すみませんでしたっ! 申し訳ありませんっ! ごめんなさいごめんなさい…」
平身低頭、まさに平謝りの詩音である。時の神様は無情で無慈悲である。もっとも、詩音に対して特に意図して差別的に厳しい、というわけではない。
「無計画ここに極まれり、という話じゃのう…」
未だ老魔導士が抜けきらない佐伯先生が、おどけ気味に詩音に言葉をかける。
もし素の発言で、円滑な進行ができなかったマスタリング手腕に意見すれば、詩音が過度に委縮してしまうだろうことを踏まえて、ベテランプレイヤーならでは、そして担任の教師ならではの、さり気ない配慮をしたのであろう。
「そうは言っても、俺ら経験者連中が悪ノリし過ぎたってのもあるからなぁ…」
元盗賊役の青年が反省交じりに頭を掻く。他の皆も一様に同意の頷きを見せ、その場は丸く収まった…かに見えた。
「でも、話が尻切れトンボだし、打ち切りエンドだし…」
「まぁ、俺たちの戦いはこれからだ!って感じでもいいでしょ? いちおう最終決戦までは行けたんだもの、初心者マスターにしては上出来よ…」
表情の冴えないままの詩音の呟きをフォローするように、女騎士役の女性が明るく声をかける。
「僕のせいです、多分…」
従者役を務めていた越谷が、かなり落胆した様子で表情を曇らせる。
大好きな女の子と一緒にプレイしたい、という一心で、後先考えずに、碌に経験もないまま、いきなりRPGイベントに参加してしまったことを悔やみ、越谷は下を向いて頭を垂れる。
「そんな事ないよ…。越谷くん、めちゃくちゃ頑張ってたし…。それは伝わってきた…っていうか、参加してくれてありがとう、って感じだし…」
詩音は、下手なことを口走って後々の言質とならないように気を遣いながら、慎重に言葉を選びつつ越谷を気遣う。
実際のところ、ゲームマスターの立場としては、展開上かなり助けられた部分もあり、心からの感謝を伝えたいと思っていたのも確かな事実なのだ。
「それなら、今回のリプレイを纏めつつ、西原さんが物語の結末を描く、っていうのはどうでしょうか?」
賢者役だった青年が予想外の提案をする。早い話が、続きはマスターの裁量で決着をつけて、物語として完結させてはどうか? という話である。
「つまりそれって、私に続きの話を書け、ってことです…よねぇ…」
「良いね、それ! 私も是非読んでみたいわ、西原さんの作品…」
詩音の複雑極まる悩める乙女の表情を気にも留めず、女騎士の女性がわくわくした眼差しで見つめてくる。
「良いんじゃねぇか? どうせ次回も来る気なんだろう? その時、皆に配ってくれれば…、あ、当然、経費はちゃんと出すからよ…。何なら手間賃も一緒に回収しちまえばいい…」
「えー、お金取れるようなもんじゃないですし…」
元盗賊役の青年が、賛同意見のついでに現実的な意見を補足してくる。確かに貧乏極まる中二女子にとっては願ってもない、ありがたすぎる申し出である。
「僕も、西原さんの話、読んでみたいな…。っていうか、できれば一緒に手伝えたら嬉しい、かも…。嫌かな…」
「あ、うん、嫌じゃない、けど…」
詩音は断るに断れない状況に追い込まれていく。まるで街角で捨て猫と出会ってしまったかのように、きらきらと輝く澄んだ瞳で詩音の顔をじっと見つめてくる越谷のはにかんだ笑顔に、詩音は抵抗することができずにいた。
それは、常日頃から詩音が佐伯先生に対して取り続けてきた仕草そのものなのだから、立場が変われば、詩音自身が身をもってその威力を思い知ることになる。
「それじゃ、出来たら俺にも見せてくれよな!」
「最初は絶対、あたしだってば! あんたは最後!」
「ボクの店のプリンタ、使えば印刷速いよ!」
いつの間にか、他のテーブルでプレイしていたはずの涼太や夢莉、彩乃も話を聞きつけて集まってくる。
「あ、私…、イラスト、描いてあげても、いいわよ?」
「みぃみあー、照れなくてもいい、ですね。ナカマに入りたいなら、うたぁねいは、いつでもうぇるかむ、ですね!」
「良いんじゃない? 何でも経験できる機会にはやっておくべきだと思うわ。後になって後悔しても、もう手遅れ…ってこともあるわ」
更には、美雅、ジョナサン、樟葉先輩までもが、興味津々で話に首を突っこんでくる。こうなれば、詩音に退路は残されていない。
「はぁ…、まぁ、良いけど…。でも、私、責任取れないよ?」
詩音が消極的な態度でしぶしぶ提案を受け入れる。
「大丈夫だ、詩音…。お前にはちゃんとその手の才能はあるんだから、自信をもって挑めば絶対上手くいく。保証してもいいぞ? 詩音の国語力は日頃から見ているからな…」
散々迷いあぐねた詩音の心に最後の決意を促したのは、やはり佐伯先生の言葉だった。佐伯先生の言葉は、詩音にこの上ない自信と励ましを与えた。
そうなれば、詩音に憧れの人の期待に応えないという選択肢はない。
「う、うん…。佐伯先生が一番最初に読んでくれるなら、私、やってみます!」
詩音はようやく微かな笑顔を見せて心を決めた。
経緯はどうでも、とにかく佐伯先生のために自分なりの物語を綴っていけるのなら、それはそれでとても幸せなことなのだろう、と詩音は思う。
読者第一号が担任の先生、しかも国語教師だというのは多少プレッシャーにはなるが、考えようによっては、それはまさに的確な専属アドバイザーを得たようなものだろう。きっと遠慮なしにバッサリとダメ出しをされるに違いない。
「ねえねえ、何の話ぃ? あたしらも混ぜてよ!」
「あ? 西原、お前、また何かやらかすのか?」
最後の追撃は風歌と吉川だ。考えてみれば、随分と詩音の周囲にも人が増えたものだ。これもRPGという趣味に出会ったお陰…、つまり詩音の兄が妹に遺した、大切な贈り物なのかもしれない。
「はいはい、そこのテーブル! さっさとロビーに移動して待機よ! って、エルザのところか…。なら仕方ないわね…」
「エルザじゃないですぅ…。だいたい、何で私だったら仕方ないんですか?」
この後に行われるクリスマスパーティの準備のため、スタッフ側の環が即座の撤収を促してくる。その話の流れに、詩音は首を捻る。
「どうせ終わらなかったんでしょ? あるあるよねぇ…、好きな人の前だと、思わず大風呂敷も広げたくなるってもんだし…」
「あ、あうあう、それは公然の秘密ってやつですぅ! バレてても隠し通すのが乙女なんですぅ…」
真っ赤な顔でぶんぶんと首を横に振って、あからさまに動揺した態度をみせる詩音だった。周りの皆の笑い声がその耳に届くと、ますます挙動不審度が上がっていった詩音は、遂に爆発して照れ隠しの悪態をつき始める。
「あー、もう! みんな意地悪だよぅ…。嫌いだよぅ…」
◇108 魔王が魔王をやめる時 に続く
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あとがき
初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。
行き当たりばったりで始めたこの「よよぼう」の週刊連載も、ようやく最終章(予定)の第八章となりました。
定期的に読んでいただいている皆様、ありがとうございます。
TRPGという趣味は些かマニアックでニッチな趣味なので、取っ掛かりが難しいと敬遠している方も多いと思いますが、実は予想以上に簡単で、寧ろ問題は「己の羞恥心との闘い」だったりします。
役者や声優を目指している人ならともかく、一般の…いえ、多少その手のオタク初心者からすれば、カッコいいけど小恥ずかしい台詞を「さぁ言ってみろ」とばかりに促されても、躊躇してしまうのは良くわかります。
ですが、一度そこを乗り越えれてしまえば、後は爽快感溢れる夢の世界が待っているという寸法です。
皆様も是非、一度は挑戦してみてください。
いつも校正チェックでお世話になっている鳥ことトットさん、アイディアを頂くことも多い蛹ことハセベさん、諸々感謝しています。ありがとうございます。
それでは、最後のエピソードまでもう暫く、詩音の迷走物語にお付き合いをお願いします。
ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。
■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを公開中。「よよぼう」関連以外も沢山あります。
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