◇99 勇者の次なる目標
まえがき
「よよぼう_~あの世とこの世の冒険譚」は、原則的に毎週月曜日の朝10:00に更新予定の、連載形式の小説作品です。
2025/1/13より、現在の第八章を掲載中です。今のところ、この章で完結となる予定となっています。
「よよぼう」第七章までのあらすじ &登場人物
https://ncode.syosetu.com/n0444ie/98
◇99 勇者の次なる目標
全ての話がひと段落した頃、ようやく詩音たちRPG同好会の面々が、この図書館研修室へとぽつりぽつりと集まり始める。
もともとは中等部の全校生徒に広く開放されているはずの研修室だが、今ではすっかり、詩音たちのRPG同好会が合法的に不当占拠している状況だ。まぁ、さして需要のある部屋ではないから、それほど大きな問題にはなっていないが、物には何事も限度というものがあるだろう。
「やっほーっ! 一番乗りぃ!…じゃなかったか…。佐伯センセ、こんなに早くから何かあったの?」
勢いよく扉を開け放ち、開口一番にそう言いかけた彩乃だったが、すぐに室内の異様な雰囲気に気付いて、神妙な顔で疑問の表情を浮かべる。
「ま、まぁ、進路相談みたいなもんだ…。彩乃、先生は風邪が酷くならないうちに戻るから、後は詩音に任せると伝えてくれるか?」
「あいあいさー!」
おどけて敬礼する彩乃に頷き返して、佐伯先生は研修室を後にした。その場から遠ざかっていっても遥かな先からゴホゴホという咳の音が聞こえてくる。
「あの調子だと、明日はお休みかなぁ?」
「そうね、私たちにもうつってたりしてないと良いのだけれど…」
取りたてて深い詮索をすることもなく、彩乃は樟葉先輩に当たり障りのない話を振る。樟葉もいつもと変わらぬ調子でそれに応えた。
一部の界隈を除けば、基本的に世の中は平和そのものである。詩音たちの周囲も大波乱の嵐?が一通り過ぎ去った今となっては、ある意味凪のような平穏を取り戻しつつあった。
もっとも、全てが詳らかに公然にされているわけではない。
謙佑を巡る大戦争、つまり従妹の彩乃とその後輩、美雅との対決もそうである。
秘かに謙佑が想いを寄せていた環の鶴の一声で、二人は唐突に付き合いはじめるということになり、当人たちの知らぬところで、実は彩乃も美雅も共倒れに終わってはいた。
しかしながら、あの鈍感な謙佑のことである。二人の女子中学生の自分に対する恋心など微塵も察することはなく、恐らく何も聞かされていないだろう渦中の二人は、未だ勝利への大攻勢の機会を虎視眈々と窺っているはずだ。
そう、最前線の兵の知らぬ間に遥か後方で決着がついている、という戦争あるあるな感覚だ。
「皆、おはようだよ! あれ、樟葉先輩珍しく早いですね…」
彩乃に次いで現れたのは、会長の詩音だ。
研修室の鍵を借りようと一度司書室に赴いた詩音だったが、既に誰かが使用中との返答を受け、その誰かを推測することなくこの場所に現れたのだった。
「進路相談だってさ、佐伯センセと…」
「ふぅーん。で、先生は?」
「風邪が悪化しないうちに帰るそうよ。見るからに悪そうな体調だったし、流石に無理はできそうもないわね…」
彩乃と樟葉が詩音の疑問に答える。確かにあの授業中の様子からすれば、さっさと帰って寝ていたほうが無難だろうな、と詩音は思った。
仮にこの場に佐伯先生がいたとしても、昨日の詩音の大胆な告白に対する明確な返答などが貰えるとも思えない。
いくら寛容な世の中になったとはいえ、それはそれ、これはこれ、である。中学校の教師と生徒の間での男女交際など、おいそれと認められるものではない。健全か不純か以前の問題だろう。
その事実は、幾ら楽天的な詩音でも重々承知していたから、佐伯先生から直接的な何らかのアプローチがあるとも思っていないし、あからさまに佐伯先生の自分に対する態度が激変するとも思っていなかった。
むしろ、そんな秘密の恋だからこその、いわゆる秘密の共有感、悪く言えば共犯関係とでも言うべき状況を、詩音は何処となく楽しむつもりさえあった。
そう、少なくともこの中等部を卒業するまでは、先生と生徒という間柄に大きな変化があるとも思えないのだし、いっそのこと、そこは秘かな隠密行動に徹するべきだろうと思っていた。
「よーし、それじゃ、佐伯先生の分まで気合入れて楽しむぞー!」
気分を切り替えて、小柄な身体を精一杯に伸ばして、大胆で躍動的なポーズを決めると、詩音は明るく自分自身に気合を入れるように叫んだ。
その声に導かれるように、残りのメンバーたちが続々と集まってくる。
「こんにちわー、…って、何? 何でいきなり会長先輩はそんなに元気なんですか? 期末試験、そんなに余裕だったんですか?」
まさに異様ともいえるほど機嫌の良さげな詩音に対して、呆れ交じりの美雅の言葉が、疑問の視線と共に投げかけられる。
「あー、何だか詩音のやつ、朝っぱらからずっとおかしくてなぁ…。まぁ、おかしいのはいつもと同じなんだが、どうもこう、ネジが飛んでるっていうかよ…。俺もちょっとばかり気にはなってたんだぜ…」
涼太もまた入室早々、半ば呆れた様子で美雅に同調する。普段から嫌というほど見慣れてきた幼馴染みの目から見ても、詩音の様子は明らかに異様というべき盛り上がりっぷりなのだ。
「別に何もないよー? 単にこう『ぶわわぁー』って心の底からエネルギーが溢れてくる、って感じ?」
詩音はぴょこぴょことツインテールの髪を揺らしながら、拙い語彙で自身の感覚を表現する。
「まぁ、泥のように落ち込んで、半泣きでぐだぐだしているよりは百倍マシじゃない? 元がお気楽お馬鹿なんだから、詩音にとってはこれで平常運転ってもんでしょ?」
フォローにならないフォローを口にしながら、さらに夢莉が、まるで可愛い妹を見守るように微笑みかける。
「うたぁねぃのはっぴーは、みんなのはっぴー、ですね」
「ああ、見てるだけでこっちまで妙にむず痒い変な気分になってくるってもんだぜ…。いわゆる怪しいクスリ…いや、むしろデンパってやつか?」
「でんぱぁー?」
ジョナサンの率直な感想に、兄貴気取りの涼太がツッコミを入れるも、ジョナサンには幾分も理解されてはいないようだ。
「ちょっと! 私を変な娘みたいに言わないでよ! 何処にでもありふれたごく普通の、一般的な、標準的な女子中学生だよ…」
詩音はさらに強く抗議の声を上げるが、流石に多勢に無勢、虚しい反撃に終わってしまう。
「普通の女子中学生が勇者を名乗ったり、担任教師に自爆攻撃かけたり、それって普通にあり得なくない?」
「あー、うー、それはそれ、運命の悪戯っていうか…?」
夢莉の鋭い指摘に対して、詩音には反論の余地はない。もっとも夢莉はそんな、半泣きの詩音を、にやにやしながら眺めるのが楽しいのだから、弄り甲斐のある幼馴染みであり、大好きな親友に容赦するはずもない。
「そういえば、その魔王佐伯のほうも何だか微妙に変だったんだよねー」
「うたぁねぃのでんぱぁー、まおうにも、きいてますか?」
彩乃の呟きにジョナサンが反応する。まぁ、実態は当たらずとも遠からじ、といった感じではある。
「それじゃあ、その辺、じっくりと会長先輩に話を聞きますかね…」
ここぞとばかりに美雅が追い打ちをかける。
少し前までの一匹狼でツンツンしていたひねくれ娘は何処へやら、美雅がここまで変わってきたのも、詩音たちRPG同好会の面々の影響も無視できないだろう。もちろん、家庭環境の変化が一番大きいとは思えるが。
「うーん、ほんとに何もないよ? 偶然昨日、駅前で先生に会った時に、いつもみたいにぶっちゃけトークやってたら、『あー、なるほど、そっかぁ…』的な感じになっただけ、のはず…。それに、今日の佐伯先生が変なのは多分、風邪ひいたせいだよ…」
「詳しく訊こうか! 牛丼はないけどな…」
涼太が急にドラマの刑事の物真似で詩音に迫る。周囲の皆も興味津々の表情で、参考人…というよりもはや被疑者の立場になった詩音を見つめている。まるで生者一人に群がる多数のゾンビたちのような感覚だ。
「だぁーかぁーらぁー!」
「こら、あまり騒々しくしないの! 私の立場も考えて頂戴!」
詩音が堪りかねて悲鳴のような大声を上げた途端、流石に樟葉が騒々しい騒ぎを諫めにかかる。
「静かになさいって、毎度毎度言っているでしょう? あなたたち、故意に私に反抗しているのか、それとも記憶回路に致命的な問題があるのか、そうでなければ単純に馬鹿なのか、どうなのかしらね…」
樟葉先輩が良く通る澄んだ声で、詩音たちメンバーを叱りつける。ある意味、佐伯先生以上に教師向きな性格だといえるかもしれない。
「すみません…」
詩音はすっかり先ほどまでの勢いを失って、小さく消え入るような声で返事を漏らした。
RPG同好会の一員であると同時に、図書委員も任せられている樟葉にとって、この異様な溜まり場状態を容認し、放置しておくわけにはいかない。「鋼鉄の冷嬢」という二つ名に違わず、誤りは即正すべきだという樟葉らしい考え方の現れである。
「とりあえず、今日は何するつもりよ? 詩音、何か考えてあるんでしょ?」
いくら恋敵同士とはいえ、この場で揉め事は勘弁してほしい。そんな皆の心の声を代表して、険悪化しそうな雰囲気を察した夢莉が、詩音に助け舟を出す。
「うん! まぁ、今度のイベント用に仕込んだネタなんだけど、あ、私さ、ゲームマスターやらせて貰おうかなって思って…」
今さらのように照れ照れと恥ずかしそうな表情を浮かべて、詩音がとんでもないことを言い出すと、周囲の皆が驚きの表情を浮かべる。
「イベントって、たまきんのところのアレだろ? 大丈夫なんか、それ…」
「たまきん? あんた随分いきなり親しげな雰囲気になってるじゃないのよ? 何があったか正直に言いなさい!」
涼太の発した当然の疑問に、思わず飛び出した環に対する親しげな愛称?を、夢莉は鋭く追及する。まるで浮気がバレた新婚夫婦のような光景である。
「どうもこうも、アレだ…。環さんの姉ちゃんって自称してる人と知り合ったんよ…。ほら、夢莉の言ってた占い小屋の…」
「あー、ヴィスラーンさん、涼ちゃんも知ってたんだ。ほんとそっくりだよね、あの二人って。見た目だけじゃなくて、性格も…」
詩音が涼太の話に頷きながら、笑顔に早変わりする。
元はといえば、詩音の異常に明るいノリも、風邪で苦しむ佐伯先生も、全部あの双子姉妹が発端だった。もちろんそれは、詩音だけが知る事実である。
「何ていうか、ちょうど越谷君や風歌たちも来るって言ってるし、知らない人相手にゲームマスターするのも良いかなぁ、って思って…」
以前行われた中等部体育祭の「残念会」で、詩音は唐突にクラスメイトの男子、越谷に告白され、見事に撃退?に成功したわけだが、その折、次回のRPGイベントに越谷たちのグループも参加したいと言い出したのだ。
恐らくそれは方便というもので、詩音と越谷の接点を維持し続けるための口実に過ぎないのだろうが、当の詩音は別にそれを嫌だとは思っていないし、何よりRPGという趣味に興味を持ってくれるだけで嬉しく感じていた。
「それにしても、魔王佐伯や謙佑さん、たまきんみたいなクラスの魔物たちが大勢ひしめいてるんだぜ? 無謀勇者の中二女子がやっていけるんかね?」
心配そうな表情の涼太を笑い飛ばす勢いで、詩音は大胆不敵な笑みを浮かべる。まさに文字通りの無謀勇者っぷりだ。
「何事もやってみてから考える! それが正解なんだから!」
「はぁ…、あのとことんチキンを極めていた会長先輩が、これまた随分な変わりようですね…、ほんとに…」
美雅が口にしたその感想は、恐らくこの場の…詩音以外の全員の総意だっただろう。
「次の日曜かぁ、楽しみだなぁ…」
詩音は周囲の空気を無視するかの如く、何処か夢見心地に呟きながら、気味が悪いほどの笑顔を浮かべていた。
◇100 魔王からの頼み事 に続く
ご意見ご感想イラスト等もぜひお寄せください
あとがき
初めまして&こんにちは、真鶴あさみです。
行き当たりばったりで始めたこの「よよぼう」の週刊連載も、ようやく最終章(予定)の第八章となりました。
定期的に読んでいただいている皆様、ありがとうございます。
TRPGという趣味は些かマニアックでニッチな趣味なので、取っ掛かりが難しいと敬遠している方も多いと思いますが、実は予想以上に簡単で、寧ろ問題は「己の羞恥心との闘い」だったりします。
役者や声優を目指している人ならともかく、一般の…いえ、多少その手のオタク初心者からすれば、カッコいいけど小恥ずかしい台詞を「さぁ言ってみろ」とばかりに促されても、躊躇してしまうのは良くわかります。
ですが、一度そこを乗り越えれてしまえば、後は爽快感溢れる夢の世界が待っているという寸法です。
皆様も是非、一度は挑戦してみてください。
いつも校正チェックでお世話になっている鳥ことトットさん、アイディアを頂くことも多い蛹ことハセベさん、諸々感謝しています。ありがとうございます。
それでは、最後のエピソードまでもう暫く、詩音の迷走物語にお付き合いをお願いします。
ご意見ご感想、AIイラスト他、お寄せくださると嬉しいです。
■「ちちぷい」(https://www.chichi-pui.com/users/user_uX43mFCS2n/)にてAIイラストを公開中。「よよぼう」関連以外も沢山あります。
■個人HPサイト「かれいどすこーぷ」(https://asami-m.jimdofree.com/)を運営…というより絶賛放置中です。
■TINAMI(http://www.tinami.com/)にも、いずれ掲載予定…と言いつつも…。
■X(旧Twitter)もあります(@manazuru7)。




