第93話 団欒
「しばらく一人にしてやってください。あなたは、あなたがすべき事を…」
ベアトリーチェは毎日グラディウス商会に通い、侯爵にディアナの居場所を聞き出そうとしたが、ことごとく失敗に終わった。「あなたは、あなたがすべき事を」そう言われても、よく意味がわからなかった。
「ベア、眉間にシワがよってるわよ?」
義母で大公妃のソフィアに眉間を指差された。
「ずっとそうしてると、そんな顔になっちゃうんだからね!」
ベアトリーチェは苦笑いした。
「ねえベア、今日はお買い物に付き合ってくれない?」
「お買い物?」
「そう、お買い物。私、あまり街歩きをしたことないの。ダメかしら?」
「いえ、大丈夫です。行きましょう」
貴族街を歩くと、誰もが一度は振り返った。
「大公妃ソフィア様よ。美しいわね〜」
そんな声をものとはせずに、マイペースで歩くソフィアにベアトリーチェは驚く。
「こんなにギャラリー背負ってても、平気なんですの?」
「慣れよ、慣れ。私にしてみれば、王女なのに小汚い格好で冒険者をやっているベアの方がびっくりだわ」
貴族街を抜け、平民街へと入った。
「さあ、ベアトリーチェ!食べ尽くすわよ!」
「あ、それが狙いだったの?」
「衣食美の他に何があるって言うのよ?」
「あはは!お付き合いいたしましょう」
露店の焼鳥とぶどう水を手に、広場の噴水の縁に腰掛けた。
「あら?美味しいけど組み合わせが悪かったわ。ここは、やはりお酒が必要だったかしら?」
そう言いつつ二本目の焼鳥に手を出すソフィアに、ベアトリーチェは爆笑した。
「ねぇ、アレ可愛いじゃない?」
「こういうの欲しかったのよ〜」
「これ、お揃いにしない?」
ソフィアとのお買い物は3時間にも及んだ。疲れてカフェで休憩をとって帰る事にした。
「ねぇ、ベアトリーチェ」
「ん?」
「ディアナが心配なのは解るけど、しばらく一人にしてあげて。あの娘は必ず帰って来るわ。その時には、いつも通りに『おかえり』って迎えてあげましょう?」
「お義母様…」
「それまでは、私がベアトリーチェを独り占めよ!」
「は?」
「だって、せっかく母親になれたのに、ウチの娘ってば全然遊んでくれないんですもの。私、寂しくて…」
あぁ、そう云うことかと腑に落ちた。家族団欒なんて、前世でも今世でも縁が無いと決め込んで、見ないふりしてきたのは自分だったかと思い至った。これからは、冒険の合間に家族との時間もとろうと決めた。
翌朝、ベアトリーチェは王都近くのダンジョンに潜り、5階層まで一人で行って戻ってきた。帰りにダンジョン攻略の為のマップを入手し、6階層以降の参考にした。
「えっと、魔獣が出ないセーフティエリアは、階段のみ…?現在、15階層まで到達済み…?トイレとかあるわけ無いし、みんなどうしてるのかしら?泊まりの人は、階段で寝てるってことかしら?」
ギルドに立ち寄り、ダンジョンで入手したドロップアイテムの精算をして、金貨30枚を手に入れた。
市場で食べごろまであとちょっとのりんごを買い帰宅。着替えてから厨房に立ち、前世で作った事のあるタルトタタンに挑戦した。
「ね、味どうかしら?」
料理長に恐る恐る聞いてみた。
「美味しいです!りんごの酸味とカリカリした飴の食感と甘味がなんとも言えない。焦げた部分の苦味もまたアクセントになってるんですね」
「良かった。一台あげるから、皆で食べて。もう一台は私達が晩ごはんのデザートにするから」
その夜は、大公と大公妃そしてベアトリーチェの3人でタルトタタンをデザートに、会話を楽しみながら食卓を囲んだ。




