◇102 少年魂のシンデレラ
まえがき
「よよぼう_~あの世とこの世の冒険譚」は、原則的に毎週月曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。
2025/1/13より、現在の第八章を掲載中です。今のところ、この章で完結となる予定となっています。
「よよぼう」第七章までのあらすじ &登場人物
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◇102 少年魂のシンデレラ
それから暫くの間、詩音は佐伯先生の母と環との三人で、即席の年の差女子会を満喫することになった。
その場にいないのを良い事に、佐伯先生の話題で大いに盛り上がり、佐伯先生の母からすれば生徒から見た一人息子の、詩音にとっては学校以外やその過去の、貴重な情報と率直な感想を交換し合った。
終始和やかに、そして賑やかに進んだ束の間の女子会も、最後は当然、佐伯先生の母からの「詩音さん、頑張りなさい。応援しているから」の一言を有難く頂戴して締めくくりとなった。
傍らの環も、まるで実の妹の恋話を聞くように笑顔で茶々を入れていた。
そんな楽しいひと時を終え、自宅まで環の車で送り届けられた詩音は、ほっと一息をついて自室に籠った。
そして、すっかり失念していた佐伯先生の病状と、さらに週末に迫ったRPGイベントのマスタリングの一件を、今更のように思い出す。
佐伯先生の実家で電話で話した限りでは、病状もさほど大袈裟にはなっていないようだし、一安心ではあった。
ただ、ちょっと気がかりな発言―恐らくは樟葉先輩に関わることだと思うが―もあって、当面の間は油断禁物だと、詩音は胆に命じた。
それにしても、詩音にとって謎だったのは、どうやって佐伯先生が環に連絡したのかという点だった。
これに関しては、帰りの車内で環に直接質問して、本人からその答えを聞いて納得することができた。
それはまさに、佐伯先生らしい、また環らしい、という展開だった。
『あー、それかぁ…。うん、びっくりよね、流石に…。私さ、当時強引に何度か佐伯先生に電話番号のメモを渡してたんだよね。もちろん、その頃はほら、スマホなんか持ってないから、ガラケーってやつ? あー、ひょっとしたら今時の子は知らないかも? で、その後も未練っぽく、機種変しても番号変えずにずっと更新し続けてたのよねぇ…。そしたら向こうも律義にそのメモ取っといてくれたみたいでねぇ…。まさかこんな妙な用件で、数年後にいきなり連絡が来るなんて思わなかったけどさぁ…』
当時のイケイケ押しかけ女房、通い妻気取りだった環…いや、中学生の円が強引に手渡した「電話してね」の誘惑メモが、今こうして時を超えて、二人の縁を取り持っているのだと思うと、感慨深いものがある。ロマンチックというやつだ。
それにしても、良くもまぁ、あの昔、盛大にひと悶着あったという展開で、佐伯先生は環に連絡しようと思い立った、というか、実際に実行したわけだし、ちょっぴり驚愕という感じもする。
果たして、佐伯十三という人物は、優柔不断なのか大胆不敵なのか、判断するのが難しい。まさに混沌の魔王だ、と詩音は思っていた。
「私もいつか、ずっといつまでも佐伯先生に覚えてて貰える存在になれるのかなぁ…」
詩音はそう小さく独り言を呟いて、環に対する僅かな嫉妬と対抗心を心の片隅に追いやった。
翌日、無事に佐伯先生は復帰を果たした。そうなると昨日の一連の出来事は、佐伯先生の策略、何か意図的な作戦のようにも思えてきてしまう詩音だった。
もっとも、三人の年の差女子を会わせたところで、何か佐伯先生にメリットがあるのか?と問われれば、恐らくありはしないだろう。それに、正直言って、佐伯先生がそこまで回りくどいことをするとも思えない。
だからこそ、何かあるのでは?と穿った見方をしてしまうのも、慎重勇者、いやチキン勇者の詩音らしいところである。
「どうしたの、詩音? 今度はセンセが復帰したのに、めちゃめちゃ難しい顔してるじゃん? ケンカした?」
あっという間に迎えた放課後、相変わらず目敏い彩乃が話しかけてくる。
「うーん、何だかさぁ、最近どうも話が上手く行き過ぎてる気がしてるんだよねぇ…。この展開は、RPGだったら絶対に罠だよ、トラップだよ、おまけに宝箱はミミックだよ…」
「うはぁ、『幸せ過ぎて、私怖いのよ…』とか、詩音、自分で死亡フラグ立ててるようなもんじゃん…。まぁ、ボクだって一度でいいから言ってみたい台詞だけどさ…」
上手く説明できない詩音の言葉に反応して、呆れたような彩乃のツッコミが炸裂する。その言葉には、少し苛立ち気味の彩乃の心境を反映したのか、小さな棘が含まれていた。
しかし、それでも、そのフラグを悉くへし折っていくのが、この詩音という存在である。どんな窮地でも自分一人だけ助かってしまう、強運を通り越した傍迷惑な存在なのだ。
「なんだかさ、最近の彩乃、言動が美雅ちゃんに似てきたよね…」
「えっ! ボクが、美雅に似てきた…って、マジで?」
「うん、私から見る限り、かなり…。むしろ最近は美雅ちゃんが社交的になってきたぶん、彩乃のイタイ感じが…ちょっと、ね…。暗黒面に堕ちた、って感じ?」
朱に交われば赤くなる、とでも言えばいいのだろうか。美雅に対する対抗心と焦りから、従妹という優位さを見失って同じ土俵で戦ってしまう、良く言えば正々堂々真っ向勝負な、悪く言えば余裕のない気質の彩乃は、本人が碌に自覚しないうちに、同じような天邪鬼な性格になりつつあるようだ。
おまけに最近は、生活環境の改善でゆとりの出てきた美雅が良く笑うようになった反面、彩乃の笑顔は何処か曇りがちだ。当然、謙佑との恋?片恋慕?の進展のなさに苛立っている部分もあるだろうが、それにしても、である。
「ヤバいよ? もしホントなら、それって一大事じゃん? 美雅の呪いがボクにうつってきたってこと?」
「何々ぃ? あたしも話に混ぜなさいってば! それで、彩乃が誰かからヤバい病気を貰ったってぇ?」
げっそりとした表情を浮かべて肩を落とす彩乃に、更なる追い打ちをかけるような風歌の声が割り込んでくる。
「誰が病気だ! ボクの繊細な乙女心も知らないくせに!」
「うーん? 彩乃の場合、乙女心っていうか、少年魂って感じぃ?」
確かに風歌の指摘どおり、ショートヘアのボブカット、僅かに太めの眉など、一見すると「可愛い男の子」に見えなくもないのが、彩乃の特徴ではあった。プロポーション的にもまた然り、である。
当然ながら、それは長所にもなり得るもので、クラスの男子とごく自然に会話が出来たり、その商売柄、近所の子供たちに男女関係なく人気だったりする。
要するに「女っ気を感じさせない」のである。いや、そう、それはある意味で致命的な大問題ではあった。少なくとも、恋する乙女?の彩乃本人にとっては、非常に大きな課題である。
「少年魂ぃ…」
彩乃と詩音が声を揃えて繰り返す。詩音は、幾度か頭の中でその言葉を繰り返しながら、何処かすとんと腑に落ちて、納得できた感覚に包まれる。
彩乃にはかなり失礼な話だが、詩音も少なからずそう思っている部分はある。申し訳ないがそれは否定できない事実だった。例えるなら、近所のやんちゃ坊主がそのまま成長してしまったような感覚、とでも言うのだろうか。
「まぁ、男子っぽいっていうのは、そうかもだけど…。これでも、ボクだって精一杯に頑張る、恋する乙女なんだよ?」
そう言うなり、思わず涙目になってしまった彩乃は、教室の机と机の谷間の通路にしゃがみこんでしまう。
傍から見れば、まるで詩音と風歌が彩乃のことを虐めているようにも取られかねない状況であり、その場に漂った気まずい空気感はハンパではない。
「うーん、そんじゃさ、彩乃がそんなに乙女に憧れてるっていうなら、今度ウチのヘアサロンに来てみたら良いかもぉ? 実は、あたしのママさ、結構評判のヘアデザイナー?ってやつなんだよねぇ…」
「何それ、初耳…」
詩音が彩乃に先駆けて反応する。考えてみれば、風歌の中二女子にしてはお洒落過ぎる髪型は、そのママのお手製というわけだったのか、と思い至る。
「ママならきっと、彩乃のことも大変身させてくれると思うよぉ? あぁ、彩乃風に言うと、二階級特進?って感じぃ?」
「それじゃ、死に化粧になっちゃうじゃん…」
期待と不安と怒りと不満の入り混じった、複雑極まるジト目の視線を風歌に向けて、彩乃はそう呟く。
「お店の営業中だと、予約のお客さんで忙しいから、時間外ならきっと待たずに済むと思うしぃ…。でも、もしママに気に入られちゃったらぁ、当面は無料で実験台?になってもらうことに、なるかも?だけどぉ…」
「実験台…」
彩乃は、謙佑からもそんな話をされていることを思い出す。良くわからない大学の研究の一環らしいが、怪しさ満点の予感である。
「じゃ、私も便乗…」
「却下!」
詩音がちゃっかりした要求をする間もなく、彩乃がそれを斬って捨てる。
「これは、『恋に悩む少年魂の少女が、魔女の力でシンデレラになる』お話なんだから、成功者の詩音には権利がないんだってば!」
突然の彩乃の剣幕に圧されて、詩音が黙ってしまうと、代わりに風歌が冷静なツッコミを入れる。
「なんかうちのママ、勝手に魔女になってるしぃ…。っていうか、シンデレラじゃさぁ、すぐに化けの皮が剥がれて、元に戻っちゃうってば…」
「化けの皮とか言うなぁ! ボクは真剣なんだよぅ…」
彩乃は涙目になって抗議する。その必死の態度を非情に笑い飛ばして、風歌は結論を出す、
「あはははっ! まぁ、そんな感じっぽいからさ、詩音はまた今度、正規料金でよろしくねっ! じゃ、ママに聞いてオッケーが出たらぁ、早速、彩乃をご招待ぃ!ってことで…」
「うん、よろしく…ありがとう、風歌…」
瞳に大粒の涙を浮かべたまま、潤んだ瞳で風歌を見上げた彩乃が感謝の気持ちを伝える。
その様子はまさに、尻尾振り振りでご主人様に纏わりつく子犬のような雰囲気そのものだ。
「乙女でも少年でもなく、ワンコってやつじゃ…」
そんな彩乃の様子を眺めながら、詩音は誰にともなく呟いた。
そして週末の金曜日の夜に、遂に彩乃の乙女化改造手術が執り行われることが決定した。もちろん執刀医は風歌の母である。
柄にもなく緊張の極限状態の強張った表情で放課後を迎えた彩乃は、風歌との待ち合わせ時刻を何度も確認してから、帰路についた。
詩音はそんな親友の様子を、まるで自分のことのように感じ、期待交じりの熱視線で見送った。
そう、予定通りならば、新生彩乃のお披露目は日曜日のRPGイベントとなるはずなのだ。ますます楽しみが増えるというものだろう。
「私も何か変えてみたほうが良いのかなぁ…」
ぽつりと呟いた詩音の独り言は、まさに地獄耳といっていい程の執念で、常日頃から注意深く詩音を観察し続けていた越谷の耳にも届いた。
「西原さんは、今のままで十分だと思うよ? 何ていうか…、その、か、可愛いしさ…。」
「うーん、そう言って貰えるのは嬉しいけど…。女の子としてさ、何か足りなくない? 私って…」
詩音は越谷からの告白を保留にしたままだ。寧ろこのまま自然消滅でも良いとさえ思っている。それでも、クラスメイトの男子から褒められれば、悪い気はしないのも事実だった。
「そうかな? 西原さんは何も変わらなくても十分素敵だし、もちろん何か新しいことに挑んでも、それは新鮮な魅力だと思うけど…」
放課後でクラスの生徒も疎らとはいえ、あからさまに褒めちぎられるのも気恥ずかしい。
「私って、やっぱり子供っぽくないかなぁ…?」
「子供っぽく? まぁ、ちょっとふわふわした感じがあるから、否定はできないけど…」
「だよねぇ…」
正直者の越谷は詩音の言葉を否定してくれない。それが彼の長所でもあり、短所でもあるのだが…。
「もし、西原さんが変わりたいんだとして、香坂さんみたいなカッコイイ系の女子を目指すの? それとも白岡さんみたいなボーイッシュ系で元気な感じ? どれも良いとは思うけど、あまり無理をすると、西原さんの自分らしさ?みたいなものが無くなっちゃうんじゃないかな?…って」
「うーん、私らしさ、って言われても、何だろうねぇ…」
越谷の言いたいことも理解できるし、きっと詩音を心配しての言動だろうということもわかっている。自分で袖にしておいて、こういうのも虫が良い話だが、越谷は「良い友達」なのだと詩音は思った。
「ありがとうね、越谷君。また日曜日、イベントでね…」
「うん、気をつけてね。イベントで一緒にプレイできると良いんだけど…」
「残念でした、抽選です!」
もし、越谷にまだ悪運が残っているのなら、気まぐれな神様が望みを叶えてくれるだろう。
詩音が佐伯先生に構って欲しくて必死になっていたように、越谷にも当然その権利はあるはずなのだから。夢は、諦めない限り夢なのだ、と詩音は思った。
◇103 魔窟攻略再び に続く
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あとがき
初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。
行き当たりばったりで始めたこの「よよぼう」の週刊連載も、ようやく最終章(予定)の第八章となりました。
定期的に読んでいただいている皆様、ありがとうございます。
TRPGという趣味は些かマニアックでニッチな趣味なので、取っ掛かりが難しいと敬遠している方も多いと思いますが、実は予想以上に簡単で、寧ろ問題は「己の羞恥心との闘い」だったりします。
役者や声優を目指している人ならともかく、一般の…いえ、多少その手のオタク初心者からすれば、カッコいいけど小恥ずかしい台詞を「さぁ言ってみろ」とばかりに促されても、躊躇してしまうのは良くわかります。
ですが、一度そこを乗り越えれてしまえば、後は爽快感溢れる夢の世界が待っているという寸法です。
皆様も是非、一度は挑戦してみてください。
いつも校正チェックでお世話になっている鳥ことトットさん、アイディアを頂くことも多い蛹ことハセベさん、諸々感謝しています。ありがとうございます。
それでは、最後のエピソードまでもう暫く、詩音の迷走物語にお付き合いをお願いします。
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■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを公開中。「よよぼう」関連以外も沢山あります。
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