第90話 クリエ
ルーキウス王国の中で最も黒い森に近い街。それがグラディウス領のクリエだった。
ディアナは、その街に屋敷を持つミハイル・グラディウス辺境伯家に預けられた。
グラディウス侯爵家とは先々代が兄弟で、ディアナとは『はとこ』と言う関係になる。両親と同年代ではあるが、面倒なので「ミハイル兄さん」そして妻を「エレイン姉さん」と呼んでいる。
クリエにあるグラディウス家はちょっと変わり者で、元々クリエ領の領主として侯爵位を拝命したにもかかわらず、「領主なんて性に合わない」と黒い森からの魔獣の侵入を阻止する代わりに、グラディウス領に編入したと云う経緯があり、それは今でも受け継がれている。そんなクリエ・グラディウス家は兵士や冒険者の育成に長け、グラディウス商会の私兵は全員このクリエ・グラディウス家の出身である。
「エレイン姉さん、行って来ます」
「気をつけて行ってらっしゃい」
学園に退学届を提出したディアナは、もう時間を気にすること無く黒い森で思う存分に狩りを楽しんでいる。そして狩った魔獣は、クリエの冒険者ギルドに持ち込み換金した。
「今日ので魔鉄に使った分は取り戻せたかな」
街の露店でオーク肉サンドとコーヒーを購入し、広場のベンチに座り食べた。
「コーヒーはカップを返却しなきゃならないのが面倒だな。あ…?宮島鉄工所でステンレスボトル作れるんじゃないか?」
立ち上がると目の前にルッツがいた。
「お嬢、お昼ごはん…右のほっぺたについてますよ」
「え、マジ?」
ポケットからハンカチを出して、ゴシゴシこする。
「こちらに来て1週間、少しは落ち着きましたか?」
「まぁ、なんとか?商会の方はどうなの?」
「こっちは今迄とかわりませんが、侯爵様は大変みたいですよ。連日ベアトリーチェ様に押しかけられ、お嬢の行き先を尋ねられると。そりゃもう首を締められる勢いでと言ってましたよ」
「あはは!ベアトリーチェならありえるわ」
「ベアトリーチェ様には、ここにいることを明かしてもいいんじゃないですかね?」
「やめとく。でも、ベアトリーチェなら私がここにいることをつきとめるよ、きっと…」
コーヒーカップを露店に戻しがてら、二人で歩き出した。
「宮島鉄工所のステンレス工場、空いてるかな?」
「なんか、また思いついたんですね?今から、行きますか?」
「付き合ってくれるの?」
「ええ、お付き合いしますとも。飯の種ですから」
「あはは!じゃ行くよ!」
ルッツの腕を掴み転移魔法で宮島鉄工所へ移動した。軽く工場長に挨拶して、ステンレス工場に行くと丁度エルが休憩を取っている所だった。
「ディアナ様、お久しぶりです!」
「キャー、エル大きくなったね〜」
「いや、僕はディアナ様と1歳しか歳変わらないんですけど…?今、成長期に入ってて…」
「…え?抱きついちゃ、ヤバいやつじゃん?」
ルッツが横で大爆笑していた。
「どんな時でも、お嬢のやらかしは健在だ!」
ディアナは、いつもの様にへらっと笑ってごまかした。
「で、作りたいのがあってさ。今、映像だすから…」
映像スキルでステンレスボトルを出すと、断面図やサイズを示す図面も出てきたので、印刷スキルを使いコピーした。
「ディアナ様、凄いスキルですね…」
「まぁ、その…ね?」
「水筒ですか?」
「そうそう。この間の真空部分が重要なの。温かいものでも6時間位は温度が保てるんだよ」
「そんなにですか!?」
「材料費は稼いでくるからさ、試しに作ってみて、お願い!」
「わかりました」
とりあえずインベントリにあった金貨50枚をエルに手渡した。




