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第87話 レベッカ・バートン6

 「ライトボール!ライトボール!」


 ビーツの森を南下していたレベッカは、森の中で魔獣に囲まれた。攻撃系魔道士でも無ければ、戦闘経験も無いレベッカの魔法では、退けるだけが精一杯だった。


 「やっぱり、ディアナが言ってた事が正しかったのかな…」  


 その時だった。レベッカを取り囲んでいたウォーウルフ達の一角が崩れた。振り返ると冒険者と見られる風貌の3人の男が剣を手に、ウォーウルフを切り捨てていく。


 「ありがとう。助かったわ」

 「アンタを助けたつもりは無えよ」


 浅黒い肌に銀色の髪と銀色の瞳、小柄で引き締まった体躯の3人の男達は、ネイサン国特有の容姿をしていた。

 だが、その事を知らなかったレベッカは、彼らの移動スピードに追いつけはしなかったものの、彼らが通った道筋を辿り5日後に森を抜けた。


 「やっと森を抜けた。この先はキルト王国のハズ」


 レベッカはやや早足で、国境線と見られる石碑がある場所まで辿り着いた。そして国境を一歩跨いだ瞬間、背後に淡く青い透き通った壁ができた。レベッカは恐る恐る手を伸ばしてみたが、その手はパン!っと弾かれてしまった。


 「結界…?もう戻れないって事ね」


 レベッカは振り返り、長く大きな塀に向かい歩き出した。1時間位歩いただろうか、やっとキルト国の検問所に辿り着いた。


 「その制服は教会のものか?」

 「ええ、聖女候補のレベッカ・バートンと申します。皆様のお役に立てる事が無いかと、単身でやってまいりました」


 レベッカはニッコリとした笑顔を見せて、丁寧な挨拶をした。検問所の部屋で30分程待たされ、騎士団に引き渡されたレベッカは、少し焦っていた。もしかして、ルーキウスから手が回っていて、連れ戻されるんじゃないかとヒヤヒヤした。

 

 「国王様に謁見していただきます」

 

 そう言われてやっと安心できたレベッカは、馬車に揺られながら少しウトウトし始めた。馬車の外にはのどかな田園風景が広がり、農作業をする人達の姿も見える。その中をひたすらに真っ直ぐ進み、王都に入った。

 王都内は、石畳で道が整備されていて、華やかさは無いが市場なども立っていて、感じが良かった。厚手の生地の赤と黒を基調とした縦縞の、着物のような前合わせの服をみんな着ていた。

 間もなく王城に入り馬車を降りると、女官に手を引かれ浴場に連れて行かれた。


 「まずは、旅の疲れを癒やしてくださいませ。それから軽い食事のあと、国王に謁見していただきます」


 ビーツの森でほんの少しの果物を口にしただけだったので、レベッカは泣く程嬉しかった。入浴後、用意された民族衣装に身を包み、泣きながら食事を頬張った。


 「そちが、聖女候補とな?」


 キルト国王は、かなり歳を召したお爺ちゃんで、白い髭を蓄えた威厳ある風貌をしていた。


 「はい。聖女候補のレベッカ・バートンです。転生者です」


 「転生者」と聞いて周囲がざわついた。「ほら、やっぱり」とレベッカはほくそ笑んだ。大抵の人は「転生者」と聞くと、その能力の高さから「特別な人」として扱う事をレベッカは知っていた。ルーキウス王国程繁栄していてもその傾向にあるのに、キルト国のような小国ならばもっとだろうと踏んで、「転生者」である事を殊更に強調した。


 「何故、キルトに参った?」

 「何か、皆様のお役に立てる事はないかと」

 「ルーキウス王国からも教会からも、治癒師を派遣する様な連絡はもらっておらんが?」

 「わたくし個人の考えで、役に立ちたいと思いまして」


 国王は横に並ぶ王妃と何事かをゴニョゴニョと話し始めた。

 そして、話が終わるとレベッカに向けて声高に言った。


 「逃亡して来たのだろ?我が国は小国。ルーキウスのような大国と一戦交えるなどと云う事になるのは困るのだ。衛兵よ、この者を捕え国外へと放せ!」



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