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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
ゲーム部を目指して
10/112

◇9 適当過ぎる物語

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したものです。

 既存部分の掲載に引き続き、新作部分を連作小説形式で公開していきます。



●主な登場人物

 □女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部に所属。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。


佐伯さえき

 詩音と彩乃の担任の国語教師。


涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。


水野みずの

 夢莉の担任の体育教師。


◇9 適当過ぎる物語


 翌朝、いつもと変わらぬ通学路には、普段と変わらぬ生徒たちの姿に交じり、三者三様といった感じの詩音たちの姿があった。

 「おっはよー!」

 やや遅れ気味に追いついてきた彩乃が、前を行く詩音と夢莉に声をかける。

 「まったく、朝っぱらから元気がいいなぁ、あんたは…」

 薄っすら涙目で欠伸を噛み殺しながら、呆れたように夢莉がいう。

 「そりゃ、ボクは元気だけが取り柄だからね」

 「自分で言ってるし」

 彩乃の言葉を素直に受け取って、詩音が感想を漏らす。

 「それで、なんで夢莉はそんなにお疲れなのさ?」

 まるでいつぞやの朝の詩音が乗り移ったかのように、何処か足取りが重い様子の夢莉の姿に気づいて、彩乃が声をかける。

 「もしかして体調悪い? 怪我が悪化したとか?」

 夢莉はもともと体操部の所属だ。怪我をして足腰に痛みがあるので大事をとっているが、だいぶ良くなってきたと本人が言っていた矢先のことだけに、さすがの彩乃も心配だった。

 大丈夫、と一言呟き、夢莉は感謝の言葉を伝えた。そして夢莉が覇気のない原因についてぼそぼそと話し始める。

 「いや、なんていうかその、昨日の、あれ、なぁ…」

 「あー、やっぱりあれかぁ…」

 それはとても珍しいことだった。

 彩乃も夢莉も意外にさっぱりした性格、良く言えば根に持たない、悪く言えばあまり深く物事を考えない、という感じではあるので、ゲームの中のひとつの場面や一瞬の行動などの影響を、その後暫く引きずったりというようなことは、ほぼあり得ない。

 いい意味で、ゲームはゲーム、リアルはリアル、と割り切れている証拠なのだろうが、些かもったいない気もする。  

 だが、昨日、佐伯先生が語ったシナリオは、今の詩音たちにとってはあまりにも衝撃が強すぎて、プレイ直後に死屍累々と化したように、帰宅後もそれぞれが牛のように反芻し、悶え苦しんだに違いない。

 とりわけ夢莉は一段と複雑そうな表情で、その手で恐ろしい悪魔を倒した達成感と、亡骸に縋る修道女…樟葉先輩の恨み節の板挟みを食らって、ほとほと参っているようだった。

 「ほんと、もしかしたら樟葉先輩がラスボスになるかも、って感じだったよね」

 そのシーンを思い出した彩乃が興奮気味に語ると、詩音もあはは…と乾いた笑いで同調する。

 「もとはといえば、彩乃、あんたが肖像画をぶっ壊すからあんなことになったんでしょうが!」

 「いやー、面目ない―、反省してるー」

 悪びれずに彩乃は笑う。やれやれと夢莉が溜息をつく。

 確かにそれぞれの体験はゲームの中の出来事ではあるが、多かれ少なかれ現実のプレイヤーの性格を反映しているはずだ。

 彩乃のそそっかしさが生んだ肖像画の一件も、面倒ごとが最終的に夢莉の許に委ねられてしまうのも、流されるまま傍観するしかない詩音の心情も、すべてが現実の反映なのかもしれない。

 だとすれば恐らく、樟葉先輩の葛藤や魂の叫びもまた、樟葉先輩自身の身の上を暗示しているのだろうと、詩音は思う。

 「樟葉先輩、大丈夫かなぁ」

 「あれは確かにばっちり効いてたよねぇ。ボク、呪い殺されるかと思ったよ」

 確かにあの時の樟葉先輩の目は本物だった。悲しい運命を呪って、神にさえ抗おうとするかのごとき声で、樟葉先輩は詩音たち三人を罵った。

 「単なる名家の御令嬢ってだけじゃなくて、先輩には先輩でいろいろあるってことさ。あたしらなんか思いもつかない深い悩みっていうのが、もしかしたらあるのかもなぁ」

 夢莉の指摘はよくわかる。誰でも人それぞれに悩みの一つや二つあるものだ。他人からしたら大したことがないように思えても、本人からしたら大問題なこともある。

 「でも結局、創部のための頭数を揃えるには、先輩にもゲーム部に入ってもらう必要があるんだろ? 昨日のアレはちょっとヤバかったかもなぁ」

 「そんなこと言っても、夢莉があそこでああしなかったら、今度は夢莉のほうが納得できずにどんよりしてたじゃない」

 夢莉の心配を理解したうえで、詩音が冷静に答える。

 RPGというのは一種の即興演劇のようなもので、その時に与えられた状況に対応して、基本的にプレイヤーの好きな行動ができる。もちろんその結果に対しても、因果応報というかそういう影響を被ることも、それなりによくある。

 お互いにプレイヤー同士がそういう駆け引きをすることによって、仲間との一体感や、利害対立の焦燥感を演出するわけだ。

 しかし大抵の場合、プレイヤーもゲームマスターもシナリオの無難な完結、つまり物語の破綻というリスクを負うことなく終わらせることを望むため、進行の阻害要因となる行動や、ゲーム外での遺恨を残すような言動は、無意識に避けるような状況になるのが普通だ。

 それを考えると、昨日のあのシナリオ展開は、さすがに少し攻め過ぎだったといえるかもしれない。

 「まぁ、何事もなるようにしかならないってことだよ。やらずに終わっちゃうよりはやって後悔しろ、ってね」

 この彩乃の明るさが今は希望の光なのかもしれない。単にお気楽馬鹿なだけかもしれないが。

 「それにしても、昨日のあの話って、ルールブックに載ってるお試しサンプルなんでしょ? あんな爽快感の欠片もない重たい展開でいいわけ?」

 ふと夢莉が口にした疑問だったが、即座に詩音が否定する。

 「あぁ、あれ、殆ど出任せだから…」

 「はぁあ?」

 ひと際大きく素っ頓狂な声を上げて、夢莉が驚きとも戸惑いともつかぬ表情を浮かべる。

 「それってどういうこと?」

 間近に迫られて僅かに怯みたじろぎながらも、詩音が要点を掻い摘んで簡潔に説明する。 

 「なんていうか、物語の大部分が佐伯先生がその場で創りあげたアドリブ展開って感じで、私たちプレイヤーの出方に合わせてその先の方向性を微妙に変えてくるっていうか、とにかくもう、端から端まで先生の口から出任せっていうか」

 「なにそれ?」

 夢莉が話についていけないのももっともだった。

 「ぶっちゃけ、ルールブックに書いてあるのは、毎度お馴染み招待状って感じの導入部分があって、集められた館には忘れられた悪魔ってのがいるから、それじゃ皆で適当に逃げたり退治したりしてね、っていう、それだけだってば」

 彩乃がさらに噛み砕いた説明をする。噛み砕いたというより既にペースト状にされた状態だ。飲み込みやすさは十分だろう。

 「じゃあ、ほんとにあの話、佐伯がその場で考えた、ってわけ? マジか?」

 感心を通り越して呆れるとはこのことだろう。今まで見たこともない複雑な表情を浮かべた夢莉が呆然と呟く。

 「あんな咄嗟にすらすらと文章が出てくるなんて、さすがに佐伯先生は国語の教師なんだなぁ、って感じだったかなぁ」

 「ますます詩音は佐伯センセに惚れなおしちゃいましたぁ、と」

 うっとりと語る詩音を茶化しながら彩乃が笑う。

 「むしろペテン師だろ?」

 「そんで、その肝心の佐伯センセとはどうなってるのさ、詩音」

 「は、はぁああ?」

 突然水を向けられると正直困る。詩音の頭は切り替えが追いつかない。

 確かにどちらも大事な話ではあるのだが、ここ数日の佐伯先生とのやり取りで、何か二人の仲に進展があったかといえば、そう、まるで何もないのだ。

 これは由々しき事態だともいえるが、まぁこんなもんだろうともいえる。どうでもいいとは言わないが、詩音がいまさら焦ってみたところで、どうなる類のものでもない。

 「まったく進展なし…か、それはそれでなによりだ」

 「えぇー」

 さらりと流す夢莉の態度に不満の声を上げる詩音だが、もちろん何も言い返すことができない。

 「ほら詩音、正直に言っちゃいなよ。佐伯センセ、ゲーム部のついでに私も引き受けてください、お願いします、ってさ」

 「むぅー」

 もしそんなことが気楽に言えたとしたらどれだけ良いだろうか。詩音は彩乃にいいように揶揄われながら、何とか反撃の糸口を探る。

 「彩乃、あなたやっぱり馬鹿でしょ? 彩乃のほうこそ誰かいないの、気になる人とか…」

 あっ、と詩音は自らの発言を瞬時に後悔する。彩乃の好きな人とはつまり、もう今はこの世にいない…。

 「いるよ、ボク、好きな人」

 「ほう、それは初耳だ」

 興味津々の夢莉の視線も、彩乃の明るく晴れた満面の笑顔に注がれる。

 「じゃーん、佐伯センセ―!」

 「おい!」

 「うそうそ、まだ内緒だけど、いるよ。いるんだなぁ、これが。だから詩音はなーんにも気にしなくていいからさ。思う存分、佐伯センセとの一騎打ちを楽しんでね」

 ぽんぽんと音を立てて、そっと詩音の背中を叩きながら、彩乃はけらけらと笑った。




◇10 香坂夢莉に続く

●ご注意

 この連作小説は、2023/4/1より当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したものです。

 2023/4/8より毎朝10:00に各章を順次公開しますが、分割にあたって変更した部分はありません。

 既存部分の掲載に引き続き、新作部分を連作小説形式で公開していきます。新作部分のスケジュールは現在検討中です。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。

 画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。


 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。

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