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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
波乱の冒険のその先へ
105/112

◇103 魔窟攻略再び

まえがき


「よよぼう_~あの世とこの世の冒険譚」は、原則的に毎週月曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。


2025/1/13より、現在の第八章を掲載中です。今のところ、この章で完結となる予定となっています。



「よよぼう」第七章までのあらすじ &登場人物

https://ncode.syosetu.com/n0444ie/98

◇103 魔窟攻略再び



 迎えた日曜日は、詩音にとって待ちに待ったRPGイベントの当日である。


 今回は十二月ということもあって、クリスマスパーティを兼ねた特に盛大な催しになるという話だった。


 そのことを環から聞かされていた詩音は、まるで遠足前日の小学生のように、興奮のあまり寝つけぬ夜を過ごし、案の定、寝不足気味のままで会場入りするはめになった。


 気合と根性で慌ただしく起床し、どうにか予定通りの時刻に家を後にし、さらに意気揚々と鼻歌交じりのステップを披露しつつ、浮かれ気分のまま会場に向かった詩音は、珍しくも余裕をもって会場の市民ホールに到着することができた。


 そしてまた今回は、以前までまったくRPGイベントには縁のなかった風花たち三人組に加え、RPG同好会メンバーながらも今まで不参加であった樟葉とジョナサン、さらには環によって半ば強引に召喚された佐伯先生の姿まで、まさに一同勢揃いの様相となっていた。


 これだけの顔ぶれが揃うのは、中等部の文化祭の時以来ではないだろうか。ここはひとつ、RPG同好会会長としての威厳を示さねばなるまい、とばかりに、些か空回り気味の気合をさらに入れなおす詩音だった。


 だが、そんなやる気満々の詩音の勢いは、周囲の注目を一身に集める彩乃の変貌ぶりに、すっかり出鼻を挫かれてしまっていた。


 それほどまでに、彩乃の「乙女デビュー」のインパクトは絶大だったのである。


 元々ショートヘアの髪型ゆえに、活発で元気いっぱいのボーイッシュな印象が強い彩乃だったが、その分、いわゆる淑女としての奥ゆかしさには若干欠ける部分があった気もする。


 それがどうだろう、一級のヘアデザイナーの手によって大変身を遂げた今日の彩乃は、もはや別人クラスの存在に生まれ変わっていた。


 髪の長さこそ当然短いままではあったが、緩やかにウェーブを帯び、先端に行くほど急激なカーブを描いたその新鮮な髪型は、元来の地毛の明るい栗色と相まって、何処かふわふわの砂糖菓子を連想させる。


 前髪も自然な感じでゆったりと流すことで、露出させたおでこを積極的に強調し、明るく活発な雰囲気をさらに盛り上げている。


 彩乃のチャームポイントの大きな瞳が、特に印象深く心に刻まれるように工夫を凝らした、まさに芸術的な仕上がりだった。


 まぁ、デザイナーの腕だけではなく、元の素材のほうも決して悪くはなかったということなのだろう。同性で同学年の詩音からみても、思わず言葉を失って、釘付けになった視線を逸らせずに、驚嘆の表情を浮かべるばかりだ。


 「今日の彩乃先輩、まるで別人みたいじゃないですか? それっていったい、どういう心境の変化なんですか…?」


 恋敵の突然の変貌ぶりに、感心を通り越してすっかりドン引きの美雅が、怯え交じりの表情で恐る恐る尋ねる。それは美雅のみならず、この場に集っているほぼ全員の共通した第一印象でもあった。


 「いやぁー、何となく? 思い切って、乙女成分増し増しにお願いしようかなーって思い立ってさ、全部デザイナーさんに丸投げ、お任せでよろしくしてたら、いつの間にかこうなってた…。ボク…じゃなかった、わたくしも驚いていますのよ、うふふ…」


 「気持ちわりぃから、そのお嬢様笑いをやめろ…」


 満面の笑顔で周囲に愛想を振りまく彩乃は、不気味なほどのニコニコ顔で美雅の問いに答えるが、当然のように、涼太からは呆れかえったツッコミが入る。


 「イイじゃん、今日はボク、ばっちりレディなんだから…」


 そう言って、滅多に着ることのない長めのフレアスカートの裾を軽やかに揺らしながら、彩乃は華麗なステップで踊ってみせる。


 「まぁ、もしこれで彩乃の家が飲食店でもやってたら、お客も多少は増えるんだろうけどねぇ…」


 「あやぁのうが、せくしーがーるになっても、ガンプラ買うヒト、あまり増えないですネ…」


 夢莉とジョナサンが残念そうな様子で溜息をもらす。せっかくの彩乃のお洒落具合も、確かにちょっぴり宝の持ち腐れの感は拭えない。


 「白岡がお嬢様ってのは、何だか不気味で逆に怖いんだがなぁ…」


 この場の微妙な空気感を察することなく、吉川があまりにも素直過ぎる本音の感想を言い放つ。


 「何だよ、皆して…。いいじゃん、ボクも女の子なんだからさ、たまにはこういうのもアリじゃん…。だから…そうです、大丈夫ですよ、響君。きっとすぐに慣れますから、気にしてはいけません…」


 「ひ、響君だぁ? 白岡、お前、そのノリ、マジでヤバいだろ…」


 まるで初めて魔物に出会った新米冒険者のように、吉川は震え上がりながら半歩後ずさる。


 「まぁ、アレだ…。問題は、いつまでこいつがこの状態を続けられるか、って話だろ…?」


 言外に、どうせ長くは続きゃしねぇさ、とでも言いたげな涼太の言葉に、周囲の面々は心の中で同意し、互いに無言で頷きあった。


挿絵(By みてみん)



 どうやら、この世の中にはやっぱり神様はいるらしい、と改めて詩音は感慨深げに大きく息をついた。


 いつものように滞りなくイベントが進んでいくと、まずは各テーブルの参加者振り分け作業になる。


 いきなり当日に飛び込みゲームマスターを希望した詩音は、会場の一番端っこの一角に卓を割り当てられて、最後の最後に参加者の希望を募ることになった。


 本来、プレイヤー側の参加者は、希望のテーブルを優先順に三つ選んで、専用の用紙に記入するわけだが、そのルールの適応外となる詩音のテーブルは、いわゆる敗者復活枠というか、再チャレンジ枠というか、他のテーブルから漏れてしまった者が流れ着く、最果ての終着駅のような扱いであった。


 だが、その行き場を失くした流浪の民の中に、佐伯先生の姿があったのだ。


 ここまで二つの希望卓を悉く弾かれてきた佐伯先生は、運命の悪戯か、はたまた神の導きか、或いは環が何か仕組んでいたのか…、結果的に詩音のところまで流れてきたのである。


 そしてもう一人、こちらは端っから詩音目当てでここを目指していた、健気で一途な微妙に扱いに困る存在、越谷の姿もあった。


 さらに厳選な抽選と紆余曲折の結果、詩音のファンタジーRPGテーブルには、三人のベテランプレイヤーが加わることになった。


 挨拶がてらに掻い摘んで聞いた話によれば、三人のうち二人の青年たちは、以前に彩乃と美雅による大失態全滅エンド、環の言うところの「全滅シスターズ」騒動を経験したという、まさしく不幸な被害者?だったようだ。


 それもあって、今回も別のファンタジーRPGの卓に彩乃と美雅が共に手を上げ、青年たちと競合となった途端、さっさと撤退を決めて別の、つまり詩音のところに鞍替えをしたらしい。


 詩音は心の中で苦笑いを浮かべつつ、青年たちに同情の念を寄せた。


 一方、この卓で唯一となった女性プレイヤーは、詩音と面識があった。


 詩音がこのイベントに初参加した際に、環のマフィア抗争物シナリオで一緒に卓を囲んだ、エルザ西原の護衛メイド、ドロシーを演じた人物である。


 それにしても、想定外とも言える佐伯先生と越谷の組み合わせ、呉越同舟の恋敵直接対決の図式は、例の「全滅シスターズ」の一件と同じである。何も知らない青年たちが、再び不幸な目に遭わずに済むことを祈るばかりだ。


 思えば、越谷は詩音の本命が佐伯先生だとは気付いていないし、佐伯先生は越谷の詩音に対する片思いをまったく知らないはずだ。


 何という面倒くさい取り合わせなのだろうか。果たして駆け出しゲームマスターの詩音は、この状況を上手く捌いていけるのだろうか。


 一歩間違えば「全滅ブラザーズ」の出来上がりである。今後のシナリオの展開がどうであれ、決して予断の許されない状況に、詩音は追い込まれつつあった。


 それはともかく、佐伯先生を筆頭にして多くの経験者に恵まれたこともあり、初心者の越谷をフォローしながら、順調にキャラクターメイキングの作業は進行していった。


 「では、皆さんのキャラが大体出来たので、早めのお昼にしましょうか…」


 とりあえず姑息な時間稼ぎの方策として、お昼休憩の時間を利用することを思いついた詩音は、そう宣言して席を後にした。




 その後、昼食を挟んで、正午過ぎからプレイ再開となった詩音たちのテーブルでは、既に幾つかの小話を消化しつつ、プレイヤーとしても、またキャラクターとしても、互いの信頼関係を築いていった。


 かつての詩音自身が体験したように、全くの初心者で素人同然である越谷も、周囲の先輩方に助けられながら、次第にコツを掴んでいった。


 要するに、RPGというものは即ち慣れである、とも言えるだろう。多くのスポーツ競技がそうであるように、場数をこなしていくうちに自然と頭も口も動くようになってくるものだ。


 まぁ、中には詩音のように、脊髄反射というか、口から出任せというか、そういう珍妙な才覚に恵まれた者もいるのだろうが、基本的には経験値の蓄積こそが上達の秘訣であることに変わりはない。


 物語はいよいよ佳境に入り、その結末も朧げながら窺えてくる頃合いだ。


 とある小さな辺境の王国に生まれた双子姉妹の王女たち。その巡行視察の旅の一団が、今回プレイヤーが演じる主役たちだ。


 姫たちの世話係の少年に、お目付け役の老魔導士、凛々しい女性騎士、口の悪い元盗賊、衛生兵代わりの賢者を加えた一行は、NPCの双子王女と一緒に近隣諸国を渡り歩いていた。


 だが、一行が国を離れた僅かの間に、王国に闇の軍勢の魔の手が迫っていたのだった。王宮の者たちと多数の罪なき民衆を人質に取られ、窮地に陥った双子王女たちは次の一手を決めかねていた。


 「…ということで、ですね、ここまでの話で説明したように、闇皇帝の要求は双子の王女の身柄ですね。もしもその要求が通らなければ、王国は闇の軍勢に蹂躙…あれ? 『じゅうりん』で合ってるよね? …されちゃう感じです」


 ゲームマスターの詩音が、慣れない難解な単語を駆使して一行の置かれた状況を説明していく。


 「わからないようなら、小難しい言葉は使うな…。まったく呆れるやつだな…」


 言葉通りに呆れた表情を浮かべて、老魔導士役の佐伯先生が呟く。


 「いいんですぅ! 雰囲気重視なんですぅ!」


 拗ねた口調で詩音が言い返す。


 「しかし何でまた、そんなちっちゃな…。仮にも、闇の皇帝とか名乗ってるんでしょ? もっとこう、何かどでかい要求はないもんですかね…?」


 賢者役の青年が素朴な疑問を呈する。至極もっともな話である。ラスボス級の悪党の示す条件にしては、王女の身柄だけというのは破格に安価な要求と言えるだろう。


 もし自分が当事者である双子の王女、または王家に所縁のある者でなければ、さっさと身柄を引き渡して、話を穏便に済ませたくもなってくる。


 「ここまでの流れだと、闇皇帝は過去の王家との誓約を反故にされて、それで闇落ちした元英雄、って話だろ? だったらきっと、民衆はともかく、王家に対しては積年の恨みってのがあるのかも知れねぇなぁ…」


 別の元盗賊役の青年がそう呟くと、プレイヤーたちが同意の頷きをみせる。


 「もしも私が…、私一人が魔王のものになれば、それで問題は解決するんでしょうか? それならば私は…」


 渾身の可憐な乙女演技で双子王女の姉姫を演じる詩音は、「お約束の台詞」で一行を煽っていく。


 この流れからして、絶対に「じゃあ、そうするか!」とはならないだろうとタカをくくっての発言だが、仮にプレイヤーが彩乃や涼太のような血も涙もない人間だらけだったら、さっさと生贄、人身御供にされて終わりだろう。もちろん、その後がどうなろうと保証の限りではない。


 「姉姫様、僕は反対です! 相手は闇の皇帝なんです! そんな事をしても、姉姫様はもちろん、国王陛下とていったいどうなるか、保証の限りではありませんよ!」


 姫の従者役の越谷が、こちらも当然といった反応をする。


 プレイヤーの越谷からすれば、思いを寄せる詩音の前で薄情な男を演じることは許されない、どうしても避けたい展開だろう。ここはどうあっても、自分が心から誠実な人間であるという姿勢を崩すわけにはいかないのだ。


 「でも、それでは多くの民が…」


 「それにしても、我ら王女殿下の諸国巡行を狙いすましたような、この度の闇の軍勢の動き、些か腑に落ちませんな…。宮廷内に内通者がおるのではありますまいか…?」


 すっかり歴戦の老魔導士になりきった佐伯先生が、姉姫の言葉を遮り、唐突に不穏当なことを呟きながら、ちらりと越谷のほうを窺う。


 「ぼ、僕を疑っているのですか、魔導士様…。確かに僕は、身の程を弁えずに姉姫殿下をお慕いしております。もし許されるなら、今すぐにでもこの場から連れ去ってしまいたいほどに、深く…他の誰よりも深く、姉姫殿下の事を愛しているのです…。ですが…」


 「そんな…」


 何の事はない、いつもの越谷節というやつだ。素でこうなのだから、わざわざ芝居がかって演じるまでもないだろう。いろいろな意味で、心底ドン引きする詩音と姉姫様であった。


挿絵(By みてみん)



◇104 迷走に次ぐ迷走 に続く


ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください


あとがき


 初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。


 行き当たりばったりで始めたこの「よよぼう」の週刊連載も、ようやく最終章(予定)の第八章となりました。


 定期的に読んでいただいている皆様、ありがとうございます。


 TRPGという趣味は些かマニアックでニッチな趣味なので、取っ掛かりが難しいと敬遠している方も多いと思いますが、実は予想以上に簡単で、寧ろ問題は「己の羞恥心との闘い」だったりします。


 役者や声優を目指している人ならともかく、一般の…いえ、多少その手のオタク初心者からすれば、カッコいいけど小恥ずかしい台詞を「さぁ言ってみろ」とばかりに促されても、躊躇してしまうのは良くわかります。


 ですが、一度そこを乗り越えれてしまえば、後は爽快感溢れる夢の世界が待っているという寸法です。


 皆様も是非、一度は挑戦してみてください。


 いつも校正チェックでお世話になっている鳥ことトットさん、アイディアを頂くことも多い蛹ことハセベさん、諸々感謝しています。ありがとうございます。


 それでは、最後のエピソードまでもう暫く、詩音の迷走物語にお付き合いをお願いします。


 ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。



■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを公開中。「よよぼう」関連以外も沢山あります。


■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を運営…というより絶賛放置中です。


■TINAMI(http://www.tinami.com/)にも、いずれ掲載予定…と言いつつも…。


■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)。


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