第9話 初代国王、大地に立つ!
「話が早いな。ディアナに見てもらいたいモノがある」
嫌味で言ったつもりが、逆効果になってしまい慌てるディアナ。そこに宰相のクレイトス・イーノがトレイに乗せられた一冊のノートをディアナの前に差し出した。
「にゃ、にゃんで、これがこの世界に!?」
この世界には無い素材、技術で作られたルーズリーフノート。しかも、日本の有名メーカーのものである。
「やはり、わかるか。伝聞によれば、建国の祖ガイウス・オブ・ルーキウス初代国王が書き記したモノとされておる。」
「中を見させていただいても?」
「勿論だ。」
PP樹脂の懐かしい手触りの表紙を開くと、最初のページに、『伊達政道ことガイウス・オブ・ルーキウス、大地に立つ(ツッコミ待ち)』と日本語で書かれてあった。
初代国王は、●ンダムファンかよ?と心の中でツッコミを入れる。
だが、ルーズリーフとシャープペンがディアナの目の前にあることから、初代国王が日本からの『転移者』である事がわかった。
『日記』『地理』『政治・経済の現状と対策』『これから』ルーズリーフの仕切りにはきちんとタイトルがつけられており、几帳面な性格が伺える。
『日記』の最初のページの年月日はなんと今から千年前になっていた。元の世界の千年前にルーズリーフ式のノートがあるハズもない。という事は、『転移者』なり『転生者』なりは、こちらの世界のどの時代に飛ばされるかは不定で、決して順番通りでは無いということだ。初代国王こと『伊達政道』が、ディアナこと『前田祥子』よりも後に、あちらの世界を旅立ったと云う可能性も十分に有り得る。
「ふ〜ん、規則性は無いのかな?」
つい、声に出してしまった。
「ディアナ、どうだ?」
「あぁ、すみません。どうやら初代国王様は、私と同じ国の方だった様ですね。しかも、日記の最初のページに『父親が政治家で、自分もその道に進むものだと思っていた』とあるので、政治家の卵だった様です」
「『政治家』とは何だ?」
「『政治家』とは、国の現状を調査し分析した上で、効率良く国を運営していく方法を決める為政者です」
「国王が行うものでは無いのか?」
「あ〜、日本も以前はそうでしたが…ちょっと説明が難しいなぁ。」
かいつまんで前世の日本の歴史と、その節目に沿って政治的変革があって天皇の役割も変り、国が豊かになったことを説明した。
しかし、その片鱗はこのルーキウス王国にも、いくつか見られるのだ。
貴族社会中心のこの世界の中で、唯一奴隷制度が無い国、それがルーキウス王国だ。それは、初代国王から『禁忌』として代々受け継がれて来たものらしい。奴隷制や階級制度を長く続けてきた国は、一部の権力者のみが富を有し、国の発展や国民の安寧には繋がらない。この世界の人には、それが理解出来ないらしい。
他にも戸籍制度や農地改革が行われ、初めは小さな街程度だったルーキウス王国も近隣の小国を取り込みつつ、大陸の3分の1程の大きさに拡大している。そして、三代前の国王は『義務教育制度』を制定させ、実行している。これらをディアナは、当時の国王が転生者だったか、または側近に転生者がいたのだろうと推測していた。
「お二人の話の半分も理解できませんが、ディアナがいた日本と云う国は、どんな国なんだろう?と思うのですよ。初代様が生まれ育った国でもあるのでしょう?とても気になります」
ゼノンの言葉にディアナがニカっ!とした笑顔を見せた。
「見たい?」
「は?」
「そりゃっ!」
ディアナが右手をかざすと、大きなスクリーンが壁いっぱいに広がり、そこに沢山の高層ビル群が映し出された。
「なんだこれは!!」