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よよぼう ~あの世とこの世の冒険譚  作者: 真鶴あさみ
ゲーム部を目指して
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◇0 プロローグ

●ご注意

 この連作小説は、当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したものです。

 既存部分の掲載に引き続き、新作部分を連作小説形式で公開していきます。



●主な登場人物

 □女性/■男性


西原にしはら 詩音うたね

 担任の佐伯先生に恋する、RPGが趣味の中等部二年生。


白岡しらおか 彩乃あやの

 詩音のクラスメイトで、ホビーショップの看板娘。


香坂こうさか 夢莉ゆうり

 詩音の幼馴染みで、隣のクラス。体操部に所属。


神楽かぐら 樟葉くずは

 図書委員の中等部三年生。地元名家の一人娘。


佐伯さえき

 詩音と彩乃の担任の国語教師。


涼太りょうた

 詩音と夢莉の幼馴染み。夢莉のクラスメイトでお隣さん。


鷹取たかとり 謙佑けんすけ

 ホビーショップのアルバイトの大学生。彩乃の従兄。


水野みずの

 夢莉の担任の体育教師。


◇0 プロローグ



 ついに君たちは最後の試練を乗り越えて、迷宮最深部の謎の扉の前に辿りついた。薄暗くじめじめとしたまさに陰湿な広間に、時折響く何処かで水滴の滴り落ちる音だけが静寂を際立たせていた。


 仲間たちの熱い視線が見守る中、ゆっくりと歩みだした君は、慎重にその扉の開錠を試みる。


 鍵穴に刺した細い金属棒の感触を確かめるように、研ぎ澄ませた全身の神経を集中させて、僅かに指先を動かしていく。


 仲間の中で最も手先が器用である君は、もちろん相応の経験を積んできたし、自信とプライドも持ち合わせていた。


 ―大丈夫、今回も上手くやれる―


 やがて微かな音とともに、確かな手応えが指先に伝わった。


 君は振り返りながら静かにこくりと頷く。仲間たちが息をのむ気配が、静寂の空間に広がっていった。


 しかし次の瞬間、何もない静寂の空間の闇の片隅から染み出るように、いくつもの黒い影が現れ、あっという間に君たちを取り囲んでしまった。


 静寂を破る高笑いが、遥か君たちの頭上から降り注いだ。


 「あっはっはっ! これはまた面白い真似をしてくれる。まさかこれほど容易く罠に嵌ろうとはな!」


 「何ぃ!」


 リーダー格の剣士が間髪を入れずに反応する。


 「それでは見せて貰うとしようか、その若き命の灯が消えゆく様をな。あっはっはっ、はっは…げふんげふん、ちょっと待っ…」






 涙目でむせ返っているのは、もちろん悪魔でも魔王でもなく、何処にでもいるようなごく普通の女の子だった。


 「ちょっと詩音、落ち着け落ち着け。大丈夫? ほれ、ゆっくりお茶飲んで深呼吸だよ…」


そう促すのも、同じ制服姿の女の子。彼女はお茶のペットボトルを差し出しながら心配半分の視線を向ける。


 当然だが、彼女たちのいるこの場所も、魔王の潜む迷宮の最深部などとは程遠い、ごくありふれた学校の一室のようだ。教室にしては些か狭い気もするが。


 ざっと目につくのは、整然と並んだ大きな会議用の白机と、同じく申し訳程度の座り心地の車輪付き椅子が数脚。開放的な明るい窓と、そして僅かな彩りをもたらす女子中学生が三人。


 「しかし、あんたってば普段は目立たず影薄いのに、ゲームになると大胆というか、弾けるよねぇ」


 もう一人、別の女の子がけらけらと笑う。声の感じは先ほどの剣士のようだ。


 「けほっ、酷いよ、夢莉。私だって好きで影薄いわけじゃないよ!」


 詩音と呼ばれた女の子が、ようやく落ち着きを取り戻して そう涙目で反論するが、きっと思い当たる節があるのだろう。何処か否定の言葉に力がない。


 「そうかなぁ? 今日も佐伯の授業中ずっとちっこくなって俯いてたって話じゃない?」


 佐伯というのは、この中学校に今年から新たに赴任した国語教師にして、詩音と彩乃のクラス担任…ではあるのだが、恋する詩音からすれば、ある意味、魔王以上に厄介な難敵だった。


 「そ、そ、そんなこと…ないよ、ちょっと彩乃ぉ!」


 痛いところを突かれた詩音は、しどろもどろで夢莉に反撃を試みながら、慌てて矛先を逸らすも、話を振られた彩乃は小さく舌を出しただけでやり過ごす。


 そもそも詩音の授業中の様子を隣のクラスの夢莉が知りえるはずがない。詩音の様子を逐一知りえる立場といえば、同じクラス、しかも隣の席の彩乃であろう。本人に聞き質すまでもなく、話の出処は明らかというものだ。


 「佐伯センセの視線って、詩音にとっては魔王のチャームよりも、めちゃめちゃ眩惑効果が高そうだしね」


 彩乃の揶揄うような言葉に、むーっと抗議の視線を返す詩音だが、図星だけに何も言い返せない。


 「いっそ魔王佐伯の軍門に下ってしまうのはどうだ、貴様にも悪い話ではないだろう?」


 未だ剣士の趣の冷めやらぬ夢莉の魅惑的な提案に、一瞬唆されそうになる詩音だったが、自分自身に言い聞かせるように否定の言葉を紡ぐ。


 「先生は魔王じゃないし! そもそも軍門に下るってどういうことよ?」


 「え、毎日こっそりあんなコトやこんなコトとかしたり? 授業中に二人きりの異空間を発生させたり?」


 無駄に想像力が豊かなのはゲームをする上では重要だが、この手の話題においてはまさに諸刃の剣だ。彩乃の言葉に反応して、詩音の顔が自分でもわかるように真っ赤に染まってゆく。


 「ちょっ…私たちまだ中二だよ?」


 詩音がどうにか反撃を試みようとしたその瞬間、ノックの音ももどかしく、豪快に部屋の扉が開け放たれる。


 「ちょっとあなたたち、またなの? 少しは他の人のことも考えて静かになさい!」


 扉の前で仁王立ちになっている威厳に満ちた女子生徒は、良く通る澄んだ声音でそう言い放つと、詩音たち三人の顔を一望する。


 「…す、すみません」


 消え入りそうな声で詩音が申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にすると、上級生らしいその女子生徒は大きく溜息をついた。


 「いい加減に学習なさいな。この研修室は曲がりなりにも図書館の一部なんですから、もう少し静かに利用できないものかしら? 他の人の迷惑にならないように。それと、持ち込んだ飲食物は忘れずに持ち帰るように、ね」


 一通り言いたいことだけを言うと、詩音たちの返答も待たずに、くるりと踵を返して悠然と立ち去る。その後ろ姿は颯爽としていて、言葉をかけることさえ躊躇いを覚えた。


 その上級生の後ろ姿が見えなくなった頃、ようやく緊張の糸が切れたように彩乃が口を開いた。


 「ふぁーこわこわ。ボク、やっぱり樟葉先輩、苦手だなぁ…」


 恐怖から解放されたかのように、彩乃はほっと安心の表情を浮かべる。夢莉もそんな彩乃に同調した。


 「ほんとにあんた中三か?って感じの迫力だよね。まぁ、研修室で騒いでるあたしらが悪いっちゃ悪いんだけどさ。もう、さすがというか、なんというか。『鋼鉄の冷嬢』って二つ名も伊達じゃないって感じ?」


 「鋼鉄の冷嬢…」


 詩音が噛みしめるようにその言葉を呟くと、その制服の袖口を彩乃が引っ張った。


 「続きはどうするの、詩音?」


 先ほどの冒険譚は確かにまだ道半ばだ。むしろ、これからがクライマックスといってもよかった。だが、一度機を逸してしまうとなかなか同じ雰囲気にもっていくのは難しい。


 「お開き、って感じかな…」


 否定の意を込めて掌をひらひらさせている詩音の心境を察して、夢莉が代わりに口にする。


 大きなガラス窓を開け、研修室の部屋全体の空気を入れ替えると、詩音は窓にもたれながらぼんやりと外の様子を眺める。


 眼下の校庭では、何人かの陸上部の短パン姿の生徒たちが、黙々と練習を繰り返している。


 光る汗の煌めきなんてこの場から窺い知ることはできないが、詩音にはその光景が何処か眩しく、そしてまた羨ましくもあった。


 「部活かぁ、部室があればなぁ。もっと人増やせるのになぁ」


 自然に漏れる詩音の呟きに、彩乃と夢莉も反応する。


 「確かに、ボクも安住の地は欲しいかも、だね」


 「でも、部室云々の前に、肝心の顧問を探さないと、だろ? 第一、あたしらだけじゃ頭数が足りてないんじゃないか?」


 無邪気な彩乃の同意に、夢莉の辛辣な一言が容赦なく突き刺さる。


 「まずはそこからかぁ、先は長いよねぇ」


 ひと際大きな溜め息をつきながら、詩音はそう弱音を漏らした。 


 「はーい、ボクは佐伯センセが顧問でいいと思いまーす」


 「彩乃…あんたって、やっぱり馬鹿だろ?」


 唐突な彩乃の提案を、夢莉が一刀両断で斬り捨てる。


 「大丈夫大丈夫、ボクに任せて」


 「はぁ…」




◆1 白岡彩乃(しらおかあやの)に続く



●ご注意

 この連作小説は、2023/4/1より当サイトで公開中の「あの世とこの世の冒険譚」本編を各章ごとに分割したものです。

 2023/4/8より毎朝10:00に各章を順次公開しますが、分割にあたって変更した部分はありません。

 既存部分の掲載に引き続き、新作部分を連作小説形式で公開していきます。新作部分のスケジュールは現在検討中です。


 作中の登場人物のイメージ画像を「COM3D2」というアレ系のゲームで撮影しました。

 画像そのものは健全なので問題ないのですが、今後のことも考えて、イラストを描いてくださる絵師さんを募集しています。ぜひよろしくお願いします。


 ここまでのお付き合いありがとうございます。この作品の印象が、少しでも皆様の心に残ってくれたら嬉しいです。

 よろしければ、短いもので構いませんので、ご意見ご感想をお寄せいただけると励みになります。

 是非ご支援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 導入がテーブルトークの場というのは洒落ていると思います。 [一言] 恋愛ものということですが、誰が誰とくっつくのか。 この時点ではまだまだ分かりませんね。
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