第80話 シャーメン
ビーツの完全制圧から一ヶ月。トルクとビーツの復興作業が進む中、イルマ家の裁判も始まった。
この裁判には、近隣国からも国王もしくは王妃、または王太子などが評決を下す側として集められた。
裁判開始当初、ロドリーゴをはじめとするイルマ家全員が黙秘を貫いた。
だが、アイマン皇太子の記憶から呼び出した映像を見せると一変した。
「私は王だ。自国民をどう扱おうが私の勝手だ!」
と言い出した。
「それは、本当にビーツの国民なのですか?」
保護した人達からの聞き取り調査では、近隣国の出身の者が約半数以上を締めていた。その中から数人を証人として出廷させた。
「私はクザン国の出身です。あの日、いつものように畑仕事をしていると、二人の旅人に道を尋ねられました。道を教え笑顔で見送ろうとして、その二人に襲いかかられ気を失いました。目が覚めるといきなり棒で殴られ、鉱山で働くよう強要されました」
おそらく、国民が減り始めた十数年前から、こういう事を続けてきたのだろうと思われる。
「自国民がこれ程減っているのに、何故挙兵できたのか?」
という事についても、当初は黙秘を決め込んでいたが、トルクに捕縛中の兵士から「傭兵国家ネイサンの出身」で有る事が明かされると、「銀と交換に傭兵をネイサンから買った」とロドリーゴは自白した。
しかし、裁判の評決を下す側に席を置くネイサン国王は、これを全否定した。
ネイサン国はビーツの東側に面した東西に長い山岳地帯の国である。山脈の頂を領土としていて、一年を通して雪と氷に閉ざされている。これと言った産業もなく「牧畜と自給自足で賄っている貧乏な国ですよ」とネイサン国王は言うが、巷では山岳部で培った高い身体能力を利用した「傭兵国家」だともっぱらの噂だ。なぜなら、小国同士の小競り合いには必ずと言っていい程に、ネイサン国出身者の特徴を持つ兵団が現れるからだ。
ネイサン国王に全否定されたロドリーゴは、暴れだし「銀を500キロも渡したのに、戦に負けた上に切り捨てるのか!」と罵った。ネイサン国王が否定する以上、この件をこの場で深堀するのは賢明では無いと判断し、銀の流出経路について話が移った。
「ビーツで採掘された銀をどこに売りさばいているのか?」
ビーツがトルクに侵攻を始めて以来、周辺国はビーツとの交易を絶ち、経済制裁を行っていたはずだ。周辺国に全く流出してないとは言い難いが、十年以上国が存続出来たのは何か別の理由があるはずだ。
「シャーメン…」
ロドリーゴの妻がボソッと答えた。ロドリーゴは妻に「お前!」と突っかかったが、妻は「全部話して、開放してもらいましょうよ!」と言った。事実を話せば開放されると信じている事に、周囲は呆れた。
「シャーメン国に売りました」
シャーメン国とは、小国群を挟んでキリル王国の真南に位置する国で、最近急激に領土を拡大している人口数億人と言われる大国である。東側は大海に面し、切立った山岳地帯もあり、水源となる巨大な河川を数本も持ち、肥沃な大地も広大で、南側は年間を通して温暖な気候で農作物や天然の果物の宝庫、中央部に砂漠地帯もあるが資源には事欠かない土地だ。
だが、その内情は50近い部族の集まりで、言葉も生活習慣も全く違う小国を吸収したものだった。部族の生活を守り習慣や宗教に介入しない事を条件にシャーメンに取り込まれた小国と、反抗して武力衝突の末に吸収された小国も少なくない。
そのシャーメンがキリル王国との間にある小国郡に手を出してきていると云う話も囁かれていた。
「シャーメンか、これはまたやっかいな…」




