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第98話 バケモノ

 「嘘ね」


 コツコツとヒールの音を鳴らしながら歩いてゲイル騎士団長の前までやってきたミレーネ王妃が断言した。


 「どうして嘘だと言えるのですか?なぜ、王妃様はこの小娘の肩を持つのですか?」

 

 騎士団長はディアナを睨みながら言う。


 「肩を持つも何も、私は『神の目』と呼ばれるスキルを持っているの。あなたの嘘を見破る事が出来るのよ」


 「ヒィ!」とゲイル騎士団長が短い悲鳴をあげ、その場から逃げ出そうとした。その前を、父親であるクリストフ・ゲイル軍務卿が塞いだ。


 「どういう事だ、ハインリヒ?」

 「父上…」

 「どういう事だと聞いている!まさか、グラディウス侯爵家への糾弾もお前が扇動したものか!?」

 「だ、だっておかしいじゃないですか!」


 ハインリヒの言い分はこうだった。

 大商会とは言え、商人風情が侯爵を名乗る事や広大な領地を持っている事への不満。そして、第一王子の婚約者に過ぎないディアナが政務に加わり、国王や王妃を懐柔し軍を動かしていることなどをあげた。


 「ハインリヒ、お前は今迄何を見てきたのだ!?」


 ルーキウス王国の王都の周りは8つの領地があり、それぞれを侯爵位を持つ者が領都を構えている。

 だが、侯爵位にありながら領地を持たない者がいる。

 それが、クリストフ・ゲイル軍務卿とミハイル・グラディウス辺境伯だ。どちらも軍務を主体としているため「領地経営は不得手」だとし、拝領を断り続けているのである。

 ハインリヒには、それが納得できないらしいのだ。

 そして、ディアナが台頭すればするほど、その不満をグラディウス侯爵家に向けるようになった。


 「グラディウス侯爵を少し困らせてやろうと「増援依頼書」を破り捨てた」


 白状した騎士団長の胸倉を、ディアナが掴んだ。


 「あなたは、ルーキウス王国を護る騎士なのでしょう?なのに、警備兵や国民に被害を及ぼすような真似を、どうして出来るのか!」

 「お前だよ…」

 「は?」

 「お前が転生者なのが悪いんだ!」


 ディアナの中の何かが、プチン!と音を立てて切れた。


 「好きで転生してきたワケじゃねーし!大事な家族を向こうの世界に残して来てんだ。帰れるなら帰りてーし!」

 「うるさい、バケモノ!!」

 「…バケモノ…?」

 「聞けば、魔王と同じステータスらしいじゃないか。あっちが魔王なら、お前も同じバケモノだろうが!!」


 ディアナは拳に力を入れ振り上げた。

 だが、その腕を後ろから掴まれ、振り下ろす事が出来なかった。

 ディアナは背中に温もりを感じた。そして、大好きなあの香りも…。


 「落ち着けディアナ。お前が今迄何を犠牲にし、何をどう頑張ってきたかは、私や王妃、クレイトスがよく知っている。官僚達の多くも知っている。だから、このような者の為に拳を振るうな。このような者のせいで泣くな」

 「あー!!」


 ディアナが泣きながら叫び声をあげ、国王の腕の中で気を失った。


 「クレイトス、少しだけあとを頼む。ミレーネ、部屋を用意してくれ」

 「はい、すぐに」


 国王はディアナを抱きかかえ、広間を王妃と共に出て行った。

 

 「重くなったな。小さい頃は、会議の途中で眠ってしまったディアナをよく抱っこしたものだったが…」

 「あなた、それは女性には禁句…」

 「あぁ、そうだな…」


 ミレーネが部屋のドアを開けた。その部屋は、幼い頃から執務に関わっていたディアナ専用の部屋だった。


 「こちらへ」


 国王は、ベッドから上掛けを剥いだところに、ディアナを横たえた。


 「おやすみディアナ、良い夢を…」


 国王はディアナの頭を撫でそう言うと、「ミレーネ、ディアナにしばらくついていてやってくれ」と部屋を出て行った。



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