第88話 ゼノン5
ストラトス側の魔獣討伐は、ベアトリーチェの奮闘があり3日程で完了した。そして、一行はトルク側に再編入され、結界側からトルク城に向けて進む事になった。そこでもまた、ベアトリーチェはガンガン魔獣を倒して行き、その勢いは衰えることはなかった。
「ベアトリーチェ、いったいどうしたんだ!?」
「早く王都に戻りたいのよ」
「は?いや、お前それは…」
「理由は後で話すわ」
ゼノンはわけも分からず、ベアトリーチェについて行くしかなかった。
トルクの森に入って2日目、相変わらず魔獣をなぎ倒すような戦闘の仕方をしていたベアトリーチェの足が止まった。
「ベア、どうした?」
「ここ、ダンジョンがある…」
「いや、どこに?」
ベアトリーチェは木に向かって手を差し出した。すると、手首から先が見えなくなった。ゼノンは慌ててベアトリーチェを引っ張る。
ベアトリーチェはインベントリからブラックホールを取り出し、手のひらに乗せてかざした。周囲の景色が歪みブラックホールに吸い込まれると、ダンジョンの入り口が現れた。
入り口にはモスクの様な塔があり、広いエントランスとその奥に下り階段も見えていた。
ベアトリーチェは信号弾代わりの雷魔法を空に打ち上げた。しばらくすると、アーダルベルトが空からやって来た。
「ダンジョンか?」
「ええ、結界を張ってもらってもいいですか?」
「了解した。ベアトリーチェは、ここから土魔法で道を作りながらトルク城を目指してくれ」
トルク城の近くに到着すると、一行はまたビーツ方面に再編入された。その結果、合計で3つのダンジョンをベアトリーチェが見つけた。
また、魔獣掃討作戦も一旦の終了を迎えた。討伐した魔獣の買い取り精算を終え、見つけたダンジョンは冒険者ギルドとアーダルベルトに丸投げした。
「お兄様、急いでプロイスに戻るわよ」
「おい、いったい何が起こってるんだ?」
本当はすぐにでも王妃に会って、事の真意を確かめたかったベアトリーチェだったが、レオナルドの方にも何某かの連絡がいってるだろうと、一度プロイスに戻る事にした。
プロイスのグラディウス商会に辿り着いたのは、ビーツを出発してから4日後だった。
「お帰り、大変だったね」
そういうレオナルドの笑顔は、少し引きつっていた。そして、レオナルドは金庫の中から大金が入った袋を取り出した。
「これは、国王陛下から渡されていた君達の生活費なんだけど、これを持ってグラディウス邸から出て行ってくれないかな?」
「レオナルド…?」
それ迄の好意的な態度から一変した態度に、ゼノンは驚きを隠せなかった。
「今後、グラディウス侯爵家は国政や王族とは一線を引く事になったんだ」
「軋轢が深まったんですわね?」
ベアトリーチェは、ストラトスで軍務卿に聞いた話をゼノンに話して聞かせた。
「いや、それはおかしいだろう?国政の一部は俺とディアナが負うべき職務で、別に牛耳っているワケでもなんでもなく…」
「お兄様、ディアナは規格外のステータスを持つ転生者なんです。周りの人間がどれだけ頑張っても出来ない事を、いとも簡単に成し遂げてしまう。やっかみと言ってしまえばそれまでですけど、目立ち過ぎたのですわ」
「くっ…ディアナのせいでは無いのに…」
「殿下にそう言って頂けると、少し気が紛れます」
少し苦笑いした表情のレオナルドの姿に、ベアトリーチェは覚悟を決めた。
「ディアナは…?ディアナはどうなったんです?」
「どうなったとは?」
レオナルドは顔を俯かせた。
「お母様が、ディアナを陛下の側妃に差し出せと要請したと伺いました」




