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第94話 分断の森1

 クリエの南方バーゼル付近に盗賊団が現れ、搬送中のグラディウス商会の荷が奪われる被害が発生した。

 また別の日には、近隣のスルーエ村から発車した乗り合い馬車も盗賊団に襲われ、数人連れ去られたとの情報が入ってきた。


 「ミハイル兄さん、地図ありますか?」

 「あぁ、これだ」


 棚から巻物になった地図を取り出した。


 「バーゼルはここだ」


 指差された場所は、黒い森が途切れた場所で隣国のサント・アンジェとその南にある小国ローザリアと直接繋がる部分である。大陸の西側との交易はここを利用しているらしい。


 「ここ、検問は?」

 「政府直轄の検問所がある。騎士団の詰め所や宿舎もあって、そこそこの街になってるが?」


 その検問所の南部にまた広大な森がある。


 「もしかして、この森は繋がっていた?」

 「あぁ、確かもっと古い地図に…あった、これだ」


 広げられた地図には、自分達が黒い森と呼ぶ森と繋がっていた。そしてあるものに目がいく。


 「国境線が黒い森の外側にある?」

 「ああ、それはね…」


 ミハイルの次男ノアが説明を始めた。

 第21代国王の時代に話は遡る。魔獣掃討作戦の為に、最も危険な地域とされていた黒い森の内側に魔獣の侵入を防ぐ砦と防護壁を築いた。

 ところが、これをサント・アンジェ側が「ルーキウス王国が黒い森を放棄し、国境線を黒い森の内側に設定した。だから、黒い森はサント・アンジェのものだ」と領有権を主張し始めた。

 当時、国際裁判所は無く、二国間で協議を行うが平行線を辿り決着がつかなかった。その時に、縦に長い森を分断し、往来できるようにバーゼルの検問所が設けられた。

 協議は第22代目国王時代までもつれ込んだが、この騒ぎを危惧した各国の国王達により、国際裁判所がグラディウス領の南に接する小国スベンに作られた。

 そして、第23代目国王の時代に国際裁判所は「黒い森はルーキウス王国の領土である」という判決を下す。

 だが、黒い森から得られる恩恵は凄まじく、魔獣の角や皮以外にも魔石や宝石等も得られるため、サント・アンジェ側は不服申立を繰り返した。

 そこで23代目国王が折衷案を出した。

 それは、黒い森を緩衝地帯のダンジョン扱いにし、管理者を冒険者ギルドに移行する案である。地図上では黒い森を囲むように国境線を引く事になるが、あくまでもグラディウス領クリエの冒険者ギルドの管轄地帯と云う事でかたをつけた。


 「あぁ、そう言えば…王族教育の歴史の授業で、そんな事を言ってたような?」

 「あ、そうかディアナは王族教育受けてたんだっけ…」

 「そうそう、5歳の頃からみっちりと。遊ぶヒマもなかったわ」

 

 そのセリフは、周囲の笑いと同情を集めた。


 「ローザリア側の森はどうなの?」

 「そこには魔獣はいないよ。魔獣掃討作戦で駆逐済の、安全地帯で薬草類の宝庫だよ」

 「今回の盗賊団事件のバーゼルやスルーエとは近いわね」

 「そうだね」

 「魔獣のいない森、盗賊団が身を隠すのにうってつけじゃない?」

 「……!」


 全員、顔を見合わせた。


 「行くか!」


 その夜、部隊を編成した。と言っても、皆が「自分も行きたい!」と言い出すものだから、てんやわんやの大騒ぎをした結果、くじ引きとなった。


 メンバーは4人。ミハイルの長男で重装騎士のルイス、攻撃系魔道士のタジル、弓使いのシーバ、そしてディアナである。ディアナは「ん〜?支援に徹しなきゃかな?残念」と思った。


 「え〜俺も行きたい、行きたい〜!」


 ミハイルが駄々をこねた。


 「親父、40越えたゴツいおっさんが、上目遣いでゴネても気持ち悪いだけだから!!」


 ルイスの痛烈な言葉に、ミハイルは見事に撃沈した。


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