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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
波乱の冒険のその先へ
108/112

◇106 正義という名の悪行

まえがき


「よよぼう_~あの世とこの世の冒険譚」は、原則的に毎週月曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。


2025/1/13より、現在の第八章を掲載中です。今のところ、この章で完結となる予定となっています。



「よよぼう」第七章までのあらすじ &登場人物

https://ncode.syosetu.com/n0444ie/98

◇106 正義という名の悪行



 詩音はまるで怪談話でも聞かせるように、いっそう低い声で皆に語りかける。


 「この王国では長い間、光の王と闇の王が共存していた。常に互いの勢力を牽制し合いながら、奇妙なバランスを保ち続けていた…」


 詩音は暫し言葉を切って、一同の顔を順に見やりながら、ちらりと壁の時計に視線を走らせる。


 残り三十分余りである。このままでは打ち切りエンドも覚悟しなければならない状況だ。詩音は追い込まれつつも冷静を装って話を再開する。


 「ある時、光の王は闇の王の征伐を辺境の有力貴族たちに命じた。早い話が目障りな勢力の共倒れを狙ってのことだ。そして、その褒美に与えられたのが、王女との婚姻、つまり次期国王の継承権だった…」


 「それを反故にしたってわけか…。酷い話だぜ、そいつぁ…」


 一足先に結論に思い至った元盗賊が感想を呟く。


 「老若男女問わず、また貴賤を問わず、数多の貴族と従者が命を落としたが、最後に残った六人の英傑によって、辛うじて闇の王は討ち取られた」


 再び話を区切って、詩音はさらなる悪人顔へと表情を変えていく。


 「だが、英傑たちの凱旋は叶わなかった。王宮からの刺客が満身創痍の英傑たちを襲ったのだ。闇の王を打倒し油断もあったのだろう、気がつけば私一人が孤立していた」


 闇皇帝を演じる詩音が悲し気に表情を曇らせる。


 「王宮の刺客って、そもそも今の国王はその六人の英傑ではない、という話になりますが…?」


 元賢者が問いかけると、闇皇帝は大きく頷いた。


 「今の国王は言葉巧みに王家に取り入った元宮廷司祭だ。六英傑どころか戦場に赴いた事実すらない。奴は討伐軍の壊滅を騙り、想い人を失い憔悴した王女を気遣う素振りを装い、やがて強引に純潔を奪った…」


 「何であなたがそんな話を知ってるんです?」


 元従者が疑問を口にする。よくある話だが、話の核心を知る者が何故それを知り得たのか、ということは有耶無耶に済まされてしまうこともある。


 「刺客の一人が騎士団の副団長殿だったが、私とも懇意だった彼が遺言代わりに教えてくれたのさ。王女が如何にして悪徳司祭の手籠めにされたかを、な…」


 「お兄様? 兄上が刺客…」


 シリアスな展開の闇皇帝の台詞に割って入って、元女騎士が唐突に予想外の発言を口にする。


 「ちょ…」


 「お兄様だぁ?」


 他のプレイヤーが驚きのあまり次々と素の呟きを漏らす。


 「あー、今咄嗟に思いついただけ…」


 「そうですか、あなたの兄上が宮廷騎士団の副団長殿でしたか…」


 元賢者が話を合わせることで、その設定は無事に採用されたようだ。これぞRPGのパーティプレイという感じである。


 「以後は、思惑通り王家を実質的に支配した司祭が王女と結ばれ、双子王女を授かる頃には、父王すら手にかけ玉座に収まったというわけだ…」


 「だから、何でそれを知ってるんだよ、お前は!」


 元盗賊のツッコミは、隣の元老魔導士によって即座に封じられる。


 「まったく鈍い奴よのう…。王宮内に内通者がおるかもしれん、と申したではないか…」


 「はぁ? あんたの自作自演だったってか? とんだクソ爺ィじゃねぇか」


 元盗賊は呆れ顔で顔をしかめる。


 「私も状況を荒立てることなく、敢えて王家とは関わらず過ごしてきた。だが、双方に大きな誤算が生じた。嘗ての想い人が闇皇帝として生き延び、討伐対象になっていると知った王妃は、真実を国王に問い質したが…」


 「ここでも不幸が起きてしまったと…」


 元従者がぽつりと呟く。


 「その経緯はどうであれ、私は王妃とその娘たちに幸せに過ごしてほしかった。しかし、その儚い望みは潰えた。だからこそ私は、たとえ真なる闇に堕ちるとも、王位の簒奪を決意した…」


 「どうやら、諸悪の根源は国王陛下のようですね…」


 「ていうか、あんたと王妃って相思相愛だったのかよ…。まぁいいわ、そろそろその面、拝ませて貰いたいもんだぜ…」


 元賢者、元盗賊が明かされた真実に動揺しつつ、闇皇帝に対する同情の念を口にする。


挿絵(By みてみん)


 「その前に、まずはその滑稽な茶番劇に幕を引いて貰おうか? 真なる双子王女は前へ出て頂こう…」


 悪の威厳を維持したまま、詩音はそう言って話を続ける。


 「お姉様、ここは私が参ります。お姉様は皆と…彼と一緒に…」


 「馬鹿を言わないで…。実の妹を闇皇帝に差し出しておきながら、自分一人だけのうのうと従者と生き延びるなど、あってはならない話…」


 一人三役とあって、大忙しな詩音である。その微妙に声音を変えて三者三様を演じ分ける職人芸は素晴らしく、プレイヤーたちは心の中で感激の拍手をしていた。


 「えーと、僕、つまり元従者は、元老魔導士の手を取って、一歩前に出ます」


 「は、儂にお主の姉になれというのか?」


 元従者の越谷が、元老魔導士の佐伯先生の承諾を得ることなく、一方的に話を進める。


 「あー、はい。皆さんもそれでいいですかね?」


 元の表情に戻った詩音が、他のプレイヤーたちに確認する。


 「別にいいんだが…、正体を知る側から見れば、老人の手を引く優しい少年の図なんだよなぁ…」


 佐伯先生は、越谷に話を合わせるようにして呟いた。


 七人の王女を代表して、一歩前に歩み出た元従者と元老魔導士の二人の姫君は、覚悟を決めて問いかける。


 「闇皇帝、皆を解放しなさい! 身代わりに私たちがそちらに参ります!」


 元従者の越谷が懸命に双子姫の声を真似て呼びかけると、越谷本人はもちろん、本来のNPCである双子姫を演じる詩音もまた、何処かむず痒い不思議な心境になってしまう。


 恋する相手の目の前で演技を披露するというのは、ただでさえ気恥ずかしいものなのだが、さらにその相手の声色やイントネーションをそっくり真似ようというのだから、結論的に「詩音の真似をする越谷」がその場に出現することになる。


 リアルタイムで当人の視線を浴びながら、演技を続けなくてはいけない。嬉しいとか楽しいとかより、恥ずかしいという感情が先に出てしまうのも無理はない。


 「おー、越谷くん、それっぽい…。可憐な姫様だよ、逆宝塚だよ!」


 「せめて歌舞伎と言ってくれ、西原…」


 詩音の口にした率直な感想は、自分自身の気恥ずかしさを紛らわすためでもあるのだろう。その独特の表現に、佐伯先生は当然の指摘をする。


 「ほう、お前たち二人が本物だと? であれば残りの者に用はない、そうであろう、父上?」


 残されたプレイ時間がないことを重々承知している詩音は、些か強引に、どんどん話を進めていく。


 「おいおい、話が違うじゃねぇか! 交換条件じゃねぇのかよ?」


 元盗賊の王女が、いかにも育ちの悪そうな口調で悪態をつき始める。


 「卑怯者め、姿を現せ!」


 元女騎士の王女はそう叫んで、腰の剣に手をかけようと身構える。


 だが、冷静な元賢者の王女だけは、闇の皇帝の挑発にのることなく、前に進み出た二人の偽王女を庇うように、さらにその前に回り込んで立ち塞がった。


 「マスター、私はこの二人の前に出てハッタリをかまします。如何にも本物を護らなくちゃ、的な感じで…」


 「おおぅ、流石は賢者だ、馬鹿じゃないぜ…」


 「いや、あなた方が脳筋なだけですから…」


 元盗賊の感心したような発言に、元賢者が落ち着いて感想を口にする。


 「本物の双子姫も賢者に続きますが、そこで再び高笑いが響き渡ります。『はっはっは! 健気な道化芝居といったところか…。我が復讐劇の前座としては十分かもしれんな…』」


 見え見えの茶番劇を繰り広げる七人の王女たちの目前に、唐突に現れたその人影は、闇の皇帝の肩書に似つかわしくない白銀のローブを身につけた男だった。


 尊大な台詞に続けて、詩音はその容貌や雰囲気についての詳細を具体的に示していく。それはプレイヤーたちの想像とは相当にかけ離れたイメージであった。


 「お前が闇の皇帝か? 思ってたより随分と貧相な優男じゃねぇか…。本当に本物か、あんた…」


 「自ら王女を騙っておきながら、良く言う…」


 元盗賊の疑念の言葉を一刀両断に処して、闇皇帝は冷たく言い放つ。


 「真なる双子王女は、貴様と…、貴様だな…。若き日の王妃殿下に瓜二つではないか…。父上も良く見知っているだろうに、よくも稚拙な小細工を…」


 「ふん、儂の発案ではないわ!」


 闇皇帝は一瞬の迷いもなく的確に本物の王女を言い当てていく。


 「王女殿下たちをいったいどうするつもりだ!」


 元従者が問うも、闇皇帝はちらりと一瞥をくれただけで言い放つ。


 「我が盾になって戴く…。もっとも、先代国王並びに王妃同様、真実を知ってしまった以上、双子姫共々に我を討つつもりであろうがな。まぁ、姫たちは死んでくれたほうが国王の後顧の憂いは無くなるというものだろう…」


 そこでようやく詩音は話を一段落させ、プレイヤーたちにいつも通りのゆるゆる笑顔を向ける。


 「さて、皆さんどうしますか? 双子の姫君は複雑な表情でその場に立ち尽くしています。ここまでの流れは説明のとおりで、どっちかっていうと悪いのは現国王側なんですが、姫たちの母親と祖父の仇が実の父親なので難しい話です。また、当然ですが、闇皇帝は復讐として国王を討とうというので、そちらに与すれば反乱軍となる感じです」


 詩音はそう説明したうえで皆の反応を待つ。普通の流れなら全員が闇皇帝側に寝返って国王を成敗し、光と闇の王が一つになる…という綺麗な終わり方になるはずだが、歴戦のRPGゲーマーの考えることは予想できない。驚くべきトンデモ提案が生まれ出る可能性もあるのだ。


 「ぶっちゃけ、国王を打倒すりゃ万事うまくいくんだろ? それですんなり解決じゃねぇか…」


 「だから、脳筋だと言うんです…。姫様に父上を討てと言うつもりですか?」


 元盗賊の短絡思考と元賢者の常識人ぶりが激突する。


 「女騎士としては、兄の仇が闇皇帝と現国王のどちらと取るかで判断が分かれそうよね…。真に国のためを思うなら、寝返るのが正解っぽいけど…」


 女騎士は、プレイヤーの視点から俯瞰でものを考えつつ、凡その方向性を見出したようだ。


 「儂は元々愚息の後始末に回らねばならぬし、何よりあの国王は、どうにも胡散臭すぎてのう…」


 元老魔導士は初めからそのつもりであったかのように、自身の身の振り方の結論を口にする。


 「ぼ、僕は…姉姫殿下に全てお任せします。姉姫様の赴くところ、必ずお供致します。それが僕の望みです!」


 最後に元従者役の越谷が、ぶん投げ極まる決意を宣言して、パーティとしての方向性は纏まったようだ。


 「うーん、元従者さぁ、姉姫様に一途なのは良いんだけど、妹姫様の前で『お前のことは知らないよ?』的な発言は、ちょっと…」


 詩音がゲームマスターの立場を離れて、越谷の発言に対する個人的な感想を口にする。


 詩音自身が現在置かれている立場も、いわば樟葉先輩と詩音の双子姉妹のようなものだ。もし自分の目の前で、佐伯先生が「樟葉についていく、樟葉の傍にいるのが望みだ」などと宣言されたとしたら、思わず耳を塞ぎたくもなるだろう。


 たとえ妹姫が、従者に対してそんな想いを抱いていない、或いは自覚していないとしても、である。


 「あー、確かにそれは私も感じたわ。ある意味、無神経っていうか、盲目的っていうか…。いるいる、こういう男!って感じ…」


 詩音の指摘した内容は、男性以上に女性の心に引っかかる何かがあるのかもしれない。女騎士のプレイヤーも同意を示す。


 「僕の発言、問題でしたか? 何か良くない事を言っちゃいましたか? こういう女の子に対する決め台詞っていうか、格好いい口説き文句っていうか、良くわかってないんで…。すみません…」


 越谷本人にはあまり自覚はないようだ。というより、あれだけ普段から詩音に対して、好き好きオーラ全開で関わってこようとしているくせに、肝心のムードある言葉のひとつも思いつかないのでは、先が思いやられる。まぁ、詩音からしてみれば、正直眼中にない、とまでは言わないが、視界の端っこで半分見切れているような立場の越谷ではあるが。


 詩音自身も、ここ数か月のリアルなドタバタ劇で幾つかの大事なことを学び、少しずつではあるが、そういう感情の機微に自覚的になってきた。越谷が今後も諦めずに詩音のことを追いかけ続けるなら、いずれ気付くこともあるかもしれない。


 「あっ、いいこと思いついた! えーと、元従者がそう言って真剣な眼差しで姉姫様を見つめると、姉姫は少し顔を曇らせて俯いちゃいます。で、その様子をじっと妹姫が眺めながら、スカートごと握りしめた両手に、ぐっと力を込めます…。っていうのは、どうかな、越谷くん…?」


 「えっ、ちょっと待って、西原さん。…本当にそういう展開なの?」


 「それって、まさか…ですよね…」


 いきなり始まった詩音のアドリブの意味を察して、元従者の越谷と元賢者の青年が、戸惑い気味に声を上げる。


 「成程、いきなりそれを思いつくとは、詩音とやら、お主もなかなかやるようじゃのう…」


 佐伯先生がおどけた発言のどさくさに、詩音と呼んでくれた―いや、恐らくうっかりそう呼んでしまったのだろうが―ことに気付いて、詩音は僅かに頬を染めながら、照れ隠しを口にする。


 「先生…、その微妙に遠回しな誉め言葉は、なんか嬉しくないですぅ…」


挿絵(By みてみん)



◇107 瓢箪から出た駒 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください

あとがき


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 行き当たりばったりで始めたこの「よよぼう」の週刊連載も、ようやく最終章(予定)の第八章となりました。


 定期的に読んでいただいている皆様、ありがとうございます。


 TRPGという趣味は些かマニアックでニッチな趣味なので、取っ掛かりが難しいと敬遠している方も多いと思いますが、実は予想以上に簡単で、寧ろ問題は「己の羞恥心との闘い」だったりします。


 役者や声優を目指している人ならともかく、一般の…いえ、多少その手のオタク初心者からすれば、カッコいいけど小恥ずかしい台詞を「さぁ言ってみろ」とばかりに促されても、躊躇してしまうのは良くわかります。


 ですが、一度そこを乗り越えれてしまえば、後は爽快感溢れる夢の世界が待っているという寸法です。


 皆様も是非、一度は挑戦してみてください。


 いつも校正チェックでお世話になっている鳥ことトットさん、アイディアを頂くことも多い蛹ことハセベさん、諸々感謝しています。ありがとうございます。


 それでは、最後のエピソードまでもう暫く、詩音の迷走物語にお付き合いをお願いします。


 ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。



■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを公開中。「よよぼう」関連以外も沢山あります。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を運営…というより絶賛放置中です。


■TINAMI(http://www.tinami.com/)にも、いずれ掲載予定…と言いつつも…。


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)。


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